キヤノン「EOS R3」は、縦位置グリップ一体型ボディに、フラッグシップ一眼レフ「EOS-1D X Mark III」をも上回る高速性を搭載した、ハイエンド向けのフルサイズミラーレス。「無双。」というキャッチコピーが付けられた、キヤノンの自信作だ。本記事では、そんな「EOS R3」の性能の高さを改めてレビューしたい。
2021年11月27日発売の「EOS R3」(装着しているレンズは「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」)。縦位置グリップ一体型のハイエンドミラーレスだ
「EOS R3」のAFシステムは、全画素が撮像面位相差AFと撮像の機能を兼ね、最大で横・約100%×縦・約100%の測距エリアを持つ高性能な「デュアルピクセルCMOS AF II」。機能名は「EOS R5/R6」と同じだが、「EOS R3」では、「EOS R5/R6」から主に以下の進化を遂げている。
・60fpsの高速AFフレームレート/最高約0.03秒のAFスピード
・被写体追尾機能の独立
・視線入力機能の搭載
・低輝度限界がEV-7.5に向上
今回、「EOS R3」と「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」「EXTENDER RF2x」の組み合わせで野鳥の追尾撮影を行ってみたが、上記の進化によって「EOS R5/R6」からAFの使い勝手がさらによくなった印象を受けた。AFの速度や追従性、低輝度限界が向上したことで、少々薄暗いシーンでの動体撮影など、AFにとって難しいシーンでもより確実にピントが合うようになっている。「EOS R5/R6」でも十分なAF性能ではあるが、「EOS R3」は、そのさらに上を行く仕上がりだ。
そうした基本性能の向上とあわせて、より柔軟性の高い被写体追尾ができるようになったのも使い勝手が向上したポイント。これまでは、人物や動物などを追尾する「顔+追尾優先AF」と各種AFエリアが「AF方式」という同じメニューの中にあったが、「EOS R3」では、「被写体追尾(トラッキング)」として機能が独立。これによって、被写体追尾とAFエリアを別々に設定でき、かつボタン操作(初期設定はM-Fn2)で追尾の開始/停止を簡単に切り替えられるようになった。画面全域でざっくりと被写体を追いたい場合は追尾をオン、任意のAFエリアでサーボAFを動作させたい場合は追尾をオフ、といったような使い分けをよりスムーズに行える。
「EOS R3」では、メニューに「被写体追尾(トラッキング)」という項目が追加された。検出した主要被写体を画面全域で追尾する機能だ
「被写体追尾(トラッキング)」をオン、被写体検出を「動物優先」、AFエリアを「領域拡大AF」、フォーカス動作を「サーボAF」に設定して追尾撮影している画面。AFエリア(領域拡大AF)の枠外であっても主要被写体を検出・追尾している(※HDMI出力で画面をキャプチャーしているため実際のモニター映像とは表示が異なっています)
対応する被写体検出は「人物」「動物優先(犬、猫、鳥)」「乗り物優先」の3種類。人物は瞳、顔、頭部に加えて胴体の検出に対応。動物は瞳、顔、全身を検出できる。乗り物では、ドライバーやライダーのヘルメットなどを検出する「スポット検出」も設定できる
「EOS R3」を使って、移動する被写体(野鳥)を追尾撮影している様子を収めた動画。前半は「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」単体で焦点距離500mm、後半は「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」に「EXTENDER RF2x」を組み合わせて焦点距離1000mmで追尾している。障害物があってもAFの復帰が速く、被写体を粘り強く追いかけていることがわかる
(※HDMI出力で画面をキャプチャーしているため実際のモニター映像とは表示が異なっています)
AF関連の機能で特に注目度が高いのが、視線入力機能だ。撮影者の視線を検出し、視線の位置にAFフレーム/AFエリアを移動するというユニークな機能で、複数の被写体が画面内にいる状況で、特定の被写体を追尾したい場合などに便利に活用できる。やや動作にクセがあるのと、この機能のみでAF位置を決定しようとするとフレーミングがおろそかになる感じがあるので、あくまでも補助的なものではあるが、使っていて面白い機能だ。なお、メガネやコンタクトを使用した場合や、目の状態などの個人差、使用環境などによってはうまく動作しないこともある。この機能をフル活用したい場合は、事前に動作をチェックしておきたいところだ。
視線入力は事前にキャリブレーションが必要。キャリブレーションのデータは6件まで登録しておける
ファインダーに表示される視線入力のポインターは色、表示サイズ、表示形式を設定できる。ポインターの移動具合(敏感度)を調整することも可能だ
AF関連の操作性では、「EOS-1D X Mark III」と同じく、背面親指の位置にスマートコントローラーを搭載しているのが特徴。AFスタートボタンが兼用になっている操作系で、コントローラーに触れてスライド操作を行うと、指の動きにあわせてAFフレームが移動し、そのまま押し込むとAFがスタートする。AFフレームの移動とAF動作を親指のみで行えるので、被写体の動きにとっさに反応したい場合に便利だ。スライドに対する移動量の大きさ(敏感度)を設定することで、AFフレームの動く幅の大小を調整することもできる。
スマートコントローラーに「AFフレームダイレクト選択」を割り当てると、スライド操作でダイレクトにAFフレームを動かせるようになる
EOS R3、RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM+EXTENDER RF2x、1000mm、ISO5000、F16、1/4000秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、デジタルレンズオプティマイザ:する(標準)、周辺光量補正:する、歪曲収差補正:しない、JPEG
撮影写真(6000×4000、9.9MB)
EOS R3、RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM+EXTENDER RF2x、1000mm、ISO2000、F16、1/4000秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、デジタルレンズオプティマイザ:する(標準)、周辺光量補正:する、歪曲収差補正:しない、JPEG
撮影写真(6000×4000、5.6MB)
「EOS R3」の性能・機能の中で特に “無双”というキャッチコピーにふさわしいのが連写性能だ。「EOSシリーズ」初搭載となる35mmフルサイズ裏面照射積層型CMOSセンサー(有効画素数:最大約2410万画素)に高性能な映像エンジン「DIGIC X」を組み合わせることで処理速度が大幅に向上し、フルサイズ機としてはソニーの「α1」と並んで2022年4月時点で最速となる、AF・AE追従で最高約30コマ/秒(※電子シャッター時、メカシャッター時・電子先幕時は最高約12コマ/秒)の超高速連写を実現している。
電子シャッターでの「高速連続撮影+」時に、AF・AE追従で最高約30コマ/秒の超高速連写に対応。なお、電子シャッターでの「高速連続撮影」時は最高約15コマ/秒、「低速連続撮影」時は最高約3コマ/秒に設定される
30コマ/秒の速度を得るには、シャッタースピード1/125秒以上、フリッカー低減処理オフといった条件があるもの、2022年4月時点ですべての「RFレンズ」が30コマ/秒連写に対応しているのが高ポイント。一眼レフ用の「EFレンズ」も「Lレンズ」を中心に多くのモデルが対応している。連写の持続性も十分で、連続撮影可能枚数はJPEG(L)で540枚、C-RAWで420枚、C-RAW+JPEG(L)で400枚、RAW+JPEG(L)ならびにRAWで150枚となっている。
さらに、「EOS R3」は、高速連写時の使い勝手がよいのも抑えておきたい点だ。高速連写中のブラックアウトフリー撮影に対応しているうえ、撮影開始のタイミングがつかみやすいように、1枚目撮影の直前はブラックアウト、2枚目以降はブラックアウトしない表示になるように工夫されている。電子シャッター時のストロボ撮影(同調速度1/180秒)にも対応しており、ブラックアウトフリーでのストロボ連写も可能。コマ間調光を行う場合は最高約15コマ/秒、コマ間調光を行わない場合は最高約20コマ/秒の速度が出る。
CFexpressカード(Type B対応、VPG400対応)と、SDメモリーカード(UHS-II対応)のデュアルスロットを採用。意見のわかれるところかもしれないが、SDメモリーカードを使用できるのはステップアップユーザーにとってありがたい
このほか、「EOS R3」は高速読み出しによって電子シャッター時のローリングシャッター歪みを低減しており、通常の動体撮影であれば、ほぼ歪みの発生を気にすることなく使うことが可能。「EOS-1D X Mark III」や「EOS R5/R6」とは異なり、電子シャッター時に最速1/64000秒の超高速シャッタースピードに対応しているので(※1/8000秒よりも高速域では1段ステップになる)、大口径レンズで絞りを開けても露出オーバーにならずに撮ることができる。
EOS R3、RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM+EXTENDER RF2x、1000mm、ISO12800、F16、1/4000秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、デジタルレンズオプティマイザ:する(標準)、周辺光量補正:する、歪曲収差補正:しない、JPEG
撮影写真(6000×4000、8.5MB)
EOS R3、RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM+EXTENDER RF2x、1000mm、ISO1600、F14、1/640秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、デジタルレンズオプティマイザ:する(標準)、周辺光量補正:する、歪曲収差補正:しない、JPEG
撮影写真(6000×4000、7.8MB)
「EOS R3」は、「EOS-1D X」シリーズと同様に、縦位置グリップ一体型ボディを採用している。注目してほしいのはそのサイズ感で、約150.0(幅)×142.6(高さ)×87.2(奥行)mmで重量約1015g(バッテリー、カードを含む)と、縦位置グリップ一体型のフルサイズ機としてはコンパクトかつ軽量なボディに収まっている。約158.0(幅)×167.6(高さ)×82.6(奥行)mmで約1440g(バッテリー、カードを含む)の「EOS-1D X Mark III」と比べると425gも軽く、持ち運びの負担が少ない。「EOS-1D X」シリーズよりも軍艦部の高さが低いため、カメラバッグの中に収めやすいのもポイントだ。
比較的コンパクトなボディながらホールディング性はよく、横位置でも縦位置でもしっかりとグリップを握れるのがいいところ。さすがに「EOS-1D X」シリーズほどとは言えないものの、大きな望遠レンズを装着した場合でも、安定した構えで撮ることができる。
「EOS-1D X」シリーズと比べると、軍艦部の高さを抑えたデザインを採用。マグネシウム合金製の外装と防塵・防滴構造を採用し、堅牢性も確保した。「EOS R5/R6」などと同様に、センサーへのゴミ対策として、電源オフ時にシャッターを閉じる機能も備わっている
ボタンやダイヤルなどの操作系は、「EOS-1D X Mark III」をベースに、「EOS R5/R6」の仕様を組み合わせたような内容になっている。「EOS-1D X Mark III」と比べると、背面の表示パネルや、上面右側(右肩)の4連ボタンが省略されているが、電源スイッチなどのレイアウトは同じで、先述したスマートコントローラーも搭載している。「EOS-1D X」シリーズのユーザーでも使い始めから操作にとまどうことはないはずだ。
左が「EOS R3」で、右が「EOS-1D X Mark III」。スマートコントローラーを搭載するなど、「EOS R3」の背面の操作系は「EOS-1D X Mark III」に近い仕様になっている
液晶モニターは、「EOSシリーズ」の縦位置グリップ一体型モデルとしては初のバリアングル液晶(3.2型、約415万ドット、防塵・防滴構造)。縦位置でもハイ/ローポジションでの撮影がやりやすい
「EOS R5」と同様、上面右側に、撮影情報を確認できる表示パネルを搭載。撮影モードの切り替えも、「EOS R5」と同じく、右手側の専用ボタンを押して選択する仕様だ
横位置(画像左)と縦位置(画像右)で共通した操作が行えるように、縦位置用のスマートコントローラーやマルチコントローラー、AFフレーム選択ボタン、AEロックボタンが備わっている
ボディ関連では、高機能なマルチアクセサリーシューを採用するのもトピックだ。新しいコネクタータイプの接点部にすることで、電源供給や高速データ通信などの機能拡張を実現しており、対応するアクセサリーとの組み合わせにより、動画撮影時の音声のデジタル入力や、静止画撮影時の外部ストロボのコントロールなどが行える。使用するうえでの注意点は、シューの形状が変わったため、付属の専用シューカバーを使う必要があること。また、防塵・防滴性を持つ純正アクセサリーについてはそのまま装着できず、別売のマルチアクセサリーシューアダプター「AD-E1」を用いる必要がある。
電子ビューファインダー(EVF)は、約576万ドット表示で、最高119.88fpsのリフレッシュレートに対応。倍率は約0.76倍、アイポイントは約23mm。一眼レフの光学ファインダーのような見えを再現する表示モード「OVFビューアシスト」も搭載している
電源供給や高速データ通信などの機能拡張を実現する、高機能なマルチアクセサリーシューを新たに採用
別売のマルチアクセサリーシューアダプター「AD-E1」を装着した状態。スピードライトなど防塵・防滴仕様の純正アクセサリーを「EOS R3」で使用する場合に必要なアダプターだ
対応バッテリーは「EOS-1D X Mark III」と同じ「LP-E19」で、撮影可能枚数はファインダー撮影時で約620枚、モニター撮影時で約860枚
EOS R3、RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM+EXTENDER RF2x、1000mm、ISO12800、F14、1/3200秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、デジタルレンズオプティマイザ:する(標準)、周辺光量補正:する、歪曲収差補正:しない、JPEG
撮影写真(6000×4000、10.8MB)
EOS R3、RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM+EXTENDER RF2x、1000mm、ISO10000、F14、1/3200秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、デジタルレンズオプティマイザ:する(標準)、周辺光量補正:する、歪曲収差補正:しない、JPEG
撮影写真(6000×4000、10.5MB)
本記事では、「EOS R3」のAF、連写、操作性の特徴を見てきたが、いずれも非常にハイレベルなことが伝っただろうか。2022年4月時点では、AFと連写についてはフルサイズミラーレスとして最高性能を誇るモデルの1つであり、“無双”というキャッチコピーも納得できる。操作性もフラッグシップ機に近いものがあり、「EOS-1D X」シリーズのユーザーでも違和感なく使用できるはずだ。今回は触れなかったが、6K/60pのRAW動画記録や4K/120pのハイフレームレート記録に対応するなど、充実した動画撮影機能を搭載するのも押さえておきたいポイントである。
画質については、有効最大約2410万画素の裏面照射積層型CMOSセンサーを採用しており、高感度でもノイズの少ない撮影が可能だ。「EOS R5」の有効最大約4500万画素と比べると画素数が気になるかもしれないが、最高約30コマ/秒の超高速連写などの性能を考慮すると致し方ないところではないだろうか。
「EOS R3」は、カメラとしての完成度の高さでは、「EOS R5/R6」の上をいくモデルだ。これでもまだミラーレスのフラッグシップ機でないというのは、将来登場するであろう、おそらく“1”のナンバリングが付くモデルへの期待値が高まるというもの。
価格は2022年4月28日時点の価格.com最安価格で673,200円(税込)。決して安価ではないが、性能の高さを考慮すると納得できる。特に「EOS-1D X」シリーズのユーザーにフィットするモデルで、本格的な動体撮影を行っているハイアマチュアであれば、この価格に見合う価値を見出せるはずだ。
フリーランスから価格.comマガジン編集部に舞い戻った、カメラが大好物のライター/編集者。夜、眠りに落ちる瞬間まで、カメラやレンズのことを考えながら生きています。