キヤノン「EOS R10」は、上位モデルの「EOS R7」(2022年6月23日発売)と並んで、ミラーレスカメラ「EOS Rシリーズ」としては初となるAPS-Cサイズの撮像素子を採用するモデル(APS-Cモデル)。2022年7月下旬の発売が予定されている、この夏の新製品だ。基本的な特徴は製品発表時のレポート「EOS R7/R10ファーストインプレッション」で紹介しているが、本記事では、「EOS R10」を実際に使ってみて感じた魅力をレビューしよう。
※本記事では、製品版と機能面で違いのない試作機(評価可能機)を使用しています。
2022年7月下旬発売予定の「EOS R10」。発売まで1か月程度の時間があることもあって、価格.com「デジタル一眼カメラ」カテゴリーの注目ランキングの上位にはまだ来ていないものの、充実した基本スペックなど見どころの多いカメラだ
まずは、「EOS R10」の立ち位置を整理しておきたい。
キヤノンは、同社の一眼カメラを、上から順にプロフェッショナルモデル、ハイアマチュアモデル、ミドルクラスモデル、エントリーモデルの4つのカテゴリーに分けて展開している。2022年6月23日時点でのプロフェッショナルモデルは一眼レフの「EOS-1D X Mark III」で、ハイアマチュアモデルにはフルサイズミラーレスの「EOS R3」「EOS R5」「EOS R6」などが属している。
「EOS R10」は、キヤノンのラインアップの中では、エントリーのひとつ上のミドルクラスモデルに属する機種だ。ミドルクラスと言っても幅が広く、上位モデルの「EOS R7」はどちらかと言うとハイアマチュアモデルに近い立ち位置で、「EOS R10」はエントリーモデルに近い立ち位置になっている。より細かく分けるなら、「EOS R10」は「ハイエントリーからローミドル」に位置するモデルと言えるだろう。エントリーモデルよりも一歩進んだ性能を持つカメラとなっている。
「EOS R10」のラインアップは、ボディ単体のほか、標準ズームレンズ「RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM」が付属する「EOS R10・RF-S18-45 IS STM レンズキット」、高倍率ズームレンズ「RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM」が付属する「EOS R10・RF-S18-150 IS STM レンズキット」の3種類。2022年6月23日時点での価格.com最安価格(税込)は、ボディ単体が115,632円、「EOS R10・RF-S18-45 IS STM レンズキット」が129,492円、「EOS R10・RF-S18-150 IS STM レンズキット」が159,192円。販売価格的にもハイエントリーからローミドルあたりの価格帯となっている。
「EOS R10」に標準ズームレンズ「RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM」を装着。小型・軽量で持ち運びやすい組み合わせとなっている
「EOS R10」に高倍率ズームレンズ「RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM」を装着。35mm判換算で焦点距離29〜240mm相当の画角に対応する、幅広い撮影に対応できるレンズだ
「EOS R10」に触ってみて真っ先に魅力を感じたのが、そのサイズ感だ。
ボディサイズは約122.5(幅)×87.8(高さ)×83.4(奥行)mmで、重量は約429g(バッテリー、カードを含む)。「EOS Rシリーズ」最小・最軽量のコンパクトなボディとなっている。小型・軽量が特徴の一眼レフのエントリーモデル「EOS Kiss X10」と比べても、高さが約4.8mm抑えられているほか、撮影時の重量は約20g軽い。
左が「EOS R10」で、右が「EOS Kiss X10」。「EOS R10」のほうが高さが約4.8mm低く、撮影時の重量も約20g軽い。一眼レフの中でも特にコンパクトな「EOS Kiss X10」よりも小型・軽量というのはインパクトがある
左が「EOS R10」で、右が上位モデルの「EOS R7」。「EOS R7」も小型・軽量さをウリにしているが、比べると「EOS R10」はひと回りほどコンパクトだ。「EOS R7」のサイズは約132.0(幅)×90.4(高さ)×91.7(奥行)mmで、重量は約612g(バッテリー、カードを含む)。撮影時の重量は「EOS R10」のほうが約183gも軽い。なお、「EOS R7」とは異なり、「EOS R10」には電源オフ時にシャッター幕を閉じる機能は用意されていない
左から「EOS R10」、「EOS R7」、「EOS Kiss X10」。この中では「EOS R10」が最も小さく、かつ軽いボディだ
左から「EOS R10」、「EOS R7」、中級一眼レフの「EOS 90D」。いずれも、キヤノンのラインアップの中ではミドルクラスモデルに属するAPS-C機だ。ミラーレスのコンパクトさがよくわかる
「EOS R10」との組み合わせで特に注目したいのは、キットレンズとして用意される標準ズームレンズ「RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM」だ。全長44.3mm、重量約130gのコンパクトな鏡筒で、「EOS R10」に本レンズを装着した際の撮影時の総重量は約559gと、とても軽量だ。「EOS R10」のコンパクトボディにマッチするレンズとなっている。
左が「EOS R10」+「RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM」(撮影時の総重量約559g)で、右が「EOS Kiss X10」+「EF-S18-55mm F4-5.6 IS STM」(同約664g)。撮影時の総重量は「EOS R10」+「RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM」のほうが105g軽い。また、「RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM」は沈胴式ということもあって全長が44.3mmと短いのもポイント
「RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM」の鏡筒を繰り出した状態(撮影可能な状態)での比較。「EOS R10」+「RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM」と「EOS Kiss X10」+「EF-S18-55mm F4-5.6 IS STM」で撮影時の全長はそれほど変わらないが、先に述べたように、「EOS R10」+「RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM」のほうが総重量が105g軽く、カメラをホールドした際の負担が少なくなっている
次に、「EOS R10」の性能面を見ていこう。
AFシステムは、高性能なフルサイズミラーレス「EOS R3」の技術を継承した「デュアルピクセルCMOS AF II」で、独立した「被写体追尾(トラッキング)」と、「人物」「動物優先(犬/猫/鳥)」「乗り物優先」に対応する高度な被写体検出機能も搭載。AFの低輝度限界が「EOS R10」はEV-4.0、上位モデルの「EOS R7」はEV-5.0と1段分の差があったり、AFフレームの選択可能ポジション数が「EOS R10」は最大4503ポジション(79×57)、「EOS R7」は最大5915ポジション(91×65)という違いがあったりと、細かいところを見ると「EOS R7」のほうがハイスペックではあるが、基本的なところはほぼ同じだ。F22光束にも対応しているので、たとえば、超望遠レンズ「RF800mm F11 IS STM」に2倍の「EXTENDER RF2x」を組み合わせて開放F値がF22になる場合でも、「EOS R7」と同様、画面の約60%×約80%のエリアでAFが動作する。
「EOS R3」や「EOS R7」などと同様、「人物」「動物優先(犬/猫/鳥)」「乗り物優先」の被写体検出に対応。「被写体追尾(トラッキング)」と組み合わせることで、画面全域で動体を追尾しながら撮影することができる(※レンズによって測距可能エリアが限定される場合もある)
以下に、「EOS R10」で野鳥などの動物を追尾している様子を記録した動画を掲載するので、ぜひチェックしてほしい。被写体が小さい状況でもAFがしっかりと検出するうえ、被写体の前に障害物がある状況でも粘り強く追尾することがわかるはずだ。
移動する鳥や、公式には検出対象ではない小動物を被写体に、「EOS R10」の「被写体追尾(トラッキング)」と被写体検出の動作を収めた動画(音声なし)。使用したレンズは、鳥が望遠ズームレンズ「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」で、小動物が「RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM」
※HDMI出力で撮影画面をキャプチャーした動画になります。カメラのモニター画面と比べると、AFフレームの表示は同じですが、各種撮影情報の表示位置が異なっています
AF関連の操作性についても上位モデルゆずりで、親指の操作でAFフレームをダイレクトに移動できるマルチコントローラーを背面に搭載。「サーボAF」の特性をカスタマイズできるうえ、「AFフレーム選択の敏感度」や「縦位置/横位置のAFフレーム設定」といった設定にも対応しており、ハイエントリーからローミドルのミラーレスカメラとしては非常に充実した内容のAFシステムになっている。
親指の操作系として背面にマルチコントローラーを配置。AFフレームをダイレクトに移動する「AFフレームダイレクト選択」が初期設定で割り当てられている
オート設定を含めた5種類のケースから被写体・シーンにあわせた特性を選択できる「サーボAF特性」に対応。被写体の追従特性、速度変化に対する追従性を細かく設定することもできる
縦位置撮影と横位置撮影でAFエリアやAFフレームの位置を別々に設定できる「縦位置/横位置のAFフレーム設定」にも対応
連写は、メカシャッター/電子先幕時に上位モデルの「EOS R7」と同様、「EOS Rシリーズ」最速となる、AF/AE追従で最高約15コマ/秒を実現している。電子シャッター時はAF/AE追従で最高約23コマ/秒連写が可能だ。連写のスピードに関しては、2022年6月24日時点で、このクラスのカメラとして間違いなく最速レベル。クロップ撮影にはなるものの、電子シャッターでの最高約30コマ/秒連写とプリ撮影が可能な「RAWバーストモード」にも対応している。
「高速連続撮影+」設定時に、メカシャッター/電子先幕で最高約15コマ/秒、電子シャッターで最高約23コマ/秒(いずれもAF/AE追従)の高速連写が可能
注意点は連写の持続性で、15コマ/秒連写時の連続撮影可能枚数は、UHS-II対応SDメモリーカード使用時でJPEG(ラージ)が約460枚、HEIFラージが約190枚、RAWが約29枚、RAW+JPEGラージ/RAW+HEIFラージが約23枚。実際の撮影でも大体このスペックどおりといったところで、RAW撮影時は15コマ/秒連写で2秒程度、23コマ/秒連写では1秒強程度しか連写が持続しない。連写を持続しながら撮影したいのであれば、JPEG記録を選択したいところだ。
また、電子シャッター撮影時はローリングシャッターによる歪みにも注意したい。これは上位モデルの「EOS R7」でも同様だが、センサーの読み出し速度がそれほど速いわけではないので、電子シャッターでカメラを動かしながらシャッターを切ると被写体の歪みが発生することがある。移動する被写体を追いながら撮影する場合は、メカシャッターを選択するのがよいだろう。
「EOS R7」と同様、電子シャッター時は最速1/16000秒の高速シャッタースピードに対応している
最高約30コマ/秒の高速連写機能「RAWバーストモード」を使って撮影した写真。瞬間の動き(鳥の捕食の瞬間)をとらえることができた。レンズは小型・軽量な超望遠レンズ「RF800mm F11 IS STM」を使っている
EOS R10、RF800mm F11 IS STM、800mm(35mm判換算1280mm)、ISO2500、F11、1/4000秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、デジタルレンズオプティマイザ:する(標準)、周辺光量補正:する、歪曲収差補正:しない、RAWバーストモード
撮影写真(4512×3008、5.3MB)
「EOS R10」は動画撮影機能も十分なスペックを誇っている。6Kオーバーサンプリングによる高画質な4K UHD/30p記録や、クロップでの4K UHD/60p記録に対応。フルHD解像度では120pのハイフレームレート記録が可能だ。さらに、広ダイナミックレンジ・広色域のHDR PQ動画にも対応。レンズ側の手ブレ補正と協調制御を行う「動画電子IS」に対応しているのも見逃せないポイントで、手持ちでもブレを抑えた撮影が可能だ。上位モデルのような、撮影後の本格的な編集に対応できるプロ仕様というわけではないが、基本性能は十分。高画質な4K動画撮影を楽しめる内容になっている。
6Kオーバーサンプリングでの4K UHD/30p記録や、クロップでの4K UHD/60p記録などに対応
画角が少し狭くなるものの、手ブレ補正を電子的に補正してくれる「動画電子IS」を搭載。上位モデルの「EOS R7」では「入」と「強」の2段階の効果を選べるが、「EOS R10」では「入」のみとなっている
「動画電子IS」を「入」にして記録した4K UHD/30p動画。高倍率ズームレンズ「RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM」の望遠端150mm(35mm判換算240mm)で手持ち撮影しているが、「動画電子IS」によってブレのない安定した動画に仕上がった