レビュー

シグマの大口径・標準レンズ「50mm F1.4 DG DN」レビュー、新旧モデルの違いを比較

シグマの新しい標準レンズ「50mm F1.4 DG DN」(ソニーEマウント用)をレビューします。今回はソニーのフルサイズミラーレスカメラ「α7 IV」との組み合わせで試写しました

シグマの新しい標準レンズ「50mm F1.4 DG DN」(ソニーEマウント用)をレビューします。今回はソニーのフルサイズミラーレスカメラ「α7 IV」との組み合わせで試写しました

2023年2月23日に発売された、シグマの「50mm F1.4 DG DN」は、ミラーレスカメラ用に設計された、フルサイズ対応の大口径・標準レンズ。最高峰の描写性能を追求した「Art」ラインに属する高性能モデルです。ソニーEマウント用とライカLマウント用の2種類が用意されています。

シグマの50mm単焦点レンズと言えば、すでに「50mm F1.4 DG HSM」がラインアップされています(ソニーEマウント用は2018年5月の発売)。しかし、こちらは一眼レフカメラ用のレンズをミラーレス用に変更したもの。純粋にミラーレス用として設計された、シグマの「50mm F1.4レンズ」は今回紹介する「50mm F1.4 DG DN」が初です。

「最高性能の50mm F1.4」というコンセプトで誕生し、実際にその高い光学性能で定評のある旧モデルに対して、最新設計の新モデルはどれほどの違いがあるのでしょうか? 比較を交えながら確認していきたいと思います。

旧モデルよりスリムでコンパクト

新モデル「50mm F1.4 DG DN」+「α7 IV」

ミラーレス用として登場した最新設計の「50mm F1.4 DG DN」

ミラーレス用として登場した最新設計の「50mm F1.4 DG DN」

こちらが今回紹介する新モデルの「50mm F1.4 DG DN」。組み合わせた「α7 IV」と比べると結構大きく感じるかもしれませんが、解像性能が向上し続けているフルサイズミラーレス用の大口径・標準レンズとしては標準的と言えると思います。

旧モデル「50mm F1.4 DG HSM」+「α7 IV」

一眼レフ用として2014年に登場したレンズを、ミラーレス用(ソニーEマウント用)に変更して2018年に発売された「50mm F1.4 DG HSM」

一眼レフ用として2014年に登場したレンズを、ミラーレス用(ソニーEマウント用)に変更して2018年に発売された「50mm F1.4 DG HSM」

そしてこちらが、旧モデルの「50mm F1.4 DG HSM」。新モデルと比べると、特に全長が長く、ひと回りもふた回りも大きい印象です。

新モデル「50mm F1.4 DG DN」(左)と旧モデル「50mm F1.4 DG HSM」(右)を並べてみました

新モデル「50mm F1.4 DG DN」(左)と旧モデル「50mm F1.4 DG HSM」(右)を並べてみました

並べてみるとサイズの違いは明らかです。

・50mm F1.4 DG DN
78.2(最大径)× 111.5(長さ)mm/重量660g
・50mm F1.4 DG HSM
85.4(最大径)× 125.9(長さ)mm/重量880g
※いずれもソニーEマウント用の場合

パッと見は長さの違いに注目しますが、その実、長さだけでなく最大径や重量も新モデル「50mm F1.4 DG DN」のほうが小さいのです。

旧モデル「50mm F1.4 DG HSM」(左)は、新モデル「50mm F1.4 DG DC」(右)と比べて、レンズ後端からマウントまでの距離が長く取られています

旧モデル「50mm F1.4 DG HSM」(左)は、新モデル「50mm F1.4 DG DC」(右)と比べて、レンズ後端からマウントまでの距離が長く取られています

旧モデルの筐体が長いのは、元々一眼レフ用だったレンズなので、一眼レフのミラーボックス用を避けるために取られたマージンが、ミラーレス用でもそのまま残ったためでしょう。

ちなみに、新モデル「50mm F1.4 DG DN」の「DN」は、ショートフランジバックを採用したミラーレスに最適化した設計、という意味です。

しかし、新モデルがここまでの小型・軽量化を達成しているのは、ミラーレス専用として最新技術に基づいた設計がされているからだと思われます。小型・軽量化を進めながら光学性能を進展させる潮流は、昨今のミラーレス用の高性能レンズのトレンド。つまり、新モデルは、満を持してシグマが出した大口径の標準レンズということになります。これは画質にも期待したくなりますね。

充実したボタン/スイッチ類の装備

新モデル「50mm F1.4 DG DN」は、サイズや重量だけでなく、操作性についても大きく変わっています。

まず大きな違いが、「絞りリング」を搭載したこと。ソニーEマウントやライカLマウントのミラーレスは、絞りリングを搭載した高性能レンズが多くラインアップされていますので、新モデルはそれに合わせた格好かもしれません。

「絞りリングは撮影に欠かせない操作性か」と言えば、そうでもありませんが、絞り設定が視覚的にわかりやすく、カメラを操作しているという実感も満たされますので、個人的には好きな仕様です。

新モデル「50mm F1.4 DG DC」は「絞りリング」を搭載

新モデル「50mm F1.4 DG DC」は「絞りリング」を搭載

「絞りリング」のあるところに「絞りリングロックスイッチ」あり。これは、最小F値(本レンズの場合はF16)から絞りオートの「A」に、あるいは「A」から「その他のF値」へと、不用意に切り替わらないようにするためのもの。こちらも、欠かせない操作性か、と言えばそうでもありませんが、高性能ラインに属するだけに、キチンと搭載している姿勢が親切ていねいですばらしいと思います。

不用意に「A」と「その他のF値」が切り替わらないように「絞りリングロックスイッチ」が搭載されています

不用意に「A」と「その他のF値」が切り替わらないように「絞りリングロックスイッチ」が搭載されています

「フォーカスモード切換えスイッチ」しか搭載していなかった旧モデルと比べると、新モデルのボタン類は豪華です。上述の「絞りリングロックスイッチ」もそのひとつですが、「フォーカスモード切換えスイッチ」のほかに「AFLボタン」や「絞りリングクリックスイッチ」も備えています。

「絞りリングクリックスイッチ」が新たに搭載されたのは、F値の変更にともなって映像の明るさがカクカクと段を付けて変わらないようにする、動画撮影への配慮だと思われます。

3種類が並んだ、「50mm F1.4 DG DC」の豪華なボタン/スイッチ類

3種類が並んだ、「50mm F1.4 DG DC」の豪華なボタン/スイッチ類

フィルター径は、旧モデルの77mmから72mmへと縮小しています。77mmと72mmでは、フィルター類の価格に意外な差がありますので、これはうれしい変更点です。保護フィルターはもちろん、PLフィルターやNDフィルターを揃えるのもリーズナブルです。

フィルター径は、旧モデルの77mmよりもひとまわり小さい72mmに。ダウンサイズの恩恵を感じるところです

フィルター径は、旧モデルの77mmよりもひとまわり小さい72mmに。ダウンサイズの恩恵を感じるところです

比較するまでもなくトップクラスの解像性能

サイズ感や操作性は、新モデル「50mm F1.4 DG DN」のほうがすぐれていることがわかったところで、新旧モデルの描写性能の違いを見てみたいと思います。まずは解像性能から。

新モデル「50mm F1.4 DG DN」で撮影

α7 IV、50mm F1.4 DG DN、ISO100、F1.4、1/4000秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、27.2MB)

α7 IV、50mm F1.4 DG DN、ISO100、F1.4、1/4000秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、27.2MB)

新モデル「50mm F1.4 DG DN」は、妥協のない光学性能と、フルサイズミラーレスに合わせた最新の光学設計を取り入れているだけあって、非常にすばらしい解像力を持っています。普通、大口径レンズの絞り開放F1.4で風景を撮ることはないですが、本レンズなら常識を破って開放でもいけてしまうのではないか(いや、いける)と思うほど、非常にすばらしい解像性能です。中心から周辺まで、まるで絞り込んで撮影したかのような写真に仕上がっています。

旧モデル「50mm F1.4 DG HSM」で撮影

α7 IV、50mm F1.4 DG HSM、ISO100、F1.4、1/4000秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、26.6MB)

α7 IV、50mm F1.4 DG HSM、ISO100、F1.4、1/4000秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、26.6MB)

いっぽうで、旧モデル「50mm F1.4 DG HSM」はどうかというと、これまた「最高性能の50mm F1.4」をうたっていただけあって、新モデルと比べてもまったく問題のないすばらしい解像感を提供してくれています……というのは、実は画面中央部の話。周辺部、特に四隅まで目を移すと、明確に(おそらくは諸収差の影響による)解像性能の低下にともなった像の乱れが見られます。

ミラーレスは、単に一眼レフのクイックリターンミラー機構を省略して小型・軽量化を図ったカメラではありません。一眼レフに比べて光学設計の自由度が向上したことで、画質の向上も実現しているのです。

新モデル「50mm F1.4 DG DN」は、ミラーレスだからこその高画質化への道を、如実に体現しているレンズと言えるでしょう。少なくとも、絞り開放付近における描写性能については、圧倒的に新モデルのほうがすぐれています。ミラーレス専用設計として開発された標準レンズの中でもトップクラスの性能を持ったレンズだと断言できるほどです。

わずかな最短撮影性能の差

新モデル「50mm F1.4 DG DN」は、サイズ感や操作性、さらには描写性能においても旧モデルを凌駕しているように思えますが、ほんのわずかに劣っているかな? という部分が最短撮影性能です。

新モデル「50mm F1.4 DG DN」で撮影

α7 IV、50mm F1.4 DG DN、ISO100、F1.4、1/200秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、17.1MB)

α7 IV、50mm F1.4 DG DN、ISO100、F1.4、1/200秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.1MB)

新モデル「50mm F1.4 DG DN」の最短撮影距離で撮影した写真です。最短撮影距離は45cmで、最大撮影倍率は約0.15倍。はっきり言ってそれほどの最短撮影性能ではありませんが、画質を重視した大口径・標準レンズとしては、これも標準的な仕様です。

旧モデル「50mm F1.4 DG HSM」で撮影

α7 IV、50mm F1.4 DG HSM、ISO100、F1.4、1/200秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、16.9MB)

α7 IV、50mm F1.4 DG HSM、ISO100、F1.4、1/200秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、16.9MB)

対して、旧モデル「50mm F1.4 DG HSM」はというと、最短撮影距離は40cmで新モデルより5cm短いうえ、最大撮影倍率は約0.18倍と多少なりとも大きくなります。本当にわずかな差でしかありませんが、ミラーレスカメラにおいて、「寄れない」というのは大きなデメリットに感じてしまいがちです。

しかしながら、作例を見てもわかるように、焦点距離50mmにおいて、最短撮影距離5cm、最大撮影倍率0.03倍の差というのは非常に微々たるものでしかありません。そもそも画質重視のレンズは寄れないのが当たり前ですので、わずかな最短撮影性能の差を重視するのはナンセンスと言えるのではないでしょうか。

ちなみに、被写体との距離が縮まるにつれてよく見えてくる「ボケ味」は、両レンズとも、嫌味のない自然でやわらかい印象です。大口径・標準レンズといえばボケ味のよさも欠かせない要素ですが、この点については新旧レンズとも、いわゆる「やわらかく、きれいなボケ味」を描いてくれているものと感じました。

新レンズでいろいろ撮ってみて感じたことを、そこはかとなく

α7 IV、50mm F1.4 DG DN、ISO400、F1.4、1/640秒、ホワイトバランス:5800K、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、18.2MB)

α7 IV、50mm F1.4 DG DN、ISO400、F1.4、1/640秒、ホワイトバランス:5800K、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、18.2MB)

リニアモーターを採用した「50mm F1.4 DG DN」のAF性能は、非常に速く正確で、そして静かです。動く被写体の追従性能も問題を感じることはありませんでしたし、動画撮影でもAF駆動音が記録されてしまうことはほとんどないと思います。こうしたところは、パワフルで高速ながらも、静粛とは言い難い超音波モーター「HSM」を採用した旧モデル「50mm F1.4 DG HSM」との差を感じる点です。

α7 IV、50mm F1.4 DG DN、ISO100、F4、1/250秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、18.4MB)

α7 IV、50mm F1.4 DG DN、ISO100、F4、1/250秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、18.4MB)

少し絞り込んだF4でのスナップ撮影。絞り開放のF1.4でもすばらしい解像感を見せてくれる「50mm F1.4 DG DN」ですが、少し絞っただけで、シグマのレンズらしいキリキリと切れ込んだ、カミソリのようなシャープさが得られます。こうした絞り値の幅広さからくる描写の違いを楽しめるのは大口径レンズの醍醐味と言えます。

α7 IV、50mm F1.4 DG DN、ISO100、F2、1/200秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、18.1MB)

α7 IV、50mm F1.4 DG DN、ISO100、F2、1/200秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、18.1MB)

小さな花瓶に造花をさしただけのものでしたが、何だかよい雰囲気でしたので、露出を切り詰めたアンダー目で撮ってみました。周りの状況を残しつつ、被写体を浮かび上がらせるボケ感が欲しかったため、F2の絞り値を選択しました。この見た目は普通ながら雰囲気のよい写真が撮れるのは、大口径・標準レンズの力によるところです。絞り値に寄らず高画質なところが安心です。

α7 IV、50mm F1.4 DG DN、ISO400、F4、1/400秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、21.7MB)

α7 IV、50mm F1.4 DG DN、ISO400、F4、1/400秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、21.7MB)

寺社に植えられた樹木の肌が気になりましたので撮ってみました。難しい条件の背景が、思いのほか素直にボケてくれたおかげで、樹皮の質感を力強く表現できました。小型とまでは言えないまでも、このサイズと重量で、ここまですばらしい表現力を見せてくれるのだから、素直にすぐれた標準レンズだと感心しました。

α7 IV、50mm F1.4 DG DN、ISO200、F4、1/1000秒、ホワイトバランス:5800K、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、15.8MB)

α7 IV、50mm F1.4 DG DN、ISO200、F4、1/1000秒、ホワイトバランス:5800K、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、15.8MB)

シグマ独自の多層膜コーティング「スーパーマルチレイヤーコート」が施されているというだけあって、逆光性能もすぐれたものがあります。内面反射で盛大なフレアに覆われそうな、真逆光のシーンでも、この写真のように、ゴーストの発生もなく適切なコントラストを維持してくれるのだからたいしたものです。マルチに活躍できる「50mm F1.4レンズ」と言えるでしょう。

まとめ 旧モデルを超えた最高峰「50mm F1.4レンズ」の1本

フルサイズ規格のデジタルカメラにとって、「50mm F1.4レンズ」は、いわゆる標準レンズと呼ばれる焦点距離の中でも特別な意味を込められて設計されているレンズだと思います。それだけに各社、手を抜くことがなく最高性能のレンズにしようとする気概を感じることができます。

今回紹介した「50mm F1.4 DG DN」も、そうした「妥協のない光学性能」を目指して設計された大口径・標準レンズの1本。その気概は見事に達成され、そもそも定評のあった旧モデル「50mm F1.4 DG HSM」の性能さえも見事に超えた仕上がりです。優秀な大口径・標準レンズはいくつもありますが、「50mm F1.4 DG DN」は、間違いなくそうしたレンズの1本に数えられることでしょう。

「50mm F1.4 DG DN」のプロダクトラインは「Art」です。「A」のマークは、最高の光学性能と豊かな表現力に注力して開発された、シグマの最高峰レンズの証し

「50mm F1.4 DG DN」のプロダクトラインは「Art」です。「A」のマークは、最高の光学性能と豊かな表現力に注力して開発された、シグマの最高峰レンズの証し

ただし、究極の高性能を目指した結果、最新の「50mm F1.4レンズ」は、全体的に結構価格が高くなっています。メーカーにもよりますが、20万円近いものや20万円を超えるものもあるくらいです(かつて「50mm F1.4レンズ」は手に入れやすい大口径レンズの代表格だったことを考えると少々残念ではあります)。

その点、今回紹介した「50mm F1.4 DG DN」は、価格.com最安価格(2023年3月20日時点)で123,749円(ソニーEマウント用)と比較的価格が抑えられています。これほどまでの高い性能と仕様を考慮すると、この価格は破格と言ってもいいかもしれません。

曽根原 昇

曽根原 昇

信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌などで執筆もしている。写真展に「エイレホンメ 白夜に直ぐ」(リコーイメージングスクエア新宿)、「冬に紡ぎき −On the Baltic Small Island−」(ソニーイメージングギャラリー銀座)、「バルトの小島とコーカサスの南」(MONO GRAPHY Camera & Art)など。

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