パナソニックのフルサイズミラーレスカメラ「LUMIX Sシリーズ」のレンズラインアップに小型・軽量な超広角ズーム「LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO」が加わった。プラスαの特徴を持った、このレンズの面白さを掘り下げよう。
2023年3月16日に発売されたLマウント用の「LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO」。焦点距離14〜28mmをカバーする超広角ズームレンズだ
「LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO」は、「Sシリーズ」としては「LUMIX S PRO 16-35mm F4」に続く2本目の超広角ズームレンズだ。まずは、両レンズの違いをまとめておこう。
LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO
サイズ:約84.0(最大径)×89.8(全長)mm
重量:約345g(レンズフード、レンズキャップ、レンズリアキャップを含まず)
価格.com最安価格:97,020円(2023年6月8日時点)
LUMIX S PRO 16-35mm F4
サイズ:約85.0(最大径)×99.6(全長)mm
重量:約500g(レンズフード、レンズキャップ、レンズリアキャップを含まず)
価格.com最安価格:149,000円(2023年6月8日時点)
サイズ・重量・価格を比較すると、「LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO」は「LUMIX S PRO 16-35mm F4」よりもひとまわり小さくて軽い。かつ価格も手ごろなので、初めての超広角レンズとしても選びやすいと言える。それでいて、広角端の焦点距離が14mmと、「LUMIX S PRO 16-35mm F4」の16mmよりも2mm広く、よりワイドな画角を楽しめる。超広角域では2mmの差は大きく、写る範囲がかなり変わる。
「LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO」の重量は約345gで、フィルター径は77mm。超広角ズームレンズとしては小型・軽量なので、コンパクトなフルサイズミラーレス「LUMIX S5II」と相性がよい
インナーズーム方式のため、焦点距離によらずレンズの全長は一定。レンズの重心の位置が変わりにくく、ジンバル撮影にも使いやすい
さらに、大きな違いとして見逃せないのはレンズ名に「MACRO」が付く点だ。「LUMIX S PRO 16-35mm F4」の最大撮影倍率は0.23倍だが、「LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO」はズーム全域で最短撮影距離15cmを実現しており、最大撮影倍率は望遠端28mm時で0.5倍(望遠端28mm時)に達する。超広角ズームレンズながらハーフマクロ撮影に対応しているのだ。
レンズ側面にAFとMFを切り替えるスイッチを搭載
こうして「LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO」と「LUMIX S PRO 16-35mm F4」を比べると、小型・軽量で画角がワイドなうえ、ハーフマクロ撮影にも対応する「LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO」に魅力を感じることだろう。
ただ、「LUMIX S PRO 16-35mm F4」には「PROレンズ」ならではの優位点がある。画質面では、周辺まで安定した高い解像力と美しいボケを両立。開放F値がズーム全域でF4通しと明るく、AFとMFを素早く切り替えられるフォーカスクラッチ機構を搭載するなど操作性にもすぐれている。
続いて、広角端と望遠端で撮影した写真を掲載しながら、「LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO」の画質を詳しくレビューしよう。レンズの使いこなし方も解説するので、ぜひご一読いただきたい。
LUMIX S5II、LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO、14mm、F4、1/640秒、ISO100、WB:オート(ウォーム)、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、8.8MB)
作例1 コメント
広角端14mmで撮影した写真。手前の桜にピントを合わせながらも広く撮れるので、周囲にたくさんの花が咲いている様子を表現することができた。
LUMIX S5II、LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO、28mm、F5.6、1/400秒、ISO100、WB:オート(ウォーム)、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、7.8MB)
作例2 コメント
作例1と同じ距離から望遠端28mmで撮影したもの。画角を変えると、花の大きさだけでなく、背景の写り込む範囲も大きく変化する。被写体に対して、背景をどのくらいまで入れ込むのかを考えながらズーミングしてみるとよいだろう。
LUMIX S5II、LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO、28mm、F5.6、1/400秒、ISO100、WB:オート(ウォーム)、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、6.9MB)
作例3 コメント
本レンズの最短撮影距離はズーム全域で15cm。望遠端ではハーフマクロ撮影に対応しており、パースを効かせた広角マクロ写真を撮ることが可能だ。この写真は、望遠端の最短撮影距離で撮影したもの。花を大きく写しつつ、背景の青とピンクのグラデーションが美しく表現できている。
LUMIX S5II、LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO、28mm、F5.6、1/400秒、ISO100、WB:オート(ウォーム)、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、12.2MB)
作例4 コメント
この写真は画面内の最も遠いところにある花にピントを合わせている。手前の花を前ボケにしながら、焦点距離28mmの広がりと奥行きを生かしてみた。
本レンズは、14mmから28mmまでどの焦点距離で撮影するのか、被写体にどのくらいまで近づくのかによって写り方が変わるため、いろんな切り取り方ができる。被写体に対してどうアプローチしたらすてきな表現が得られるのか、あれこれ考えていると、いつのまにか夢中になって撮影しており、それがこのレンズの面白さだと感じた。
LUMIX S5II、LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO、28mm、F5.6、1/160秒、ISO100、WB:オート(ウォーム)、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、7.3MB)
作例5 コメント
いちご狩りに出かけた際に、ビニールハウスの中で撮影した1枚。望遠端28mmで花にピントを合わせて撮っている。ビニールハウスにやさしく差し込む光を表現したいと思い、逆光で撮影した。
LUMIX S5II、LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO、28mm、F5.6、1/160秒、ISO100、WB:オート(ウォーム)、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、8.1MB)
作例6 コメント
作例5と同じく望遠端28mmで撮影。いちご狩りに来たのだから、いちごを主役にしたいと思ってシャッターを切った1枚だ。全体的にいちごのプランターを収めると散漫な印象になるため、1粒のいちごを主役にして撮影している。
LUMIX S5II、LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO、28mm、F5.6、1/200秒、ISO100、WB:オート(ウォーム)、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、8.1MB)
作例17コメント
最短撮影距離の15cmまで寄りながらローアングルで撮影。葉に反射した光が丸ぼけになり、清々しい印象にまとめられた。
本レンズで驚かされるのはハーフマクロ撮影時の描写力だ。
まず、ピント面の解像感が高く、最短撮影距離まで近づいても被写体のディテールを細かく描写してくれるのが非常によい。美しいボケを両立しているのもポイントで、背景がうるさくなりそうなシーンでもとろけるようにボケるので、ピント面の被写体へと自然に視線が誘導される写真に仕上げることができる。
本レンズの望遠端の開放絞り値はF5.6だが、ハーフマクロ撮影においてはF5.6でも十分にボケる。むしろ、被写体に近づくほど被写界深度が浅くなるため、被写体全体にピントを合わせようとすると絞る必要があるくらいだ。
広角は被写体に近づくほど遠近感が強調される。それによって、広さに追加して迫力のある写真表現を楽しめる。スナップ撮影においては、被写体の写り方はもちろんのこと、背景をどう切り取ったらよいのかを考えて構図を決めるのが重要だ。そして、被写体のどの部分にどのくらい近づくかで遠近感が変化するため、いろいろ実験しながら撮影するのが面白い。
LUMIX S5II、LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO、14mm、F4.5、1/1600秒、ISO100、WB:晴天、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、7.4MB)
作例8 コメント
船の一部にぐっと近づきながら、斜線構図になるようにフレーミングした。小さな船だが、遠近感を強調することで、見た目よりも迫力のある写真に仕上がった。
LUMIX S5II、LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO、14mm、F5、1/1000秒、ISO100、WB:晴天、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、7.3MB)
作例9 コメント
広角端14mmでロープに近づきながら撮影。こうすることで手前のロープは太く、奥のロープは徐々に細くなり、ロープが長く続いてその奥に船があるように表現することができた。
LUMIX S5II、LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO、14mm、F4.5、1/640秒、ISO100、WB:晴天、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、7.4MB)
作例10 コメント
落ちていた貝殻を撮影しやすい場所に置き、背景には船が入るようにフレーミングした。焦点距離28mmの自然な広がりを生かした広角マクロ撮影によって、貝殻と背景の両方を表現することができた。
先に、「LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO」は手軽さに、「LUMIX S PRO 16-35mm F4」は画質に特徴があると述べたが、「LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO」の描写力が低いというわけではない。むしろ解像感は十分に高く、画像周辺までシャープに表現することができる。近景だけじゃなく、風景など遠景の撮影にも積極的に使用したいレンズだ。
LUMIX S5II、LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO、14mm、F7.1、1/1600秒、ISO100、WB:晴天、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、11.3MB)
作例11 コメント
太陽を端にフレーミングしているが、高い逆光性能によってフレアなどは発生していない。水面の輝きを見てみると、輝度差のある箇所に合わられやすい色収差も見当たらない。周辺にある波のディテールも美しく表現できている。
LUMIX S5II、LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO、14mm、F4、1/500秒、ISO100、WB:オート(ウォーム)、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、12.1MB)
作例12 コメント
橋のある風景を広く表現したいと思い、広角端14mmで撮影。手前に咲いていた花をフレーミングすることで、奥行きのある1枚に仕上がった。
LUMIX S5II、LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO、28mm、F5.6、1/400秒、ISO100、WB:オート(ウォーム)、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、7.4MB)
作例13 コメント
作例12と同じシーンを望遠端で撮影。焦点距離28mmの自然な広がりと、背景のディテールが伝わるやわらかなボケ感が主被写体の花を際立たせている。
LUMIX S5II、LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO、14mm、F6.3、1/125秒、ISO100、WB:日陰、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、9.1MB)
作例14 コメント
ガラスに反射する光と影が美しいと思って撮影した1枚。手前の縁側にぐっと近づいて撮影することで、遠近感が強調されて迫力のある写真に仕上がった。
LUMIX S5II、LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO、14mm、F4、1/60秒、ISO160、WB:オート(ウォーム)、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、9.4MB)
作例15 コメント
建物を正面から撮影すると、折り鶴が目立たなかったため、ローアングルで折り鶴に近づいて斜めから撮影。そうすることで、折り鶴や建物の質感が伝わるダイナミックな写真になった。
LUMIX S5II、LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO、14mm、F6.3、1/640秒、ISO100、WB:晴天、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、7.7MB)
作例16 コメント
ひらひらと揺らめく鯉のぼりがかわいかったため、棒の真下から撮影し、遠近感を強調しながら撮影。それによって、空を泳いでいるかのように表現できた。
LUMIX S5II、LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO、14mm、F7.1、1/200秒、ISO100、WB:晴天、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、9.6MB)
作例17 コメント
海辺のフェンスに小さな穴が空いていたため、それを覗き込むように海を撮影。広角レンズは手前のものが大きくなるため、小さな穴を強調することができた。ちょっとした発見が大きなアイデアになるのが広角レンズの面白さだ。
「LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO」を使用して感じた魅力としては、「小型・軽量」「焦点距離14mmの超広角」「広角ハーフマクロ撮影」「高い解像力」「ボケの美しさ」があげられる。超広角14mmから広角28mmまで広角域を幅広くカバーできるので、さまざまなイメージを撮影することが可能。1本あると重宝するレンズと言えるだろう。
特にユニークなのは、望遠端28mmでハーフマクロ撮影が可能な点だ。被写体にぐっと寄りながらも背景を広く切り取れるのはとても面白い。一般的な広角レンズにはない撮影を楽しめるはずだ。
本レンズの追加によって、「LUMIX Sシリーズ」は、撮影した写真や撮影スタイルに合わせて、2本の超広角ズームレンズから好みのものを選べるようになった。手軽さと面白さを求めるなら「LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO」を、よりクオリティの高い画質と操作性を求めるなら「LUMIX S PRO 16-35mm F4」を選択するとよいだろう。
文化服装学院でファッションを学び、ファッションの道へ。撮影現場でカメラに触れるうちにフォトグラファーを志すことを決意。アシスタントを経て、現在は広告や雑誌で活躍。街スナップをライフワークに旅を続けている。カメラに関する執筆や講師も行う。
また、YouTubeチャンネル「写真家夫婦上田家」「カメラのコムロ」でカメラや写真の情報を配信中。カメラや写真が好きな人が集まるアトリエ「MONO GRAPHY Camera & Art」をオープン。