富士フイルム「XF56mmF1.2 R WR」は、2022年9月29日に発売された、「Xシリーズ」用の新しい大口径・中望遠レンズ。ポートレートレンズの定番品として人気の高い「XF56mmF1.2 R」のリニューアルモデルで、富士フイルムファン注目の1本だ。旧型との比較を含めながら、このレンズの特徴をレビューしていこう。
有効約4020万画素の撮像素子を採用するAPS-Cミラーレスカメラ「X-H2」に「XF56mmF1.2 R WR」を装着。旧型の発売(2014年2月)から約8年半のときを経てリニューアルされたこのレンズが、4000万画素機でどのくらいの描写力を発揮するのかをチェックした
「XF56mmF1.2 R WR」は、35mm判換算で焦点距離85mm相当の画角と、F1.2の開放絞り値を持つ大口径・中望遠レンズ。焦点距離と開放絞り値のスペックは旧型の「XF56mmF1.2 R」と同じだが、その中身は一新されている。
具体的には、旧型は非球面レンズ1枚、異常低分散ガラス2枚を含む8群11枚のレンズ構成だったのに対し、新型は非球面レンズ2枚、EDレンズ1枚を含む8群13枚の構成を採用。レンズ構成の変更にともない、レンズの全長は6mmほど長く、重量は40g重くなった。フィルター径も62mmから67mmへと大口径化している。
旧型(左)と新型(右)の大きさ比較。レンズフードを装着した状態だが、フードを外しても、長さは新モデルのほうが6mmほど長い。ちなみに、新型のサイズは79.4(最大径)×76(全長)mmで、重量は445g
フィルター径は、旧型(左)が62mmで、新型(右)が67mm。鏡筒は新型のほうが6mmほど太いが、レンズそのものの口径はほぼ同じようだ
リニューアルレンズの定番となった、絞りリングのAポジションロック機構を搭載。Aに入れるとき、Aからマニュアル絞りに変えるときに、ロックボタンを押しながら絞りリングを回す
新型が旧型に比べてすぐれている点としては、まず、絞り羽根が7枚から11枚に増えた点が挙げられる。絞り羽根の枚数が少ないと絞りを絞ったときに絞り羽根の角張った形がボケに現れやすくなるが、11枚絞りだと、かなり絞っても角張ったボケになりにくい。ボケを生かした撮影で、これは大きなメリットだ。
さらに新型は、最短撮影距離が旧型の70cmから50cmに短縮されている。最大撮影倍率は0.14倍なので、マクロレンズ的とまでは言えないが、花をちょっとアップ目に撮りたいというような使い方の場合にありがたいと言えるだろう。
このほか、製品名に「WR」が付いていることからもわかるように、新型は、防塵・防滴機能が装備されている。最近のカメラの多くは防塵・防滴機能をうたうものが多いが、レンズも防塵・防滴でないと、やはり不安は残る。そういう意味でも、新型は悪天候などでの使用時にも安心感があると言える。
防塵・防滴機能を装備。レンズ後玉の外側にゴムのシーリングが付けられている
なお、新型が発売となったことで、旧型はディスコンになってしまったが、アポダイゼーションフィルターを装備している「XF56mm F1.2 R APD」は継続して販売されているようである。
旧型の「XF56mm F1.2 R」の写真はすべて、筆者が長年愛用しているレンズを使って撮影している。新品とまったく同じ性能を発揮するとは限らないので、その点はご了承いただきたい。
一番気になるのは、新型の「XF56mmF1.2 R WR」と旧型の「XF56mmF1.2 R」で画質がどう変わったかということだろう。
まず、絞り開放での解像力は「段違い」と言っていいくらいの違いがある。旧型は、ポートレートにふさわしいやわらかなボケ味が特徴のレンズという感じだったが、これが新型では、やわらかなボケ味はそのままに、ピント面の解像力が大幅に向上している。私自身、旧型を愛用しているが、4000万画素の「X-H2」で撮り比べてしまうと、「買い替えなきゃダメかな」と思ってしまったほどの違いだ。
さらに新型は、解像力だけでなく、色収差も大幅に抑えられている。旧型はピント面をわずかに外したあたりに滲みのようなものが発生しやすく、そこに色収差が見られたりしたのだが、これがほぼなくなったと感じる。
遠景解像力を比較するために、新旧モデルそれぞれで同じ被写体を同じ絞り値で撮り比べてみた。緑枠が以下に掲載する切り出し部だ
絞り値F1.2の切り出し画像
絞り値F1.4の切り出し画像
絞り値F2の切り出し画像
遠景の解像力を見るために、絞り値を変えながら、写真奥のピンク色のボートにピントを合わせて撮影してみた。新型は絞り開放のF1.2からきっちりと解像しており、開放から使えることがわかる。対して旧型は、開放ではピント面が甘く滲んだような描写だ。旧型はF2.0まで絞ると遠景もきちっと描写できるようだ。
新型 XF56mmF1.2 R WR
X-H2、XF56mmF1.2 R WR、F2.8、1/10秒、ISO800、ホワイトバランス:オート(ホワイト優先)、フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ、シャドウトーン:+0.5
旧型 XF56mm F1.2 R
X-H2、XF56mmF1.2 R、F2.8、1/15秒、ISO800、ホワイトバランス:オート(ホワイト優先)、フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ、シャドウトーン:+0.5
新型は11枚絞りで、旧型は7枚絞り。この差はF2.8くらいまで絞るとはっきりと見えてくる。新型はF2.8でもほぼまん丸のボケなのに対し、旧型はカクカクとしたボケになってしまっている。
新型 XF56mmF1.2 R WR(最短撮影距離50cm)
X-H2、XF56mmF1.2 R WR、F1.2、1/200秒、ISO200、ホワイトバランス:3100K(R:+1、B:+1)、フィルムシミュレーション:ASTIA/ソフト、ハイライトトーン:-0.5、シャドウトーン:+0.5、スムーススキン・エフェクト:弱
撮影写真(5152×7728、23.4MB、Photoshopで著作権情報を追加)
旧型 XF56mm F1.2 R APD(最短撮影距離70cm)
X-H2、XF56mm F1.2 R APD、F1.2、1/160秒、ISO200、ホワイトバランス:3100K(R:+1、B:+1)、フィルムシミュレーション:ASTIA/ソフト、ハイライトトーン:-0.5、シャドウトーン:+0.5、スムーススキン・エフェクト:弱
撮影写真(5152×7728、25.4MB、Photoshopで著作権情報を追加)
最短撮影距離は新型が50cmで、旧型が70cm。この2枚の写真を見比べてもらえば、20cmの差がいかに大きいかがおわかりいただけるだろう(旧型の写真は「XF56mm F1.2 R APD」を使用している。こちらも最短撮影距離は70cm)。
新型 XF56mmF1.2 R WR
X-H2、XF56mmF1.2 R WR、F1.2、1/2000秒、ISO125、ホワイトバランス:オート(ホワイト優先)、フィルムシミュレーション:ASTIA/ソフト
撮影写真(5152×7728、18.7MB、Photoshopで著作権情報を追加)
旧型 XF56mm F1.2 R
X-H2、XF56mmF1.2 R、F1.2、1/1900秒、ISO125、ホワイトバランス:オート(ホワイト優先)、フィルムシミュレーション:ASTIA/ソフト
撮影写真(5152×7728、19.0MB、Photoshopで著作権情報を追加)
新型 XF56mmF1.2 R WR
X-H2、XF56mmF1.2 R WR、F1.2、1/2700秒、ISO125、ホワイトバランス:オート(ホワイト優先)、フィルムシミュレーション:ASTIA/ソフト
撮影写真(5152×7728、18.6MB、Photoshopで著作権情報を追加)
旧型 XF56mm F1.2 R
X-H2、XF56mmF1.2 R、F1.2、1/2200秒、ISO125、ホワイトバランス:オート(ホワイト優先)、フィルムシミュレーション:ASTIA/ソフト
撮影写真(5152×7728、17.3MB、Photoshopで著作権情報を追加)
全身を引きで写した写真でも、新型はまつ毛がしっかりと描写されているのに対し、旧型はぼんやりとしている。旧型はちょっとブレているようにも見えるが、1/1900秒のシャッタースピードなのでブレではなく描写が甘いのだと思われる。アップ気味にすると旧型でも満足できる解像力と言えるが、それでも新型との差は明らか。
ピント面から外れると滑らかにボケていく。アウトフォーカス部のハイライトにもイヤな色収差はほとんど見られない
X-H2、XF56mmF1.2 R WR、F1.2、1/20000秒、ISO125、ホワイトバランス:オート(ホワイト優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード、ハイライトトーン:-0.5、シャドウトーン:+0.5
撮影写真(5152×7728、20.8MB、Photoshopで著作権情報を追加)
中望遠レンズらしい立体感が感じられるボケ。スナップでも開放F1.2を積極的に使いたくなるレンズだ
X-H2、XF56mmF1.2 R WR、F1.2、1/8500秒、ISO125、ホワイトバランス:オート(ホワイト優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード、ハイライトトーン:-0.5、シャドウトーン:+0.5
撮影写真(7728×5152、20.1MB、Photoshopで著作権情報を追加)
こちらもF1.2の開放絞り。「X-H2」の高画素センサーとの相性も抜群で独特の立体感、存在感を写しきることができる
X-H2、XF56mmF1.2 R WR、F1.2、1/640秒、ISO125、ホワイトバランス:オート(ホワイト優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、26.6MB、Photoshopで著作権情報を追加)
最短撮影距離50cm付近で撮影したもの。マクロレンズではないので、至近撮影でのボケはクセが出やすいはずなのだが、この距離の撮影でもボケは実に美しい
X-H2、XF56mmF1.2 R WR、F1.2、1/125秒、ISO160、ホワイトバランス:オート(ホワイト優先)、フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
撮影写真(7728×5152、24.0MB、Photoshopで著作権情報を追加)
開放F1.2の大口径レンズは、室内の撮影でもシャッタースピードが稼げるという意味で非常に重宝する
X-H2、XF56mmF1.2 R WR、F1.2、1/300秒、ISO125、ホワイトバランス:オート(ホワイト優先)、フィルムシミュレーション:ASTIA/ソフト、ハイライトトーン:-0.5、シャドウトーン:+0.5
撮影写真(5152×7728、20.7MB、Photoshopで著作権情報を追加)
「X-H2」での撮影だが、AFは高速でスッと気持ちよくピントが合ってくれる。この点も新型になってよりよくなったと感じる
X-H2、XF56mmF1.2 R WR、F1.2、1/640秒、ISO125、ホワイトバランス:オート(ホワイト優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、22.1MB、Photoshopで著作権情報を追加)
ポートレートも絞り開放から安心して撮れる。このレンズなら、APS-Cセンサーを採用する「Xシリーズ」でもここまで背景をボカせる
X-H2、XF56mmF1.2 R WR、F1.2、1/1000秒、ISO125、ホワイトバランス:オート(ホワイト優先)、フィルムシミュレーション:ASTIA/ソフト
撮影写真(5152×7728、21.8MB、Photoshopで著作権情報を追加)
全身ポートレートも絞り開放でOK。瞳AFもしっかり効いてくれるので、ピント精度にもまったく不安はない
X-H2、XF56mmF1.2 R WR、F1.2、1/3200秒、ISO125、ホワイトバランス:オート(ホワイト優先)、フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ、スムーススキン・エフェクト:強
撮影写真(5152×7728、16.3MB、Photoshopで著作権情報を追加)
手前の地面を広く入れて、前後の奥行き感を出してみた。このレンズでポートレートを撮ると、どこにボケを入れるかを考えるのが楽しくなる
X-H2、XF56mmF1.2 R WR、F1.2、1/1800秒、ISO125、ホワイトバランス:オート(ホワイト優先)、フィルムシミュレーション:ASTIA/ソフト、スムーススキン・エフェクト:強
撮影写真(5152×7728、20.9MB、Photoshopで著作権情報を追加)
ポートレートレンズとして考えると、解像力が高いことがすべてではないと思うのだが、「XF56mmF1.2 R WR」は、決して硬い描写のレンズというわけではなく、ボケはとてもやわらかく、しかも二線ボケやグルグルボケの傾向もほとんどない。ピントを合わせたところを最大限にシャープに写しつつ、そこから滑らかにボケていくのが特徴だ。そして、この描写を絞り開放から味わえるのが、このレンズの最大の魅力と言ってよいだろう。ポートレートだけでなく、スナップ撮影や風景撮影でも活躍してくれそうな1本と言えそうだ。
モデル:進藤もも
東京都出身。人物をメインの被写体とするフリーランスのフォトグラファー。海外での肖像写真撮影や街風景スナップ、夜の街を撮る「夜スナ!」をライフワークとする。noteやYouTubeチャンネルも開設。
Twitter:@hanawa_pixels
note:https://note.com/hanawa_shinichi
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCzAp8D-yOMf6CebPVvq2w6g