バイク野郎 増谷茂樹の二輪魂

60年という歴史的文脈に思いをめぐらせ、新型「スーパーカブ50」の進化を味わう

このエントリーをはてなブックマークに追加

1958年に初代モデルが登場し、今年、2018年に60周年を迎えたホンダ「スーパーカブ」。2017年には、同シリーズの世界累計生産台数が1億台を突破するという金字塔も打ち立てている。そんな歴史的なタイミングで登場したのが、新型「スーパーカブ50」と「スーパーカブ110」だ。庶民のための新しい乗り物として誕生したスーパーカブの歴史を振り返るとともに、新型の進化点を見ていこう。

2017年11月10日に発売された、排気量49ccの「スーパーカブ50」(左)と109ccの「スーパーカブ110」(右)

2017年11月10日に発売された、排気量49ccの「スーパーカブ50」(左)と109ccの「スーパーカブ110」(右)

誰もが乗りやすいバイク「スーパーカブ」誕生までの道のり

1958年に誕生した初代モデル「スーパーカブC100」は、既存のバイクとも、当時ブームとなっていたスクーターとも違う、新しい乗り物として投入された。コンセプトは「誰でも乗れる」こと。一般的なバイクのようにタンクを両足で挟み込むスタイルでない点はスクーターと共通するが、1958年頃の道路状況は舗装率約10%であり、荒れた道を走るのが当たり前であった。そのため、12インチ程度の小さめのタイヤを搭載したモデルが多かったスクーターは、人気を集めていたものの乗りやすいバイクではなかったのだ。このような交通環境と初心者が乗りやすいことを最大限に考慮したスーパーカブC100は、17インチという径の大きなタイヤを装着するとともに変速ギアを搭載。スクーターとは異なる、圧倒的な走行性能を見せつけた。そして乗りやすさにおいては、フレームを刷新。シリンダーを水平近くまで前傾させたエンジン装備することで車高を抑え、女性でもまたぎやすい低床バックボーン式と呼ばれるフレームとした。さらに、エンジンを大型のレッグシールドで覆い隠してしまうことで、機械に対して苦手意識のある女性などに気軽に手にしてもらえるように配慮したという。操作においても使いやすさが追求され、通常は左手側にあるクラッチレバーを廃し、乗っている人は操作しなくていい自動遠心クラッチを採用した。これは、そば屋などの出前で左手が使えない状況でも乗れるようにと工夫されたものだ。

初代モデル「スーパーカブC100」の価格は5万5000円。サラリーマンの初任給が8,500円程度だった当時としては高価に思えるが、その頃のバイクは外車ほどの値段であることが当たり前だったという(1961年に発売された250ccのホンダ「CB72」は18万7000円)。実用車としてはリーズナブルな価格設定ではあったが、誰もが買えるわけではなかった

だが、扱いやすいだけで大衆に受け入れられたワケではない。乗り物としての性能も非常にすぐれていたからこそ、“庶民の足”として普及したのだ。エンジンは当時の小排気量車で主流だった2ストロークではなく、4ストロークを採用。しかも、50ccの4ストロークエンジンとしては圧倒的な高出力(4.5PS)を実現している。とはいえ、構造が単純で馬力が出しやすい2ストロークエンジンほどのハイパワーを、4ストロークエンジンで達成するのは簡単なことではない。創業者である本田宗一郎氏の目指す「2ストロークに対抗できる4ストロークエンジン」をカタチにするのは、相当難儀したという。そんな苦労を重ね、生まれた4ストロークエンジンは2ストロークエンジンよりも壊れにくく、静かで排気もクリーン。メンテナンス頻度も低く、「オイル交換をしなくても走れる」というウワサを呼ぶほどの耐久性を備えていた。その結果、初代モデルの発売から3年目の1960年には月間の販売台数が3万台を突破。バイク全体の販売台数が月4万台という時代だったことを考えると、この数字がいかに驚異的であるかがわかるだろう。そして、翌1961年には累計生産台数が100万台を記録し、一般市民のみならず、蕎麦屋の出前や新聞配達、郵便局など幅広い職種のプロたちにも支持され、誰もが目にしたことがあるというほど街にあふれる乗り物となった。

「スーパーカブ」は世界へ!

日本国内での功績もすさまじいが、世界累計生産台数が1億台を突破するには海外の支持があってこそ。実は、初代モデルがリリースされた翌年、1959年には海外への輸出を開始している。しかも、「バイクの本場であるアメリカで成功を収められれば、どこの国であっても通用する」という本田宗一郎氏の考えから、アジア圏ではなくアメリカから輸出が始まったのだ。だが、当時、650ccの「トライアンフ」や900〜1200ccのハーレー・ダビットソン製バイクのような大型車が主流だったアメリカでの販売は大苦戦したという。スーパーカブC100のほか「ドリーム305」「ドリーム250」「ベンリィ125」を輸出するも、初年度半年間で約170台しか売れなかったのだ。しかし、その輸出したバイクの中で唯一、スーパーカブC100(アメリカでは「スーパーカブ50」の名称で販売されていた)が注目を集めた。小さくて廉価なバイクが普及していなかったアメリカで、“玩具的モビリティー”として人気を集めていったのだ。そこでホンダは、販路をバイク店以外にも広げるとともに、1962年にアメリカ向けモデル「CA100」をリリース。さらに翌年に「ナイセスト・ピープル・キャンペーン」と呼ばれる宣伝広告を打ったことなどが功を奏し、スーパーカブはアメリカでも大ブームとなった。

2人乗り可能なシートを装備するなど、アメリカ人のニーズを反映した「CA100」

2人乗り可能なシートを装備するなど、アメリカ人のニーズを反映した「CA100」

このキャンペーンをきっかけに、当時のアメリカで“アウトローの乗り物”的な目で見られていたバイクの社会的地位が向上。かつ、北米での「ホンダ」ブランドの価値を確固たるものとした。その後、スーパーカブの人気は世界的に高まり、160か国以上で愛用されるベストセラーモデルに成長。販売だけでなく、生産も現地で行うようになり、現地のニーズにあわせたモデルが生み出されている。世界中で愛されるゆえんは、このような地域に密着した開発にあることは間違いない。

ベトナム向けモデル「Wave α」(2002年式)は基本設計を継承しつつ、現地で人気の近未来的な流線型のデザインにされた

ベトナム向けモデルと同じ2002年式のブラジル向けモデル「BIZ」は、荷物を見えないところに入れたいというニーズに応え、シート下に荷物が収納できるようになっている

そんな世界規模で躍進を遂げるスーパーカブが、1966年に大きくモデルチェンジする。これまで「OHV(オーバー・ヘッド・バルブ)」だったエンジンを、「OHC(オーバー・ヘッド・カム)」に変更したのだ。OHCエンジンはカムシャフトをヘッドの上に配置し、吸気と排気のバルブの開閉を1本のカムシャフトで作動させるシンプルな構造で、少ないパーツで駆動させることができるため、より高性能化が図れ、かつ、壊れにくい傾向にある。そんなOHCエンジンを搭載した「スーパーカブC50」(1966年発売)は、燃費や耐久性が大幅に向上。なお、この時のOHCエンジンの基本構造は現在まで受け継がれている。

OHCエンジンを搭載した「スーパーカブC50」(1966年式)は、新開発のオイルポンプを採用するなど細部も見直された

その後もスーパーカブは静音性や燃費を高めるブラッシュアップを続け、1981年には105km/Lの燃費を達成し、1982年には150km/Lに到達。さらに1983年には、180km/Lという驚異的な数値を実現した。同年に発売した50ccの2ストロークエンジンを搭載したスクーター「ビート」のカタログ燃費67km/Lと比較すると、スーパーカブの燃費のよさが際立っていることが感じられるだろう。そして2007年に排ガス規制に対応するため、燃料噴射装置が電子制御式に変更された。これにより、アクセルの開閉頻度が多い市街地における燃費や始動性を向上させたほか、スペック的な数値は同じながらも実用的なトルクの回転域が増え、乗りやすさがアップ。こうしたユーザー目線にもとづく改良が支持され、販売台数も順調に伸長していく。1974年に1,000万台の累計生産を記録し、1992年には2,000万台、2005年には5,000万台、2017年にはついに1億台の大台を突破した。

イメージは変わらずとも中身は最新! 新型「スーパーカブ50」

ひととおりの歴史を振り返ったところで、新型スーパーカブを見てみよう。なお、今回取り上げるのは、スーパーカブの誕生時から主流だった50ccモデルの新型「スーパーカブ50」となる。

新型スーパーカブの最大のトピックは、デザインが同シリーズの伝統を受け継ぐ丸みを帯びたものに戻されたことだろう。従来、スーパーカブは各地に適するモデルを現地で製造していたが、2012年に製造場所をある程度集約し、デザインをグローバルモデル化。その結果、アジア圏や北米への輸出も視野に入れたデザインとなり、日本国内で販売されるスーパーカブも高い角型ヘッドライトを装備した直線基調となった。初代から続く丸型ヘッドライトのイメージが根強い日本での評判はいまひとつだったという。そんなデザインが新型で当初の丸い感じに復活したのは、生産拠点が日本国内に戻ったからだといえる。というのも、50ccという排気量は日本専用のものとなりつつあるからだ(海外では日本国内の原付一種に該当する車両区分が存在する国が少ない)。

グローバルモデルとして世界共通で販売されていた「スーパーカブ50」(2012年式)。基本設計が同じとはいえ、スーパーカブを昔から知っている日本人が想像するイメージとは異なる

5年ぶりに丸目に戻った新型「スーパーカブ50」。サイズは695(幅)×1,040(高さ)×1,860(長さ)mmで、車重は96kg

性能の部分については、エンジンの基本構造は変わっていないが、さらに厳しくなった排ガス規制に適応させながら、始動性をはじめとする部分を向上させている。最高出力は3.7ps/7,500rpmで、最大トルクは3.8Nm/5,500rpm(カタログ燃費は105km/L)。このほか、ヘッドライトをLED化するなど、基本設計や外観は歴史的なイメージを受け継ぎつつ、中身には最新の技術を導入している。

ヘッドライトにはLEDを採用し、小ぶりでも十分な光量を確保

ヘッドライトにはLEDを採用し、小ぶりでも十分な光量を確保

フロントタイヤは、初期モデルから続く17インチ径。フロントフォークは前モデルから通常のバイクと同じテレスコピック型とされた

リヤタイヤも17インチで、スイングアームはアルミ製となっている。シルバーのチェーンケースは、実はプラスチックをペイントしたもの。軽量化するための工夫だ

基本構造は従来とエンジンだが、ピストンにコーティングを施したり、レッグシールドを外さなくてもオイルフィルターを交換できるようにするなど細部が改良されている

メッキのカバーが装着されたマフラーも従来からのイメージを踏襲しているが、排ガス規制に対応するため、触媒装置を内蔵。過去のモデルではフレームと一体の金属製だったリアフェンダーは、別体構造のプラスチック製とされた

ガソリンタンクは従来どおりシート下にある

ガソリンタンクは従来どおりシート下にある

クラッチレバーを必要としない左手側の自動遠心クラッチは初代モデルから変わらない部分。プッシュキャンセル式のウインカーなど、スイッチ類は前モデルと同じ現代的なデザインを採用している

試乗で実感! 新型「スーパーカブ50」のリアルな進化点

なじみのあるデザインとなった新型「スーパーカブ50」に乗り、街中を走ってみることに。まず、またがってみると、初代モデルが誕生した際のコンセプト「誰でも乗れる」につながる、座り心地や足付き性のよさなどを実感する。次にエンジンをかけ、ギアを1速に入れるのだが、この際のペダルを踏み込む型式のシフトも「誰でも乗れる」に大きく貢献しているようだ。たとえば、レバーをつま先でかき上げるタイプのシフトの場合、靴に傷がつくおそれがあるが、つま先で踏み込むスーパーカブ50のようなシフトなら、革靴であっても問題なし。日常の足として使う乗り物だけに、服装を選ばずに乗れるというのは結構大事なポイントだ。

身長175cmの筆者ではカカトまでベッタリ足が付き、ヒザにも余裕がある

身長175cmの筆者ではカカトまでベッタリ足が付き、ヒザにも余裕がある

シフトペダルは前を踏むとシフトアップ、後ろを踏むとシフトダウンというわかりやすい形式。スクーターと違って変速の楽しみもしっかり味わえるのは、ありがたい。ペダルの軸にベアリングが採用され、シフトフィーリングも向上している

ギアを入れてアクセルを開ければ、クラッチの操作はせずに走り出せる。これも初代モデルから受け継がれる“誰でもわかりやすい操作感”。50ccという排気量もあり、発進はパワフルとは言い難いものの、シフトアップしながらエンジンを少し上まで回してやると予想以上に車速が伸びていく。正直なところ、50ccの4ストロークエンジンにはあまり速さは期待していなかったのだが、思っていたよりずっと速くてビックリ。幹線道路も走ってみたが、比較的速めの交通の流れにもしっかりと乗ることができた。ただし、それはエンジンの回転数をしっかり上げて走った場合。低回転のトルクだけで走ろうとすると、少々非力に感じてしまうだろう。

発進加速はそれなりだが、エンジンを回して走ると予想以上に速い。技術の進歩を感じさせる最新型らしい性能だ

メーターには、スピードだけでなく、速度の内側にシフトアップの目安が記載されていた

メーターには、スピードだけでなく、速度の内側にシフトアップの目安が記載されていた

予想以上のパワー感に感動していた筆者だが、カーブではさらなるおもしろみを感じることとなる。昔のスーパーカブはブレーキをかけた時にフロントサスペンションが突っ張るような形で、一般的なバイクから乗り換えると違和感があったのだが、新型はフロントフォークが通常のバイクと同じテレスコピック式。ブレーキングでサスペンションを沈ませてクイックに曲がる走り方ができるので、自然に曲がっていける。実用車でありがちな、車体をバンクさせるとスタンドやマフラーが接地することもない。また、小回りが効くため、細い路地の何でもないコーナーを曲がる時でもかなり楽しめる。見た目やライディングポジションはスクーターをはじめとする実用車に近いが、走りは完全にバイクなのだという印象を強く持った。

見かけによらず(?)コーナーリングが味わい深い。それほどスピードが出ていなくても、街中のちょっとした交差点を曲がるだけでも楽しめる

試乗を終えて

これだけの歴史を持つスーパーカブだけに、筆者も歴代モデルのいくつかに試乗したことがある。ただ、50ccモデルについては、独特な味わい深さはあるものの“遅い”というのが正直な感想。だが、筆者が乗ったことがあるスーパーカブ50は2007年よりも古い、燃料噴射が電子制御のインジェクションになる前のモデル。この新型「スーパーカブ50」が初めて乗る50ccモデルの電子制御タイプとなるわけだが、正直、ここまで速さに違いを感じることになるとは思わなかった。そこそこ速い交通の流れにもたつくこともなく、回転を高めてエンジンを使い切って走る感覚まで味わえる。さらに2012年モデルで採用されたテレスコピック型の足回りで、より“操っている”感も増しており、かなり好印象。新型は、ちょっとおしゃれな実用車というだけでなく、しっかりと走る楽しみが味わえるバイクに仕上がっている。

排ガス規制がどんどん厳しくなる中、ハイパワーをうたっていた2ストロークエンジンは姿を消し、燃費のよい4ストロークエンジンだけが生き残っている現状。一時は他メーカーからもスーパーカブに似た構造のモデルが販売されていたが、多くが2ストロークエンジンを採用していたため、現在も生産され続けているのはスーパーカブのみとなってしまった。そんな状況を見ると、あの時代に馬力の出る4ストロークエンジンを開発させた本田宗一郎氏は60年前にこうなることを予見していたのではないかという想像が巡ってならない。

1974年に1,000万台の累計生産を達成した際の本田宗一郎氏。本田宗一郎氏が4ストロークエンジンを開発させた背景には、オイルを燃料に入れて駆動させるため、排ガスの中にオイルの燃えカスが出る2ストロークエンジンを嫌っていたからという話もある。環境問題など度外視されていた当時に、そういった視点を持っているとは、やはり偉人だ

<関連記事>新型「スーパーカブ110」のインプレッションはこちらをチェック!

増谷茂樹

増谷茂樹

カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。

紹介した製品の最新価格・クチコミをチェックする
このエントリーをはてなブックマークに追加
関連記事
連載最新記事
連載記事一覧
2018.1.16 更新
ページトップへ戻る