特別企画
気になった交換レンズを次々と購入してしまう底なし沼

ハマったら抜け出せない!? 終わりなき“レンズ沼”の世界

カメラ・写真界隈では、一眼カメラの交換レンズを次々と購入してしまう趣味の俗称として、「レンズ沼」という用語が古くから使われてきた。その歴史は長く、ひとつの趣味やジャンルに夢中になって抜け出せなくなった状態を“沼”と表現するネットスラングの起源という説もあるくらいだ。カメラ用語の中でも特に有名で、カメラに詳しくなくても一度は聞いたことがあるという人も多いのではないだろうか。その実態は、趣味の範囲を超えてしまうこともあるくらいの“底なし沼”で、一度ハマったら抜け出すのはなかなか難しいと言われている。本記事では、長らくレンズ沼にハマっている筆者がその世界の一端を紹介。筆者が考えるレンズ沼の定義や、ハマってしまう理由、自身の沼ライフの概要などをまとめてみた。

およそ10年にわたって標準レンズの沼に落ちている筆者が、レンズ沼の世界を紹介する(画像は筆者が所有している標準レンズの一部)

およそ10年にわたって標準レンズの沼に落ちている筆者が、レンズ沼の世界を紹介する(画像は筆者が所有している標準レンズの一部)

レンズ沼にハマると“理想のレンズ”を追い求め続けるようになる

一眼カメラは、交換レンズを使い分けることで、さまざまな表現の写真を撮れるのが最大の特徴だ。交換レンズには、一定の範囲で画角(写る範囲を角度で表したもの)を変更できるズームレンズと、画角が固定された単焦点レンズの2種類があり、その中でも、対応する画角によって大きく「広角」「標準」「望遠」に分けられる。通常のレンズではとらえられないミクロの世界を写せるマクロレンズや、180°前後の広い画角を持つ魚眼レンズなどもあって、用途にあわせて選べる幅広いバリエーションが用意されている。

面白いのは、同じ種類や同じ画角の交換レンズであっても、それぞれに設計が異なっていて描写の特徴が違うこと。まったく同じ写りになることはなく、レンズの数だけ個性があると言える。その分、楽しみの幅が広くて奥深い世界なのだが、探求が行き過ぎると陥ってしまう世界がある。それが“レンズ沼”だ。

レンズ沼とは、その名のとおり「交換レンズの沼」のことで、レンズに対する興味や所有欲が「必要の範囲」を超えている状態のことを指す(と筆者は考えている)。どこまでが必要の範囲なのかは人それぞれだが、広角/標準/望遠ズームレンズとは別に画角が異なる単焦点レンズを2〜3本を持っているような状態はまだ沼の入口で、そこから同じ種類のレンズや同じ画角のレンズを複数本所有するようになったら、沼に片足を突っ込み始めたと言えるだろう。「レンズは資産(レンズは何年経っても使えるし、使わなくなったら売ればいい)」と言い訳をして、同じようなレンズを何本も買い足したり、買い替えるようになったら、沼にどっぷりハマっている状態である。

一眼カメラの交換レンズは非常に多くの数が用意されている。画像はキヤノンのEFレンズ/RFレンズ群だが、この画像を見るだけでも、その数の多さが伝わるだろう

一眼カメラの交換レンズは非常に多くの数が用意されている。画像はキヤノンのEFレンズ/RFレンズ群だが、この画像を見るだけでも、その数の多さが伝わるだろう

レンズにこだわる理由はいろいろあると思うが、レンズ沼の住人の多くは、「なぜ同じようなレンズを何本も購入するのか?」という問いに対して、「理想の描写力や性能を持つレンズを追い求めているから」と答えるのではないだろうか。レンズ沼では、この「理想を追い求める」という大義名分がとてもやっかいだ。たとえ理想のレンズにたどり着いたとしても、使っているうちに不満は出てくるもので、その不満を解消してくれそうなレンズが見つかるとまた購入してしまう。理想を求めるスパイラルから抜け出せないのが、“沼”と言われる所以だ。沼が深くなると写真の仕上がりにはほとんど影響しない写りの違いが気になり、たいして使わないうちに次のレンズを手に入れてしまうようになる。

レンズに対する純粋な探求心ならまだいいが、注意したいのは、「レンズを変えれば自分の撮る写真がもっとよくなる」という間違った向上心からレンズを買い足し・買い替えてしまう場合があること。恥ずかしながら筆者も時折こう考えてしまうときがあるが、この考えになると周りが見えなくなっていて、レンズ沼にハマっていることにも無自覚であることが多く、趣味の範囲を超える金額を出すこともいとわなくなる危険性がある。もし心当たりのある読者がいるようであれば、自戒の念を込めて、「レンズを変えても写真の本質的な部分は何も変わらない」ということを伝えておきたい。

多くの人が通る「単焦点レンズ沼」。選べる数が多く、沼化しやすい

レンズ沼にもいろいろなパターンがあるが、一眼カメラに興味を持ち続けていたら一度は通ると言っても過言ではないのが「単焦点レンズ沼」だ。

単焦点レンズは、一眼カメラで本格的な写真撮影を行うのに欠かせない存在である。小型・軽量ながらズームレンズよりも光学性能にすぐれ、クリアで抜けのよい描写が得られるのが大きな魅力だ。さらに、開放F値が小さいものがほとんどで、ボケの大きさをコントロールしやすいのも特徴。画角が固定されているため撮影者が動いて構図を決定する必要があり、写真撮影の楽しさを追求できるのもいいところだ。しかも、単焦点レンズは選べる数が非常に多い。新製品だけでなく、数十年前に発売されたオールドレンズも含めると本当に無数にある。といったように、カメラファンや写真愛好家を引き付ける魅力が多く、その分、沼化しやすくなっている。

単焦点レンズ沼は、超広角から超望遠まで幅広い画角に渡る場合もあるし、特定の画角にこだわる場合もある。どちらにせよ、たいていの場合、探求は同一マウントで収まることはなく、複数マウントに渡ってアンテナを張るようになる。マウントアダプターを介して使っているうちはまだいいが、どっぷりハマると、欲しいレンズのマウントにあわせてカメラボディを新調するようになる。

単焦点レンズは小型・軽量で写りがいいのが特徴。ズームレンズよりも趣味性が高く、その分、使う側のこだわりも深くなる(画像は、「小型・軽量なGレンズ」という共通のコンセプトで開発された、ソニーの3本の単焦点レンズ「FE 24mm F2.8 G」「FE 40mm F2.5 G」「FE 50mm F2.5 G」)

単焦点レンズは小型・軽量で写りがいいのが特徴。ズームレンズよりも趣味性が高く、その分、使う側のこだわりも深くなる(画像は、「小型・軽量なGレンズ」という共通のコンセプトで開発された、ソニーの3本の単焦点レンズ「FE 24mm F2.8 G」「FE 40mm F2.5 G」「FE 50mm F2.5 G」)

筆者がハマっている「標準レンズ沼」。10年で35本程を購入

筆者は写真歴25年程度の写真愛好家で、この10年くらいは、標準域(焦点距離50mm前後)の画角の単焦点レンズにこだわる「標準レンズ沼」にハマっていると自覚している。(※細かく言うと、焦点距離40〜45mm程度の準標準域も含まれる沼になるが、ここでは便宜的に標準レンズ沼と表記する)。標準レンズ沼の前は、広角から中望遠の画角のレンズを幅広く探す単焦点レンズ沼に入っていたが、徐々に好みの画角の幅が狭くなっていって標準域に落ち着いた形だ。

標準レンズを気に入っているのは、筆者の感覚になるが、自分の視界に近い自然な画角と遠近感で撮れるのが大きい。また、レンズの設計がしやすく、小型・軽量ながら大口径・高画質なものが多いのもいいところ。最近では、ミラーレスの新時代になって、解像力とボケの質を両立した、高性能なレンズが増えてきているのも面白いところである。

ミラーレス用の標準レンズは大口径化・高性能化が進んでおり、従来以上の描写力を実現したモデルがいくつも登場している(画像は、各メーカーが用意しているミラーレス用の大口径・標準レンズの一部)

ミラーレス用の標準レンズは大口径化・高性能化が進んでおり、従来以上の描写力を実現したモデルがいくつも登場している(画像は、各メーカーが用意しているミラーレス用の大口径・標準レンズの一部)

この10年くらいは、マウントを限定することなく、予算が許す限り、よさそうな標準レンズを見つけては購入している。本記事を執筆するにあたり、10年で手に入れた標準レンズを数えてみたところ、記憶しているだけでも35本を超えていた。購入したものはすべて残しているわけではなく定期的に手放しており、常時手元にあるのは10〜12本程度である。

あまり自覚はなかったのだが、平均で3〜4か月に1本程度のペースで標準レンズを購入してきた計算になる。深い沼の住人から見ると浅いところで遊んでいる程度かもしれないが、こうして振り返ってみると、少々行き過ぎた趣味であると思う。

なぜ、行き過ぎと感じるくらいの数のレンズを購入してきたのかは、先にも紹介したが、やはり「理想のレンズ」を求めているからなのだと思う。数年前くらいからオールドレンズへの興味がなくなり、描写力にすぐれた新しいレンズを好むようになるなど、10年かけてある程度好みは絞れてきているが、それでも、「今使っているものを超えるレンズがあるのでは?」と考えてしまうことがある。

レンズ沼ライフで困るのは、予算をやりくりするうえで、手放すレンズを決めることだ。レンズの場合、買い取りや下取り交換という手段を使って一時的に予算を増やすことができるが、新規購入時に、どのレンズを買い取り・下取り交換用として手放すのかは本当に悩みの種になる。レンズの入れ替えのことを考えすぎて眠れなくなることもあるし、頭から離れずに何日も悩むこともある。レンズに対するポジティブな撮影体験が頭に残っていると、結果として何も手放さず、予算オーバー気味なのに所有ラインアップに追加するという選択をしてしまうこともある。

2021年7月時点で特に気に入っている5本の標準レンズ

最後に、2021年7月26日時点で筆者が所有している標準レンズの中から特に気に入っているものをいくつか紹介しよう。先にも少し触れたが、ここ数年の傾向としては、オールドレンズには興味がなく、描写力重視でレンズを選ぶようになっているため、比較的新しいものが多くなっている。

コシナ「フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical」(Eマウント用)

フルサイズミラーレス「α7 III」にフォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Asphericalを装着したイメージ

フルサイズミラーレス「α7 III」にフォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Asphericalを装着したイメージ

フォクトレンダー史上最高の標準レンズとして、その写りが高く評価されているMFレンズ。色収差を限りなくゼロに近づけるアポクロマート設計による抜群の解像力が特徴だ。2019年12月の発売と同時にこのレンズを手に入れ、しばらく使ってみて「これで標準レンズ沼も終わりだ」と自信を持った1本である(※実際は終わっていない)。Eマウント用ではあるが、マウントアダプターを経由して、ニコンの「Z 7II」で使用することも多い。

フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Asphericalで撮影した作例(α7 III、F4、1/640秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブスタイル:スタンダード)

フォクトレンダー APO-LANTHAR 50mm F2 Asphericalで撮影した作例(α7 III、F4、1/640秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブスタイル:スタンダード)

ニコン「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」

フルサイズミラーレス「Z 7II」にNIKKOR Z 50mm f/1.2 Sを装着したイメージ

フルサイズミラーレス「Z 7II」にNIKKOR Z 50mm f/1.2 Sを装着したイメージ

ニコンのフルサイズ対応AFレンズとして初めて開放F1.2の明るさを実現したモデル。開放F1.2という明るさが注目されがちだが、このレンズの最大の魅力は、凹凸凹対称のビオゴン(Biogon)タイプを発展させた高度なレンズ構成によって、高い解像力と美しいボケを非常に高いレベルで両立していること。標準レンズとしては大きくて重いが、ニコンのロマンが詰まった、Zマウントユーザーなら持っておきたい1本である。

NIKKOR Z 50mm f/1.2 Sで撮影した作例(Z 7II、F1.2、1/800秒、ISO64、ホワイトバランス:オート1、ピクチャーコントロール:スタンダード)

NIKKOR Z 50mm f/1.2 Sで撮影した作例(Z 7II、F1.2、1/800秒、ISO64、ホワイトバランス:オート1、ピクチャーコントロール:スタンダード)

ニコン「NIKKOR Z 50mm f/1.8 S」

フルサイズミラーレス「Z 6」にNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sを装着したイメージ

フルサイズミラーレス「Z 6」にNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sを装着したイメージ

軸上色収差を抑えることで高い解像力を実現した標準レンズ。常用レンズとして使いやすく、スナップ撮影で愛用している1本だ。NIKKOR Z 50mm f/1.2 Sを使った後だと、その軽さがとても心地よく感じる。正直なところ、持ち出す頻度はNIKKOR Z 50mm f/1.2 Sよりも多い。コストパフォーマンス的には、Zマウントレンズの中でもお買い得な製品だと思う。なお、Zマウントレンズの標準レンズでは、2021年6月25日に発売になった小型・軽量なマイクロレンズ「NIKKOR Z MC 50mm f/2.8」も気になっている。

NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sで撮影した作例(Z 6、F1.8、1/160秒、ISO100、ホワイトバランス:自然光オート、ピクチャーコントロール:オート)

NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sで撮影した作例(Z 6、F1.8、1/160秒、ISO100、ホワイトバランス:自然光オート、ピクチャーコントロール:オート)

富士フイルム「XF27mmF2.8 R WR」

小型・軽量なAPS-Cミラーレス「X-E4」にXF27mmF2.8 R WRを装着したイメージ

小型・軽量なAPS-Cミラーレス「X-E4」にXF27mmF2.8 R WRを装着したイメージ

絞りリングが追加された、人気パンケーキレンズのリニューアルモデル。全長23mmで重量84gという薄型・軽量サイズからするとよく写るレンズだ。特に気に入っているのは画角で、35mm判換算で焦点距離41mm相当となる準標準域は少し広く撮れるのが面白く、スナップ撮影で重宝する。富士フイルムの標準レンズでは「XF35mmF1.4 R」と「XF35mmF2 R WR」も人気があるが、「X-Proシリーズ」のOVF(光学ファインダー)で使うレンズとしては、このレンズがベストマッチだと思う。

XF27mmF2.8 R WRで撮影した作例(X-E4、ISO160、F2.8、1/4000秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード)

XF27mmF2.8 R WRで撮影した作例(X-E4、ISO160、F2.8、1/4000秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード)

ライカ「APO-SUMMICRON-M f2.0/50mm ASPH. 」

モノクロ撮影専用のデジタルレンジファインダー「ライカM10モノクローム」にAPO-SUMMICRON-M f2.0/50mm ASPH.を装着したイメージ

モノクロ撮影専用のデジタルレンジファインダー「ライカM10モノクローム」にAPO-SUMMICRON-M f2.0/50mm ASPH.を装着したイメージ

「これが最後」という思いで、多くの機材を手放して、この春に手に入れた超高級レンズ(もちろん中古品)。画角がわずかに狭いのと絞りリングが緩いのが少々気になるところではあるが、小型の鏡筒ながら驚くほどにシャープで均一性が高い描写はこのレンズでしか得られないものだと感じている。なお、この超高級レンズを持っているのに、時折、同じコンセプト(アポクロマート設計)で開発されたAPO-LANTHAR 50mm F2 AsphericalのVMマウント用のことが気になってしまうときがあり、まだ標準レンズ沼から抜け出せていないことを自覚する。

APO-SUMMICRON-M f2.0/50mm ASPH.で撮影した作例(ライカM10モノクローム、ISO160、F11、1/360秒)

APO-SUMMICRON-M f2.0/50mm ASPH.で撮影した作例(ライカM10モノクローム、ISO160、F11、1/360秒)

なお、フォローするわけではないが、マイクロフォーサーズ用の標準レンズが上記のリストに入っていないのにはわけがある。それは、使っていくうちに画角の好みが細かくなっていて、現在は、35mm判(アスペクト比3:2)での焦点距離40〜50mm程度の画角が使いやすいと感じているからだ。ちなみに、3:2と比べて画面が縦に長いマイクロフォーサーズ(アスペクト比4:3)では、標準域よりもワイドな画角のほうが安定した構図が得やすいと感じていて、35mm判換算で焦点距離28mm程度の画角が気に入っている。逆に、3:2での焦点距離28mm程度の画角は横に広い感覚があり、やや苦手意識がある。

真柄利行

真柄利行

カメラとAV家電が大好物のライター/レビュアー。雑誌編集や価格.comマガジン編集部デスクを経てフリーランスに。価格.comではこれまでに1000製品以上をレビュー。現在、自宅リビングに移動式の撮影スタジオを構築中です。

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