前回の広角・単焦点レンズ「RF24mm F1.8 MACRO IS STM」 に続いて、2022年8月26日に発売される、キヤノンの新製品「RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM」をレビューしよう。フルサイズ対応の超広角ズームレンズとしてクラス最安の価格と小型・軽量を実現した注目モデルだ。
超広角ズームレンズとしてはコンパクトな「RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM」(カメラボディは「EOS R5」)
「RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM」の主な特徴
・RFマウント用の超広角ズームレンズ(フルサイズ対応)
・超広角15mm〜広角30mmの焦点距離をカバー
・開放絞り値:広角端F4.5、望遠端F6.3
・11群13枚のレンズ構成(非球面レンズ1枚、UDレンズ2枚)
・約76.6(最大径)×88.4(全長)mm/約390gの小型・軽量設計
・最短撮影距離(AF時):0.28m(ズーム全域)
・最大撮影倍率(AF時):0.09倍(15mm)、0.16倍(30mm)
・最短撮影距離(MF時):0.128m(15mm)、0.28m(20〜30mm)
・最大撮影倍率(MF時):0.52倍(15mm)、0.16倍(30mm)
・絞り羽根枚数:7枚
・手ブレ補正効果:レンズ単体で約5.5段分、カメラ内手ブレ補正との協調制御で約7.0段分
・STM(ステッピングモーター)による快適なAF
・フォーカスリング兼用のコントロールリングを搭載、フルタイムMFに対応
・フィルター径:67mm
・別売オプションとしてフード「EW-73E」を用意
・価格.com最安価格77,220円(税込、2022年8月24日時点)
「RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM」は、ミラーレスカメラ「EOS Rシステム」の交換レンズ「RFレンズ」としては、開放F2.8通しの「RF15-35mm F2.8 L IS USM」と開放F4通しの「RF14-35mm F4 L IS USM」に続く、3本目の超広角ズームレンズ。先に登場した2本はプロ/ハイアマチュア向けの高性能な「Lレンズ」だが、今回ラインアップに追加された「RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM」は、スタンダードタイプ(普及型)のレンズで、価格と性能のバランスにすぐれるのが特徴だ。
「RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM」で特に注目したいのは価格。カメラメーカー純正の超広角ズームレンズとしては安価で、2022年8月25日時点での価格.com最安価格は77,220円(税込)。価格.comで調べる限り、広角端の焦点距離が16mm以下のフルサイズ対応・超広角ズームレンズとしては最も安く、7万円台なのは本レンズのみ。同じく2022年8月25日時点の価格.com最安価格で、「Lレンズ」の「RF15-35mm F2.8 L IS USM」が296,357円(税込)、「RF14-35mm F4 L IS USM」が206,403円(税込)ということからも、本レンズの安さがわかるはずだ。
価格.comのスペック検索で調べると、「RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM」は、広角端の焦点距離が16mm以下のフルサイズ対応・超広角ズームレンズとして最廉価だ(2022年8月25日時点)
鏡筒がコンパクトなのも見逃せない特徴で、サイズは約76.6(最大径)×88.4(全長)mmで、重量は約390g。「Lレンズ」の超広角ズームレンズ2本と比べると、ひと回りかそれ以上に小さくて軽い。サイズ感は、スタンダードタイプの標準ズームレンズ「RF24-105mm F4-7.1 IS STM」とほぼ同等だ。
左が「RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM」で、右が「RF24-105mm F4-7.1 IS STM」。最大径は両レンズ共通で約76.6mm。「RF24-105mm F4-7.1 IS STM」のほうが約0.4mm長く、約5g重いものの、ほぼ同じサイズ感である
レンズ構成は11群13枚。球面収差や歪曲収差を抑えるのに有効な「プラスチックモールド非球面レンズ」1枚と、屈折・低分散特性によって色にじみを抑える「UDレンズ」2枚をレンズ構成に含め、かつ効果的に配置することで、小型・軽量化とともに、すぐれた描写力を実現しているという。
アウターズーム方式で、全長は望遠端30mm時が最も短く、広角側だとわずかにレンズが繰り出す。繰り出し量は最大で広角端15mm時の約9mm(※画像は15mm時)。幅広のズームリングの先に、フォーカスリングもしくはコントロールリング(※シャッター速度や絞り値の設定などをカメラ側のメニューで割り当てられる)として機能するリングが備わっている。スイッチ類は、フォーカスリング/コントロールリングの切り替えスイッチ、手ブレ補正スイッチの2種類
レンズ構成は、「プラスチックモールド非球面レンズ」1枚と「UDレンズ」2枚を含む11群13枚。後玉に大きなレンズを配置している
機能面では、クローズアップ撮影に強く、MF(マニュアルフォーカス)の焦点距離15mm時にハーフマクロ撮影に対応するのがポイント。AF時の最短撮影距離はズーム全域で0.28mだが、MF時の焦点距離15mmでは最短0.128mまで短くなる。その際の最大撮影倍率は0.52倍。焦点距離15mmの超ワイドな画角で、被写体に目いっぱい近づいてクローズアップ写真を撮ることができる。なお、本レンズのMFクローズアップ撮影機能は、広角端15mmから20mm未満の間で使用できるようになっている。
MF時は、最短撮影距離0.128m/最大撮影倍率0.52倍のハーフマクロ撮影が可能。この画像は、MFの最短撮影距離で撮影しているイメージで、レンズの前玉ギリギリまで被写体に近づいての撮影になる
光学式手ブレ補正の性能も高く、レンズ単体で約5.5段分(※焦点距離30mm)の補正効果を実現。ボディ内手ブレ補正を搭載する「EOS Rシリーズ」のカメラに装着時は、協調制御によって約7.0段分(※焦点距離30mm、「EOS R5」使用時)の補正効果を発揮する。
なお、本レンズは、広角・単焦点レンズ「RF24mm F1.8 MACRO IS STM」や、超広角・単焦点レンズ「RF16mm F2.8 STM」などと同様、カメラ側での電子的な補正を前提にした設計を採用している。本レンズ装着時はカメラ側の歪曲収差補正が自動的にオンになり、カメラ内RAW現像時を含めてユーザーが補正のオン・オフを選択することはできない。キヤノン純正のRAW現像ソフト「Digital Photo Professional 4」でも、歪曲収差補正は自動的に(補正をオフにした状態でも強制的に)適用される。また、ほかの電子補正前提のレンズと同じく、本レンズも「EOS R5/R6/R/Ra/RP」での多重露出撮影には対応していない(※「EOS R3」は対応)。
本レンズ装着時は、「レンズ光学補正」の歪曲収差補正が自動的に適用される
小型・軽量なので、APS-Cサイズの撮像素子を採用するミラーレスとの相性もよい。この画像は「EOS R10」と組み合わせている。APS-Cミラーレスに装着した際は、35mm判換算で焦点距離24〜48mm相当をカバーする標準ズームレンズになる
以下に掲載する作例は、「EOS R5」に「RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM」を組み合わせてJPEG形式の最高画質で撮影したもの(JPEG撮って出し)になる。すべての作例で、周辺光量補正:する、歪曲収差補正:する(自動)、デジタルレンズオプティマイザ:する(標準)、に設定している。
※サムネイル画像をクリックすると、撮影写真を長辺900ピクセルに縮小した画像が開きます。リサイズを行っていない撮影写真は、サムネイル画像下のテキストリンクをクリックすると開きます。なお、撮影写真は開くのに時間がかかる場合があります。
EOS R5、RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM、15mm、F11、1/25秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、JPEG
撮影写真(8192×5464、14.8MB)
EOS R5、RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM、15mm、F11、0.4秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、JPEG
撮影写真(8192×5464、9.5MB)
EOS R5、RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM、15mm、F11、1/13秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、JPEG
撮影写真(8192×5464、12.1MB)
EOS R5、RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM、15mm、F11、1/125秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、JPEG
撮影写真(8192×5464、11.3MB)
本レンズの最大の魅力は、何と言っても、焦点距離15mmの超広角で撮影できることだ。焦点距離24mmや28mmといった標準ズームレンズの広角端と比べると、ひと回り以上広いエリアを画面に収められる。風景をワイドに撮ったり、被写体に近づくことで、近くのものが大きく、遠くのものが小さく見えるパースペクティブ(遠近感)を強調したりと、標準ズームレンズとはまた違った効果で撮れるのが、使っていて楽しい点だ。
ここに掲載した4枚の作例は、いずれもF11まで絞っているが、周辺まで十分に解像している。カメラ側で電子的に補正しているとはいえ、歪曲収差もよく抑えられている。また、逆光にはそれほど強くない印象を受けたが、太陽を画面に入れた4枚目の作例では、わずかに緑のゴーストが見られるものの、気になるようなゴースト・フレアはほぼ発生していない。
EOS R5、RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM、15mm、F4.5、0.5秒、ISO320、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、JPEG
撮影写真(8192×5464、15.1MB)
この作例は、広角端15mmの絞り開放の画質と手ブレ補正効果をチェックするために撮影したもの。さすがに四隅はわずかに描写が甘くなっているものの、極端に流れるような感じはない。開放からコントラストが高く、期待以上によく写る印象だ。手ブレ補正効果も高く、この作例では0.5秒という遅いシャッタースピードで手持ち撮影しているが、画面全域で手ブレの影響のない写真に仕上がっている。
EOS R5、RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM、15mm、F8、1/15秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、JPEG
撮影写真(8192×5464、12.6MB)
焦点距離15mmというワイドな画角は、狭いエリアで使うと、超広角特有のパースペクティブ効果が得やすい。肉眼で見る景色とは違った絵になるのが面白いところだ。「超広角レンズ=広大な景色を撮るレンズ」と思う人もいるかもしれないが、ぜひ狭いエリアでも使ってみてほしい。特に屋内の狭いエリアでは、少し角度を付けても面白いが、できる限り水平・垂直を出すことで、直線がきれいに伸びる奥行き感のある写真を撮ることができる。
EOS R5、RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM、24mm、F8、1/320秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、JPEG
撮影写真(5464×8192、8.9MB)
EOS R5、RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM、30mm、F6.3、1/500秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、JPEG
撮影写真(8192×5464、10.0MB)
EOS R5、RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM、28mm、F8、1/60秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、JPEG
撮影写真(5464×8192、13.3MB)
本レンズは広角端15mmから望遠端30mmまでの焦点距離に対応しており、状況や撮りたいイメージに合わせて、超広角から広角の間で画角を調整できるのが便利。「画角が広すぎる」という場合に微調整できるし、望遠側にすることでより自然な画角と遠近感で撮ることもできる。ちなみに、周辺の解像感は、広角側よりも望遠側のほうが高くなるようだ。
EOS R5、RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM、15mm(MFの最短撮影距離で撮影)、F4.5、1/250秒、ISO1600、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、JPEG
撮影写真(8192×5464、11.0MB)
本レンズは、MFの焦点距離15mm時に、最短撮影距離0.128m/最大撮影倍率0.52倍のハーフマクロ撮影が可能だ。インパクトのあるスペックなので、「ほかのレンズでは撮れないような写真が撮れる」という期待を抱かせる。
ただ、「焦点距離15mmのハーフマクロ」は「使いどころが難しい」というのが正直な感想だ。まず、レンズの前玉ギリギリまで被写体に近づいての撮影になるため、レンズの影が被写体に落ちてしまうケースが多く、どうしてもシーンや構図が限定されてしまうのが撮影を難しくする点だ。影が落ちないようにアングルを付けたり、ライティングを工夫したりすればよいのだが、それでも使い方が限られることは変わりがない。また、ピントを合わせる位置が中央部から少し離れると、絞り値を大きくしてもソフトな描写になるのも気になった。画質にこだわると、さらに構図の自由度が低くなってしまう。
使い勝手では、レンズ側にフォーカスモードスイッチがないため、フォーカスモードをAFからMFに切り替えたい場合は、カメラ側のメニューを操作する必要がある。また、MFからAFに戻す際は、いったんAFの撮影距離内にフォーカスを移動しないといけないのも手間がかかる点だ。フルタイムMFに対応しているので、ワンショットAF合焦後にフォーカスリングの操作でMF専用の撮影範囲(0.128〜0.28m)に移動できるのは便利だが、トータルで見ると、本レンズのハーフマクロ撮影機能は付加機能ととらえたほうがよいだろう。
MF/焦点距離15mm/最短撮影距離(0.128m)で撮影している様子。レンズの前玉ギリギリまで被写体に接近して撮影している
MF/焦点距離15mm/最短撮影距離(0.128m)時の撮影画面。撮影距離表示のバーに、MFのみでピントを合わせられる範囲(0.128〜0.28m)がグレーで表示されている。レンズの影が被写体に落ちてしまっている(※HDMI出力で撮影画面をキャプチャーした画像のため、実際のモニター映像とは表示が異なっています)
AF/焦点距離15mm/最短撮影距離時(0.28m)の撮影画面。上の画像(MF時)と比べると被写体の大きさが小さいことがわかるはずだ(※HDMI出力で撮影画面をキャプチャーした画像のため、実際のモニター映像とは表示が異なっています)
参考までに、「RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM」単体での収差具合がわかる比較画像を掲載する。各画像の左は、電子的な補正(歪曲収差補正+周辺光量補正)が入ったJPEG撮って出しの写真で、右は、「Adobe Photoshop」の「Camera Raw」プラグインを使用して、補正のない(レンズプロファイル未適用の)RAWデータをそのまま現像したものになる。
焦点距離15mmでの比較画像。絞り値はF11。左は電子補正あり(JPEG撮影)、右は電子補正なし(レンズプロファイル未適用)
焦点距離30mmでの比較画像。絞り値はF8。左は電子補正あり(JPEG撮影)、右は電子補正なし(レンズプロファイル未適用)
本レンズは電子補正前提の設計のため、レンズ単体では、広角端15mmで樽型の大きな歪曲収差が発生する。四隅がケラレるレベルなので、手動で適切に処理するのは難しいだろう。ただ、ズーム全域で極端な歪曲収差が発生するわけではなく、望遠端30mmではわずかな糸巻き型の収差に抑えられている。広角側よりも望遠側のほうが周辺の解像感が高いのは、比較的、望遠側の歪曲収差が少ないことも理由のひとつと言えそうだ。とはいえ、本レンズの魅力である超広角域では歪曲収差とともに周辺光量落ちも目立つので、サードパーティー製ソフトでRAW現像を行う場合は、本レンズ用のレンズプロファイルが用意されるものを選びたいところ。
なお、2022年8月25日時点で試した限り、「Adobe Photoshop」の「Camera Raw」プラグイン(バージョン14.5.0.1177)には、本レンズ用のレンズプロファイルがいち早く用意されていた。本レンズと同日発売の広角・単焦点レンズ「RF24mm F1.8 MACRO IS STM」についてもレンズプロファイルを選択できた。
「RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM」は、焦点距離15mmに対応する超広角ズームレンズとしては、価格もサイズ感もお手軽だ。さすがに超広角域だと画像の隅まできっちりと解像するわけではないが、2022年8月25日時点の価格.com最安価格で77,220円(税込)という、フルサイズ対応の超広角ズームレンズとしてクラス最安となる価格を考慮すると、十分に納得できる画質である。
「RFレンズ」のスタンダードタイプのレンズの中でもコストパフォーマンスの高い1本なので、「初めての超広角ズームレンズ」として選びやすいというだけでなく、「メインの撮影ではあまり超広角域を使わないけど1本は持っておきたい」というハイアマチュアにとっても購入しやすい製品ではないだろうか。もちろん、性能だけをとれば「Lレンズ」が理想的だが、実際に使ってみると、本レンズでも十分に高画質な撮影が行えることがわかる。発売後にじわじわと評価を上げる1本になりそうだ。
フリーランスから価格.comマガジン編集部に舞い戻った、カメラが大好物のライター/編集者。夜、眠りに落ちる瞬間まで、カメラやレンズのことを考えながら生きています。