プロフォトのクリップオンストロボ「Profoto A10」を使い、ブツ撮りでのストロボ活用方法を前編と後編の2回に分けて解説する本企画。後編では、「Aシリーズ」ストロボ専用のライトシェーピングツール「Clicシリーズ」を利用して、ブツ撮りのライティングテクニックを紹介していく。
「Profoto A10」の表現力を大いに広げてくれる「Clicシリーズ」のアクセサリーたち。近年プロフォトは、「Aシリーズ」向けに数多くのアイテムをリリースしている。今後の展開も楽しみだ
ストロボを使ったライティングは、ストロボ自体の性能ももちろんだが、組み合わせて利用するアイテムの内容も同じくらい重要だ。プロフォトは150種類以上のライトシェーピングツールを揃えており、さまざまなライティングに対応できる。ストロボだけでなく、こうした周辺アクセサリーに力を入れているのもプロフォトの大きな魅力だろう。
その中で「Clicシリーズ」は、「Profoto A10」や「Profoto A1X」、「Profoto A2」など、小型・軽量な「Aシリーズ」ストロボ専用のライトシェーピングツールだ。マグネットで着脱できるのが最大の特徴だが、コンパクトで携行性にすぐれているのも魅力。「Aシリーズ」のコンパクトさと連動させながら、直感的にセッティングして撮影に臨める。
次項目以降で、最近発売されて人気を博す、「Clicシリーズ」の最新アイテムを使った実践的なライティングを紹介していこう。
なお、本記事の撮影は、キヤノンのフルサイズミラーレス「EOS R6」で行った。ストロボはすべてのライティングで「Profoto A10」を、コマンダーは「Air Remote TTL-C」を使用した。
前編の後半では、自然光をベースにストロボ光をなじませるライティングを紹介したが、ここではそれを新発売の「Clic バーンドア」を使って実践してみよう。窓から差し込む逆光を利用しながら朝日を受けるイメージで、「Clic バーンドア」付きのストロボ光を加えていく。
一般的にバーンドアは4つの黒板(バーンドア)をそれぞれ調整しながら、光の広がり方を細かく調整していくアイテムだ。「Clic バーンドア」はマグネット仕様なので、そのまま「Profoto A10」に取り付けられる
「Clic バーンドア」を折り畳んだ状態。非常にコンパクトだ。そのサイズは11.3(幅)×2.8(高さ)×11.3(長さ)cmで、重量は0.12kg。保護ケースが付属する。希望小売価格は11,000円(税込)
「Clic バーンドア」は4枚のうち2枚の黒板の形状が三角形になっていて、閉じた際の光の拡散を最小限に抑えられる仕様だ。このように黒板を閉じたり、開いたりすることで光の照射範囲を自分好みに変更できる
実際の撮影風景。メインライトは後方の窓から差し込む自然光。被写体のパンに対し、左後方から「Clic バーンドア」付きの「Profoto A10」を照射。全体に光を照射するのではなく、パンの上面にハイライトをうまく演出したくて、バーンドアの黒板は縦のスリット状に調整している
EOS R6、EF85mm F1.4 L IS USM、F4、1/100秒、ISO100
撮影写真(3648×5472、2.1MB)
EOS R6、EF85mm F1.4 L IS USM、F4、1/100秒、ISO100
撮影写真(3648×5472、2.0MB)
EOS R6、EF85mm F1.4 L IS USM、F4、1/200秒、ISO100
撮影写真(3648×5472、1.3MB)
ストロボはTTL発光でおおよその光量を決めたのち、マニュアル発光に切り替え、自分好みに光量を微調整して決めた。
自然光にストロボ光を加えた完成カットでは、パン上面にハイライトが入り、器の手前下にも影ができて、逆光感が強まっている。
ストロボ光のみで撮ったものを見ると、背後まで光が回り込まず、手前を中心に光が照射されていることがわかるはずだ。これはバーンドアで照射範囲を調整しているため。バーンドアなしだと、背後も含めてより広範囲に光が照射されていく。
なお、ストロボ光のみのカットは、窓のブラインドを下ろし、自然光が最大限入らないようにしたうえで、シャッター速度を速くし自然光を抑制した。100%ストロボ光のみのライティングだが、このあたりの自然光とストロボ光のバランスの話は前編の後半を参考にしてほしい。
以下に、バーンドアを調整し光の照射範囲を変えたカットも掲載する。光が背後に回り込まないようにしつつ、手前の照射範囲を広げることで、ハイライトの範囲や強さが変わった。ストロボの発光量は同じだ。このように、バーンドアを使うと気軽に照射範囲を細かく調整できる。
向かって右サイドに光が回らないようにだけ調整して照射した
EOS R6、EF85mm F1.4 L IS USM、F4、1/80秒、ISO100
撮影写真(3648×5472、2.1MB)
EOS R6、EF85mm F1.4 L IS USM、F4、1/200秒、ISO100
撮影写真(3648×5472、1.5MB)
続いて、スポット光が作れるスヌートとグリッドを用いて、テーブルフラワーを撮影してみよう。陰影を付けながらドラマチックな描写を目指していく。
ここで使うスヌートやグリッドは、狭い範囲に光を照射できるアイテムだが、スヌートのほうが、スポットの輪郭がはっきり出るのが特徴。グリッドは輪郭が滲む。また、スヌートは照射範囲を広げたり、狭めたりするために寄り引きしなければいけないが、グリッドの場合は度数で調整できるため、セット位置を固定したまま照射範囲のみを変更できる。
スヌートは光を絞ってスポットライトが作れるアイテム。「Clic スヌート」も、マグネット式。そのまま「Profoto A10」に取り付けできて便利だ
「Clic スヌート」のサイズは10(幅)×9.2(高さ)×10(長さ)cmで、重量は0.12kg。保護ケースが付属する。希望小売価格は8,800円(税込)
グリッドは網目が細かいほどより絞ったスポットライトになる。度数は数値で表され、数値が小さいほど網目は細かくなり、照射範囲が狭まる。「Clic グリッドキット」はグリッドの2枚セットで、度数は20度と10度。保護ケースも付属する。希望小売価格は11,000円(税込)
ここでは花瓶に挿したユリが主題。左上からスヌート付きのストロボ光(A)を、手前右上から10度のグリッド付きのストロボ光(B)を照射した。ポイントはユリの左に配置した遮蔽物(黒板)だ。Aのスヌートの光をこの遮蔽物越しに照射することで、ユリと背後にシャープな陰影を演出していく。なお、撮影風景を撮るために部屋を明るくしたが、実際は環境光の入らない暗い室内にして、ストロボの光のみで撮影した
グリッドを付けた「Profoto A10」には、前編で紹介した「Clic OCF アダプター II」を使用し、照射角度を調整している。なお、「Clic OCF アダプター II」の希望小売価格は42,900円(税込)
EOS R6、EF85mm F1.4 L IS USM、F16、1/200秒、ISO400
撮影写真(3648×5472、6.1MB)
EOS R6、EF85mm F1.4 L IS USM、F16、1/200秒、ISO400
撮影写真(3648×5472、5.2MB)
EOS R6、EF85mm F1.4 L IS USM、F16、1/200秒、ISO400
撮影写真(3648×5472、2.4MB)
ストロボはそれぞれ1灯ずつマニュアル発光で好みの露出になるように調整した。
メインライトはAのストロボだが、このストロボは2つの役割を担っている。ユリの花びらを照らす役割と、背景に影を入れる役割だ。Bのストロボは、花瓶をスポット的に明るく起こす目的で照射している。
また、今回は絞りをF16まで絞り込んでいる。ユリ全体と背景の要素をきっちりシャープに見せるためだ。Aのストロボは距離を取っているため、ISO100では光量不足に。感度をISO400まで上げてこれを補った。
そして、背後の影のでき方やユリへの光の当たり方は、左の遮蔽物の置き方や形で変わるのだが、ここでは“おのおのの距離”も重要なポイント。具体的には遮蔽物とユリ、遮蔽物とストロボの距離だ。この距離は影の輪郭に影響する。シャープな輪郭の影にしたければ、可能な限りストロボを遮蔽物から離し、また遮蔽物は背景に近づける。また、硬い光のほうが影の輪郭ははっきり出る。スヌートによるスポットライトがこの影の輪郭を演出する重要な役割を担っていることも踏まえておきたい。
ストロボライティングでは、カラーフィルターは色の偏りを補正する目的で使用する場合と、色そのものを演出する目的で使用する場合の2つがある。ここではカラーフィルターを個性的な色を演出する目的で使用していく。
「Clicシリーズ」はカラーフィルターの種類も豊富だ。本記事では、新しく発売されたフィルターキットを使って撮影していこう。いずれもマグネットで簡単に取り付けできる。
環境光の色を合わせるために使用する「Clic CTOキット」。色温度の調整に用いる。保護ケース付きで、希望小売価格14,300円(税込)
「Clic 色補正フィルターキット(カラーコレクションキット)」。「Clic CTOキット」にグリーンとブルーの色が追加された5色キット。保護ケース付きで、希望小売価格20,900円(税込)
「Clic 色効果フィルターキット」。自分好みの色を演出するために使用する7色によるフィルターキット。保護ケース付きで、希望小売価格28,600円(税込)
今回は「Clic 色効果フィルターキット」から、「Rose Pink」「Peacock Blue」「Yellow」を使用する。3色のカラーフィルターを被写体へダイレクトに照射し、個性的な影を演出していく。
実際の撮影風景。同じ方向から3灯照射。高さや角度は、花の背後の影の出方を見ながら調整した。このままでもよいのだが、さらに手前に遮蔽物を配置して、偶然性のある影をここに加えてみた
EOS R6、EF24-70mm F2.8 L U USM、F6.3、1/200秒、ISO100
撮影写真(3648×5472、7.9MB)
EOS R6、EF24-70mm F2.8 L U USM、F4、1/200秒、ISO100
撮影写真(3648×5472、6.9MB)
EOS R6、EF24-70mm F2.8 L U USM、F4、1/200秒、ISO100
撮影写真(3648×5472、8.0MB)
EOS R6、EF24-70mm F2.8 L U USM、F4、1/200秒、ISO100
撮影写真(3648×5472、8.9MB)
このライティングは“光の3原色”の効果を利用している。これはマゼンタ、シアン、イエローの3色が混ざると白色になるというものだ。「Rose Pink」「Peacock Blue」「Yellow」のカラーフィルターが、それぞれこの3色に当たる。3色が混ざったところは、普通にストロボ光が当たっている状態に近い自然な色合いで仕上がる。いっぽう、影になったところはそれぞれに照射されて残る色がそのまま反映されていく。ここでもチューリップの黄色や葉の緑は通常どおりの色で再現されながら、花の背後の影と遮蔽物によってできる影の色が、カラフルな色合いとなり、ユニークな描写になっている。
この撮影では、それぞれのストロボの光量をきちんと揃えることも重要なポイントだ。3色のうちどれかが強く発光すると、色に偏りが生じてしまうので注意したい。カラーフィルターの濃度がそれぞれで異なるため、1灯ずつF4で標準露出になるように、マニュアル発光で露出を調整。光量は露出計を使って割り出した。それぞれF4で照射される発光量を割り出したうえで、3灯同時に発光。F5.6 2/3(F7.1)程度で標準露出になる計算だが、ここでは少し明るめのF6.3の絞り値に設定して撮影した。
最後に、ここまで紹介してきた「Clic グリッド」と「Clic カラーフィルター」を組み合わせてライティングしてみたい。どちらもマグネット仕様なので、簡単に重ねて併用できる。ここではさらにメインライトとして、「OCFソフトボックス30×90cm」にグリッドを付けたものを利用した。
主題はコーヒーカップ。やや暗い雰囲気のおしゃれな喫茶店の空気感を、スポット光とカラーフィルターを駆使して自宅のキッチンで再現してみる。
「OCFソフトボックス30×90cm」にグリッドを付けた状態。ストリップ型で、特定部分にやわらかい光を照射しやすい。グリッドを付けることで、より照射範囲を限定できる。ここでは「Clic アダプターU」を使って取り付けている
実際の撮影風景。Aはグリッドを付けた「OCFソフトボックス30×90cm」。Bは「Clic グリッド(10度)」+「Clic カラーフィルター(Peacock Blue)」の組み合わせ。Cは「Clic グリッド(20度)」+「Clic カラーフィルター(ハーフCTO)」の組み合わせだ。「ハーフCTO」はアンバーな色みが加えられるカラーフィルターで、通常は色補正で用いるが、今回は色を演出するために使っていく。Aはコーヒーカップに照射するイメージ。Bはカップ側面にブルートーンを加えるために、Cはカップの後ろ全体にアンバーな色合いを入れ込むために照射している
「OCFソフトボックス30×90cm」は、カップだけになるべくやわらかい自然な光を照射するために、黒板で上部を覆い、照射範囲をコントロールしている
EOS R6、EF24-70mm F2.8 L U USM、F2.8、1/200秒、ISO100
撮影写真(5472×3648、5.3MB)
EOS R6、EF24-70mm F2.8 L U USM、F2.8、1/200秒、ISO100
撮影写真(5472×3648、4.1MB)
EOS R6、EF24-70mm F2.8 L U USM、F2.8、1/200秒、ISO100
撮影写真(5472×3648、3.1MB)
EOS R6、EF24-70mm F2.8 L U USM、F2.8、1/200秒、ISO100
撮影写真(5472×3648、3.7MB)
3灯いずれも照射範囲を限定しながらセッティングした。AはTTL発光でおおよその光量を決め、マニュアル発光に切り換え光量を微調整した。BとCは自然なトーンを演出するため、最小出力から少しずつ光量を上げて適量で止めた。レトロ喫茶で写真を撮っているようなイメージで、それぞれの被写体を配置し、切り取った。
なお、Aのソフトボックスで黒板なしで撮ったものが以下になる。背後にもソフトボックスの光が回り込み、明るくなって、やや締まりのない描写になっている。
EOS R6、EF24-70mm F2.8 L U USM、F2.8、1/200秒、ISO100
撮影写真(5472×3648、5.9MB)
今回は計4パターンのライティングを紹介したがいかがだっただろうか。いずれも同じリビングキッチンを使い、撮影に臨んでいる。時には自然光を使い、時には省いてストロボ光のみを使って撮影した。
「Clic シリーズ」に代表されるライトシェーピングツールは、いわば光で写真を描くための筆のようなものだ。描き味の異なる筆をたくさんストックしていれば、さまざまな描写が行えて楽しい。ただし、使いこなせなければ筆に遊ばれてしまう。それぞれの特徴をしっかり把握し、自分の画作りに生かしてみたい。
今回は「Profoto A10」と「Clicシリーズ」を使って物撮りライティングの魅力に迫ってみた。ぜひ、この記事をきっかけにストロボに興味を持ってもらえたらうれしい。今度はポートレートなどを題材に、ストロボライティングのテクニックを紹介できたらいいなと思う今日この頃である。
フォトグラファー。写真家テラウチマサト氏に師事後、2003年独立。ポートレートを中心に活動。最新著書に『まねる写真術』(翔泳社)、『一生ものの撮影レシピ』(日本写真企画)など。ポーラミュージアムアネックス(2015年/銀座)など写真展も多数。Profoto公認トレーナー。
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