「NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S」は、ニコンのミラーレスカメラ「Zシリーズ」用の新しい超望遠・単焦点レンズ。2022年7月15日の発売から注目を集めており、2022年8月2日時点での価格.com「レンズ」カテゴリーの注目ランキングは3位。高額な超望遠レンズとしては非常に高い人気を誇る1本だ。実写作例を交えながら、その人気の理由をレビューしよう。
焦点距離400mm/開放絞り値F4.5のスペックを持つ「NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S」(カメラボディは「Z 9」)
ニコンは、2022年に入ってから、ミラーレス用の交換レンズ「NIKKOR Zレンズ」の超望遠レンズを積極的に投入している。2022年2月4日に「NIKKOR Zレンズ」初の超望遠ズーム「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」を発売したのを皮切りに、2月18日にテレコンバーターを内蔵する大口径モデル「NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S」を、4月22日に焦点距離800mmの「NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S」を発売。さらに、7月15日には、焦点距離400mmの「NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S」をリリース。約半年の間に計4本の超望遠レンズをラインアップに加えるという、過去に例がないくらいのスピード感で拡充している。
今回は、その中から、2022年7月15日に発売になった「NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S」を取り上げる。焦点距離400mm/開放絞り値F4.5のスペックを持つ、軽量コンパクト設計と高い光学性能を両立した超望遠レンズだ。
「NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S」の主な特徴
・焦点距離400mm/開放絞り値F4.5の、Zマウント用の超望遠レンズ
・「NIKKOR Zレンズ」の中でも特に高性能な「S-Line」に属するレンズ
・クラス最軽量の軽量コンパクト設計
・サイズ:約104(最大径)×234.5(全長)mm
・重量:約1245g(三脚座を含む)、約1160g(三脚座を除く)
・テレコンバーター「TC-1.4x」装着時は560mm、「TC-2.0x」装着時は800mmに拡大
・13群19枚のレンズ構成(EDレンズ1枚、スーパーEDレンズ2枚、SRレンズ1枚)
・最短撮影距離(最大撮影倍率):2.5m(0.16倍)
・すぐれた逆光耐性(アルネオコート/ナノクリスタルコート)
・絞り羽根枚数:9枚(円形絞り)
・フォーカシングによる全長変化のないIF(インターナルフォーカス)方式
・STMを採用し、高速・高性能かつ静寂なAF駆動を実現
・フォーカスブリージングの抑制やスムーズな絞り制御など動画撮影に配慮した設計
・補正効果5.5段の手ブレ補正(VR)機構(シンクロVR適用時は6.0段)
・高い堅牢性と防塵・防滴性能、レンズ最前面にフッ素コート
・アタッチメントサイズ:95mm
・価格.com最安価格405,900円(税込、2022年8月2日時点)
「NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S」を語るうえで見逃せないのが、そのサイズ感だ。焦点距離400mmの超望遠ながら、取り外し可能な三脚座を含めて約1245g、三脚座を除いて約1160gという、開放絞り値F4.5以下のフルサイズ対応・焦点距離400mmレンズとして2022年8月2日時点でクラス最軽量となる鏡筒を実現。超望遠ズームレンズ「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」と比べても、三脚座を含めた場合で約190g、三脚座を除いた場合で約195gも軽い。加えて、全長が234.5mmと短いのも特徴。「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」の望遠端400mm時と比べて約38mm短くなっている。
「NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S」のサイズは約104(最大径)×234.5(全長)mmで、重量は約1245g(三脚座を含む)。超望遠ズームレンズ「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」よりも軽い鏡筒に収まっている。フォーカシング時にレンズの全長に変化がないIF(インターナルフォーカス)方式を採用するのもポイント
三脚座を外した状態での重量は約1160gでクラス最軽量。軽いうえに全長が234.5mmと短く、手持ち撮影時の取り回しのよいのも魅力だ
「NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S」の魅力として見逃せないのは、この軽量コンパクトな鏡筒に、「S-Line」の単焦点レンズならでは高い光学性能を搭載していること。サイズ感からは、「NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S」と同じくPF(Phase Fresnel:位相フレネル)レンズを採用していると思うかもしれないが、実際は、PFレンズを用いずにここまでの軽量コンパクト化を実現している。
PFレンズは、一般的なカメラ用レンズと比べて効率的な色消しが可能で、光学系の全長を短縮し、鏡筒の小型・軽量化に貢献するレンズだ。ただし、画面内外に強い光源がある場合に、光源を中心にリング状の色つきのフレア(PFフレア)が出やすいというデメリットがある。レンズが小さく軽くなるのはよいのだが、逆光時の画質を考慮すると、「PFレンズを用いずに小型・軽量化してほしい」というのがユーザーの本音だろう。「NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S」は、まさにその“本音”を形にしたレンズなのである。
レンズ構成は、EDレンズ1枚、スーパーEDレンズ2枚、SRレンズ1枚を含む13群19枚。EDレンズとスーパーEDレンズが軸上色収差を低減し、SRレンズが補正の難しい短波長の光を制御することで、高精度に色収差を抑制。絞り開放から画像全域で色にじみが少なく、シャープなピント面と、クリアで抜けのよい描写を実現しているという。
EDレンズ1枚(黄)、スーパーEDレンズ2枚(赤)、SRレンズ1枚(ピンク)を含む13群19枚のレンズ構成を採用
「NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S」のMTF曲線。空間周波数10本/mmの曲線は絞り開放から全域で0.9を超え、最大値の1に近い位置で張り付いている。30本/mmも四隅で0.8を超えており、高い光学性能を持つことがわかる
操作性では、ほかの「NIKKOR Zレンズ」の超望遠・単焦点レンズと一貫性を持たせた位置にリングやボタンなどの操作系を配置。コントロールリングとフォーカスリングは、目視しなくてもスムーズに操作できるように、ローレット加工や小さな凹みの形状がそれぞれ異なっている。レンズ先端付近の左手でレンズをホールドする位置には、滑り止めのラバーを採用した。ボタン類は、2種類のファンクションボタン(L-Fn/L-Fn2)と、メモリーリコール機能(ボタン操作で登録した位置にピントをセットできる機能)のフォーカス位置登録時に使用するメモリーセットボタンが備わっている。
レンズ先端付近の滑り止めラバーの手前に、L-Fn2ボタンを上下左右に配置。鏡筒左手側のマウント近くには、L-Fnボタン、フォーカスモード切り替えスイッチ、フォーカス制限切り替えスイッチが備わっている
鏡筒右手側のマウント付近にメモリーセットボタンを搭載する
付属のレンズフード「HB-105」を装着したイメージ
テレコンバーターの使用に対応しており、「TC-1.4x」装着時は560mm、「TC-2.0x」装着時は800mmに焦点距離が伸びる
このほかの特徴は、「S-Line」の単焦点レンズと基本的に同じで、AF駆動モーターには、静音でブリージングを抑制するSTM(ステッピングモーター)を搭載。複数のAF用駆動ユニットを高精度に制御することで、すぐれたAFパフォーマンスと、特に近接での画質向上を実現する「マルチフォーカス方式」も採用している。手ブレ補正効果はレンズ単体が5.5段で、シンクロVR時が6.0段。
以下に掲載する作例は、フルサイズミラーレス「Z 9」に「NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S」を組み合わせてJPEG形式で撮影したもの(JPEG撮って出し)、もしくはRAW現像ソフト「NX Studio」を使用してRAW形式のデータをJPEG形式に変換したものになる。すべての作例で、ヴィネットコントロール:標準、自動ゆがみ補正:する、回折補正:する、高感度ノイズ低減:標準、に設定している。
※サムネイル画像をクリックすると、撮影写真を長辺900ピクセルに縮小した画像が開きます。リサイズを行っていない撮影写真は、サムネイル画像下のテキストリンクをクリックすると開きます。なお、撮影写真は開くのに時間がかかる場合があります。
Z 9、NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S、400mm、F4.5、1/320秒、ISO720、WB:オート0、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない、JPEG
撮影写真(8256×5504、18.9MB)
Z 9、NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S、400mm、F4.5、1/200秒、ISO100、WB:オート0、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:強め、JPEG
撮影写真(8256×5504、20.2MB)
Z 9、NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S、400mm、F4.5、1/400秒、ISO1400、WB:オート0、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない、JPEG
撮影写真(5504×8256、21.4MB)
Z 9、NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S、400mm、F4.5、1/500秒、ISO2000、WB:オート0、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない、JPEG
撮影写真(5504×8256、21.6MB)
Z 9、NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S、400mm、F6.3、1/500秒、ISO90、WB:オート1、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:標準、JPEG
撮影写真(8256×5504、21.2MB)
Z 9、NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S、400mm、F6.3、1/1000秒、ISO800、WB:オート0、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない、JPEG
撮影写真(8256×5504、22.3MB)
Z 9、NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S、400mm、F4.5、1/800秒、ISO220、WB:オート0、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない、JPEG
撮影写真(8256×5504、17.4MB)
Z 9、NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S、400mm、F4.5、1/200秒、ISO1600、WB:オート0、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:弱め、RAW現像(アクティブD-ライティングを「しない」から「弱め」に変更)
撮影写真(5504×8256、30.3MB)
Z 9、NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S+TC-2.0x、800mm、F10、1/1000秒、ISO500、WB:オート0、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない、JPEG
撮影写真(8256×5504、18.9MB)
Z 9、NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S+TC-2.0x、800mm、F9、1/4000秒、ISO1400、WB:晴天、ピクチャーコントロール:風景、アクティブD-ライティング:標準、RAW現像(WBを「オート0」から「晴天」に、ピクチャーコントロールを「スタンダード」から「風景」に変更)
撮影写真(8256×5504、29.6MB)
Z 9、NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S+TC-2.0x、800mm、F9、1/5000秒、ISO5600、WB:オート0、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:標準、JPEG、プリキャプチャ機能を使用
撮影写真(8256×5504、11.7MB)
「NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S」は、そのサイズ感を考慮すると、非常に高い描写力を持つ超望遠レンズだ。
MTF曲線が示すとおり、絞り開放から画面全域でコントラストと解像感が高く、とてもクリアな描写を実現している。動物や飛行機、人物を撮った限りでは、気になるような色収差はほとんど見られず、ピント面はとてもシャープ。それでいてボケも自然で滑らかな印象で、とても上質な写りだ。近接でもソフトになる感じがないのもよいところで、撮影距離や絞り値によらずに高画質な撮影が可能だ。絞り開放でも気になるような周辺光量落ちが見られないのと、テレコンバーター「TC-2.0x」を使用して焦点距離を800mmに伸ばした際に画質劣化が少ないのも押さえておきたいポイントである。
さらに、鏡筒が軽く、かつ全長が短いため、手持ちで撮影しやすいのもこのレンズの魅力。ただ単に軽いとうわけではなく、鏡筒のカメラボディ側に重心が来るように調整されており、ホールドした際の重量バランスがとてもよい。ハンドリングしやすいので、手持ちで積極的に超望遠撮影を楽しむことができた。このあたりのユーザービリティのよさは、さすがニコンのレンズという印象だ。
また、AFが高速かつ静粛な動作なのも報告しておきたい。「Z 9」と組み合わせて使った限り、動物や野鳥などの動体を撮る場合でもレスポンスがよく、ストレスのないAF撮影が行えた。さすがに“爆速”というわけではないものの、超望遠ズームレンズ「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」とそん色のない速度・精度だと感じた。
ニコンは、「Zシリーズ」用の交換レンズ「NIKKOR Zレンズ」において、小型・軽量と高画質を両立するレンズを次々と開発・発売し、ユーザーから高い評価を得ている。今回紹介した「NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S」も、そうした「NIKKOR Zレンズ」らしい特徴を持つ1本だ。
特に鏡筒の“軽さ”にインパクトのある超望遠レンズだが、そのサイズ感からは考えられないような、高い光学性能をあわせ持っているのが魅力。「超望遠レンズは大きくて重い」という常識を覆しつつ、サイズ感にも画質にも我慢することなく使えるのである。これがこのレンズが高い人気を誇る理由だ。動物や野鳥、飛行機、鉄道、スポーツなどのシーン・被写体で超望遠レンズをアクティブに使いたい人にとって「理想的な1本」と言っても言い過ぎではないだろう。
価格は、2022年8月2日時点の価格.com最安価格で405,900円(税込)。決して安い製品ではないものの、「コンパクトで写りのよい超望遠レンズ」を探していたニコンユーザーにとって、押さえておきたい1本なのは間違いない。
撮影モデル:蒼田太志朗
フィルム一眼レフから始まったカメラ歴は、はや約30年。価格.comのスタッフとして300製品以上のカメラ・レンズをレビューしてきたカメラ専門家で、特にデジタル一眼カメラに深い造詣を持つ。フォトグラファーとしても活動中。