写真はやっぱりボケが命! 本特集では、「OM SYSTEM」のミラーレスカメラを使って、写真撮影に欠かせないボケの演出方法を解説していこう。「ズームレンズ編」と「単焦点レンズ編」の2回に分けてお届けするが、「ズームレンズ編」では、普及タイプの低価格なズームレンズを用いて「ボケを楽しむ方法」をレクチャーする。
本記事では、手軽に使えるエントリー向けのミラーレスカメラとレンズを使って解説していく。カメラには、「OM SYSTEM」の「PEN E-P7」と「PEN E-PL10」を選択した。左が「PEN E-P7」と望遠ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R」、右が「PEN E-PL10」と標準ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」の組み合わせ。レンズを含めて全体的に小型・軽量なのと、クラシカルな雰囲気のデザインが魅力だ
写真撮影においてボケの果たす役割は大きく、「写真ならではの表現」と言えるのがボケ描写だ。背景ボケなどは、初めて一眼カメラを手にした人がまずやってみたいと思うテクニックのひとつではないだろうか。
ボケを自分の思うように演出できるようになると写真は何倍も楽しくなる。また、ボケをどうすれば演出できるのかを考えることは、写真撮影の上達に直結する。そういった意味でも、ボケに関する事柄にはぜひ注目してほしい。
単刀直入に言うと、ボケはレンズのスペックに依存する。つまり、“いいレンズを使えば”たやすくぼかせるのだ。しかし、ご存じのとおり、いいレンズは基本的に高価なものが多い。では、高価なレンズでないとぼかすことはできないのだろうか。安価なレンズでは無理なのか?
答えは「NO」だ。ボケ具合に違いがあったり、ぼかしにくかったりするものの、安価な価格帯のレンズでも、十分にボケを楽しむことができる。そのためには、ボケに関する正しい知識が必要。そのあたりのことを具体的に解説していきたい。
この写真は、「PEN E-P7」と「PEN E-PL10」のキットレンズとして用意されている普及タイプの望遠ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R」で撮影したもの。ぼかすテクニックを知っていれば、安価なズームレンズでもボケを生かした写真を撮ることができる
E-P7、M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R、絞り優先、150mm、F5.6、1/250秒、ISO800、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:Vivid
まずは、そもそもボケとは何なのかを少し考えてみよう。
端的に言えば、ボケは、ピントの合う範囲に左右される。ピントの合う範囲が狭いほどボケは大きくなり、逆にピントの合う範囲が広いほどボケは乏しくなる。ちなみに、ピントの合う範囲を写真用語で「被写界深度」と言う。ピントの合う範囲が狭くボケの大きな状態を「被写界深度が浅い」、ピントの合う範囲が広くボケが乏しい状態を「被写界深度が深い」と表現する。
花にピントを合わせた写真。背景が大きくボケている。ピントの合う範囲が狭い状態だ。つまり、被写界深度が浅いということだ
上の写真と同様、ピントは花に合わせているが、背後もうっすらと像が確認できる。ピントの合う範囲が広い状態だ。つまり、被写界深度が深い状態
また、ピントは、点ではなく面で合うことも覚えておこう。後ほど解説するが、「面で合う」というのは、ボケを演出するうえで知っておきたい重要なポイントである。
中心の箱にピントを合わせたが、カメラから同じ距離にある横の箱にも同じようにピントが合っている。これは面でピントが合っている証拠だ
このように斜めから箱をとらえると、ピントを合わせたところ(ピント面)から距離が離れるほどボケが大きくなることがわかる。ピント面から離れるとボケは顕在化していくのだ
ピントの合う範囲「被写界深度」をコントロールする基本として、まず知っておきたいのが「F値(絞り値)」だ。F値を小さくするほどピントの合う範囲が狭まり、ボケが大きくなる。逆にF値を大きくするほど、ピントの合う範囲が広がり、ボケが乏しくなる。F値は、絞り優先モードなどを使ってカメラ側で変更することが可能だ(※一部のレンズはレンズ側に絞りの操作機構を持つ)。
F値をF2.8にして撮影した写真
F値をF8にして撮影した写真
F値をF16にして撮影した写真
F値は、光をカメラ内に取り入れる「レンズの絞り穴」の大きさを示している。F値を小さくすることは絞り穴を大きくすることに等しく、これを「絞りを開く」と言う。いっぽう、F値を大きくすることは絞り穴を小さくすることに等しく、これを「絞りを絞る」と言う。ボケを演出したければ、まず絞りを開いてF値を可能な限り小さくすることが求められるのだ。
被写界深度とボケ具合はF値の操作で調整できるが、利用できるF値の幅は限られている。正しく言えば、レンズによって利用できるF値が異なっている。F1.2まで絞りを開けられるレンズもあれば、F4までしか開けられないレンズもあるのだ。これが冒頭で述べた“ボケはレンズのスペックに依存する”という意味だ。高価なレンズほど、F値で操作できる範囲が広いのだ。
レンズで利用できる最小のF値を「開放値(開放F値)」と言い、絞りを開放値にすることを「絞りを開放にする」「開放絞りにする」と表現する。高価なレンズは開放値が小さいものが多く、リーズナブルな価格帯のレンズは開放値が大きいものが多い。
なお、開放値の小さなレンズを「明るいレンズ」、開放値の大きなレンズを「暗いレンズ」と言うが、これは一眼レフカメラの光学ファインダーの見え方によるところが大きい。一眼レフカメラは、基本的に開放値の状態でレンズからの光をファインダーに届けるようになっており、開放値の小さなレンズは大きなレンズよりも光の量が多く、その分ファインダーの見え方が明るくクリアになるのだ。そのため、「開放値の小さいレンズ=明るいレンズ」と呼ぶのである。暗いレンズだと写真が通常よりも暗く写ってしまうわけではないので、誤解しないようにしたい。なお、開放値がF2.8より小さいレンズを「明るいレンズ」と呼ぶことが多い。
レンズの開放値は製品名に表記されているので、見ればすぐに判断できる。たとえば、「OM SYSTEM」の単焦点レンズ「M.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8」では、製品名の「F1.8」は開放値がF1.8であることを示している。
「M.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8」というレンズ名を見ると、焦点距離が17mmで開放値がF1.8であることがわかる。また、レンズの口径にも記載があり、【1:1.8】という部分が開放値を示している
ズームレンズは、使用する焦点距離に応じて開放値が変化することがあるので、少し注意が必要だ。たとえば、「OM SYSTEM」の標準ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」では、製品名の開放値を示す部分が「F3.5-5.6」と表記されている。これは、広角端(14mm)の開放値はF3.5、望遠端(42mm)の開放値はF5.6ということを意味している。
「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」の開放値の表記は「F3.5-5.6」で、広角端(14mm)ではF3.5まで、望遠端(42mm)ではF5.6までF値を選択できることがわかる。焦点距離によって開放値が異なるため、焦点距離を変えながら撮影していると「さっきはF3.5まで絞りを小さくできていたのに、急にF5.6までしか絞りを小さくできなくなった」ということが発生する
「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」を使用して、14mm(画像左)、27mm(中央)、40mm(右)で撮影している画面。開放値に幅があるズームレンズの場合、望遠側にするほど利用できる開放値が大きくなる
なお、価格は高くなるが、ズームレンズのハイスペックモデルには、ズーム全域で開放値が統一されていて、どの焦点距離で使っても開放値が変化しないものがある。たとえば、「OM SYSTEM」の上位モデル「M.ZUIKO PRO」シリーズのズームレンズはすべて、ズーム全域で開放値がそろっている(※2023年1月18日時点)。
ぼかす方法をお話する前に、本記事に掲載する写真を撮影するために使用したカメラとズームレンズの特徴をまとめておこう。
カメラには、マイクロフォーサーズ規格に準拠するミラーレスカメラ「OM SYSTEM」の「PEN E-P7」「PEN E-PL10」を選択した。マイクロフォーサイズは、購入しやすい価格帯のエントリーモデルが用意さえているうえ、とにかく軽くてコンパクトなのがいい。その中でも、「PENシリーズ」は携帯性にすぐれ、操作も簡単。気軽な街スナップやファミリーフォトに最適なカメラだ。
2021年発売のエントリーモデル「PEN E-P7」。アルミ削り出しのダイヤルを搭載するなど、洗練されたデザインが魅力。「カラープロファイルコントロール」に代表されるような遊び心のある表現機能を数多く利用できる。有効画素数は約2030万画素。サイズは118.3mm(幅)×68.5mm(高さ)×38.1mm(奥行)。重量は約337g(付属バッテリー、メモリーカードを含む)。価格.com最安価格は71,999円(ボディのみ、税込、2023年1月18日時点)
2019年発売のエントリーモデル「PEN E-PL10」。わかりやすい操作性が特徴で、きれいな写真が簡単に撮れるライブガイド機能も備わっている。かわいらしいデザインも目を引くポイントだ。有効画素数は約1605万画素。サイズは117.1mm(幅)×68mm(高さ)×39mm(奥行)。重量は約380g(付属バッテリー、メモリーカードを含む)。価格.com最安価格は61,999円(ボディのみ、税込、2023年1月18日時点)
どちらのカメラも、モニターの角度は上に約80度、下に約180度まで可動する。自撮りも可能だ
「PENシリーズ」は、1960年代から70年代にかけて一大ブームを巻き起こしたハーフサイズカメラ「OLYMPUS PEN」の独創性を引き継ぐモデル。美しいフォルムと使いやすさが特徴だ。
前述の通り、2台ともマイクロフォーサーズ規格を採用することで、圧倒的な小型・軽量を実現している。カメラやレンズは軽いに越したことはない。気軽に持ち運べて、シンプルに使いやすいカメラで、ボケを気軽に演出できれば最高だと思う。
レンズには、標準ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」と、望遠ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R」を使用した。どちらも、気軽に購入できるリーズナブルな価格帯のレンズで、「PEN E-P7」と「PEN E-PL10」のレンズキット/ダブルズームレンズキットに含まれるキットレンズである。
左が「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」で、右が「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R」。このように並べると、その小ささがよくわかる。「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」は、電源オフ時の薄さが22.5mmという電動式のパンケーキズームレンズだ。小型ながら7群8枚のレンズ構成で高画質に撮影できる。「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R」は重量190gと、このクラスの望遠ズームとしては非常に軽くて携帯しやすい。運動会などのスクールイベントにもピッタリだ
「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」は起動すると、レンズの前玉がそのまま繰り出される
「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R」を望遠端までズームしてみた。前玉はかなり繰り出されるが、遠くの被写体を撮る分には撮影に差し障りない
「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」の開放値は、先ほど説明したように、焦点距離によってF3.5からF5.6の間で変化する。対して、「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R」はF4.0からF5.6の間で変化する。これら2本は、リーズナブルで購入しやすいものの、それほど明るいズームレンズではないことがわかるだろう。
では、開放値が大きいズームレンズ(暗いレンズ)で、どうすればボケをうまく演出できるだろうか? これが今回の記事の最大のテーマだ。
被写体のボケ具合の調整は、F値の調整を含めた4つの方法で行うことができる。比較写真を掲載しながらそれぞれを解説していこう。これらのテクニックをうまく併用しながら撮影することで、暗いレンズでもボケを最大化できる。
F値をF16にして撮影
F値をF5.6にして撮影
どんなレンズにも言えることだが、絞りを開く(F値を小さくする)ことで、より大きなボケが得られる。上の比較写真は、「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」の望遠端42mmで撮影している。本レンズは望遠端でF5.6までしか絞りを開けないものの、見比べてみると、F5.6のほうがF16よりも大きなボケのある写真に仕上がっている。F値による調整は、構図を変えずにボケをコントロールできるのも押えておきたいポイントだ。
焦点距離を35mm、F値をF5.6にし撮影
焦点距離を150mm、F値をF5.6にして撮影
被写界深度は望遠にするほど浅くなるという特徴がある。同じF値でも、広角と望遠では望遠のほうがボケ具合が豊かになる。この2枚の写真は、上が「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」の焦点距離35mm、下が「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R」の焦点距離150mmで撮影したものになる。F値はF5.6で揃え、被写体がほぼ同じサイズになるように撮影距離を調整しているが、両者で背景のボケ具合が劇的に違うことがわかるはずだ。ポートレートでも望遠レンズはよく使われるが、これは被写体を大きく写したいというよりも、ドラマチックな背景ボケを演出したいという意図のほうが大きい。
焦点距離を42mm、F値をF5.6にして、引いて撮影
焦点距離を42mm、F値をF5.6にして、寄って撮影
寄り引きでもボケ具合は変わる。手前の被写体に寄るほど、奥の要素はボケていく。構図は大きく変わるが、気軽に試せるテクニックだ。ここでは、手前の長椅子の手すりにピントを合わせ、奥のボケ具合を比較した。「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」を使い、絞り値F5.6で撮影している。それほど小さな絞り値ではないものの、寄ったカットのほうはかなり背景がボケている。この寄り引きのテクニックは、広角側で背景をぼかしたい場面で特に有効だ。
焦点距離を42mm、F値をF5.6にして、背景を近付けて撮影
焦点距離を42mm、F値をF5.6にして、背景を離して撮影
焦点距離を14mm、F値をF3.5にして、正対して撮影
焦点距離を14mm、F値をF3.5にして、斜め横から撮影
ピントを合わせる主題と背景の距離でもボケ具合は変わる。ここでは2パターンで比較した。いずれも「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」で撮影している。
上の2枚は単純な奥行きの違いによる比較だ。絞りの数値に関わらず、奥行きができるほどボケも大きくなる。下の2枚は撮影位置の違いだ。立体的に見える位置から狙うことで、ピントの合った部分の前後をぼかすことができる。
この奥行きに関わる描写は、前述したピントが面で合う仕組みに依拠している。奥行きのある場所を選ぶことはもとより、一見平面的に見える場所でもアングルやポジショニングを工夫することで、奥行きを出しながら、ボケ具合をコントロールできるのである。
このようにボケの演出にはさまざまな方法がある。絞りを開けなくても、これらのテクニックで補い、ボケ具合を大きくできるのだ。逆に言えば、このあたりの特徴を理解していないと、いくら絞りを開いていても、思うようにぼかせないケースが出てくるので注意したい。
最後に、これらのテクニックの実践例として3つのケースを紹介しよう。
掲載する写真について
カメラは「E-P7」もしくは「E-PL10」を使用。レンズは「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」もしくは「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R」を選択した。JPEG形式(最高画質LSF)で撮影している。
料理やスイーツは背後をぼかしてやわらかいトーンで撮ってみたいと思う被写体のひとつだろう。ここまで見てきたことを踏まえながら、標準ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」を使って、実践してみよう。この撮影でポイントになるのが、奥行きの演出と寄り引きだ。
E-P7、M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ、絞り優先、20mm、F4.2、1/60秒、ISO1000、ホワイトバランス:オート、カラープロファイルコントロール使用
撮影写真(3888×5184、10.0MB)
まず自分がテーブルを見る視線で、そのまま撮ってみる。料理の内容はよくわかるが、やや記録写真のように見える。あまりボケ感もない。焦点距離を20mmにし、この焦点距離で利用できる最小の絞り値(開放値)F4.2で撮影している。
E-P7、M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ、絞り優先、20mm、F4.2、1/40秒、ISO1000、ホワイトバランス:オート、カラープロファイルコントロール使用
撮影写真(3888×5184、10.1MB)
【1】の写真は背景がテーブルになっていたのでぼけが演出できなかった。奥の風景を入れ込むためにやや低い位置から狙ってみる。背後が大きくボケた。利用した焦点距離やF値は【1】と同じだ。
E-P7、M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ、絞り優先、20mm、F4.2、1/40秒、ISO1000、ホワイトバランス:オート、カラープロファイルコントロール使用
撮影写真(3888×5184、10.3MB)
【02】の状態からそのまま少しだけ寄って背景がさらに大きくぼけるように工夫した。背景ボケができたことで、ピントを合わせたモンブランが浮き上がって見える。これを完成画像とした。
E-P7、M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ、絞り優先、42mm、F5.6、1/15秒、ISO1000、ホワイトバランス:オート、カラープロファイルコントロール使用
撮影写真(3888×5184、10.2MB)
ここでは周囲の情景もなるべく広く取り込みたくて広角側20mmを使っているが、もちろん望遠側を利用する方法もある。同じ低い位置から望遠端42mmで狙った。開放値はF5.6になるが、ボケ自体はこちらのほうが大きい。よりモンブランに焦点を当てた描写になっている。
何気ない情景の中にも、うまくぼかして撮れるものがないか考えてみよう。ここでは道端の小さな植物を撮ってみる。こうした背の低い被写体はアングルやポジショニングで見え方が大きく変わる。奥行きがうまく出せれば、ドラマチックなボケ描写が可能になる。標準ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」で実践していく。
E-P7、M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ、絞り優先、32mm、F5.3、1/500秒、ISO200、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:Vivid
撮影写真(5184×3888、10.8MB)
ここでもまず自分の立ち位置からの視線で、そのまま撮ってみる。開放値で撮っているがボケ感はない。ちょっと面白い植物だが、俯瞰的で立体感が乏しいので、ほかのアングルを探ってみる。
E-P7、M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ、絞り優先、32mm、F5.3、1/800秒、ISO200、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:Vivid
撮影写真(5184×3888、10.8MB)
しゃがんでローアングルから撮影。植物や背景の見え方がガラリと変わった。焦点距離、絞り値ともに【1】と同じだが、背景ボケが大きい。ここでは植物に近づくことで、さらに背景ボケが大きくなっている。紅葉と青空が効果的なアクセントになった。
E-P7、M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ、絞り優先、42mm、F5.6、1/800秒、ISO200、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:Vivid
撮影写真(5184×3888、9.8MB)
【02】のアングルから、望遠端にして撮影した。より背景ボケが大きくなった。植物のディテールもきちんと表現されている。これを完成画像とした。工夫すれば、F5.6でも十分ボケ描写は可能なのだ。
動物園では望遠ズームレンズが大活躍する。遠くから大きく動物を引き寄せて撮れるからだが、ダイナミックなボケが演出できることも実は大事なポイントになっている。ここでは望遠ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R」を使って実践してみよう。
E-PL10、M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ、絞り優先、42mm、F5.6、1/125秒、ISO200、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:i-Finish
撮影写真(4608×3456、3.0MB)
とりあえず標準ズームレンズでどの程度まで撮れるか見てみよう。ここではマーラを被写体に、望遠端42mm、開放絞りで撮っているが、あまり背景はボケていない。写真的には手前の柵をうまく消したいところだ。
E-PL10、M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ、絞り優先、42mm、F5.6、1/100秒、ISO200、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:i-Finish
撮影写真(3456×4608、3.1MB)
こういう場合は、まずカメラのレンズを手前の柵に近づけてみよう。柵がボケて消える。奥行きの出る位置から狙うことで、【1】と同じ焦点距離と絞り値だが、描写が変わった。なお、動物によっては柵にカメラを近づけすぎないように注意したい。撮影マナーは守ろう。
E-PL10、M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R、絞り優先、102mm、F5.0、1/80秒、ISO200、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:i-Finish
撮影写真(3456×4608、2.9MB)
望遠ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R」に切り替え、102mmの望遠で撮影。今度は柵から離れ、少し距離を取りながらマーラを画角に入れ込む。後ろのボケも大きく、手前の柵も消えている。望遠レンズを使うことで、より自由度の高いボケ描写が楽しめる場面だ。
E-PL10、M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R、絞り優先、105mm、F5.1、1/40秒、ISO200、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:i-Finish
撮影写真(4608×3456、3.2MB)
背景の奥行きがよりきれいに見える位置にポジションを微調整して撮影。ドラマチックなボケ感が演出できた。
望遠ズームレンズは子どもの遊ぶ様子やポートレートを撮つときにも重宝する。ダイナミックなボケを演出できるが、この写真のように奥行きのある背景をうまく選べると、さらに持ち味が発揮される
E-P7、M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R、絞り優先、123mm、F5.6、1/125秒、ISO800、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:Vivid
E-P7、M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R、絞り優先、74mm、F4.7、1/640秒、ISO800、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:Vivid
標準ズームレンズの広角側を使ってボケを演出したければ、可能な限り被写体に寄り、奥行きの出る背景を使って撮ってみよう。広角ならではの遠近感を取り込みながら、ダイナミックに背景をぼかせる
E-PL10、M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ、絞り優先、14mm、F3.5、1/2000秒、ISO1600、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:i-Finish
撮影写真(4608×3456、8.0MB)
E-PL10、M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ、絞り優先、14mm、F3.5、1/2000秒、ISO1600、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:i-Finish
撮影写真(4608×3456、8.3MB)
E-P7、M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ、絞り優先、14mm、F3.5、1/1000秒、ISO200、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:Vivid
撮影写真(4608×3456、9.0MB)
E-P7、M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ、絞り優先、19mm、F4、1/50秒、ISO800、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:Vivid
動物園で寝ているフェネックを撮影。低い位置から狙うことで、手前に前ボケを入れた。こうした描写は望遠レンズが行いやすい。絞りを開き、被写界深度を浅くすることで、前後の被写体をぼかしながら撮影できる
E-PL10、M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R、絞り優先オート、F5.6、1/1600秒、ISO1600、ホワイトバランス:オート、ピクチャーモード:i-Finish、145mm
撮影写真(3888×5184、3.0MB)
ちなみに、標準ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」と望遠ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R」を同じ焦点距離40mmで比較すると、望遠ズームのほうが開放値は小さい。標準ズームはF5.6だが、望遠ズームはF4だ。40mmで撮りたい場面では、望遠ズームのほうがボケ具合は大きくなる。
ただし、望遠ズームのほうはあまり寄れない。「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R」は被写体に近づける距離(最短撮影距離)が0.9mなのに対し、標準ズームの「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」は0.25mで、こちらのレンズのほうが被写体に寄れる。近づくことで、背景ボケを大きくできるのだ。そのため、40mmで撮る際どちらのレンズがボケるかは、シチュエーションや作りたい画によって変わる。総じて、望遠レンズは最短撮影距離が長い傾向にあるため、撮影時はこの点を意識しながら利用する必要がある。
なお、ボケ描写に影響を与える焦点距離ごとのレンズの特徴(広角や標準、望遠などの特徴)については、後編で詳しく解説していく。
今回使った標準ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ」と望遠ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R」は、日常生活の中で出合う被写体を過不足なく撮影できるように用意された、汎用性にすぐれたレンズ群である。リーズナブルな価格帯で購入しやすいのが魅力だ。敷居の低さと引き換えに開放値が大きいわけだが、“ボケる仕組み”を理解できれば、こうしたレンズでも十分にボケを利用した写真を撮影できる。
また、今回使用したミラーレスカメラ「E-PL10」と「E-P7」は、マイクロフォーサーズ規格であり、イメージセンサーの大きさがフルサイズやAPS-Cと比べて小さい。詳細は省くが、イメージセンサーは大きくなるほどボケが豊かになっていく。しかし、本記事で掲載した写真を見てもらえば、十分なボケの大きさを確認できたと思う。マイクロフォーサーズ機だからボケないというのは見当違いなのだ。
「E-PL10」や「E-P7」はカメラ本体も軽いが、付随するレンズ群もとても軽くて扱いやすい。つまり、カメラとレンズの両方で、総合的に小型・軽量を実現しているのだ。こうしたカメラシステムでドラマチックなボケを演出できることが、大きな意味を持つわけである。
後編は、ボケを楽しむノウハウの「単焦点レンズ編」をお届けする。単焦点レンズは開放値が小さいものがほとんどで、ズームレンズよりもはるかにボケが演出しやすい。「OM SYSTEM」の単焦点レンズは安価に購入できるものも多く、初心者の人でも手に取りやすい。広角、標準、中望遠それぞれの単焦点レンズの使い分け、画作りのポイントについて、「E-PL10」や「E-P7」の機能も紹介しながら解説していくので、楽しみにしていてほしい。
フォトグラファー。写真家テラウチマサト氏に師事後、2003年独立。ポートレートを中心に活動。最新著書に『まねる写真術』(翔泳社)、『一生ものの撮影レシピ』(日本写真企画)など。ポーラミュージアムアネックス(2015年/銀座)など写真展も多数。Profoto公認トレーナー。
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