動画撮影向けの機能や操作性を採用するミラーレスカメラとして2021年9月17日に発売になる、ソニーの「VLOGCAM ZV-E10」(以下、ZV-E10)。ソニーのミラーレスとしては初となる“VLOGCAM”の名称が付く新モデルで、低めの価格設定でも話題になっている。ここでは、そんなZV-E10の動画撮影機能の実力をいち早くチェックする。
付属のウインドスクリーンを装着したZV-E10(レンズはパワーズームレンズキットに付属する「E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS」)。“VLOGCAM”という名称が示すようにVlog(Video Blog)撮影をサポートする機能を搭載している
ZV-E10は、2020年6月に発売になったレンズ一体型の「VLOGCAM ZV-1」(以下、ZV-1)に続く、ソニーが提案するVlog撮影向けデジタルカメラの第2弾モデル。APS-Cサイズの撮像素子(イメージセンサー)を搭載するミラーレスで、さまざまな種類の交換レンズを使って、より高画質かつ多彩な動画撮影を楽しめるのが特徴だ。ソニーのミラーレスの中では、同じくAPS-Cセンサーを採用する「α6000シリーズ」の下位モデル「α6100」と並んで、エントリー向けに位置付けられている。
ZV-E10は、レンズ一体型のZV-1とは異なり、レンズを交換して高画質な動画を撮影できるのをウリにしている。今回のレビューではAPS-C用の純正Eマウントレンズをいくつか使用した
エントリー向けとはいえ、ZV-E10はα6000シリーズをベースにしており、基本性能は十分に高い。α6000シリーズから有効約2420万画素の「Exmor CMOSセンサー」と画像処理エンジン「BIONZ X」を継承しつつ、電子ビューファインダー(EVF)を省略し、液晶モニターを横開きのバリアングル液晶に変更するなど、動画撮影向けの機能や操作性を採用した。EVFがないこともあってボディがひとまわりコンパクトなのも特徴で、サイズは約115.2(幅)×64.2(高さ)×44.8(奥行)mmで、重量は約343g(バッテリーとメモリカードを含む)。α6000シリーズの下位モデルα6100と比べても重量は60gも軽くなっている。
それでいて価格はお手頃で、発売前ではあるが2021年8月20日時点での価格.com最安価格(税込)はボディ単体が70,290円、電動ズーム式の標準ズームレンズ「E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS」が付属するパワーズームレンズキットが80,190円。いずれもα6100を1万円程度下回る価格で、ソニーのミラーレスの中でも特に“安い”モデルとなっている。EVF非搭載のエントリー向けとはいえ、この低価格は魅力的だ。
カメラ本体とBluetoothでワイヤレス接続する、別売のシューティンググリップ「GP-VPT2BT」を装着したイメージ。グリップを持ったまま親指で各種操作ができるので、自分撮り時や歩きながらの撮影時に便利。ミニ三脚として使用することもできる。ZV-E10とあわせて手に入れたいアイテムだ
α6100を下回る価格設定ということで、「EVF以外にもいくつか機能が省略されているのでは?」と思うかもしれないが、ZV-E10は、エントリー向けとしては充実した動画撮影機能を搭載している。α6000シリーズにはない機能がいくつか追加されており、α6100だけでなく、そのひとつ上のスタンダードモデル「α6400」も上回る内容だ。
記録できる動画の仕様はα6000シリーズと共通で、4K動画は、約1.2倍クロップでの4K/30p記録と、クロップがなく全画素読み出しの4K/24p記録に対応。フルハイビジョン動画なら最大120pまでのハイフレームレートを選択可能(※120p時は画角が狭くなる)で、最大5倍までのスローモーション動画と最大60倍までのクイックモーション動画を記録できる撮影モード「スロー&クイックモーション(S&Q)」も搭載している。スローモーション・クイックモーションを活用した映像を制作したい場合はフルハイビジョンベースになるが、エントリー向けの動画機としては十分な内容だ。
全画素読み出しでの4K/24p記録に対応。フルハイビジョン記録でのスローモーション・クイックモーション動画を撮影できるS&Q モードも搭載している。なお、ソニーの他の最新ミラーレスと同様、ファイル記録形式はXAVC Sのみとなり、AVCHDでの1920×1080/60i記録には非対応となった
オートフォーカス(AF)システムも、基本的にはα6000シリーズと同じ像面位相差AFとコントラストAFの「ファストハイブリッドAF」で、瞳を捉え続ける「リアルタイム瞳AF」と、カメラまかせで被写体を自動で追尾する「リアルタイムトラッキング」に対応。動画撮影時と静止画撮影時でできることが異なるが、α6000シリーズの上位モデル「α6600」と同じ仕様で、動画撮影時は人物の瞳の認識・追尾と、画面をタッチした被写体を追尾する「タッチトラッキング」の利用が可能だ。α6100とα6400は動画撮影時の「リアルタイム瞳AF」に非対応なので、ZV-E10のほうがが上回っている部分である。
さらに、動画撮影時のAF制御機能として、「α7S III」や「α7C」などフルサイズミラーレス「α7シリーズ」の最新モデルに採用されている「AFトランジション速度」と「AF乗り移り感度」を搭載。α6000シリーズが搭載する「AF駆動速度」「AF被写体追従感度」よりも詳細な設定が可能で、より細やかなAF制御による演出が可能になった。
「AFトランジション速度」は、ピントを合わせる速度を7段階で設定できる機能。動画撮影中に、手前の被写体から奥の被写体(もしくはその逆)に意図的にフォーカスを送りたい場合の速度調整に便利で、低速側ではより滑らかに、高速側ではよりスピーディーにフォーカスが移動する。「AF乗り移り感度」は、ピントを合わせ続ける感度を5段階で設定できる機能。感度を低くすると周りのほかの被写体の影響を受けにくくなり、狙った被写体にピントを合わせ続けやすくなる。感度を高くするとピントがほかの被写体に乗り移るタイミングが早くなり、よりテンポよく被写体を切り替えながら撮影できるようになる。
動画撮影時は人物の「リアルタイム瞳AF」に対応。ピントを合わせる瞳は「オート」「右目」「左目」から選択できる。カスタムボタンに機能を登録すれば、撮影時に右目/左目をボタン操作で切り替えることもできる
「AFトランジション速度」と「AF乗り移り感度」の設定が可能。ソニーのAPS-CミラーレスでこれらのAF制御機能を搭載するのはZV-E10が初だ
さらに、ZV-E10はα6100にはない「ピクチャープロファイル」を搭載しており、S-LogやHLG(Hybrid Log Gamma)のガンマカーブを使って撮影できるのも特徴だ。トーンカーブなどを調整したり、LUTを当てたりして撮影後の色調整(カラーグレーディング)で映像を作り込む場合、これらのダイナミックレンジの広いガンマカーブを使って撮影しておくことが前提となる。今流行りのシネマティックな雰囲気の映像を制作するのにもS-Log/ HLGでの撮影は必須なので、この対応は動画撮影機としてポイントが高い。
このほか、α6100との違いを言うと、ZV-E10は、映像や音声を正確に同期する際に使用するタイムコードとユーザービットの記録が可能。HDMIで接続した外部レコーダー機器のレックコントロールにも対応している。
S-LogガンマやHLGガンマなどの推奨設定を選べる10種類の「ピクチャープロファイル」に対応。推奨設定からカラーモードなどを変更することもできる
S-Log/HLG撮影時でも通常のガンマと同等のコントラストを再現する「ガンマ表示アシスト機能」も備わっている
ZV-E10を使って撮影した4K動画やハイフレームレート動画をもとに制作したフルHD/24p映像。撮影は別売のシューティンググリップGP-VPT2BTを装着して行い、レンズはパワーズームレンズキットに付属する「E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS」のほか、「E 10-18mm F4 OSS」「E16mm F2.8+フィッシュアイコンバーター VCL-ECF2」「E 35mm F1.8 OSS」を使用した。「ピクチャープロファイル」の設定はガンマHLG2、カラーモードBT.709。動画編集ソフト「DaVinci Resolve」でティール系のLUTを当てるなどして編集している。オーディオはFLASH☆BEATさん制作のフリー素材『Feather of the Angel』を使用した。
α6000シリーズにはなくてZV-E10にはある機能として注目なのが、動画撮影時専用の手ブレ補正「アクティブモード」だ。電子的に手ブレを補正する機能で、レンズ側の光学手ブレ補正(※ZV-E10の設定では「スタンダードモード」)と比べると画角はひと回り狭くなるものの、補正効果が高いのが特徴。特に歩きながらの撮影時など、よりブレのない安定した映像を撮りたい場合に活用したい機能となっている。
電子的に手ブレを補正する「アクティブモード」を搭載。動画撮影時に使用できる機能だ
ZV-E10の手ブレ補正モードの効果を比較した動画。ZV-E10に別売のシューティンググリップGP-VPT2BTを装着し、シューティンググリップを片手で持って歩きながら撮影している。「アクティブモード」では「スタンダードモード」よりも大きな手ブレが補正できていることがわかるはずだ。
Vlog撮影向けの機能としては、ZV-1にも採用された「背景ボケ切り替え」や「商品レビュー用設定」「美肌効果」といった機能を搭載。「背景ボケ切り替え」は、絞り値を大きくして背景をくっきりする設定と、絞り値を小さくして背景ボケを大きくする設定を切り替えられる機能。「商品レビュー用設定」は、カメラに商品を近づけた際にピントが合いやすくなるように、顔/瞳優先AFをオフにするなど商品レビューに適したAF設定に切り替える機能。どちらの機能も、ボタン操作で簡単に機能を呼び出すことが可能だ。「美肌効果」は、顔の小じわやシミ、くすみなどを目立たなくして、肌を明るくキレイに見せる機能で、LO/MID/HIの3段階で効果を選ぶことができる。
初期設定では、「背景ボケ切り替え」は上面のカスタムボタン1、「商品レビュー用設定」は背面の削除ボタンに割り当てられていて、ボタン操作で簡単に呼び出すことができる
「背景ボケ切り替え」を使って撮影した動画。動画撮影中でもボタン操作で背景のボケ具合を切り替えることができる。
「商品レビュー用設定」をオンにして撮影した動画。服と同系色の赤色の被写体カメラに近づけているが、ピントがスムーズに合っている。
ZV-E10は操作性も動画撮影向けの仕様になっており、バリアングル液晶モニター(3.0型タッチパネル対応、約92.1万ドット)を採用したうえ、モニターの開閉によって電源のオン・オフが切り替わるようになっている。上面には、動画撮影ボタンを大きく配置し、ズーミング速度を8段階で調節できるズームレバーもシャッターボタンと同軸に搭載する。細かいところでは、録画していることがひと目でわかるように、レコーディングランプを前面に搭載し、動画撮影中のモニター画面には赤いフレームが表示されるようになっている。ファンクションメニューの内容を動画撮影と静止画撮影で別々に設定できるのも使いやすい点だ。
さらに、Vlog撮影向けを謳うZV-E10ならではの特徴として注目したいのが音声機能で、ZV-1と同様、上面に前方指向性の3カプセルマイクを搭載。話し手の声をよりクリアに収録できるようになっている。付属のウインドスクリーンの装着にも対応しており、屋外でも風切り音を低減して録音することが可能だ。
αシリーズのAPS-Cミラーレスとしては初めてバリアングル液晶モニターを採用
上面に、大きめの動画撮影ボタンやズームレバーを搭載。静止画/動画/S&Qの各撮影モードはボタン操作での切り替えとなっている。音声機能にもこだわっており、前方指向性の3カプセルマイクを採用。マイクのカバー形状や内部構造を見直したことで集音効率が向上し、よりクリアな録音が可能だ
付属のウインドスクリーンを使用することで風切り音を低減できる。屋外での自撮り撮影時でもクリアな音声録音を実現する
左側面にマイク端子、USB Type-C端子(※充電・給電対応)、HDMIマイクロ端子 (タイプD)、ヘッドホン端子を搭載。ソニーのAPS-CミラーレスとしてUSB Type-Cは初搭載だ。USB接続でWebカメラとして機能し、ライブストリーミングにも対応する。動画撮影機としてはヘッドホン端子が備わっているのが高ポイントで、音声をモニタリングしながら撮影することができる
このほか、ZV-E10は、デジタルオーディオインターフェイス対応の「マルチインターフェースシュー」を搭載したのも見逃せない。ショットガンマイクロホン「ECM-B1M」やワイヤレスマイクロホン「ECM-W2BT」、ラベリアマイクロホン「ECM-LV1」など、別売のソニー製マイクを取り付けることで、高品質なデジタル録音が可能だ。
最後に、ZV-E10の静止画撮影機能について簡単にレポートしておこう。
ZV-E10の静止画撮影は、α6400にはない機能を持っていたり、α6400にはある機能がなかったりして評価が難しいのだが、ざっくり言うと「EVFと細かい機能性を省略したα6400」というイメージだ。細かいところを抜きにすれば、はじめての一眼カメラとして使ったり、気軽なスナップ撮影で使う分には、静止画撮影も十分な性能を持っていると言える。
具体的には、連写は、α6000シリーズ3モデルと同性能となる最高約11コマ/秒に対応。JPEG(Lサイズ エクストラファイン)で最高99枚までの連写持続性はα6100を上回っており、α6400(ならびにα6600)と同等だ(※RAW+JPEGなどの持続性はわずかにZV-E10が上回っている)。AFは像面位相差AF/コントラストAFとも425点の「ファストハイブリッドAF」で、人物と動物の「リアルタイム瞳AF」と「リアルタイムトラッキング」に対応。ボタンを教えている間、一時的にトラッキングがオンになる「押す間トラッキング」にも対応している。感度の設定では、α6400では非対応の、下限ISO50までの拡張が可能なのがうれしい(※動画撮影時は設定不可)。ただし、仕上がり設定の「クリエイティブスタイル」については、動画撮影時も同じだが、計7種類でα6100と同じ仕様となっている(α6400やα6600は計13種類)。
細かい機能性を見ると、ZV-E10はα6400で使用できるものが非搭載になっている。たとえば、フォーカス枠を登録した位置に一時的に移動できるフォーカスエリア登録機能や、AF-S/AF-C時のフォーカス/レリーズの優先設定、選択できる感度の範囲を限定する設定、感度オート時の低速限界設定などだ。ただ、これらの機能は、あれば便利ではあるが、玄人向きではある。はじめての一眼カメラとして使う分にはそれほど気にしなくていいだろう。
ただし、本記事内で何度か触れているが、ZV-E10はEVFが省略されている点には留意したい。素早く動く被写体を撮ったり、明るい屋外で被写体をしっかり見て撮ることを重視するなら、さすがにEVFを搭載するα6000シリーズのほうが使いやすいことは覚えておいてほしい。
ソニーがAPS-Cミラーレスでここまで動画撮影に注力したのはZV-E10が初だ。エントリー向けということで、さすがに映像のプロ向けのフルサイズミラーレスα7Sシリーズほどの高機能ではないが、小型・軽量ボディにバリアングル液晶モニターを搭載し、動画撮影時の取り回しがいいのが魅力。「ピクチャープロファイル」にも対応しており、本格的な映像制作にも十分に対応できる。動画撮影を最も重視して選ぶのなら、ソニーのAPS-Cミラーレスの中ではファーストチョイスにしたいモデルである。ソニーのAPS-Cミラーレスとしては最も安価なので、「これから動画を始めたい」という人でも選びやすいはずだ。
製品選びが難しいのは、動画撮影と静止画撮影の重視度が半々くらいの場合。ZV-E10とα6000シリーズのどちらを選ぶか悩ましいところだが、静止画撮影がスナップ中心で「EVFは必要ない。モニターで十分」というのであれば、より低価格で手に入るZV-E10を選んだほうが満足度は高くなるだろう。
フィルム一眼レフから始まったカメラ歴は、はや約30年。価格.comのスタッフとして300製品以上のカメラ・レンズをレビューしてきたカメラ専門家で、特にデジタル一眼カメラに深い造詣を持つ。フォトグラファーとしても活動中。