2022年3月18日に発売になった、OMデジタルソリューションズの新しいフラッグシップモデル「OM SYSTEM OM-1」(以下、OM-1)が絶好調だ。2022年4月13日時点での、価格.com「デジタル一眼カメラ」カテゴリーの売れ筋ランキングは2位、注目ランキングは1位と、この春に登場した新製品の中でも特に人気の高いカメラとなっている。本特集では、そんな人気の「OM-1」が搭載する、先進的な撮影機能「コンピュテーショナル フォトグラフィ」に注目。その特徴を詳しく紹介しよう。
発売から高い人気をキープしている、マイクロフォーサーズシステム規格のミラーレス「OM-1」。基本性能の高さとあわせて注目したいのが、今回紹介する「コンピュテーショナル フォトグラフィ」だ
コンピュテーショナルフォトグラフィーとは、一般的には、コンピューターのデジタル画像処理を前提とした撮影、ならびにその技術を意味するワードだ。広義にはデジタルカメラはすべてコンピュテーショナルフォトグラフィーになるのだが、最近は、特にスマートフォンのカメラ機能で使われるようになってから、「コンピュテーショナルフォトグラフィー=より高度な画像処理技術を使った先進的な撮影機能」という意味合いが強くなってきている。
筆者の知る限り、このワードを日本のカメラメーカーとして初めて公式に使い始めたのが、OMデジタルソリューションズだ。新ブランド「OM SYSTEM」の第1弾モデル、かつフラッグシップモデルである「OM-1」において、独自の先進的な撮影機能を「コンピュテーショナル フォトグラフィ」(※カメラの設定メニュー上は「コンピュテーショナル撮影」)という名称でまとめ、訴求するようになっている。
同社は元々、オリンパス時代から、高度な画像処理技術を活用した独自の撮影機能に定評があった。機種によっては「アドバンストフォトモード」という撮影モードでまとめられていたりもするが、「OM-1」では、それらの機能を「コンピュテーショナル フォトグラフィ」として再構築した形になっている。
「OM-1」のニュースリリースや製品ページで「コンピュテーショナル フォトグラフィ」というワードを目にしたとき、「カメラの機能名としては少々長いのでは?」という印象を持った人もいることだろう。スマートフォンでは広まりつつあるとはいえ、カメラ製品としてはまだそれほど認知されているワードではない。OMデジタルソリューションズによると、「独自の機能名にすることも検討したが、海外では一般的なワードであり、そのまま使ったほうがわかりやすいと判断した」とのことだ。
なお、本記事では、これ以降、一般的な意味合いではコンピュテーショナルフォトグラフィー、「OM-1」の機能としては製品ページと同じ「コンピュテーショナル フォトグラフィ」と表記することとする。
「コンピュテーショナル撮影」の設定メニュー。「ハイレゾショット」や「ライブND」といった独自機能が用意されている
続いて、「OM-1」の「コンピュテーショナル フォトグラフィ」の主要機能の特徴をまとめよう。いずれも、高度な画像処理技術を駆使することで、通常の撮影では得られない効果をカメラのみで実現する機能となっている。
撮像素子を動かしながら記録した複数枚の画像をもとに、撮像素子の画素数を超える高解像度かつノイズレスな画像を生成する機能。より高精細な風景写真を記録したい場合に威力を発揮する機能だ。三脚を使って撮影する「三脚ハイレゾ」と、手持ち撮影で気軽に使える「手持ちハイレゾ」の2種類が用意されており、「OM-1」では、「三脚ハイレゾ」で8枚合成/最大8000万画素(10368×7776)、「手持ちハイレゾ」で12枚合成/最大5000万画素相当(8160×6120)の画像を合成できる。
「三脚ハイレゾ」と「手持ちハイレゾ」の選択が可能。「手持ちハイレゾ」時はフラッシュに非対応となる
画質モード、撮影待ち時間(シャッターボタンを全押ししてからシャッターが切れるまでの時間)、充電の待ち時間(※「三脚ハイレゾ」時のみ)を設定できる
RAWでの記録にも対応。「三脚ハイレゾ」時は最大8000万画素の画像を記録できる
「ハイレゾショット」と同様の機能は他メーカーのカメラにもあるが、「OM-1」では、ボディ単体で7.0段分/シンクロ補正で8.0段分の補正効果を発揮する強力なボディ内5軸手ブレ補正によって、「手持ちハイレゾ」の性能が高いのが特徴。小型・軽量ボディと相まって、よりアクティブに活用できる機能となっている。
さらに、「OM-1」では画像処理の速度が向上しており、「手持ちハイレゾ」は約5秒で処理が完了するようになった。体感的には、「OM-D E-M1 Mark III」と比べて半分くらいの時間で終わるイメージで、レスポンスよく使うことができる。このほか、「OM-1」には、ボタンカスタマイズに「ハイレゾショットのオン・オフ切り替え」が追加され、ボタン操作で「ハイレゾショット」を素早く呼び出せるのもポイント。タイムラプスムービーの素材撮りなどで活用するインターバル撮影で「三脚ハイレゾ」を使用できるようになったのも進化点だ。
「OM-1」は、初期設定では、シャッターボタン近くのムービーボタンに「ハイレゾショットのオン・オフ切り替え」が割り当てられている
「手持ちハイレゾ」を使って撮影した作例。OM-1、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO、12mm(35mm判換算24mm相当)、F8、1/1250秒、ISO200、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:Natural
上に掲載した作例の等倍切り出し画像
高度な画像処理を用いて複数枚の画像を合成することで、スローシャッター(長秒シャッター)で撮影したような効果が得られる機能。NDフィルターを使って減光する必要がある明るいシーンでも、NDフィルターを装着する手間なく、カメラのみで効果が得られるのが便利なところ。NDフィルターを装着できない超広角レンズで活用できるのもポイントだ。ライブビュー映像で仕上がり具合を確認することも可能となっている。
「OM-1」では、露出を落とす段数(ND段数)にND64(6EV)が加わり、ND2(1EV)〜ND64(6EV)の6段階から効果を選べるようになった。
ND段数とあわせて、仕上がり具合をライブビュー映像に表示する「LVシミュレーション」のオン・オフも選べる
「OM-1」で選べるND段数は、ND2(1EV)、ND4(2EV)、ND8(3EV)、ND16(4EV)、ND32(5EV)、ND64(6EV)の6段階
「ライブND」を使って撮影した作例。ND段数はND64(6EV)を選択。OM-1、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO、14mm(35mm判換算28mm相当)、F14、60秒、ISO200、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーモード:Natural
比較明合成(コンポジット)とは、複数枚の画像から明るい部分のみを合成して1枚の画像に仕上げる合成技術のこと。通常の長時間撮影の場合、画像全体が明るくなってしまうが、比較明合成であれば、暗い部分はそのままに1枚の写真として光の軌跡をキレイに残すことができる。星や花火の光跡写真がこの技術を活用した代表例だ。
「ライブコンポジット」は、設定した露出時間ごとに明るく変化した部分のみを追加していくという高度な画像処理によって、カメラのみで比較明合成を手軽に実現する撮影機能。オリンパス時代からユーザー評価の高い機能で、設定した露出時間ごとにライブビュー映像が更新されるうえ、シャッターボタンを押すことで撮影を終了できるのが使いやすいところ。「OM-1」では手持ち撮影でも利用できるようになり、使い方の幅がさらに広がっている。
「OM-1」では、「OM-D E-M1 Mark III」などと同様、撮影モードをB(バルブモード)にしてから、ダイヤルを回して「Live Comp」に設定することで、「ライブコンポジット」での撮影となる
「Live Comp」の状態でメニューボタンを押すと、露出時間を設定する「コンポジット撮影設定」の画面が表示される。露出時間は1/2秒〜60秒の間で設定可能
「コンポジット撮影設定」のメニュー自体は、「その他の撮影機能」の「BULB/TIME/COMPの設定」の中に用意されている。コンポジット撮影の最長時間を設定する「COMPリミッター」もこのメニュー内にある
「ライブコンポジット」を使って撮影した作例(三脚使用、一部画像補正)。OM-1、M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO、7mm(35mm判換算14mm相当)、F5、4秒×300、ISO3200、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:Natural
「ライブコンポジット」を使って撮影した作例(手持ち撮影)。OM-1、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO、14mm(35mm判換算28mm相当)、F5、1秒×5、ISO200、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:Natural
ピント位置をずらしながら撮影した複数枚の写真を合成することで、被写界深度の深い画像を生成する機能。マクロ写真や風景写真などで被写体全体にピントの合った写真を撮影したい場合に活用したい機能だ。レンズの焦点距離や撮影距離、被写体の大きさ(奥行き)にあわせて最適な被写界深度が得られるように、撮影枚数(合成枚数)とフォーカスステップ(コマごとのピント位置の移動量)を細かく設定できるようになっている。「OM-1」では画像の合成時間が大幅に短縮しており、よりテンポよく撮影を続けられるようになった。
撮影枚数は3〜15枚、フォーカスステップは10段階で設定することが可能。フラッシュ撮影にも対応しており、同調速度は1/100秒(ISO16000以上の場合は1/50秒)
合成画像は上下左右がひと回りカットされた(元の写真から約7%拡大された)画像になる。撮影画面には、合成後のエリアがわかる黒枠のガイド線が表示される
「深度合成」を使って撮影した作例(15枚合成)。OM-1、M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PRO、111mm(35mm判換算222mm相当)、F6.3、1/15秒、ISO200、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:Natural
このほか、「OM-1」の撮影機能では、「コンピュテーショナル撮影」メニューに「HDR(ハイダイナミックレンジ)撮影」や「多重露出撮影」が、「その他の撮影機能」メニューに「デジタルテレコン」や「デジタルシフト撮影」「フィッシュアイ補正撮影」などが用意されている。
「HDR撮影」は、露出を変えて撮影した複数枚の画像を合成することで、階調を拡大したかのような画像に仕上げる機能。より自然な仕上がりの「HDR1」と、絵画のようなアート性の強い仕上がりの「HDR2」を選択できる。「多重露出撮影」は、撮影した画像にもう一度撮影した画像を重ねてひとつの画像に合成する機能。SDカード内の画像(RAWデータ)を表示して重ねることも可能で、「再生画+多重」を繰り返すことで3コマ以上の画像を組み合わせることもできる。
「デジタルテレコン」は、画像の中央部を切り出し、画質モードのサイズまで拡大して記録する機能。「デジタルシフト撮影」は、台形の歪みを補正したり、逆に歪めて遠近感を強調できるのが特徴だ。「フィッシュアイ補正撮影」は、フィッシュアイレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO」装着時に、 超広角レンズで撮影したかのように画面の歪みを補正する機能となっている。
「HDR撮影」は効果の異なる「HDR1」と「HDR2」を選択できる。設定できる最長シャッタースピードは4秒。「3f 2.0EV」「5f 2.0EV」など、合成処理は行わず、露出を変えながら複数枚の写真を記録するモードも用意されている
「多重露出撮影」には、各コマの明るさを1/2にして合成する「自動ゲイン補正」が用意されている。SDカード内のRAWデータに画像を重ねる「再生画+多重」も可能だ
「OM-1」は、有効約2037万画素の裏面照射積層型Live MOSセンサーによる進化した画質性能や、多彩な被写体認識に対応するクアッドピクセルAFシステム、AF・AE追従で最高約50コマ/秒の超高速連写といった、充実した基本性能を持つ、高性能なミラーレスだ。それに加えて、本記事で紹介した先進的な撮影機能「コンピュテーショナル フォトグラフィ」が備わっているのも魅力。本格的な動体撮影だけでなく、ユニークな効果を生かした撮影も可能で、幅広い使い方ができるカメラとなっている。
一眼カメラにおけるコンピュテーショナルフォトグラフィー技術については、OMデジタルソリューションズは、オリンパス時代からいち早く取り組んできた先駆者だ。その最新モデルである「OM-1」は、細かいところの機能性やレスポンスが向上したことで、さらに使いやすい機能に進化している。「OM-1」を手に入れたなら、ぜひ「コンピュテーショナル フォトグラフィ」を使って、ユニークな表現の写真撮影を楽しんでほしい。
フリーランスから価格.comマガジン編集部に舞い戻った、カメラが大好物のライター/編集者。夜、眠りに落ちる瞬間まで、カメラやレンズのことを考えながら生きています。