フィルム一眼レフをモチーフにしたクラシカルな装いの「Z f」。DX(APS-C)フォーマットの「Z fc」の発売当初から「ヘリテージデザインのFX(フルサイズ)機を出してほしい」という声は多かったが、「Z f」は、そんなファンの声に応えるモデルだ
ニコンは2023年9月20日、フルサイズミラーレスの新モデル「Z f」を発表した。2021年7月発売のAPS-Cミラーレス「Z fc」に続く、ヘリテージデザインを採用する注目のカメラだ。静止画の実写作例とともにファーストインプレッションをいち早くお届けしよう。
※本記事に掲載する作例は「Z f」の試作機で撮影しています。
■「Z f」の主な特徴
・「FM2」をモチーフにしたヘリテージデザイン
・有効2450万画素の撮像素子(FXフォーマット)
・最新の画像処理エンジン「EXPEED 7」
・9種類対応の被写体検出AF(MF時も使用可能)
・最高約14コマ/秒のメカシャッター連写(JPEG)
・最高約30コマ/秒の電子シャッター連写(JPEG)
・最高8段の補正効果を持つボディ内5軸手ブレ補正
・新機能「フォーカスポイントVR」
・2種類のモノクロ設定を追加
・「リッチトーンポートレート」を追加
・高解像画像を生成する「ピクセルシフト機能」
・約369万ドット/倍率約0.8倍の電子ビューファインダー
・バリアングル液晶モニター(3.2型、約210万ドット)
・「タッチFn」に対応
・SDカードとmicroSDカードのダブルスロット
・4K UHD/60p対応の動画撮影機能
■「Z f」の発売日と市場想定価格(税込)
発売日:2023年10月予定
ボディ単体 300,000円前後
40mm f/2(SE)レンズキット 331,000円前後
キットレンズの単焦点レンズ「NIKKOR Z 40mm f/2(SE)」を組み合わせたイメージ。ボディカラーはブラックのみ
まずは「Z f」の外観から紹介していきたい。
「Z f」の外観は、「Z fc」と同様に、1982年発売のフィルム一眼レフ「FM2」をモチーフにしたヘリテージデザインが特徴だ。ボディカラーはブラックで、前カバー/トップカバーのマグネシウム合金と光沢黒塗装の組み合わせが美しく、持つよろこびを感じさせる上質なデザインに仕上がっている。
「Z fc」と比べると細かいところの作り込み度が増している。まず、ダイヤルが真鍮製になり、高級感ならびに操作感が向上した。シャッターボタンは、押し心地を重視してリーフスイッチを採用。ネジ切りがあるので、「AR-11」などソフトレリーズを装着することが可能だ(ただし、ケーブルレリーズの使用は不可)。
切削加工の真鍮ダイヤルを採用し、高級感・操作感が向上
シャッターボタンはネジ切りのあるタイプに。ソフトレリーズを装着できる
さらに、大きなレンズを装着した際のホールディング性に配慮し、小ぶりのグリップを追加。外装の人工皮革に、より立体感のある新しいパターンのシボ加工を採用しているのも見逃せない。
カメラとしてのデザインを損ねないような大きさのグリップを搭載
人工皮革のシボ加工には立体感のある新規パターンを採用
左が「Z f」で、右が「Z fc」。「Z f」のサイズは約144(幅)×103(高さ)×49(奥行)mmで、重量は約710g(バッテリーとメモリーカードを含む、ボディキャップとアクセサリーシューカバーを除く)。フルサイズ機だけあって「Z fc」と比べるとボディはひとまわり大きい
下が「Z f」で、上が「Z fc」。基本的な操作性は似ているが、ダイヤルやシャッターボタンなど細かいところの作り込みは異なる。「Z f」のほうが高級感のある仕上がりだ
デザイン面で注目してほしいのは、「Z fc」と同様、人工皮革部分を張り替えられる「プレミアムエクステリア張替サービス」が用意されること。発売日から2024年1月15日(月)までの期間限定で張り替え料が無料になるキャンペーンが実施される。
エクステリアのカラーとして用意されるのは、モスグリーン、ストーングレー、セピアブラウン、インディゴブルー、サンセットオレンジの5色。無料キャンペーン期間中は、ニコンダイレクトで限定色のボルドーレッドも選択できる。
張り替える色によってカメラのイメージが大きく変わるため、筆者は「Z fc」の張り替えの際には悩みに悩んでチャコールグレーというシンプルなものを選んだ。「Z f」も味のあるいい色が揃っているため、同じように悩む人が多いのではないだろうか。
「Z f」の「プレミアムエクステリア張替サービス」で用意されるのは、モスグリーン、ストーングレー、セピアブラウン、インディゴブルー、サンセットオレンジの5色(※本記事で掲載する「Z f」の「プレミアムエクステリア」モデルはすべてモックアップです)
ニコンダイレクトでは限定色のボルドーレッドを選べる
「Z fc」では非対応だった液晶モニター背面の張り替えに対応。より統一感のあるエクステリアになった
色によってはシボ加工の印象は異なる。インディゴブルー(左)、セピアブラウン、サンセットオレンジ、ボルドーレッドはシボが大きめで立体感がある。ストーングレー(右)、モスグリーンは落ち着きのあるシボ感で手のなじみがよい
「Z f」は、フィルム一眼レフ「FM2」を受け継いだクラシカルなデザインだが、その中身は、見た目とは裏腹に最新の技術がふんだんに詰め込まれている。
個人的に最もうれしい進化は、仕上がり設定「ピクチャーコントロール」にモノクロの絵作りが2つ増えたこと。従来の「モノクローム」に加えて、新たに「フラットモノクローム」と「ディープトーンモノクローム」が追加されている。
「フラットモノクローム」と「ディープトーンモノクローム」のモノクロモードが追加された(※この画像は、後述する「B&W」モードでの選択画面)
「フラットモノクローム」は中間調が豊富な設定で、やわらかい印象が得られるのが特徴。「ディープトーンモノクローム」は、中間調が少しシャドウ寄りのため、名称どおり深みのあるモノクロ表現を楽しめる。ハイライト側は高コントラストだが、シャドウ側の階調が豊かで、重厚感がありながらシャドウのディテールも表現できる。また、フィルター効果が「R(赤)」になっているため、青色は暗く、赤色は明るめに表現される。
「フラットモノクローム」で撮影
コントラストが低く、グレーの階調を豊かに表現できている。全体的にやわらかい印象に仕上がるため、ポートレートにも使いやすい
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2、F3.5、1/3200秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(6048×4032、5.3MB)
「ディープトーンモノクローム」で撮影
赤いフィルターを付けたような効果によって青空など青い部分が暗く写るため、風景などで使ってみると重厚感が出る。ハイライトがしっかりと際立ち、中間調からシャドウまで階調豊かに表現してくれる
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2、F3.5、1/3200秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(6048×4032、5.9MB)
操作性では、撮影モードを切り替えるレバーが、動画撮影、静止画撮影、モノクロ撮影(「B&W」)の3種類に変更されたのがユニークだ。「B&W」は「モノクローム」「フラットモノクローム」「ディープトーンモノクローム」に設定が限定されるモード。「B&W」に合わせばワンアクションでモノクローム撮影が可能になる。
カラーとモノクロでは撮影しているときの被写体の探し方やとらえ方が変わるため、頭を切り替える必要がある。このレバーはクリック感が心地よく、「B&W」にセットすると頭もモノクロモードに切り替わるような感じになるのがいい。
シャッタースピードダイヤルと同軸に撮影モードの切り替えレバーを用意。動画撮影から静止画撮影に切り替える際に誤って「B& W」まで回さないようにレバーの回転角を大きく設計されている
以下に掲載する写真は、チェコ・プラハで撮影したもの。人物や犬の表情を引き出したいときは「フラットモノクローム」を使用し、風景の重厚感や光と影のメリハリを出したいときには「ディープトーンモノクローム」を使用して撮影を行った。今回はそれぞれの効果がわかりやすいように初期設定のまま撮影を行ったが、詳細設定でコントラストやフィルター効果などを細かく調整していくと、より思いどおりのモノクロ表現が得られるはずだ。
「フラットモノクローム」で撮影
犬の毛並みにやわらかい光が当たり、やさしい印象の写真に仕上げることができた
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2、F2、1/640秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート1、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(6048×4032、6.4MB)
「フラットモノクローム」で撮影
グレーの階調が豊かな分、人肌を滑らかに表現してくれる。本格的なポートレート撮影だけでなく、人物をメインにしたスナップ撮影でも活躍してくれそうだ
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2、F2、1/2000秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート1、アクティブD-ライティング:しない
「ディープトーンモノクローム」で撮影
フィルター効果の赤を適用しているため、空がより暗く写り、雲に立体感が生まれ、全体的に重厚感のある印象にまとめることができた。点景としてとらえた2人の後ろ姿も際立っている
Z f、NIKKOR Z 28mm f/2.8、F2.8、1/4000秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:オート1、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(6048×4032、6.8MB)
「ディープトーンモノクローム」で撮影
外の明るさに露出を合わせているため、室内がシルエットになった。ほどよいコントラスでメリハリがあり、シャドウ部分の階調の豊かさも感じられる
Z f、NIKKOR Z 28mm f/2.8、F2.8、1/125秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:オート1、アクティブD-ライティング:しない
「ピクチャーコントロール」には、人物撮影用の新設定「リッチトーンポートレート」も追加されている。人肌を美しく表現しながらも深みのあるトーンで表現できるため、撮って出しでもクオリティーの高いポートレート作品を撮影できるのが特徴だ。また、これまでの「ポートレート」と比べるとディテールが残っているため、レタッチして仕上げる際のベースとして活用するのにも適していると言えそうだ。
「リッチトーンポートレート」で撮影
人肌を美しく表現しながらもメリハリがあって、色に深みがあるがのわかる
Z f、NIKKOR Z 28mm f/2.8、F2.8、1/800秒、ISO100、ホワイトバランス:オート1、アクティブD-ライティング:しない
「ポートレート」で撮影
落ち着いたコントラストと彩度で、やわらかく明るい印象の人肌に仕上がっている
Z f、NIKKOR Z 28mm f/2.8、F2.8、1/800秒、ISO100、ホワイトバランス:オート1、アクティブD-ライティング:しない
今回はチェコ・プラハでスナップ撮影を行ったが、「Z f」の被写体検出AFはかなり役に立った。スナップ撮影は瞬時に記録する必要があるため、カメラ側が自動的に被写体を検出してくれるのはとてもありがたい。
検出に対応する被写体は、人物、動物(犬・猫・鳥)、乗り物(車・バイク・自転車・列車)、飛行機で、フラッグシップモデル「Z 9」などと同等。「Z 7II」や「Z 6II」は人物と動物(犬・猫)のみなので、使い勝手は「Z f」のほうが上回っている。
人物、動物(犬・猫・鳥)、乗り物(車・バイク・自転車・列車)、飛行機の被写体検出に対応。「オート」設定も用意されている
被写体検出AFが自動的に白鳥の瞳を認識してくれたので、構図や表情に集中しながら撮影できた
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2、F2.5、1/8000秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:オート1、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(6048×4032、6.1MB)
仲よく走り回っている2匹の犬を撮影。犬の頭部や瞳にピントを合わせ続けてくれたので撮影がしやすかった。黒い犬でも瞳を認識してくれた
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2、F2、1/320秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:オート1、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(6048×4032、6.4MB)
乗り物検出には自転車も含まれている。すぐに走り去ってしまうような一瞬のシャッターチャンスも撮影できた
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2、F2、1/4000秒、ISO100、ホワイトバランス:オート1、アクティブD-ライティング:しない
操作性で個人的にうれしいのが、「Zシリーズ」として初めて「タッチFn(ファンクション)」を搭載したことだ。「D5600」などの一眼レフに搭載されていた機能で、ファインダーを覗いた状態でモニターをタッチすることで、フォーカスポイントの移動や瞳の切り替えなどの設定を変更できるというもの。ファインダーを覗いたまま直感的に操作できるため、速写性を高められる。タッチの領域は撮影スタイルにあわせて9種類から選択可能だ。
また、「Z f」はクラシカルなデザインのカメラのため、オールドレンズを組み合わせたいという人も多いことだろう。そういう人に注目してほしいのが、新設されたMFでの被写体検出機能だ。AF時だけでなくMF時でも被写体を検出できるようになったのだ。
人物撮影を例にこの機能の便利さを説明すると、一般的にミラーレスカメラとMFレンズの組み合わせでポートレートを撮影する際は、瞳までフォーカスポイントを移動し、画面を拡大してピントを合わせる必要がある。だが、「Z f」ならMF時でも自動的に人物を検出してフォーカスポイントを移動してくれるので、瞬時に瞳を拡大してピント合わせを行えるのだ。再生時に瞳にピントが合っているのかをすぐに確認できるのも便利である。
MF時の被写体検出に対応。検出エリアを絞ることもできる
「Zシリーズ」のフルサイズ機として初めてバリアングル液晶モニター(3.2型、約210万ドット)を採用
「Z f」は、ジャイロセンサーとアルゴリズムを進化させることで、上位モデルの「Z 9」や「Z 8」を超える最高8段(「NIKKOR Z 24-120mm f/4 S」の望遠端使用時)の補正効果を持つボディ内5軸手ブレ補正機構を搭載している。以下に掲載する写真のような、スローシャッターを生かした撮影でも条件次第では手持ちでの撮影が可能だ。
1/2秒のスローシャッターで手持ち撮影した1枚。水の流れをブラし、幻想的な風景写真に仕上げた
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2、F8、1/2秒、ISO250、ホワイトバランス:晴天、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(6048×4032、17.2MB)
さらに、「Z f」には「フォーカスポイントVR」という最新技術が搭載されている。この技術は、画像の中心ではなく、フォーカスポイント付近の手ブレを抑制するように制御するという画期的なものだ。
回転ブレを例に出して説明すると、回転ブレは画像の中央と周辺で手ブレの量が異なっていて周辺ほど大きくなる。そのため、周辺に被写体を配置するとどうしてもブレを抑制しきれない場合が発生する。しかし、「フォーカスポイントVR」を使えれば、周辺に被写体を配置した場合でも、より的確に手ブレを補正してくれる。「VR非搭載のNIKKOR Zレンズ使用時のみ」「フォーカスエリア枠が複数のときは動作しない」という条件付きだが、スローシャッターでの撮影をより強力にサポートしてくれる技術だ。
フォーカスポイントに連動して手ブレ補正を制御する新技術を搭載
3分割構図の交点のあたりにベンチを配置して撮影を行った。ベンチを端に配置したとしても、フォーカスポイントを置いた場所を基点に手ブレ補正を効かせてくれるため、被写体をしっかりと止めることができる
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2、F2、1/4秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:晴天、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(6048×4032、8.9MB)
このほか、新機能として「ピクセルシフト機能」も搭載している。この機能は、ボディ内手ブレ補正を活用してイメージセンサーを動かしながら撮影し、後から純正ソフト「NX Studio」で1枚の写真に合成するというもの。最大32ショットまで撮影コマ数を選択して、最大約9600万画素の高解像画像を生成できる。偽色やノイズの低減にも期待できる機能だ
「ピクセルシフト機能」は最大32コマまで撮影コマ数を選択できる。撮影後に純正ソフト「NX Studio」で画像合成を行う仕様だ
SDカード(UHS-II対応)とmicroSDカード(UHS-I対応)のダブルスロットを採用
「Z f」は、ヘリテージデザインを採用したクラシカルな雰囲気のカメラだが、その中身は、最新技術を詰め込んだ高性能なカメラでもある。この2面性が「Z f」の最大の魅力と言えよう。筆者は「Z fc」を愛用しているが、今回「Z f」をいち早く試用して「Z fc」とはまた違った魅力に触れ、「購入する理由があるカメラ」と感じた次第だ。
ニコンの歴史を感じさせる美しい仕上がりの外観は、素直に「使ってみたい」と感じさせるものだ。性能面では、本記事では触れなかったが、「Z 9」や「Z 8」でも採用された最新の画像処理エンジン「EXPEED 7」を搭載しており、色の再現性や高感度性能が上位モデル譲りなのも押えておきたい。
「ピクチャーコントロール」を「スタンダード」に設定し、レンズにはキットレンズの「NIKKOR Z 40mm f/2」を使用。青や緑の発色がよく、ディテールもしっかりと表現してくれている
Z f、NIKKOR Z 40mm f/2、F5.6、1/400秒、ISO100、+1.0EV、ホワイトバランス:自然光オート、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(6048×4032、12.8MB)
真鍮製のダイヤルは、ニコンの塗装技術が高いため、簡単には真鍮が見えるようになることはないそうだが、じっくりと愛用して味のあるカメラに仕上げていく楽しみもある。持つよろこび、シャッターを押すよろこびを感じさせてくれる、写真機として魅力的な1台だ。
文化服装学院でファッションを学び、ファッションの道へ。撮影現場でカメラに触れるうちにフォトグラファーを志すことを決意。アシスタントを経て、現在は広告や雑誌で活躍。街スナップをライフワークに旅を続けている。カメラに関する執筆や講師も行う。
また、YouTubeチャンネル「写真家夫婦上田家」「カメラのコムロ」でカメラや写真の情報を配信中。カメラや写真が好きな人が集まるアトリエ「MONO GRAPHY Camera & Art」をオープン。