2022年10月13日に発売された、タムロン「150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD(Xマウント用)」
タムロン「150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD(Xマウント用)」は、富士フイルム「Xシリーズ」ミラーレスカメラ用の、高性能な超望遠ズームレンズ。2021年6月に発売されたソニーEマウント用をベースに、APS-CサイズのXマウント用に設計し直したレンズです。
つまり、本来フルサイズ対応のレンズを、APS-C用として新たに発売したということになります。元々がフルサイズ対応ですので、APS-Cで使うと焦点距離は225mm〜750mm相当になり、遠くの被写体を大きく写したい望遠系レンズとしては有利に働いてくれます。また、イメージサークルの中心部分を使うことになるため、画質的にも有利に働いてくれるかもしれません。
まずは本レンズのサイズ感を確認したいと思います。
タムロン「150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD(Xマウント用)」と富士フイルム「X-H2」を組み合わせたイメージ
本レンズのサイズは93(最大径)×209.9(全長)mmで、重量は1710g(三脚座除く)。焦点距離150〜500mmというズーム域がミラーレスカメラ用としては珍しいため、単純に比べるのは難しいですが、それでも焦点距離500mmに対応するズームレンズで、このサイズ感は十分に軽量コンパクトと言えると思います。
とは言っても、これはフルサイズ対応としてみた場合の話。APS-C用として考えると、ズーム域こそ異なるものの、富士フイルム純正の超望遠ズームレンズはもう少し筐体が軽いです。そのため、本レンズに対して一概に「軽い! 小さい!」とよろこべないところがあります。
タムロン「150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD(Xマウント用)」
93(最大径)×209.9(全長)mm/重量1710g(三脚座除く)
富士フイルム「XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR」
94.8mm(最大径)×210.5(全長)mm/重量1375g(三脚座除く)
富士フイルム「XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR」
99mm(最大径)×314.5(全長)mm/重量1605g(三脚座除く)
本レンズは、フルサイズ対応レンズとしては軽量でコンパクトな超望遠ズームであることは間違いないと思います。しかし、描写性能を維持しながら小型・軽量なレンズを作るという流れは、現在各メーカーがしのぎを削っているところ。その中にあって高性能なAPS-C用としては「一般的な小型・軽量モデル」くらいに考えたほうがよいかもしれません。
本レンズは、いわゆる高性能ラインのレンズですので、スイッチ類は豊富に取り揃えられています。
「フォーカスリミッタースイッチ」など多くのスイッチが備わっています
筐体左手側の操作性では、いちばん上に「フォーカスリミッタースイッチ」を搭載しています。文字通り、ピントを合わせる距離を制限または開放するためのスイッチです。超望遠レンズは撮影距離の幅がとても長いため、条件によってはカメラがピント位置を探り当てるのに時間がかかってしまうので必須の機能と言えます。
その下にあるのが「MFスピード切り替えスイッチ」です。ソニーEマウント用にはない、富士フイルムXマウント用独特のスイッチで、MF時に厳密にピントを合わせたいときに役立ちます。「2」に設定するとMF時のフォーカスリング操作がゆっくりになるため、精密な操作がやりやすくなる機能。ソニーEマウント用では「AF・MF切り替えスイッチ」でしたが、ボディ側でのフォーカスモード切り替えがやりやすい「Xシリーズ」なら、こちらのほうが便利かもしれません。
上から3番目のスイッチは「VCスイッチ」。VC(光学式手ぶれ補正機能)の有無を切り替えるためのスイッチです。
上から4番目のスイッチは「VCモード切り替えスイッチ」。光学式手ぶれ補正機能のモードを切り替えるためのスイッチです。
さらに、ズームレンズの設計/製造が得意なタムロンのレンズだけに、筐体右手側には、お得意の「ワイド側ズームロックスイッチ」も備えています。このスイッチを使えば、広角端でズーム操作をロックできますので、移動時などに鏡筒が伸びてしまい、何かに接触してレンズを損傷するといった事故を防ぐことができます。
「ワイド側ズームロックスイッチ」も装備しています
そして本レンズの操作性において最大の特徴と言えるのが「フレックスズームロック機構」です。これはズームリングを任意の位置でスライドさせることで、瞬時にズーム位置をロック/解除できるというすぐれもの。風景撮影などで、任意の位置でズームがズレないようにしたいときはもちろん、「ワイド側ズームロックスイッチ」と同じように、携行時の不用意な鏡筒の伸縮を防ぐこともできます。
「フレックスズームロック機構」は任意のズーム位置で焦点距離をロックできます。ロックすると白いラインが現れるのがわかりやすいです
付属の三脚座はアルカスイス互換です。対応する三脚を持っている場合、三脚への固定がスムーズに行えるので便利ですね。もちろんアルカスイス互換でない三脚へも普通に固定できます。
アルカスイス互換の付属三脚座
さらに、三脚座にはストラップホールも装備されています。ボディ側でなく三脚座(レンズ側)にストラップを装着できますので、全体の重心バランスを向上できるほか、マウント面への負荷を軽減できるのではないかと思います。
付属三脚座にはストラップホールも備わっています
続いて、本レンズの解像性能を見ていきたいと思います。
広角端150mmで絞り開放F5の描写を確認してみました
X-H2、150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD、150mm(35mm判換算225mm相当)、ISO125、F5、1/170秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:Velvia/ビビッド
撮影写真(7728×5152、24.9MB)
まずは広角端150mm(35mm判換算225mm相当)で絞り開放F5での撮影です。本来フルサイズ対応のレンズをAPS-C用として使っているからか、さすがに絞り開放からすばらしい解像感を見せてくれています。細かいことを言えば、画面の中央部より周辺部のほうが、ほんのわずかに解像感が甘いような気もしますが、よほど拡大してみなければそれもほぼ問題にならないレベルです。
広角端150mmで絞り値F8の描写を確認してみました
X-H2、150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD、150mm(35mm判換算225mm相当)、ISO125、F8、1/75秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:Velvia/ビビッド
撮影写真(7728×5152、25.1MB)
少し絞ってF8にすれば、わずかに甘かった周辺部の描写も完璧と言えるまでに向上します。コントラストも十分で、画面全体がキリリと引き締まり、非常に満足感の高い気持ちのよい描写が得られるようになります。
望遠端500mmで絞り開放F6.7の描写を確認してみました
X-H2、150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD、150mm(35mm判換算225mm相当)、ISO125、F6.7、3.1秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、19.9MB)
次に望遠端500mm(35mm判換算750mm相当)の絞り開放F6.7での撮影です。こちらも絞り開放から納得の解像感。今回は有効約4020万画素の富士フイルム「X-H2」で試写をしていますが、高画素機であるボディ側の解像性能を超えているのではないかと思えるくらいの、見事な解像感です。
望遠端500mmで絞りF8の描写を確認してみました
X-H2、150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD、500mm(35mm判換算750mm相当)、ISO400、F8、1/27秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:Velvia/ビビッド
撮影写真(7728×5152、20.8MB)
絞り開放時と異なる条件ではありますが、望遠端でも少し絞ったF8での描写を確認しています。F6.7からF8ですので半段程度しか変わりませんが、やはり解像感は画面全体で向上します。
ただ、35mm判換算の焦点距離が750mm相当で絞り値がF6.7やF8になると、手ぶれ補正機能を効かせたり、あるいは三脚でカメラを固定したりしても、被写体側のわずかな動き(いわゆる被写体ブレ)で先鋭性が低下してしまうことが多かったです。
本レンズは超望遠ズームレンズながらすぐれた近接撮影能力を持ち、被写体を大きくクローズアップできるのも特徴のひとつです。
広角端150mmの最短撮影距離での撮影
X-H2、150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD、150mm(35mm判換算225mm相当)、ISO400、F5、1/900秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:ASTIA/ソフト
撮影写真(7728×5152、15.3MB)
広角端150mm(35mm判換算225mm相当)での最短撮影距離は0.6m。撮影倍率は約0.32倍ですので、マクロレンズまでとはいきませんが、小さな被写体でも相当な大きさで写すことが可能です。0.6mとワーキングディスタンスを長く取れるため、被写体に自分の影が被りにくく、また昆虫などを警戒させずに撮れるのが便利です。
望遠端500mmの最短撮影距離での撮影
X-H2、150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD、500mm(35mm判換算750mm相当)、ISO400、F6.7、1/450秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:ASTIA/ソフト
撮影写真(7728×5152、16.4MB)
いっぽうで、望遠端500mm(35mm判換算750mm相当)の最短撮影距離は1.8m。撮影倍率は広角端ほど高くなく、それほど大きく写すことはできません。ただ、試写してみた印象としては、大きく撮影倍率が落ちるわけではないので、ワーキングディスタンスをさらに長く保ってクローズアップ撮影をしたい場合などには、変わらず便利に使えます。
X-H2、150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD、150mm(35mm判換算225mm相当)、ISO125、F5、1/80秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、25.2MB)
満開目前のサクラを撮ってみました。解像性能の高さはもちろんのこと、ハイライトからシャドーまでの階調の出方が繊細で、また色調も大変好ましく感じられます。タムロンのレンズに共通する、ナチュラルな描写性能と富士フイルムのデジタルカメラは相性がよいと思いました。
X-H2、150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD、500mm(35mm判換算750mm相当)、ISO400、F7.1、1/85秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、17.9MB)
フラミンゴです。思ったより激しく首を動かすのでフォーカシングが難しいところですが、リニアモーターフォーカス機構「VXD」を搭載する本レンズは素早く的確にピントを追従し続けてくれました。また、ボディ側の被写体認識AFも問題なく作動して、正確に瞳にピントを合わせてくれました。レンズとボディの通信制御も不安がありません。
X-H2、150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD、500mm(35mm判換算750mm相当)、ISO125、F11、1/8.5秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、21.7MB)
F11まで絞ると回折現象で像がにじむのを心配するところですが、富士フイルムのデジタルカメラは回折補正機能(点像復元処理)を搭載しているため、絞り込んでもきれいに写ります。シャッター速度の低下が許容できる範囲なら、絞り込んでレンズの高画質を楽しむというのもアリですね。
X-H2、150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD、500mm(35mm判換算750mm相当)、ISO800、F6.7、1/1000秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、18.2MB)
ミユビシギという鳥を撮影していたら、一斉に群れが飛び立ったのであわててシャッターを切った写真です。画面いっぱいに小さな鳥の群れが写り、思いがけず画面全体の均質な高画質を証明できたのも幸いでしたが、一瞬の出来事に対する本レンズの即応性の高さも確認することができました。
X-H2、150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD、382.5mm(35mm判換算574mm相当)、ISO800、F6.3、1/300秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、20.4MB)
警戒心の高いネコでしたが、超望遠レンズですので適度な距離を保ちながら大きく写すことができました。高画質、すぐれた操作性とレスポンス、レンズ内の光学式手ブレ補正機構とくればこわいものは何もありません。こうなってくると風景やネイチャーだけでなく、スナップ撮影やポートレート撮影にも本レンズを活用してみたくなります。
「超望遠の世界を、ここまで身近に。」というのは、本レンズのキャッチコピーですが、使ってみた感想としては「“高画質な”超望遠の世界を、ここまで身近に。」のほうが正しいのでは?と思いました。2023年5月7日時点での価格.com最安価格は159,921円。価格以上の描写性能を持ち、なおかつ使いやすくレスポンスのよい超望遠ズームレンズなのは間違いありません。ソニーEマウント用より少し価格が高いのは、単純に発売時期の違いによるものでしょう。
フルサイズ対応のレンズをAPS-C用に流用しただけのように思えるかもしれませんが、ソニーEマウント用では「AF・MF切り替えスイッチ」だったスイッチを、本レンズでは「MFスピード切り替えスイッチ」に変更しているのは、使用感の向上として歓迎したい点です。同じレンズではありますが、ちゃんとマウントに合わせた進化を遂げているのです。
ただし、長時間手持ちで気軽に扱えるかというと、そこまで軽くて自由なレンズではありません。そこは高級感を犠牲にせずに小型・軽量化を果たしながら高画質をキープするという、設計上の妥協点なのではないかと思います。
本レンズの登場によって、Xマウント用の超望遠ズームレンズの選択肢はさらに増えました。純正レンズにはない個性を持つ1本として本レンズを選び、強烈な圧縮効果が楽しめる超望遠の世界をぜひ楽しんでほしいと思います。
信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌などで執筆もしている。写真展に「エイレホンメ 白夜に直ぐ」(リコーイメージングスクエア新宿)、「冬に紡ぎき −On the Baltic Small Island−」(ソニーイメージングギャラリー銀座)、「バルトの小島とコーカサスの南」(MONO GRAPHY Camera & Art)など。