今回取り上げる三脚グリップ「TG-BT1」(以下、TG-BT1)は、富士フイルムのミラーレスカメラを使っている人に注目してほしい、「Xシリーズ」用のメーカー純正アクセサリーだ。このアクセサリーをカメラに装着すれば、片手で操作が行えるようになるうえ、片手での自分撮りも可能になる(※バリアングル液晶モニターを採用するモデルとの組み合わせた場合)。今回は、動物園での撮影を通じて、その使い勝手をレビューしよう。
「Xシリーズ」用の三脚グリップとして登場した「TG-BT1」。「X-S10」などを組み合わせて使ってみた
最近のミラーレスカメラは、エントリーモデルでも4K動画を撮れるのが当たり前になるなど、静止画撮影だけでなく、動画撮影も充実してきている。
どのメーカーも動画撮影に関する機能やアクセサリーの充実を図っているが、富士フイルムも例外ではなく、2022年12月15日に、「Xシリーズ」用の三脚グリップ「TG-BT1」を発売した。
「TG-BT1」は、カメラ底面の三脚穴に装着して使用するグリップアクセサリーで、特に動画撮影において威力を発揮する。対応するカメラとBluetoothで接続すれば、グリップ本体に備わった操作ボタン(静止画のシャッターボタン、動画の撮影ボタン、電動ズームレンズのズームを操作できる「T/Wボタン」など)を使って、片手でのリモート操作が行える。さらに、グリップ部を開くとミニ三脚になるので、テーブルフォトなどで便利に活用できるのも特徴だ。
2023年1月23日時点での本製品に対応するカメラは、「X-H2S」(Ver.3.00以降)、「X-H2」(Ver.1.20以降)、「X-T5」(Ver.1.00以降)、「X-T4」(Ver.1.70以降)、 「X-T3」(Ver.4.50以降)、 「X-S10」(Ver.2.60以降)、 「X-T30 II」 (Ver.1.20以降)、「X-T30」(Ver.1.50以降)の8機種。ズーム操作は、「XF18-120mmF4 LM PZ WR」と「XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ」が対応している(※「X-T30 II」「X-T30」はズーム操作に非対応)。
グリップ本体に、静止画のシャッターボタン、動画の撮影ボタン、対応の電動ズームレンズと組み合わせた場合に使用できるズームボタン(T/Wボタン)などの操作系を搭載。カメラ本体とBluetoothで接続することで、片手でのリモート操作が可能になる(※有線接続機能は非搭載)。グリップの収納時のサイズは48.0(幅)×172.3(高さ)×38.3(奥行)mmで、一般的な折り畳み傘よりも少し小さい印象のコンパクトなサイズに収まっている
「TG-BT1」が便利なのは、装着したカメラの向きを自由に変えられること。カメラを装着する台座部分は、可動部・左側面のボタンをプッシュすることで、前後180度の範囲で段階的に調整できる。前面のボタンを押せば左右360°の回転が可能だ。バリアングル液晶モニターを搭載するカメラに取り付けた場合に自分撮りがしやすいというだけでなく、ローアングル/ハイアングル撮影時に角度が調整しやすいのもポイントだ。
「TG-BT1」の可動域をチェックした動画。前後180度の範囲で段階的に調整できるほか、左右360°の回転も可能だ
グリップ部分は力を入れてしっかりと握れる作り。バリアングル液晶搭載の「X-S10」との組み合わせでは、セルフィーグリップとしても使用可能。家族や動物と一緒に映りたいときにも使える
耐荷重は1.5kg。この写真では、ミラーレスカメラ「X-T5」(約557g)と、電動ズームレンズ「XF18-120mmF4 LM PZ WR」(約460g)の組み合わせてみた。カメラとレンズだけで1kgを超える組み合わせになると、女性の筆者の手ではちょっと不安を感じた。写真のモデルを担当してもらった男性編集部員によれば「片手持ちでも大丈夫」とのことだった
グリップ部分を広げると、三脚としても使用可能。防塵・防滴・-10度耐低温構造を実現しており、屋外での使用しやすいのがうれしい
テーブルフォトの撮影で利用してみたが、高さ調整ができない点と、アングル調整が段階的にしかできないため、小物の撮影よりも、人物や作業風景などの撮影のほうが使いやすいと感じた。本製品における三脚機能は、あくまでも付加機能ととらえておいたほうがよいだろう
今回、「X-S10」に「TG-BT1」を装着して、動物園にて動画を撮影し、その使い勝手を検証した。
以下に掲載する動画は、泳ぐペンギンをフルHD/60pで撮影したものになる。レンズには、重量約135gの軽量な電動ズームレンズ「XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ」を使用した。
カメラを手持ちで撮影する場合と違いを感じたのは、撮影中に、「あ、こっちのペンギンを撮ろう」と撮影対象を切り替えたとき(0:13〜)。普段手持ちで撮影しているときに比べて、スムーズに視点を移動できたように感じた。カメラを振ったときの揺れもかなり抑えられているように感じる。
「TG-BT1」のグリップをホールドしながら手持ちで撮影した動画。気になるようなブレがなく、安定した映像を記録できた
続いて、電動ズーム対応の高倍率ズームレンズ「XF18-120mmF4 LM PZ WR」にレンズを付け替えて、ワラビーを4K/30pで撮影した動画を掲載しよう。
「T/Wボタン」を使ってズーム操作も行ってみたが、グリップした状態を崩さずに操作できるので、手持ちながらそれなりに安定感を保って撮影できた。なお、ズーム速度はカメラボディ内の設定に加えて、グリップ側でも「T/Wボタン」の半押しで低速、全押しで高速と2段階で切り替えられる(※動画では半押しの低速ズームを試している)。
「T/Wボタン」半押しの低速ズームでワラビーにズームインした動画。こちらも大きなブレなく撮ることができた
「TG-BT1」を実際に使ってみて最も印象的だったのは、シャッターボタンや動画の記録開始ボタンなど、「カメラ本体では右手を使う必要がある操作が、“左手でも”できるようになる」ということの便利さ。片手が自由に使えるので、思った以上に、操作の自由度が向上すると感じた。
「TG-BT1」を使えば、安定した状態でカメラをホールドしながら、右手でも左手でも、常にシャッターボタンや動画撮影ボタンに指を添えたままの状況が作れるのだ。もちろん、カメラ本体だけでも片手操作は可能だが、「TG-BT1」を使うと撮影時やボタン操作時の安定感が大きく異なるのである。
「X-T5」に「TG-BT1」を装着して撮影。ローポジションで撮っているが、片手でも安定した構えでシャッターを切ったり、動画を撮ったりできる
「TG-BT1」を使った片手撮影が威力を発揮するのは、猫や犬などペットの撮影だろう。右手(もしくは左手)が自由になるので、ペットとコミュニケーションを取りながらの撮影がやりやすくなる。
たとえば、ペットの猫の撮影であれば、右手でカメラを持ちながら、左手で猫用のおもちゃを扱うという撮影がスムーズに行えるようになるはず。筆者は少し前に、知人が飼っている子猫を撮影したことがあるが、カメラを片手(右手)でホールドしながら、左手で猫のおもちゃを扱うのは非常に難しく、思うように撮ることができなかった。今回「TG-BT1」を使いながら、「あのとき、このアクセサリーがあれば……」と感じた次第である。
富士フイルム「Xシリーズ」(の上位機種)を使う醍醐味と言えば、何と言っても、ダイヤルによるアナログ操作だろう。筆者も、アナログ操作が好きで「Xシリーズ」を愛用している1人である。
そうしたコアな富士フイルムファンからすると、もしかすると、「TG-BT1」はそれほど必要性の高いアクセサリーではないと感じるかもしれない。しかし、実際に使ってみるとわかるが、「TG-BT1」は、片手ホールドで気軽に撮影を楽しむのにとても便利。特に動画撮影時がやりやすくなるので、持っておいて損はないはずだ。静止画撮影はカメラ本体に備わったダイヤルでアナログ操作を楽しみ、動画撮影は「TG-BT1」を使ってスムーズに行う、といったような使い分けをしてもよいだろう。
「TG-BT1」のメーカー希望小売価格は38,500円と、一般的なトライポッドグリップと比べると少々高額。しかし、価格.comなら最安25,891円(2023年1月27日時点)で手に入れることができる。対応機種を所有しているのなら、ぜひ、購入を検討してみてほしい。
万年筆、インク、紙を肴に飲む辛党ライター。チカチカ点滅するモニター画面や丸い押しボタン、ローレット加工を施したダイヤルなど、レトロチックなデザインにロマンを感じます。