「18-50mm F2.8 DC DN」のXマウント用をレビューします。「Xシリーズ」のフラグシップモデル「X-H2」と組み合わせて試写しました
2022年12月2日に、シグマから富士フイルムXマウント用の大口径・標準ズームレンズ「18-50mm F2.8 DC DN」が発売されました。ズーム全域で絞り開放F2.8の明るさを持ちながら、価格は、価格.com最安価格(2023年2月10日時点)で59,400円という、コストパフォーマンスの高い1本です。
本レンズ自体は、2021年10月に、ソニーEマウント用とライカLマウント用がすでに発売されていますので、今回は同レンズのXマウント用が新しく追加されたというわけです。
他マウントで同様のレンズが1年以上前に発売済みという事情もあることから、レンズの描写性能うんぬんもさることながら、「すでに純正の標準ズームを持っているけどさらに追加したい」、あるいは「標準ズームを持っていないのでどれがよいのか知りたい」といったように、「Xシリーズ」ユーザーの目線でのレビューをお届けしたいと思います。
「18-50mm F2.8 DC DN」の特徴を端的に言うと、「小さい、明るい、価格がやさしい」と表現できると思います。
組み合わせた「X-H2」は「Xシリーズ」の中でも大きなボディなので、「18-50mm F2.8 DC DN」の小ささが際立っています
本レンズの大きさがどのくらいなのかを、2023年2月16日時点でラインアップしている富士フイルム純正の標準ズームレンズ3本(「XCレンズ」は割愛します)と比較してみましょう。
18-50mm F2.8 DC DN(Xマウント用)
61.6(最大径)×76.8(長さ)mm/重量285g
XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS
65(最大径)×70.4(長さ)mm/重量310g
XF16-80mmF4 R OIS WR
78.3(最大径)×88.9(長さ)mm/重量440g
XF16-55mmF2.8 R LM WR
83.3(最大径)×106(長さ)mm/重量655g
といった具合で、純正の「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」が比較的拮抗するものの、本レンズが驚くほどの小型・軽量化を達成していることがわかります。これで開放F2.8通しの標準ズームだというのですから本当に驚きますね。
本レンズのプロダクトラインは、「最新のテクノロジーを投入、高い光学性能とコンパクトネスの両立で、幅広い撮影シーンに対応する」という「Contemporaryライン」です
ただ、18mm(35mm判換算27mm相当)から50mm(35mm判換算76mm相当)までと焦点距離のカバー域がやや狭いのは、純正レンズに及ばないところ。望遠端が50mmまでなのは、大口径を維持しながら目標とするサイズを達成するためだと思います。
ズーム域は焦点距離18〜50mm(35mm判換算で27〜75mm相当の画角)と、純正レンズよりやや狭めです
レンズが小さくて軽いということは、それだけで抜群のメリットがあります。持ち運びやすいので、カメラを持って撮影に出かけようという気持ちがグンと高くなります。
付属の花型フード「LH582-02」を装着したイメージ。フードを付けた状態でもコンパクトに収まっています
「18-50mm F2.8 DC DN」は、ズームを望遠端まで伸ばしても10cmに満たない長さです。これで開放F値はF2.8と変わらないのですから、使い勝手は本当によいです。
ズームを望遠端いっぱいまで伸ばした状態。この状態でも全長は10cm程度
本レンズは小型・軽量を優先したためか、スイッチやボタンは一切搭載していませんが、元々富士フイルムのレンズは純正でもスイッチ類が少なく、AFとMFの切り替えはボディ側で行う仕様ですので、不便を感じることはほとんどないと思います。
ただ、絞りリングも非搭載ですので、富士フイルムのカメラらしく絞り値の設定は趣のあるリングで行いたいという人には不満が残るかもしれません(本レンズの絞り設定はカメラのダイヤルで行います)。
また、レンズ内の光学式手ブレ補正機構も非搭載です。どうしても手ブレ補正を必要とする場合は、ボディ内手ブレ補正機構を搭載したカメラボディを使うことになります。
ズームリングとフォーカスリングのみを搭載した非常にシンプルなデザイン
開放F2.8通しの標準ズームレンズとしてはフィルター径が55mmと小さいのも本レンズのポイントです。フィルターの持ち運びが楽なのはもちろん、口径が小さい分フィルターの価格も安く、出費が抑えられます。これはなにげに非常に大切なことです。
フィルター径は55mmと、これもコンパクト
これほど小型・軽量化を徹底すると描写性能に影響がないのか気になるというもの。「18-50mm F2.8 DC DN」が実用的な解像性能を持っているのかどうかを確認してみました。
X-H2、18-50mm F2.8 DC DN、18mm(35mm判換算27mm相当)、ISO125、F2.8、1/680秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、21.6MB)
広角端18mm、絞り開放F2.8で撮影した写真です。絞り開放だと正直なところ少し解像感が低いです。しかし、今回は約4000万画素の高画素機「X-H2」で撮影したこともあるため、本レンズにとってはちょっと厳しすぎる条件でした。個人的には、小型・軽量と大口径を両立したレンズの描写としては許容範囲だと感じました。
X-H2、18-50mm F2.8 DC DN、18mm(35mm判換算27mm相当)、ISO125、F5.6、1/180秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、21.8MB)
広角端の描写性能は、1段絞ってF4にするだけで急激に向上し、さらに2段絞ってF5.6にすると、画面全体で非常に高い解像感を得られるようになります。風景撮影など、緻密な描写を望む場合は、F5.6以上にすれば満足できる描写が得られると思います。
X-H2、18-50mm F2.8 DC DN、50mm(35mm判換算76mm相当)、ISO125、F2.8、1/750秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、21.8MB)
望遠端50mmの絞り開放F2.8で撮影した写真です。望遠端では絞りが開放F2.8でも、広角端ほど解像感の甘さが見られず、画面中心と周辺部との描写性能の差が少ない、安定した画像が得られました。
X-H2、18-50mm F2.8 DC DN、50mm(35mm判換算76mm相当)、ISO125、F4、1/350秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、23.4MB)
望遠端も広角端と同様、絞れば画質はさらに向上します。絞り開放との差は少なく、1段絞ったF4にするだけで、画面の周辺までほぼ完璧な解像感が得られます。「絞り開放から高い解像性能を発揮するすぐれた標準ズーム」ということですね。
というわけで、解像性能に関しては、広角端の絞り開放時にやや甘さが感じられるだけで、それ以外は十分にすぐれた描写性能を持ったレンズだと感じました。さすがに純正の高性能モデルには及びませんが、本レンズのサイズや重量、価格を考えれば立派な結果だと思います。
「18-50mm F2.8 DC DN」は小型・軽量で明るいだけでなく、近接撮影性能が高いのも特徴のひとつです。
広角端での最短撮影距離は12.1cm、最大撮影倍率は約0.36倍。最短撮影距離は撮像面から被写体までの距離ですので、レンズ先端からだとわずか数センチという距離まで寄ることができます。レンズフードを付けていると被写体に衝突してしまうほどの近さです。
X-H2、18-50mm F2.8 DC DN、18mm(35mm判換算27mm相当)、ISO400、F2.8、1/950秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、16.1MB)
広角端の最短撮影距離で実際に撮影した写真です。レンズフードの接触や自分の影の写り込みに注意しなければいけないほど寄れます。これくらい寄れると広角18mmでも背景はかなりボケます。背景を広く入れながら被写体は大きく写す、いわゆるワイドマクロ的な撮り方が楽しいレンズです。
X-H2、18-50mm F2.8 DC DN、18mm(35mm判換算27mm相当)、ISO125、F2.8、1/60秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、16.9MB)
広角端の最短撮影距離の写真をもう1枚。倒木のコケを撮影してみました。ピント面より手前のボケは収差の影響が強いのか、渦を巻いたようなグルグルボケになりますが、ここまで寄れる便利さを提供してくれているのですから、多少の乱れはご愛敬といったところでしょう。むしろ味と受け取って作画に生かしてみたくなります。
X-H2、18-50mm F2.8 DC DN、50mm(35mm判換算76mm相当)、ISO400、F4、1/400秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、17.0MB)
本レンズの望遠端の最短撮影距離は30cmで、広角端の12.1cmに対してあまり寄れないように感じられます。しかし、純正レンズの「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」の望遠端の最短撮影距離は40cm、「XF16-80mmF4 R OIS WR」は35cm、「XF16-55mmF2.8 R LM WR」は40cmなので、本レンズは望遠端においても“寄れるレンズ”であることがわかります。適度な圧縮効果と背景ボケが得られますので、30cmという撮りやすいワーキングディスタンスと相まって、広角端よりも使いやすいと感じる人も多いと思います。
「18-50mm F2.8 DC DN」は小型・軽量な大口径・標準ズームということで、散歩のお供に持ち出してみました。
組み合わせたカメラボディは「X-H2」。現行の「Xシリーズ」の中では大柄ですが、レンズがコンパクトなので携行するにしても撮影時に撮り回すにしても非常に楽でした。本レンズを使ってみて「ミラーレスカメラはボディこそ小型・軽量化しているけど、レンズはずいぶん大きかったのだなあ」と実感したものです。
X-H2、18-50mm F2.8 DC DN、35mm(35mm判換算53mm相当)、ISO125、F5.6、1/38秒、ホワイトバランス:AUTO、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、23.9MB)
焦点距離35mm(35mm判換算53mm相当)での撮影。F5.6まで絞った時の解像感はすばらしく高く、自転車や建物の壁の質感を克明にとらえてくれました。筆者はスナップ撮影をするとき、絞り値はF4〜F5.6くらいにすることが多いので、この質感描写のよさにうれしくなってしまいました。
X-H2、18-50mm F2.8 DC DN、36mm(35mm判換算54mm相当)ISO125、F2.8、1/300秒、ホワイトバランス:AUTO、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、16.1MB)
焦点距離36mm(35mm判換算54mm相当)での撮影。赤い実がひとつだけ葉に抱かれているようで可愛らしかったので撮りました。この写真は短撮影距離での撮影ではありませんが、近接撮影性能が高いだけに、距離を気にせず被写体に近寄れるのが好印象でした。ボケ味がやわらかく自然なところも大変すばらしいです。
X-H2、18-50mm F2.8 DC DN、50mm(35mm判換算76mm相当)、ISO400、F2.8、1/15秒、ホワイトバランス:AUTO、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、18.5MB)
望遠端の焦点距離50mm(35mm判換算76mm相当)での撮影。手前に幅の狭い鉄格子があったのですが、格子の隙間にレンズを通して撮影しました。小柄なレンズだからこそ可能だったわけで、小さいということが意外なところで役立ってくれました。ちなみに、最新の富士フイルムのミラーレスは被写体検出AFを搭載していますが(この写真は「動物」を選択)、本レンズでもまったく問題なく動作しました。
X-H2、18-50mm F2.8 DC DN、18mm(35mm判換算27mm相当)、ISO125、F5.6、1/20秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、18.6MB)
広角端の焦点距離18mm(35mm判換算27mm相当)での撮影、なのですが、ちょっと残念だったのが広角側で色収差の発生が見られること。この作例だとレンガの縁に色ズレが見られます。絞っても消えないことから倍率色収差だろうと思いますが、シーンによっては目立つかもしれません。PC上のレタッチソフトで修正できますが、できればカメラボディ内の補正機能を使って消えるようにしてほしかったと思いました。
X-H2、18-50mm F2.8 DC DN、22.4mm(35mm判換算34mm相当)、ISO125、F2.8、1/5800秒、ホワイトバランス:8030K、フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
撮影写真(7728×5152、16.4MB)
焦点距離22.4mm(35mm判換算34mm相当)での撮影。夕方の太陽がイイ感じでしたので、ホワイトバランスを手動の8030K、フィルムシミュレーションを「ノスタルジックネガ」にして、夕景の雰囲気を演出してみました。この程度の太陽光でしたら逆光でゴーストやフレアがでることはありません。ほかにもいろいろなシチュエーションで逆光性能を試しましたが、よほど激しい条件でなければゴーストの発生は見られず、概して優秀な性能でした。
「18-50mm F2.8 DC DN」に対して、「このサイズ、この軽さ、この値段でF2.8通しの大口径というのはすばらしい!」というのは、先行するソニーEマウント用とライカLマウント用の同レンズが発売されたときに思ったことです。ですので、今回新たにXマウント用が追加されたのは、いち富士フイルムユーザーとして誠によろこばしいことでした。
広角端付近での絞り開放での解像感低下と、倍率色収差はやや気になりますが、本文中でも述べましたように、本レンズのサイズを考えれば、十分に許容できる範囲のささやかなことだと思います。つまり実用上まったく問題のない描写性能を持ったレンズということです。
通称「レッドバッジズーム」と呼ばれる、「XF16-55mmF2.8 R LM WR」を持っている人なら、本レンズを追加購入する価値はあると思います。筆者は「XF16-55mmF2.8 R LM WR」を所有していますが、仕事の撮影や気合を入れた撮影以外、ほとんど持ち出すことがありません。理由は重いからなのですが、本レンズならもっとずっと気楽になるため、持ち出し率は高くなることでしょう。
同様に、「XF16-80mmF4 R OIS WR」を持っている人にとっても、本レンズは追加購入する価値があると思います。ズーム域こそ狭くなりますが、よりコンパクトで明るいレンズを使いたいシーンは意外と多いです。
「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」を持っている人は少し難しいですね。サイズ的にも、価格的にも、開放F値的にも重なるところが多いです。しかし、本レンズの「寄れる」能力とF2.8通しの開放F値はやはり便利ですので、そこに魅力を感じるのでしたら、追加購入(あるいは買い替え)もアリではないかと思います。
そして、Xマウントの標準ズームをまだ持っていないという人。本レンズは非常におすすめです。とりあえずでも本レンズを手に入れれば、きっとすてきなフォトライフが送れることでしょう。ただし、上記の純正レンズのほかに、タムロンの「17-70mm F/2.8 Di III-A VC RXD」という選択肢もあり、それぞれに異なる特徴があるので、購入の前にはよく調べて納得のうえで決めたほうがよいと思います。
信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌などで執筆もしている。写真展に「エイレホンメ 白夜に直ぐ」(リコーイメージングスクエア新宿)、「冬に紡ぎき −On the Baltic Small Island−」(ソニーイメージングギャラリー銀座)、「バルトの小島とコーカサスの南」(MONO GRAPHY Camera & Art)など。