富士フイルムファンから「こんなカメラを待っていた!」という歓喜の声が聞こえてきそうな新型ミラーレスカメラ「X-T5」が、2022年11月2日開催のオンラインイベント「X Summit Tokyo 2022」で発表された。一眼レフスタイル「X-Tシリーズ」の新モデルで、静止画撮影を重視した、“原点回帰”の設計を採用するのが注目点だ。試作機の外観画像を交えながら特徴を詳しくレポートしよう。
※本記事は開発中の試作機を使用しています。製品版では仕様が変更される場合がありますのでご了承ください。
有効約4020万画素センサーを搭載する「X-T5」(キットレンズの標準ズーム「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」を装着)。ブラックカラーは塗装の粒状感を細かくすることで黒味が増している
「X-Tシリーズ」の従来モデルと同様、カラーバリエーションとしてシルバーも用意する
APS-Cサイズの撮像素子を採用する富士フイルムの「Xシリーズ」は、フラッグシップの「X-Hシリーズ」を筆頭に、「X-Proシリーズ」や「X-Tシリーズ」「X-Eシリーズ」といった、特徴の異なる複数のラインに分けてミラーレスカメラを展開している。
この中で、「X-Tシリーズ」は、大きな表示の電子ビューファインダー(EVF)をボディ中央に備える、いわゆる一眼レフスタイルと呼ばれるモデル。シャッタースピードダイヤルや露出補正ダイヤルなどのダイヤルを使ったアナログの操作性も特徴で、撮影のしやすさと楽しさをうまく両立したカメラとして人気が高い。
特に、上位機の1桁型番モデルは、小型・軽量ながら本格的な撮影が可能で、静止画撮影の使い勝手にこだわるハイアマチュアから支持を集めている。2014年2月にファーストモデル「X-T1」をリリースして以降、2016年9月発売の「X-T2」、2018年9月発売の「X-T3」、2020年5月発売の「X-T4」と、だいたい2年〜2年半のペースでリニューアルを続け、ユーザーの声に応えるように着実な進化を遂げてきた。
2014年発売の「X-T1」から着実な進化を遂げている「X-Tシリーズ」
そんな「X-Tシリーズ」の最新モデルとして今回発表された「X-T5」のコンセプトは、「Back to origin(原点回帰)」。ひとつ前のモデル「X-T4」は、静止画撮影/動画撮影のハイブリッド機としての側面が強く、ボディ内手ブレ補正を搭載するために筐体を大きくしたり、シリーズ初のバリアングル液晶モニターを採用したりと、「小型・軽量な本格派」をウリにする従来の「X-Tシリーズ」とは少し趣が異なるところがあった。
価格.comのクチコミ掲示板では、「X-T4」の魅力を肯定しつつも、「動画撮影の性能はそこまで求めないのでサイズダウンしてほしい」というの率直な反応もチラホラと見られた。「X-T5」は、そんなユーザーの声を反映し、まさに原点回帰と呼ぶにふさわしい、静止画撮影を重視したカメラとして開発されている。
「Back to origin(原点回帰)」をコンセプトに掲げる「X-T5」
「X-Tシリーズ」のファン(静止画撮影を重視するファン)にとって何よりもうれしいのは、ダブルフラッグシップの一翼を担う高解像度モデル「X-H2」と同等の静止画撮影性能と、最大7.0段の補正効果を持つボディ内5軸手ブレ補正機能を備えながら、大幅な小型・軽量化を実現したこと。
以下に掲載する、「X-H2」ならびに「X-Tシリーズ」各モデルのサイズ/重量を見ていただきたいが、「X-T5」は、「X-H2」よりひとまわり小さくて軽い。ボディの高さと幅は、初代モデル「X-T1」とほぼ同等だ。ボディ内手ブレ補正機能を搭載しているため、さすがに最薄部は「X-T4」と同じ厚さだが、ボディ全体の体積は「X-T4」比で約5%減少している。重量は、各パーツを1g単位で精査することで、「X-T4」から50g軽くなった。
X-H2 136.3(幅)×92.9(高さ)×84.6/42.8(奥行、最薄部)mm 約660g
X-T5 129.5(幅)×91.0(高さ)×63.8/37.9(奥行、最薄部)mm 約557g
X-T4 134.6(幅)×92.8(高さ)×63.8/37.9(奥行、最薄部)mm 約607g
X-T3 132.5(幅)×92.8(高さ)×58.8/35.4(奥行、最薄部)mm 約539g
X-T2 132.5(幅)×91.8(高さ)×49.2/35.4(奥行、最薄部)mm 約507g
X-T1 129.0(幅)×89.8(高さ)×46.7/33.4(奥行、最薄部)mm 約440g
※重量はバッテリー、メモリーカードを含む
左が「X-T5」で、右が「X-T4」。幅は約5.1mm、高さは約1.8mm小さくなった
「X-T5」の重量は、「X-T4」と比べて50g軽い約557g(バッテリー、メモリーカードを含む)。より軽快に持ち運べるようになった。小型・軽量ながら防塵・防滴・-10℃耐低温性能を搭載している
もちろん、「X-Tシリーズ」の1桁型番モデルらしく、感度ダイヤル/シャッタースピードダイヤル/露出補正ダイヤルによるアナログの操作性は健在だ。静止画撮影重視ということで、3方向チルト液晶モニター(3.0型、約184万ドット)が復活したのもうれしい点だ。
電子ビューファインダーは、「X-H2」と同じ新規光学系を採用した、倍率0.80倍/アイポイント約24mmの有機ELファインダー。ドット数は「X-T4」と同じ約369万ドットだが、周辺までクリアで見やすいファインダーに仕上がっている。表示レスポンスも向上し、「X-T4」との比較で、液晶モニターからEVFの切り替えは約0.25秒から約0.12秒に、その逆は約0.25秒から約0.16秒に短縮されている。
さらに、背面右手側の形状を見直すなどしてグリップのホールド性が向上。細かいところでは、親指で回しやすいように露出補正ダイヤルの位置が変更された。レリーズボタンは従来よりも少し前方にレイアウトされている。背面ボタンの大型化、コマンドダイヤルの操作感の改善なども、以前から変わった部分だ。
「X-Tシリーズ」の1桁型番モデルではおなじみの感度ダイヤル、シャッタースピード、露出補正ダイヤルを搭載
3方向チルト液晶モニター(3.0型、約184万ドット)が復活したのもトピック。横位置でも縦位置でも、静止画撮影で使いやすいモニターだ
「X-T5」は、ダブルフラッグシップの高解像度モデル「X-H2」と同じ、第5世代の撮像素子と画像処理エンジンを採用している。撮像素子は有効約4020万画素の裏面照射型「X-Trans CMOS 5 HR」センサーで、画像処理エンジンは「X-Processor 5」だ。基幹部分の性能は「X-H2」と同等で、静止画撮影の進化点も共通している。
「X-T5」の静止画撮影の進化点
・画像処理のアルゴリズムを刷新し、高いS/N比を維持したまま高解像を実現
・常用感度が従来のISO160スタートからISO125スタートに
・電子シャッター時に最速1/180000秒の超高速シャッタースピードに対応
・10bit階調のHEIF形式の記録に対応
・約1.6億画素の画像を生成する「ピクセルシフトマルチショット」
・2倍/1.4倍のデジタルテレコンバーター機能(トリミング撮影機能)
・ディープラーニング技術を活用した高精度なオートホワイトバランス
・肌のレタッチを自動で行う「スムーススキン・エフェクト」
・「ノスタルジックネガ」を含む計19種類の「フィルムシミュレーション」
「X-T5」(有効約4020万画素)、「X-H2S」(有効約2616万画素)、「X-T4」(有効約2610万画素)、33MPのフルサイズカメラのS/N比と解像度の関係を示すグラフ。「X-T5」のS/N比は、約2600万画素機とほぼ同じだ
「ピクセルシフトマルチショット」機能を搭載。1 回のシャッターで20枚の画像を撮影し、それらの画像を専用ソフトウェア「Pixel Shift Combiner」を使って処理することで、約1.6億画素のRAWデータを生成する機能だ
肌を自動調整する「スムーススキン・エフェクト」の利用が可能。オートホワイトバランスの精度も向上した
仕上がり設定の「フィルムシミュレーション」では、「アメリカンニューカラー」の色調を再現する「ノスタルジックネガ」を選択できる
AFシステムは「X-H2」と同じで、ディープラーニング技術を用いて開発した被写体検出AFを搭載。人物の顔検出/瞳AFとは別に、「動物」「鳥」「クルマ」「バイク&自転車」「飛行機」「電車」といった多彩な被写体の検出に対応している。撮像素子の高画素化によって、像面位相差AFの画素数が「X-T4」の216万画素から333万画素に増加したことで、動物の毛や細かい葉など高周波成分の多い被写体に対してAF-Sの合焦精度が向上したのも「X-H2」と共通だ。
「動物」「鳥」「クルマ」「バイク&自転車」「飛行機」「電車」といった被写体検出に対応
連写性能も「X-H2」と同等で、メカシャッターで最高約15コマ/秒、電子シャッターで最高約13コマ/秒の連写が可能。電子シャッター時は、最高約20コマ/秒での1.29倍クロップ連写にも対応する。
「X-H2」と異なるのは連写時の連続記録枚数。以下に、一例として、メカシャッター・約15コマ/秒連写時の、「X-T5」と「X-H2」の連続記録枚数をまとめよう。「X-H2」は高速なCFexpress Type Bカードを採用しており、連写の持続性は「X-T5」を圧倒している。
メカシャッター・約15コマ/秒連写時の連続記録枚数
X-T5
JPEG:119枚、圧縮RAW:39枚、ロスレス圧縮RAW:22枚、非圧縮RAW:19枚、圧縮RAW+JPEG:27枚、ロスレス圧縮RAW+JPEG:21枚、非圧縮RAW+JPEG:19枚
X-H2
JPEG/圧縮RAW/ロスレス圧縮RAW:1000枚以上、非圧縮RAW:400枚、圧縮RAW+JPEG:110枚、ロスレス圧縮RAW+JPEG:108枚、非圧縮RAW+JPEG:104枚
両スロットがUHS-IIに対応する、デュアルSDカードスロットを採用
このほか、「X-T5」はバッテリーの持続性にすぐれるのもポイント。画像処理エンジン「X-Processor 5」の省電力制御によって、「X-H2」の約680枚、「X-T4」の約600枚を上回る、約740枚(いずれもエコノミーモード時)の撮影可能枚数を実現している。
動画撮影機能についても簡単に触れておこう。
「X-T5」は、同じ有効約4020万画素センサーを採用する「X-H2」が実現した8K/30p動画記録には非対応なものの、4:2:2 10bitでの6.2K/30p動画の内部記録が可能だ。6.2Kオーバーサンプリングで高品質な4K映像を生成する「4K HQ」モードも備わっている。フルHDでは240pのハイフレームレート記録に対応。13+stopの階調性を持つ「F-Log2」も搭載しており、撮影後の本格的なグレーディングに対応できる。
さらに、HDMI出力では6.2K/30p 4:2:2 12bitのRAW記録が可能。ATOMOS社製「NINJA V+」でProRes RAW、Blackmagic Design社製「Video Assist 12G」でBlackmagic RAWとして記録できる。
6.2K/30p動画の内部記録が可能
インターフェイスとして、ボディ左側面にマイク入力、リモートレリーズ端子、USB Type-C(USB3.2 Gen2x1)、HDMIマイクロ出力(Type D)を搭載
「X-T5」と同時に、標準マクロレンズ「XF30mmF2.8 R LM WR Macro」も発表された。最短撮影距離10cm/最大撮影倍率1倍(35mm判換算1.5倍相当)の近接撮影性能を持つレンズで、リニアモーターによるスムーズなAFや、防塵・防滴・-10℃耐低温構造などを実現。フォーカシング時に前玉が繰り出さないインナーフォーカス方式なのも使いやすい点だ。2022年11月25日の発売で、希望小売価格は97,900円(税込)
重量約557g(バッテリー、メモリーカードを含む)の小型・軽量ボディに、ダブルフラッグシップの高解像度モデル「X-H2」と同じ有効約4020万画素の撮像素子や、補正効果最大7.0段のボディ内5軸手ブレ補正機能を搭載。3方向チルト液晶モニターが復活。もちろん、「X-Tシリーズ」らしい、ダイヤルによるアナログの操作性は継承。
こうした特徴をまとめるだけでも、「X-Tシリーズ」で静止画撮影を楽しんでいる人にとって、今回の「X-T5」は、まさに「理想的な特徴を持つカメラ」が登場したと言えるだろう。別売オプションで縦位置バッテリーグリップが用意されていないのが気になるかもしれないが、静止画撮影については、これといった欠点が見当たらない、非常に完成度の高いモデルに仕上がっている。「X-Tシリーズ」のユーザーだけでなく、ボディ内手ブレ補正機能搭載の高性能な小型・軽量モデルを探している人にとっても、魅力的な選択肢になるはずだ。
「X-T5」のラインアップと市場想定価格(税込)は以下のとおり。いずれも2022年11月25日の発売が予定されている。
・ボディ単体 253,000円前後
・XF18-55mmレンズキット 319,000円前後
※標準ズームレンズ「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」が付属
「X-T5」のボディ単体の市場想定価格は、「X-H2」の260,000円前後(税込)とそう変わらない。発売からしばらく経つともう少し価格に差が出るかもしれないが、「X-H2」と「X-T5」は価格で選ぶというよりも、8K/30p動画など本格的な動画撮影を行いたいなら「X-H2」、静止画撮影を重視してより軽快に使いたいなら「X-T5」といったように、スタイルで選ぶことになりそうだ。
「X-Tシリーズ」でいえば、「X-T4」のユーザーで動画撮影もカバーしたいなら「X-H2」を、「X-T3」のユーザーで静止画撮影を重視するなら「X-T5」を選ぶのがよいだろう。
フィルム一眼レフから始まったカメラ歴は、はや約30年。価格.comのスタッフとして300製品以上のカメラ・レンズをレビューしてきたカメラ専門家で、特にデジタル一眼カメラに深い造詣を持つ。フォトグラファーとしても活動中。