「Vlog with Nikon」というコンセプトを掲げ、Vlogなどの動画撮影を意識した小型・軽量モデルとして2022年8月に登場した、ニコン「Z 30」。同社のミラーレスカメラ「Zシリーズ」としては初めてVlog向けをうたうモデルで、価格.comでも人気を集めている。本企画では、そんな「Z 30」の魅力を、「静止画編」と「動画編」の2回に分けて紹介しよう。まずは、静止画編からお届けする。
小型・軽量で持ち運びやすい「Z 30」は静止画撮影でも使いやすい?
「Z 30」の特徴を紹介する前に、「Zシリーズ」のDXフォーマット機(APS-Cサイズの撮像素子を採用するモデル)のラインアップを整理しておこう。
ニコンは、2022年10月時点で、「Z 30」を含めて「Zシリーズ」のDXフォーマット機を3機種リリースしている。
見え方にこだわった高品位ファインダーなど、「Zシリーズ」らしい機能を持つ「Z 50」
フィルムカメラを思わせる、クラシックなデザインが魅力の「Z fc」
最新モデルの「Z 30」は、動画撮影向けの機能を搭載する小型・軽量モデルだ
最初に商品化されたのが、2019年11月発売の「Z 50」だ。「Zシリーズ」らしいファインダーを搭載したスタイルと高画質を兼ね備えたモデルで、初心者のメイン機としても、上級者のサブ機としても人気を博している。続いて、2021年7月に、フィルムカメラを彷彿とさせるクラシックなデザインが特徴の「Z fc」が登場。その高品位なデザインは、若い人から往年のニコンファンまで、心をわしづかみにしている。そして、2022年8月に、動画撮影を重視した新モデル「Z 30」がリリースされた。
これら3機種は、同じDXフォーマットながら個性がまったく異なっているのが面白い。使う人のスタイルに合わせた選択が可能だ。
「Z 30」の購入を検討している人にとって、特に気になる存在なのが上位モデルの「Z 50」だろう。以下に、両モデルの違いをまとめてみたので参考にしてほしい。
「Z 30」と「Z 50」の最も大きな違いは、ファインダーの有無だ。「Z 30」は、動画撮影をメインで設計されていることもあってファインダーが省略されている。
左が「Z 30」で、右が「Z 50」。「Z 30」はファインダー非搭載だ
「写真を撮る分にはファインダーを搭載していたほうが使いやすい」と考えるユーザーは多いだろう。被写体をしっかりと確認できるだけでなく、周囲の明るさに左右されずに撮影に集中できる点でファインダーは便利だ。液晶モニターだと、晴天など明るいシーンでは、どうしても被写体の視認性が落ちる。
動画よりも静止画の撮影を重視する人で「どうしてもファインダーが必要」なら、「Z 30」よりも「Z 50」を選択したほうが満足度は高くなるはずだ。「Z 50」は、静止画撮影ではとてもバランスのよいカメラだ。「Z 30」が発売になって、改めて「Z 50」の利便性の高さを再認識した人も多いのではないだろうか。
そのいっぽうで、ファインダーを搭載しない「Z 30」にも、静止画撮影におけるメリットがある。それは、ファインダーがない分、小型・軽量化を実現したことだ。
「Z 30」と「Z 50」のサイズ感を比較すると、ボディの高さは「Z 30」が73.5mm、「Z 50」が93.5mmで、「Z 30」のほうが約2cm低い。重量は「Z 30」が約405g、「Z 50」が約450g(いずれも、バッテリーとメモリーカードを含む、ボディキャップを除く)で、「Z 30」のほうが約45g軽い。
「Z 30」は、ファインダー部分の出っ張りがないため、よりコンパクトなカメラバッグの中にもすっきりと収納できる。旅行や登山など荷物を増やしたくないシーンで使うことが多く、とにかく少しでも小さくて軽いカメラを求めるなら、「Z 30」は「Zシリーズ」で最良の選択になるはずだ。
このあたりは、機能(ファインダー)と携帯性のどちらを重視するかで判断が分かれるところではないだろうか。
登山をしながら撮影した1枚。小型・軽量な「Z 30」のおかげで、山を登りながらでも機動力を落とさずに撮影を楽しめた
Z 30、NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR、16mm(35mm判換算24mm)、F3.5、1/4000秒、ISO160、WB:晴天、クリエイティブピクチャーコントロール:ポップ
撮影写真(5568×3712、8.0MB)
ここで、「Zシリーズ」の便利な操作設定として、マイメニューとカスタムボタン登録を組み合わせた裏技をお伝えしておこう。「Zシリーズ」には、カスタムボタンに登録できる項目として「マイメニューのトップ項目へジャンプ」が用意されている。この項目が便利なのは、マイメニューの一番上の機能をダイレクトに呼び出せることだ。
たとえば、「Z 30」であれば、マイメニューの一番上に「モニターの明るさ」を、ファンクションボタンに「マイメニューのトップ項目へジャンプ」を登録しておけば、ファンクションボタンを押すことで、モニターの明るさを設定する画面に直接移行できる。屋外でモニターが見づらいときにも、ボタン操作1つで設定を画面呼び出し、モニターの明るさを変更できるのだ。
この裏技を使えば、ほぼすべての機能をファンクションボタンに割り当てられるようになる。こうした、使い方に合わせて操作性を細かくカスタマイズできるのも、「Zシリーズ」のよいところだ。
ファンクションボタンに登録できる項目の中でも便利なのが、任意の機能をダイレクトに呼び出せる「マイメニューのトップ項目へジャンプ」。「Zシリーズ」のユーザーは、ぜひ活用してほしい
「Z 30」は、動画を撮影しやすいように、横開きのバリアングル方式の液晶モニターを採用している。いっぽうの「Z 50」は、静止画撮影と相性がよいチルト方式だ。
チルト方式が静止画撮影に向いているのは、レンズの光軸上でモニターを動かせることが大きい。バリアングル方式は横に開いてから上下方向に回転させるため、どうしても光軸と視線がズレてしまう。こうした機能の違いから、動画撮影はバリアングル方式、静止画撮影はチルト方式のほうが使いやすいというのが一般的な意見だ。
ただ、バリアングル方式だからといって、静止画が極端に撮りにくいことはない。好みの分かれるところなので、自分が使いやすいと思うほうを選択するとよいだろう。
「Z 30」は横開きのバリアングル液晶を採用。「Z 50」はチルト液晶だ
「Z 30」は、ボタンの配置など操作性がブラッシュアップされている。背面の基本的な操作性を見ると、「Z 50」は、拡大ボタン、縮小ボタン、DISPボタンが液晶モニター上にタッチキーとして配置されているが、「Z 30」では、これらが物理ボタンとして独立。よりしっかりとした操作感で扱えるようになった。実際に使ってみても、カメラは小さくなったものの、操作性は向上しているように感じる。
また、「Z 30」は、「Z 50」と異なり、USB Type-C端子を搭載し、バッテリーの本体内充電と給電に対応するのがうれしい。外出先でもモバイルバッテリーなどを使って充電ができるうえ、タイムラプスや動画の長回しなど、給電しながらの長時間撮影も行える。
「Z 30」は、拡大ボタン、縮小ボタン、DISPボタンの物理ボタンを採用。静止画撮影/動画撮影のセレクターやレリーズモード/セルフタイマーボタンなども備えており、背面の操作系については、「Z 5」などのフルサイズミラーレスに近い仕様だ
このほかにも、「Z 30」は多くの点で進化を遂げている。動画撮影における操作感に関しては、次回の「動画編」で紹介していきたい。
掲載する作例について
「Z 30」を使用し、すべてJPEG形式で撮影している。すべての作例で、アクティブD-ライティング:しない、ヴィネットコントロール:標準、自動ゆがみ補正:する(固定)、回折補正:する、に設定した。
続いて、沖縄県の石垣島で撮影した写真を中心にご覧いただきながら、「Z 30」の写真機としての魅力を紹介していきたい。
私は、「Zシリーズ」を長年愛用しているが、特に気に入っているのが「絵作りのよさ」だ。自然な発色と、グラデーションのつながりが美しく、目で見た感動をそっくりそのまま写し取ることができる。「Z 30」は、その「Zシリーズ」の画質のよさが継承されている。
今回は、レンズキットに付属する標準ズームレンズ「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」を中心に使って撮影を行った。このレンズは、全長32mm(沈胴時)/重量約135gの小型・軽量なキットレンズとは思えないほど描写力が高く、被写体のディテールを鮮明に切り取ってくれた。
Z 30、NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR、16mm(35mm判換算24mm)、F7.1、1/125秒、ISO100、WB:自然光オート、ピクチャーコントロール:風景
撮影写真(5568×3712、8.7MB)
石垣島の川平湾で撮影した1枚。空から海にかけて青のグラデーションが美しく、また雲の立体感も感じる1枚に仕上がった。
Z 30、NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR、16mm(35mm判換算24mm)、F3.5、1/60秒、ISO100、WB:オート1、ピクチャーコントロール:オート
撮影写真(5568×3712、9.0MB)
爽やかな印象に仕上げたいと思い、露出を+2/3EV明るくして撮影。鮮やかな赤い花だが、色飽和することなく、花びら1つひとつのグラデーションが美しい。それでいて、背景の緑や青も自然に表現できている。
Z 30、NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR、16mm(35mm判換算24mm)、F3.5、1/500秒、ISO100、WB:オート1、ピクチャーコントロール:オート
撮影写真(5568×3712、8.6MB)
遠近感を生かして葉を際立たせたいと思い、広角端の焦点距離16mm(35mm判換算24mm)でぐっと寄って撮影を行った。また、葉を透かして表現したかったため、透過光を生かしている。絞り開放(F3.5)で撮影しているが、開放とは思えないほどの高い解像感で、葉の表面の質感がリアルに伝わってくる。葉の輪郭に現れそうな色収差も見られない。
Z 30、NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR、16mm(35mm判換算24mm)、F3.5、15秒、ISO12800、WB:電球、ピクチャーコントロール:風景
撮影写真(5568×3712、10.1MB)
この写真は、「Z 30」の高感度性能とキットレンズ「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」の描写力を試したいと思い、山の頂上で星空を撮影したものになる(※石垣島で撮影した写真ではありません)。ISO12800の高感度に設定しているが、パッと写真を見てみると、本当にISO12800で撮影したのかと疑うくらいノイズが少ない。等倍で確認してみると、星の輝きをそのまま残しながらもノイズをうまく除去しているのがわかる。
星を撮影する場合、単焦点レンズなど明るいレンズを使用するのがセオリーだが、「Z 30」とキットレンズ「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」の組み合わせでも、ここまで表現ができることに驚きだ。
今回の撮影を通じて特に驚かされたのが、キットレンズ「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」の性能の高さだ。広角端の絞り開放で撮影しても安定した解像感が得られ、星空を撮る場合でも、中央部分から周辺部分まで星の1つひとつをシャープに表現できるのがすごい。小型・軽量だが、「Z 30」の高画質性能を十二分に引き出してくれるレンズだ。
さらに、「Z 30」の高感度画質も押さえておきたい。「Zシリーズ」はどのモデルも高感度性能が高いが、「Z 30」もそれは同じだ。ディテールの少ない被写体は平坦な部分にノイズが目立ちやすいため、特にポートレートの人肌などをしっかりと表現したい場合はISO3200くらいの感度に抑えておきたいものの、ISO6400くらいまでであれば、幅広いシーンで活用できる。街スナップなどディテールが多い被写体であれば、ISO12800でも十分に使用できるはずだ。
「Zシリーズ」には、「クリエイティブピクチャーコントロール」という独自の仕上がり設定が搭載されている。被写体のイメージに合わせて選択すれば、撮って出しで作品レベルの仕上がりを楽しむことができる。鮮やか、淡く、かっこよく、渋く、モノクロで、など撮りたい印象に合わせて20種類の効果を選択可能だ。ここでは、その中の何種類かを紹介しよう。
クリエイティブピクチャーコントロール:スタンダード
クリエイティブピクチャーコントロール:サンデー
クリエイティブピクチャーコントロール:モーニング
クリエイティブピクチャーコントロール:トイ
クリエイティブピクチャーコントロール:ブリーチ
クリエイティブピクチャーコントロール:チャコール
私がよく使用するのは「トイ」という効果だ。色の深みを出してくれるのが特徴で、被写体によっては幻想的に表現できるほか、おしゃれな印象でまとめることもできる。
「トイ」を使用して撮影した写真。緑色の深みが出て、湖面の反射とスポットライトのように当たった一本の枯れ木を引き立てることができた
Z 30、NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VR、71mm(35mm判換算107mm)、F4.8、1/1600秒、ISO400、WB:晴天、クリエイティブピクチャーコントロール:トイ
撮影写真(5568×3712、13.0MB)
こちらの写真も「トイ」を使用して撮影している。青や緑に深みが出て、赤やピンクなど暖色の色を引き立ててくれて、南国のカフェの雰囲気が伝わりやすい1枚に仕上がった
Z 30、NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR、34mm(35mm判換算51mm)、F5、1/250秒、ISO100、WB:オート1、クリエイティブピクチャーコントロール:トイ
撮影写真(5568×3712、8.8MB)
「クリエイティブピクチャーコントロール」は、同じ効果でも、明るさや露出補正によって印象がさま変わりするため、自分の好きな設定を見つけるのが楽しい。また、適用度の変更が可能なのも押さえておきたい点だ。効果が強すぎると感じたら適用度を下げることで、より自然な雰囲気の写真にまとめられる。
下記の写真は、効果に「デニム」に設定し、適用度100と適用度50で撮り比べたサンプルだ。100を選択すると効果が100%適用される。50を選択すると「デニム」の絵作りをプラスしながら、被写体本来の色味を生かして表現できる。
クリエイティブピクチャーコントロール:デニム(適用度100)
クリエイティブピクチャーコントロール:デニム(適用度50)
「クリエイティブピクチャーコントロール」は、撮影したいイメージや被写体の雰囲気に合わせていろいろな組み合わせを楽しめる、表現の幅が広がる機能。SNSに投稿する写真との相性もよい。「Zシリーズ」には、「SnapBridge」という、ニコン純正のスマートフォン用アプリ(無料)が用意されており、このアプリを使用すれば、「クリエイティブピクチャーコントロール」を使ったものを含めて、撮影した写真をスマホなどスマートデバイスに手軽に転送できる。撮影したその場でSNSにシェアできるので、ぜひ活用してみてほしい。
Z 30、NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR、17mm(35mm判換算21mm)、F7.1、1/160秒、ISO100、WB:自然光オート、ピクチャーコントロール:トイ
撮影写真(5568×3712、8.8MB)
「Z 30」は、動画撮影に注力した機種とはいえ、「Zシリーズ」の他のDXフォーマット機と比較して、静止画撮影の画質や機能が劣るわけではない。「Zシリーズ」の高画質を存分に楽しめる、しっかりとした画質性能と操作性を兼ね備えている。ファインダーを搭載しない分、小型・軽量で携帯性にすぐれるのは、スナップや旅行、登山など、カメラを軽快に使いたいシーンでの静止画撮影用として活躍することだろう。
改めて、2022年10月時点での「Zシリーズ」のDXフォーマット機をまとめると、ファインダーとチルト液晶モニターを搭載する「Z 50」、クラシックなデザインとダイヤル操作で“撮る楽しみを”再確認できる「Z fc」、そして、小型・軽量で静止画も動画も万能に撮影できる「Z 30」の3モデルが用意されている。ファインダーが必要なのか、カメラのデザインにこだわりたいのか、よりコンパクトなほうがよいのか。静止画撮影を重視する場合、この3モデルのどれを選ぶかは、自分の使い方や嗜好をあらかじめ整理しておくとよいだろう。
「Z 30」の動画機能については、次回の「動画編」 で詳しく紹介する。
文化服装学院でファッションを学び、ファッションの道へ。撮影現場でカメラに触れるうちにフォトグラファーを志すことを決意。アシスタントを経て、現在は広告や雑誌で活躍。街スナップをライフワークに旅を続けている。カメラに関する執筆や講師も行う。
また、YouTubeチャンネル「写真家夫婦上田家」「カメラのコムロ」でカメラや写真の情報を配信中。カメラや写真が好きな人が集まるアトリエ「MONO GRAPHY Camera & Art」をオープン。