バイク野郎 増谷茂樹の二輪魂
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唯一無二の縦置きVツインエンジンの味わいにハマる! モト・グッツィ「V7 V Racer」

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バイクの魅力や個性を生み出す源のひとつにエンジンがある。単気筒から4気筒、V型や水平対向型などさまざまな型式があるが、イタリアの「モト・グッツィ」は空冷のV型2気筒エンジンを縦置きするというめずらしいカタチを採用している。今回は、そんなモト・グッツィが最初に縦置きV型2気筒エンジンを搭載した伝説のモデル「V7」の生誕50年を記念してリリースした「V7 V Racer」に試乗してみた。

モト・グッツィだけの縦置きV型2気筒エンジン

バイクのエンジンにはさまざまな型式があるが、系統を大きく分類すると、出力など性能を重視した水冷並列4気筒のようなエンジンと、鼓動感をはじめとする“味”を重視した空冷の単気筒や2気筒に二分される。今回紹介する「V7 V Racer」は“味”に重きをおく、744ccの空冷V型2気筒エンジンを搭載。しかも、普通は横置きされることが多い中、「V7 V Racer」はエンジンを縦置きしている。機械的な効率から考えると、進行方向と同じ向きにエンジンが回転する横置きのほうが直進安定性は高く、チェーンを介して後輪も駆動させやすい。そんな中、唯一、モト・グッツィだけが縦置きVツインエンジンを採用するのは、エンジンの駆動力を後輪に伝達する構造がシャフトドライブであるため、縦置きでも効率が落ちないから。これまでいろいろなエンジン形式が、製造コストなどさまざまな理由から消えていき、横置きが主流となったワケだが、そんな淘汰されてもおかしくない縦置きVツインエンジンを今でも作っていることが、モト・グッツィの大きな個性と言える。

シリンダーが車体両側から斜め上に向かって突き出した状態は、ひと目見ただけでモト・グッツィのバイクだとわかる

実はこのエンジン、当初は自動車用として開発されていた。シャフトドライブが使われているのも、このことが影響している。しかし、当時のモト・グッツィの生産能力が需要に追いつかなかったため、不採用になってしまったのだ(のちに排気量をアップし、軍の山岳部隊が使用する3輪トラックに採用されている)。消えてしまうかに思われた縦置きV型2気筒エンジンだが、警察の白バイへの導入が決定。イタリア警察とともに開発テストを繰り返して1966年に量産がスタートし、1967年に縦置きV型2気筒エンジンを搭載した民生バージョンのバイク「V7」が誕生した。その後、「V7」はデザイナーとして高名なリノ・トンティにより車体設計が見直され、大幅に効率を高めた「V7 Sport(スポルト)」へと1971年に変貌を遂げる。この「V7 Sport」は多くのレースで輝かしい実績を残し、「もっとも有名なイタリアンスポーツバイク」と呼ばれるほどまでになったものの、時代の流行は高出力エンジンへと移行。4気筒エンジンと比べるとパワーでは及ばないことも影響したためか、モト・グッツィは次第にツアラーモデルに力を入れ始めるようになり、1976年に「V7」の名はモト・グッツィのラインアップから消えてしまう。

高い評価を獲得した「V7 Sport」

高い評価を獲得した「V7 Sport」の初期型モデル。この後、「V7 Sport」は赤いフレームへと姿を変えていく

そんな「V7」を再び目にすることとなるのは、2008年のこと。昨今の流行である“ネオ・クラシック”の流れにのり、縦置きV型2気筒エンジンをクロモリ製のパイプフレームに搭載したモデルで復活を遂げたのだ。以降、2012年には最高出力を増幅させ、2015年には「V7 U」となり、第3世代「V7 V」へと続く。「V7 V」は「V7」モデルの誕生から50年の節目、2017年に発表されたモデルで、いくつかのバリエーションがラインアップされているが、今回紹介する「V7 V Racer」はスポーティーテイストの強い仕上がりとなった1台だ。

「V7 V Racer」はかつての「V7 Sport」のイメージを引き継ぎ、レッドのフレームを採用

「V7 V Racer」はかつての「V7 Sport」のイメージを引き継ぎ、レッドのフレームを採用

古きよきテイストに最新技術を搭載

縦置きV型2気筒エンジンのレイアウトを継承しているものの、前モデルの「V7 U」と比べると多くの部分が新設計となっている。アルミニウム製のヘッドやピストン、シリンダーは刷新され、Vツインエンジンの存在感がさらに際立つものとなった。排気量は前モデルと同様(744cc)だが、馬力は48PSから52PSにアップ。新しい排気システムを採用することで、より厳しくなった「ユーロ4」の排ガス規制にも適合している。また、個性のひとつであるシャフトドライブの駆動方式も健在。しかし、後輪のスリップを防止するトラクションコントロールシステム「MGCT(モト・グッツィ・トラクション・コントロール)」を搭載したり、ブレーキにABSを採用するなど、見た目はクラシックだが、安全性については現代的な最新技術でカバーされている。

空冷のフィンが目立つエンジンは伝統のスタイルを維持しつつも、電子制御のインジェクションが組み合わせられ、始動性も良好

排気管を二重構造にするなど、排気系を大きく改良。ヘッドも高性能なカムシャフトが2本あるDOHCではなく、昔ながらのOHVを採用している。最高出力も38kW(52PS)と、このクラスのバイクとしてはかなり控えめな数値だ

一般的なチェーンドライブではなく、シャフトドライブを採用。また、リアには大き目のディスクブレーキが装備されている

フロントは、ブレンボ製のシングルディスクブレーキを採用。ABSも搭載しており、効きは申し分ない

フロントは、ブレンボ製のシングルディスクブレーキを採用。ABSも搭載しており、効きは申し分ない

リアサスペンションは、オーリンズ製のタンク別体式を装着している

先代モデルではクロームメッキだったタンクは、サテン仕上げに変更。革製のベルトが雰囲気を盛り上げてくれる

ゼッケンプレートを兼ねたシングルシートに見えるが、実はカバーになっており、取り外せば2人乗りが可能に

ゼッケンプレートを兼ねたシングルシートに見えるが、実はカバーになっており、取り外せば2人乗りが可能に

フロントにもカウルを兼ねた金属製のゼッケンプレートを装備

フロントにもカウルを兼ねた金属製のゼッケンプレートを装備

コックピットからの眺めはとてもクラシカル。トップブリッジ上にはシリアルナンバーが記載される

コックピットからの眺めはとてもクラシカル。トップブリッジ上にはシリアルナンバーが記載される

ステップはアルミ製でスポーティーな雰囲気。実際の踏み心地もしっかりしていて良好だ

ステップはアルミ製でスポーティーな雰囲気。実際の踏み心地もしっかりしていて良好だ

セパレートタイプのハンドルは、今のモデルとしては垂れ角が大きめとなっている

セパレートタイプのハンドルは、今のモデルとしては垂れ角が大きめとなっている

試乗で実感! エンジンが生み出す個性的な乗り味

「V7 V Racer」はクラシカルなレーサー仕上げながら、またがってみるとライディングポジションはそれほどキツイ前傾を強いるものではない。トップブリッジの下にマウントされたハンドルだが、位置はそれほど低いわけではなく、スポーティーなデザインのステップも現代のスポーツバイクと比べると前方に位置しているので、街乗りやツーリングで使用してもストレスを感じることはないだろう。あえて気になる点をあげると、着座位置が現行のいわゆるスーパースポーツと比べると後ろになるため、ハンドルが少し遠く感じることと、ハンドルの垂れ角が大きめな点。これらは、慣れが必要になるかもしれない。

車体サイズは740(全幅)×2,185mm(全長)×1,100全高mmで、車重は213kg。身長175cmの筆者がまたがってみると、かかとまでは接地するので安心感がある。シングルタイプのシートはホールド性もよく、スポーツライディング向きだ

エンジンをかけると、排気量の大きな2気筒エンジンだけに強めの振動が伝わってきた。そして、そのままアクセルを開けると、車体が右に倒れていくような挙動を起こすので、初めて乗る人はビックリするかもしれない。この挙動が起こる理由は、エンジンの回転軸が通常のバイク(エンジンが横置きのバイク)は進行方向に向かって回っているのに対し、縦置きエンジンの「V7 V Racer」は右方向に回っているためだ。とはいえ、このような挙動を感じるのは停止している時のみなので、安心していい。

実際に走り出すと、低速回転時の振動がエンジンの存在を強く感じさせてくれた。エンジンが“回っている”というより“爆発している”という感覚で、なかなかの存在感だ。大排気量の空冷Vツインというエンジン型式はハーレーと共通で(ハーレーは横置きを採用)、走行中のエンジンの存在感が強いところもハーレーに匹敵するものを感じる。ドコドコという鼓動を感じながら走るスポーツバイクという印象だ。ただ、この印象は回転数が4,500を越えたあたりから一変する。それまで感じていたエンジンの鼓動がお互いに打ち消し合うように収束し、“ドコドコ”だったものが“シューン”という回り方に変化(振動がなくなるわけではない)。進行方向に対し、ライフル弾のように螺旋を描いて回転するエンジンが、車体を引っ張っていってくれるようなイメージで加速していくのだ。低回転と高回転でまったく違う乗り味を感じられる二面性が、実に楽しい。

低めの回転数で鼓動を感じながら走るのが、最高に気持ちいい

低めの回転数で鼓動を感じながら走るのが、最高に気持ちいい

個性的なエンジンは、加速だけでなくコーナーでのハンドリングにも影響してきた。コーナリングで寝かし込む操作の抵抗感がなく、スムーズなのだ。一般的な横置きエンジンは進行方向に対して転がるように回転しているので、その慣性力は左右に寝かす操作に対して抵抗になる。いっぽう、縦置きエンジンは進行方向に対して横向きに回転しているため、寝かす操作に抵抗が少ないのだ。ただ、横置きエンジンのようにアクセルを開けると車体が起き上がるような挙動を示す力は弱いので、「V7 V Racer」の扱いにはやや慣れが必要だろう。

バイクを倒し込む操作に余計な抵抗感がなくスムーズ。あまり速度を出さなくても楽しめる

バイクを倒し込む操作に余計な抵抗感がなくスムーズ。あまり速度を出さなくても楽しめる

コーナリング中の挙動も安定していて、不安感はない

コーナリング中の挙動も安定していて、不安感はない

試乗を終えて

モト・グッツィのバイクに乗るのは初めてだったが、事前に予想していたよりもはるかに面白く、気付けば長時間試乗してしまっていた。筆者は、仕事柄いろいろなバイクに乗ってきたが、ここまで乗るのが楽しかったバイクはなかなかない。低回転でエンジンの鼓動を感じながらゆっくり走るのも、回転数を上げて引っ張られるような加速を味わうのも、どちらもおもしろくて仕方ないのだ。最新のスーパースポーツモデルなどと比較すると、特別に速いわけではないが、十分に速さは感じるし、スポーツライディングをしている感覚も味わうことができる。ここまで速さやスポーツ性、操る楽しさを味わえるマシンだとは思っていなかったので、予想はよい意味で裏切られた。バイクは自動車に比べてさまざまなタイプのエンジンが存在し、その特性の違いも感じやすいが、「V7 V Racer」ほど個性的な“味”が体感できるエンジンはなかなかないだろう。縦置きV型2気筒エンジンが、半世紀もの長きに渡り、多くのファンを獲得している理由も納得できる。一度乗れば、唯一無二の感覚にハマってしまうはずだ。

増谷茂樹

増谷茂樹

カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。

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