富士フイルムの“高解像”フラッグシップモデル「X-H2」が本日2022年9月9日、オンラインイベント「X Summit NYC 2022」にて正式に発表された。2022年7月発売の「X-H2S」と並んで、APS-Cサイズの撮像素子を採用する「Xシリーズ」のフラッグシップに位置するハイエンドモデルだ。新開発の4000万画素センサーなど、主な特徴を紹介しよう。
※2022年9月9日 22:00 更新:画像の追加・差し替え、まとめの追加など
「X-H2S」と同様、「Xシリーズ」のフラッグシップモデルとして登場する「X-H2」
富士フイルムは約3か月前の2022年5月31日、「Xシリーズ」の新しいフラッグシップモデルとして、第5世代の新しい撮像素子と画像処理エンジンを採用する「X-H2S」を発表した。同時に、第5世代では、ひとつは高速モデル、もうひとつは高解像度モデルという、タイプの異なる「X-Hシリーズ」2モデルによる“ダブルフラッグシップ”で製品を展開することを明らかにし、2022年9月を目処に「X-H2S」の兄弟機「X-H2」を発表すると予告。今回、予告通り発表された形だ。
先に発表・発売された「X-H2S」は、撮像素子に、従来比で約4倍の高速読み出しを実現した、有効約2616万画素の裏面照射積層型「X-Trans CMOS 5 HS」センサーを採用する高速モデル。約40コマ/秒のブラックアウトフリー超高速連写など、非常に高い高速性を持つのが特徴だ。
いっぽう、今回発表された「X-H2」は、APS-Cサイズの撮像素子を採用するミラーレスとして初めて“4000万画素”の大台に乗った高解像度モデル。「X-H2S」のボディはそのままに、撮像素子に、APS-Cミラーレス最高画素数(2022年9月9日時点)となる、有効約4020万画素の裏面照射型「X-Trans CMOS 5 HR」センサーを採用している。画像処理エンジンは、「X-H2S」と同じ第5世代の「X-Processor 5」だ。
有効約4020万画素の高画素な裏面照射型「X-Trans CMOS 5 HR」センサーを採用
撮像素子の画素数が上がると、より高解像な画像が得られるわけだが、よいことばかりではない。画素ピッチ(隣り合う画素の間隔)が狭くなるため、ダイナミックレンジや高感度のノイズ耐性がどうしても落ちてしまう。富士フイルムは、そうした高画素化のデメリットを技術革新でクリア。「X-H2」では、新開発の撮像素子に合わせて画像処理のアルゴリズムを刷新することで、約4000万画素の高画素ながら約2600万画素機と変わらないS/N比をキープしており、高感度でもノイズを抑えた撮影が可能だ。
「X-H2」(有効約4020万画素)、「X-H2S」(有効約2616万画素)、「X-T4」(有効約2610万画素)のS/N比と解像度の関係を示すグラフ。「X-H2」は、約2600万画素機とほぼ同じS/N比を実現している。ちなみに、画素ピッチは「X-H2」が約3.04μm、「X-H2S」が約3.76μm
新しい撮像素子「X-Trans CMOS 5 HR」の採用によって、「X-H2」は、使い勝手も向上している。常用感度は、センサーの集光率の改善を図ることで、従来のISO160スタートからISO125スタートに下がった。電子シャッター時の最速シャッタースピードは、従来の1/32000秒から 1/180000秒にまで向上している。より低感度で、かつ速いシャッタースピードで撮影できるようになったため、明るい屋外で大口径レンズを使用する場合でも、NDフィルターを使わずに、絞りを開けてボケのある写真を撮影することが可能だ。
1/180000秒という超高速なシャッタースピードに対応
「X-H2」の静止画撮影では、「Xシリーズ」として初めて「ピクセルシフトマルチショット」を搭載するのが大きな特徴だ。
この機能は、ボディ内手ブレ補正を活用して撮像素子を超高精度にシフトさせながら、1 回のシャッターで20枚の画像を撮影し、それらの画像を専用ソフトウェア「Pixel Shift Combiner」を使って処理することで、約1.6億画素の高解像画像を生成するというもの。芸術館・博物館など文化財のデジタルアーカイブやコマーシャルフォトなどで威力を発揮する機能だ。
「ピクセルシフトマルチショット」は、画素をシフトしながら計20枚の画像を撮影。それらの画像を専用ソフトで合成することで、約1.6億画素の画像を生成する
細かいところでは、ディープラーニング技術を活用することで、オートホワイトバランスの性能が向上したのもポイント。オレンジがかった電球色を正確に識別し、より精度の高いホワイトバランスを実現する。この性能向上は「X-H2S」にはないもの。今後、ファームウェアのアップデートで「X-H2S」に追加するかは未定とのことだ。
このほか、「X-H2」は、ラージフォーマット採用のミラーレス「GFXシリーズ」ではおなじみの自動レタッチ機能「スムーススキン・エフェクト」を「Xシリーズ」として初搭載。仕上がり設定の「フィルムシミュレーション」には、「X-H2S」と同様、「ノスタルジックネガ」が追加されている。
「アメリカンニューカラー」の色調を楽しめる「ノスタルジックネガ」など、計19種類の「フィルムシミュレーション」に対応
「X-H2」の動画撮影は、「X シリーズ」として初めて4:2:2 10bitでの8K/30p動画の内部記録を実現。HDMI出力では、8K/30p 4:2:2 10bit出力や、8K/30p 4:2:2 12bit RAW出力が可能だ。
加えて、ProRes 422 HQ、ProRes 422、ProRes 422 LTといった3種類のProResコーデックに対応し、ProRes撮影時にはProRes 422 Proxyなどのプロキシ撮影も可能。効率的な撮影とポストプロダクション作業が行える。撮影後の本格的なグレーディングに対応できるように、13+stop記録の「F-Log2」も備わっている。
8K/30p動画の内部記録を実現
高画素センサーを生かした機能としては、8Kオーバーサンプリングによって高品質な4K映像を生成する「4K HQ」モードや、最大2倍のデジタルズーム機能を搭載している。
8K/30p動画の連続撮影可能時間は、縦位置バッテリーグリップ「VG-XH」装着時の25℃環境下で最長約160分。別売オプションの外付け冷却ファン「FAN-001」をボディに装着すると、最長約240分に伸びる。
なお、「X-H2」は、高速読み出しが可能な積層型センサーを搭載する「X-H2S」とは異なり、電子シャッター時のローリングシャッター歪みがそれなりに発生するとのこと。動画撮影時、ならびに電子シャッターでの静止画撮影時に、素早く動く被写体を撮ったり、カメラを振りながら撮ったりすると、被写体の形が歪んでしまう場合があるので注意したい。
別売オプションの外付け冷却ファン「FAN-001」や、サードパーティー製の機器を装着した、本格的な動画撮影時のセット例
冷却ファンの動作設定として、ファンの動作音を抑えることを優先する「AUTO1」や、カメラの温度上昇を抑えることを優先する「AUTO2」などを選択できる
「X-H2」のAFは、「X-H2S」と同様、ディープラーニング技術を用いて開発した被写体検出AFを搭載している。「動物」「鳥」「クルマ」「バイク&自転車」「飛行機」「電車」といった多彩な被写体の検出が可能だ。
「動物」「鳥」「クルマ」「バイク&自転車」「飛行機」「電車」に対応する被写体検出AFを搭載。人物の顔検出/瞳AFは、別メニューで選択する仕組みで、被写体検出AFとは排他利用になる
撮像素子の高画素化によって位相差画素の数が増加したことで、より細かい被写体に対するAF-Sの合焦精度が向上しているのも、「X-H2」のAFのポイント。なお、AF-Cでの被写体追従については、「X-H2S」と同じアルゴリズムを採用しており、安定したフォーカシングが可能ではあるものの、積層型センサーを搭載する「X-H2S」ほどのレスポンスではないとのことだ。
連写性能は、メカシャッターが最高約15コマ/秒で、電子シャッターが最高約13コマ/秒と、4000万画素の高画素を考慮すると申し分ないレベル。電子シャッター時は、最高約20コマ/秒の1.29倍クロップ連写も可能だ。連続記録枚数は、メカシャッターでの約15コマ/秒連写時で、JPEG/圧縮RAW/ロスレス圧縮RAWが1000枚以上、非圧縮RAWが400枚、圧縮RAW+JPEGが110枚、ロスレス圧縮RAW+JPEGが108枚、非圧縮RAW+JPEGが104枚。連写の持続性も十分に高い。
「X-H2」は、「X-H2S」と同じボディを採用している。サイズ/重量は、136.3(幅)×92.9(高さ)×84.6(奥行、最薄部42.8mm)mm/約660g(バッテリー、メモリーカードを含む)で共通だ。
操作性も同じで、シャッタースピードダイヤルや感度ダイヤルを使った富士フイルム独自のものではなく、一般的なハイエンド機に近い操作系を採用するのが特徴。電子ビューファインダー(EVF)は、倍率0.8倍(35mm判換算)、約576万ドット、120fps表示対応の高性能な仕様だ。光学系にもこだわり、クリアな見え方を実現している。
また、5軸補正対応のボディ内手ブレ補正機能は、「X-H2S」と同様、「Xシリーズ」最高性能を誇る、最大7段分の手ブレ補正効果を達成している。
「X-H2S」と同じボディを採用。防塵・防滴・耐低温-10℃仕様の高剛性ボディだ。ボディ前面では、富士フイルムのミラーレスの多くが採用する前面のフォーカスモード切り替えレバーの位置に、ファンクションボタンが配置されている
倍率0.8倍(35mm判換算)の高性能なEVFを搭載。「X-H2S」と同様、背面のフォーカスレバーやAF-ONボタンは、より大きな形状のものを採用している
上面に、撮影モードダイヤルや情報表示パネルを装備。独立した動画撮影ボタンも用意されている
「X-H2S」や「GFX100S」などと同じバッテリー「NP-W235」に対応。ノーマルモード時の撮影可能枚数は約540枚で、約580枚の「X-H2S」と比べると、バッテリー性能はわずかに落ちている
CFexpress Type BカードとSDカード(UHS-II対応)に対応するデュアルスロットを採用
HDMI Type A端子、USB Type-C(USB3.2 Gen2x1)端子などのインターフェイスを搭載
「X-H2」の製品ラインアップは、ボディ単体と、「フジノンレンズ XF16-80mmF4 R OIS WR」が付属するレンズキットの2種類。市場想定価格は、ボディ単体が260,000円前後、レンズキットが 330,000円前後(いずれも税込)。
「Xシリーズ」用の交換レンズ「XFレンズ」の新モデルとして、大口径・中望遠レンズ「フジノンレンズ XF56mmF1.2 R WR」も発表された。
2014年2月発売の「XF56mmF1.2 R」の後継モデルで、開放絞り値F1.2、35mm判換算で焦点距離85mm相当の画角というスペックを継承しつつ、非球面レンズ2枚とEDレンズ1枚を含む8群13枚の新しいレンズ構成を採用。色収差、球面収差、コマ収差などを徹底的に抑制することで、近接から無限遠まで従来モデルよりも高い解像性能を実現しているという。
開放絞り値F1.2の明るさを持つ、大口径・中望遠レンズ「XF56mmF1.2 R WR」
非球面レンズ2枚とEDレンズ1枚を含む8群13枚の新しいレンズ構成を採用
ボケの質にもこだわっており、10万分の1mm単位の精度で加工した金型を用いて製造した、高精度な非球面レンズを使用することで、年輪ボケの発生を低減。富士フイルムのミラーレス用レンズとして初めて11枚の絞り羽根を採用し、より円形に近い絞り形状も実現している。
従来モデルよりも真円に近い円形ボケが得られるほか、ボケの輪郭の色付きも抑えられている
最短撮影距離は約50cm。従来モデルから約20cm短縮しており、テーブルフォトなどでも扱いやすい中望遠レンズと言えよう。
このほか、防塵・防滴・耐低温-10℃構造を新たに採用。前玉にはフッ素コーティングが施されている。AF駆動モーターは、大型レンズの駆動に適したDCモーターだ。レンズの全長は約76mmで、重量は約445g。
発売は「X-H2」と同じ2022年9月29日で、価格は161,700円(税込)。
ラージフォーマットセンサーを採用するミラーレス「GFXシリーズ」用の交換レンズ「GFレンズ」では、35mm判換算で焦点距離16mm相当の画角に対応する超広角ズームレンズ「フジノンレンズ GF20-35mmF4 R WR」が発表された。発売は2022年9月29日で、価格は403,700円(税込)
「GF20-35mmF4 R WR」は、非球面レンズ3枚、ED非球面レンズ1枚、EDレンズ3枚を含む10群14枚のレンズ構成を採用し、高い解像性能を実現。対称形に近い構成によって歪曲収差を抑えているとのこと
「X-H2」の最大の魅力は、APS-Cミラーレスながら、約4020万画素の高画素センサーを生かして精細感の高い写真が撮れること。センサーのポテンシャルを最大限に引き出すには、使用するレンズを選ぶものの、特に風景やポートレートをメインに撮影する人は、APS-Cミラーレス最高画素数(2022年9月9日時点)に魅力を感じるはずだ。加えて、8K/30p記録に対応するなど、動画撮影のレベルが高いのも見逃せない。静止画と動画の両方で、より高いクオリティを求める人にとっても魅力的なカメラである。
「X-H2」の市場想定価格は、ボディ単体が260,000円前後(税込)。「X-H2S」と比べると、発売開始時の価格設定は90,000円ほど低い。決して気軽に購入できる製品ではないが、300,000円以上が当たり前になってきた、昨今のハイエンドカメラの販売価格を踏まえると、この価格は“意外に安い”と感じる。
ダブルフラッグシップモデルの「X-H2S」と「X-H2」のどちらを選ぶかは、素早く動く被写体をメインに撮るのなら「X-H2S」、風気やポートレートでより高解像な写真を撮りたいのなら「X-H2」といったように、撮影スタイルに合わせるとよいだろう。キャラクターが分かれているので、それほど悩むことはないはずだ。
また、「X-Proシリーズ」や「X-Tシリーズ」など、今後登場するであろう「Xシリーズ」の他モデルが、どのように展開されるのかにも注目したい。これまでの「Xシリーズ」は、世代によって、モデルの上位・下位によらずに同じ撮像素子・画像処理エンジンを採用してきた。どのモデルを選んでも基本的な画質に差がないのが特徴だったわけだが、第5世代では、「X-H2S」が搭載する有効約2616万画素の裏面照射積層型「X-Trans CMOS 5 HS」センサーと、「X-H2」が搭載する有効約4020万画素の裏面照射型「X-Trans CMOS 5 HR」センサーという2つの撮像素子が存在する。第5世代の他モデルが、どちらの撮像素子を採用するのか、もしくは別の仕様の撮像素子を採用するのか、興味は尽きない。
コスト的には、「X-H2」の約4020万画素センサーをメインに展開すると予想されるが、ボディ内手ブレ補正機能のない「X-Proシリーズ」に4000万画素の高画素は想像しにくく、別仕様の撮像素子を採用する可能性も捨てきれない。考え方を変えれば、「X-Proシリーズ」にボディ内手ブレ補正が実装されるという期待もある。富士フイルムファン、「Xシリーズ」ファンは、いろいろと思いを巡らせる日々が続きそうだ。
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フィルム一眼レフから始まったカメラ歴は、はや約30年。価格.comのスタッフとして300製品以上のカメラ・レンズをレビューしてきたカメラ専門家で、特にデジタル一眼カメラに深い造詣を持つ。フォトグラファーとしても活動中。