一眼カメラはファームウェアのアップデートで機能を強化する場合が多く、なかには、発売当初と比べて使い勝手が大きく向上するものもある。ニコンのフラッグシップモデルとなるフルサイズミラーレスカメラ「Z 9」も、そんなモデルのひとつ。2022年4月20日に公開された最新のファームウェアVer.2.00において、撮影・編集機能、オートフォーカス、操作性、動画撮影機能など幅広い点で大幅な進化を遂げ、さらに魅力的なカメラになった。その全容を紹介しよう。
最新のファームウェアVer.2.00で大幅に進化した、ニコンのフラッグシップモデル「Z 9」
「Z 9」のファームウェアVer.2.00で追加された機能の中で特に注目したいのが、「プリキャプチャ」機能だ。この機能は、シャッターボタンを全押しした時点から最大1秒間さかのぼって静止画を記録できるというもの。マイクロフォーサーズ機やAPS-C機などでは以前からあったが、フルサイズミラーレスとしては「Z 9」が初搭載となる。シャッターボタンを押す前の被写体の状態を記録できるので、昆虫の飛翔や野鳥の捕食の瞬間など、通常の撮影ではタイムラグが原因で撮り逃してしまう“瞬間”をより確実に収められるのが便利。昆虫や野鳥を撮影する人にとって待望の新機能だ。
この機能は、JPEGでの超高速連写機能「ハイスピードフレームキャプチャ+」内の1モードとして用意されている。レリーズモードダイヤルを「クイック設定ポジション」にしたうえで、カスタムメニューの「d4 C30/C120記録設定」で、「プリ記録時間」を設定すれば機能がオンになる。約30コマ/秒、約120コマ/秒(約11メガピクセル)ともに設定の内容は同じで、プリ記録時間(さかのぼって記録する時間)は0.3秒、0.5秒、1.0秒から選択可能。レリーズ後記録時間も1秒、2秒、3秒、最大(最長約4秒)から選べる。撮影者の反応速度や被写体の動きのスピードに合わせて、より適した記録設定で撮影できるようになっている。
「プリキャプチャ」機能は「ハイスピードフレームキャプチャ+」の1モード。設定はカスタムメニューの「d4 C30/C120記録設定」で行う
「Z 9」の「プリキャプチャ」を使用して撮影した作例。Z 9、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S 、70mm、F6.3、1/5000秒、ISO4500、WB:オート1、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない、ヴィネットコントロール:標準、自動ゆがみ補正:する、回折補正:する、高感度ノイズ低減:標準、JPEG
撮影写真(8256×5504、11.8MB)
ホワイトバランスで色温度設定を選択した際、従来はG(グリーン)とM(マゼンタ)の2方向での微調整だったが、A(アンバー)、B(ブルー)、G(グリーン)、M(マゼンタ)の4方向になり、より細かく色合いを追い込めるようになった。A(アンバー)、B(ブルー)は0.5段単位、G(グリーン)、M(マゼンタ)は0.25段単位での微調整が可能だ。
G(グリーン)とM(マゼンタ)は、色補正用フィルター(CCフィルター)と同じように、0.25段単位での調整に対応
ホワイトバランス関連では、プリセットマニュアルのデータ取得領域が小さくなった。より細かい部分を基にマニュアルでホワイトバランスを決定することができる。
プリセットマニュアルでホワイトバランスを設定している際の画面。従来よりも狭い領域でデータを取得できるようになった
再生時の画像編集機能として追加されたのが、連続撮影した動体をカメラ内で1枚の静止画に合成する「比較動合成」だ。連続撮影した複数の画像から被写体が動いている部分をカメラが自動判別して重ね合わせ、1コマのJPEG画像に合成するというもの。合成できる画像は最大20コマとなっている。使用上の注意点としては、三脚を使用し、カメラを固定した状態で連続撮影する必要があること。また、合成前にプレビュー画像を確認できるが、実際の合成画像は色や明るさなど見え方が異なる場合がある。
再生時にiメニューで呼び出す「画像編集」に「比較動合成」が追加された。合成する画像は5〜20コマから選択できる
「Z 9」は、撮影した動画からフレームを切り出してJPEG画像として保存することが可能だが、ファームウェアVer.2.00では、指定した数秒分のフレームをまとめて保存できるようになった。被写体の一連の動きをざっくりと保存できるので、動画を再生しながら1フレームずつ確認する必要がなく、ベストカットを選びやすくなった。
動画再生中に一時停止してから、iボタンで「フレームを連続保存」を選択すれば、一時停止した箇所から数秒分をまとめてJPEG画像として保存できる。保存する時間は1秒、2秒、5秒、10秒から選べる
AF関連では、静止画撮影のAFエリアモードに、カスタム設定が可能な「ワイドエリアAF(C1)」と「ワイドエリアAF(C2)」が追加された。一眼レフカメラ「D6」に搭載されている「グループエリアAF」のカスタム設定と同様、AFエリアのサイズを、フォーカスポイントの縦と横の数で設定できるのが特徴だ。設定できるパターンは静止画撮影時が20種類、動画用撮影時が12種類。ほかのAFエリアモードと同様、被写体検出機能も併用できる。ピントを合わせたい範囲が限定される状況や、被写体の動きを予測できるような状況で活用したいモードだ。
「ワイドエリアAF(C1)」もしくは「ワイドエリアAF(C2)」を選択時にAFエリアのサイズを設定できる。上下左右のフォーカスポイントの数は、背面のマルチセレクターを使って決定する
ファームウェアVer.2.00では、AFの安定性、追従性、低輝度での被写体検出性能を改善している。野鳥や飛行機の撮影で試してみたところ、背景抜けなどピントが大きく外れる頻度が少なくなった印象。薄暗いシーンで離着陸する飛行機に対しても被写体検出機能がほぼ問題なく動作した。被写体検出の精度と追従性についてはまだ改善の余地はあると感じたものの、AF性能は間違いなく底上げされている。
「Z 9」の電子ビューファインダー(EVF)は、周辺までクリアな光学系と、疑似像がなく常に被写体の動きが表示・更新される「Real-Live Viewfinder」を実現しており、見えのよさで定評がある。ただ、ハイエンドモデルとしては表示フレームレートが遅いのがネックだった。Ver.2.00ではこの点をしっかりと改善。120fpsの高速表示になる「ファインダーの高フレームレート表示」がカスタムメニューに追加された。
これによって、カメラを素早く振った際などの表示が滑らかになり、さらに幅広いシーンで使いやすいEVFになった。さすがにバッテリーの消費は早まるが、動体を追いかけながら撮影する場合に積極的に活用したい機能だ。
カスタムメニューに「d20 ファインダーの高フレームレート表示」が追加された。オンに設定すると120fpsの高速表示になる
「Z 9」は、モニターとファインダーの動作モードとして、「ファインダーとモニターの自動表示切り替え」「ファインダーのみ」「モニターのみ」「ファインダー優先」の4つのモードがある。Ver.2.00では、このうち、「ファインダーのみ」と「ファインダー優先」の動作が変更になった。具体的には、電源をオンにしたり、半押しタイマーをオンにした時に、ファインダーに顔を近づける前に数秒間ファインダーが点灯するようになった。また、「ファインダー優先」時は、ファインダーを見ている間、常に撮影画面が表示されるようになった。
モニターモードが「ファインダーのみ」と「ファインダー優先」時の動作が変更になり、電源オン時(半押しタイマーをオン時)により素早くファインダー撮影を開始できるようになった
これまで、JPEG記録の超高速連写機能「ハイスピードフレームキャプチャ+」での撮影時は、シャッターを切った際に画面を暗くしたり枠線を表示する「撮影タイミング表示」に非対応だったが、Ver.2.00では対応するようになった。
カスタムメニューの「d14 撮影タイミング表示」機能が「ハイスピードフレームキャプチャ+」に対応
ファインダーの明るさをマニュアルで調整する場合に、これまでの最も暗い「-5」設定よりもさらに暗い「Lo 1」「Lo 2」が追加された。
ファインダーの明るさは「Lo 2」から「Hi 2」まで17段階で調整できるようになった
静止画撮影/動画撮影時のカスタムボタンに割り当てられる機能として、「フォーカス位置の登録」と「フォーカス位置の呼び出し」が追加され、登録しておいたフォーカス位置をボタン操作で呼び出すメモリーリコール機能を、ボタン・ダイヤル類に設定できるようになった。設定したフォーカス位置に一発で変更になるので、決まった距離でひんぱんに撮影する場合に便利だ。
「フォーカス位置の登録」と「フォーカス位置の呼び出し」の追加によって、より柔軟にメモリーリコール機能を利用できるようになった
静止画撮影/動画撮影時の両方で、カスタムボタンとして機能する操作系に、レンズのファンクションリングとメモリーセットボタンが追加になった。ファンクションリングは右回しと左回しで別々に機能を設定できる。
「レンズのFnリング(右回し)」「レンズのFnリング(左回し)」「レンズのメモリーセットボタン」に機能を割り当てられるようになった
静止画撮影時のカスタムボタンでは、設定できる機能として、露出モードや測光モードなどあらかじめ登録しておいた設定を呼び出してホールドする「撮影機能の呼び出し(ホールド)」が追加された。ボタンを押すと設定が呼び出され、もう1回押すと元の設定に戻るので、細かい項目を含めて、設定を素早く切り替えながら撮りたい場合に威力を発揮する。登録可能な項目は、「AF-ON」を除いて、ボタンを押している間、設定が変更になる「撮影機能の呼び出し」と共通となっている。
登録した設定を呼び出してホールドする「撮影機能の呼び出し(ホールド)」の利用が可能になった
カスタムメニューに「フォーカス/コントロールリング入れ換え」が追加された。この機能をオンにすると両リングの機能が逆になる。対応するレンズは、2022年4月20日時点では「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」のみとなっている。
マルチセレクターやサブセレクターを使用してフォーカスポイントを選択する際の移動速度が「遅い」「標準」「早い」の3つから選べるようになった。
カスタムメニューに「a14 フォーカスポイントの移動速度」が追加された。3段階の速度を選べる
従来は、サブセレクターの中央を押す操作と、上下左右に倒す操作は同時に機能しなかったが、Ver.2.00では、カスタムメニューの新設定「f13サブセレクター中央を優先」をオフにすると、サブセレクターを押しながら上下左右に倒してフォーカスポイントを移動できるようになる。サブセレクター中央に割り当てた機能を実行しながらフォーカスポイントを移動できるのがポイント。たとえば、セレクター中央にAFエリアモードの呼び出しを設定しておけば、セレクター中央を押して(押し続けて)一時的にAFエリアを切り替えた状態で、そのままフォーカスポイントを移動して撮影することができる。
カスタムメニューに追加された「f13サブセレクター中央を優先」。この設定をオフにするとサブセレクターを押しながらフォーカスポイントの移動が可能になる。なお、この機能はサブセレクターのみで、縦位置マルチセレクターには追加されていない
iメニューの操作で、サブセレクターならびに縦位置マルチセレクターの中央を押して項目を決定できるようになった。ユーザーにとってはありがたい改善で、サブセレクター(縦位置マルチセレクター)のみでiメニューの設定を変更・決定することが可能となった。
フォーカスポイントをダイレクトに移動できる操作系として、横位置撮影用にサブセレクターを、縦位置撮影用に縦位置マルチセレクターを用意。今回のファームウェアアップデートによって、両セレクターでiメニューの項目決定が可能になった
バルブ撮影もしくはタイム撮影時に、上面右側にある表示パネルに経過時間が表示されるようになった。カスタムメニューの「d6 Mモード時のシャッタースピード延長」を設定して長秒撮影をした場合は、残りの露光時間が表示される。長時間ノイズ低減処理の残り時間も表示するようになった。
表示パネルに長時間露出時の経過時間が表示されるようになった
セットアップメニューに追加された「自動電源OFF温度」は、カメラ内の温度が上昇すると画面上にアイコンで知らせてくる機能。温度が上昇していくと、カメラの電源が自動的にオフになるまでの残り時間をカウントダウンで知らせてくれる。
「自動電源OFF温度」は「標準」「高」から選べる。「高」に設定すると、撮影できなくなるまでの時間が長くなる
メイン/サブコマンドダイヤルでの画像送りの操作として「連続撮影の先頭」が追加された。この機能を選択すると、コマンドダイヤルを回してコマ送りをした際に、連続撮影した画像の最初のコマだけを表示するようになる。
カスタムメニューの「f3 カスタムボタンの機能(再生)」にある「メインコマンドダイヤル」「サブコマンドダイヤル」の「画像送り」の選択肢として「連続撮影の先頭」が追加された
このほか、操作性や拡張性では以下の内容が追加になっている。
・「メニュー設定の保存と読み込み」の対象項目の追加(再生メニューの「Wスロット同時削除の設定」と「フィルター再生の条件設定」)
・PC/スマホとUSB接続時でも「撮影機能の呼び出し」が可能に
・スマートフォン用アプリ「SnapBridge」での8Mピクセルの画像転送に対応
製品発表時に、将来的なファームウェアアップデートでRAW動画のカメラ内記録に対応することが明らかになっていたが、Ver.2.00でついにお目見えとなった。動画記録ファイル形式として、「N-RAW 12-bit(NEV)」と「ProRes RAW HQ 12-bit(MOV)」が追加され、N-RAWでは8.3K(8256×4644)/60pまで、ProRes RAW HQでは4.1K(4128×2322)/60pまでのRAW動画をクロップなしでカメラ内に記録できるようになった。N-RAW設定時は4.1K/120pにも対応する。
RAW動画のカメラ内記録が追加された。N-RAWでは8.3K/60p、4.1K/120pの記録が可能だ
動画撮影機能のメニューに、新たに「オーバーサンプリングの拡張」を搭載。この機能をオンにすると、4K UHD(3840×2160)/60p 50p記録時に、8Kオーバーサンプリングによる高画質な記録が可能になる。
8Kオーバーサンプリングで高画質な4K記録を実現する「オーバーサンプリングの拡張」
iメニューに登録できる項目として「動作撮影情報」が追加された。この項目をiメニューで実行すると、録画可能時間やコーデック、画像サイズ、フレームレートなどの各種設定の一覧が画面に表示される。
「動画情報表示」を表示している画面。カスタムメニューの「g1 iメニューのカスタマイズ」でiメニューに追加できる項目だ
動画撮影時のカスタムボタンの機能として「AF-ON(高速)」を選択できるようになった。この機能は、AF速度の設定にかかわらず、高速でピント合わせを行うのが特徴。「AF-ON」と「AF-ON(高速)」を異なるボタンに割り当てておけば、2種類の速度でピント合わせが行えるようになる。
高速でピント合わせを行う「AF-ON(高速)」をカスタムボタンに割り当てることが可能
カスタムメニューに追加された「g8 ISO 感度ステップ幅拡張(M モード)」を設定すると、Mモード時の感度のステップ幅が1/6段に変更になる。
Mモード時の感度設定を1/6段ステップにする「g8 ISO 感度ステップ幅拡張(M モード)」
カスタムメニューでは「g9 シャッタースピード延長(Mモード)」という項目も追加になっている。オンにすると、フレームレート60p〜24pでの記録において、シャッタースピードの低速制限が1/4秒に変更になる。複数のフレームに同じ映像が記録されることになるが、星風や夜景など暗いシーンでの撮影時に、より低感度で撮ることが可能だ。
「g 9 シャッタースピード延長(M モード)」をオンにすると低速シャッタースピードで動画撮影が行える
カスタムメニューに「g14 輝度情報の種類」が追加され、撮影画面に表示する輝度情報を、「ヒストグラム」「ウェーブフォームモニター」「ウェーブフォームモニター(大)」から選べるようになった。
ヒストグラムとウェーブフォームモニターを選択できる「g14 輝度情報の種類」
このほか、動画撮影機能では以下の項目が追加されている
・動画記録中の拡大表示倍率に50%と200%を追加
・動画撮影時の表示パネルに、画像サイズおよびフレームレートの表示を追加
・カスタムメニューに「g17 動画撮影中の赤枠表示」を追加
・HDMIの出力解像度に1080i(インターレース)を追加
ニコンは、「Z 9」の製品発表時に、将来的なファームウェアアップデートで8K/60pのRAW動画記録に対応することを発表していた。そのことからもわかるように、「Z 9」は、発売当初の段階ではまだハードウェアのポテンシャルをすべて出し切っているわけではなかった。そのため、ファームウェアアップデートで動画撮影以外の部分でもある程度の性能向上があると思っていたが、Ver.2.00の内容はその予想を上回るものであった。特に、EVFの表示フレームレートはハードウェアの仕様上の限界だと思っていたので、120fpsの高速表示に対応したのには少々驚かされた。
今回のファームウェアアップデートによって、「Z 9」は、細かいところを含めて使い勝手がさらによくなった。「ファインダー優先」時の動作など一眼レフを使っているユーザーにとって気なる点も改善しており、より魅力的な高性能ミラーレスに進化したと言えよう。
フリーランスから価格.comマガジン編集部に舞い戻った、カメラが大好物のライター/編集者。夜、眠りに落ちる瞬間まで、カメラやレンズのことを考えながら生きています。