“弾丸”試乗レポート
クルマ好きのための“弾丸”試乗レポート

人気の7人乗りSUV「CX-8」に見る、マツダ車の衝突安全性能の進化

3列シートのSUVとして2017年12月の発売とともに人気を集めているマツダの「CX-8」。そのスタイリングや最大7人乗りのミニバンのような実用性、動的性能についてはすでに、価格.comマガジンでもお届けしているが、今回は、モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏が、マツダ主催による衝突安全性能の公開実験に参加。「CX-8」の衝突安全性能と、そのうまれた背景について取材した。

子どもや家族など多人数が搭乗することを想定して設計されたマツダ「CX-8」。万一の事態から家族をどれだけ守れるのか?

発売後も続く「CX-8」の衝突安全性能テスト

シャーという金属音が室内を満たす。その一瞬後、時速64kmのスピードでワイヤーにけん引されたCX-8が、そのままの勢いで金属バリアに衝突。プラスチックや金属片などの部品をまき散らしながらCX-8は停止した。フロント部分は片側半分が潰れているが、ドアは普通に開くことができる。「ターン」と高く澄んだ衝撃音が印象に残った。

2018年の新春早々、広島にあるマツダの三次(みよし)試験場にて、CX-8のオフセット前面衝突試験を見学する機会を得た。すでに発売されているCX-8ではあるが、より高性能な内装材や安全システムの開発のために衝突試験が継続されているという。自動車アセスメント(J-NCAP)の試験見学経験は何度かあるが、開発のための衝突試験に立ち会うのは筆者も初めて。カメラやセンサーなどの計測機器が非常に多い。ダミー人形には60チャンネル、車体にも40チャンネルのセンサーを用意し、総計で約250ものデータを測定。高速カメラも16台用意するという。聞けば、衝突安全性能のための開発の中心はコンピューターシミュレーションで行い、実際にクルマをぶつける機会は、それほど多くないという。その分、リアルな試験でのデータ取りは念入りになる。そして安全性能を高めるには、こうした地道な試験の積み重ねが必要だという。

CX-8に取り付けられたダミー人形には、60チャンネルのものセンサーが取り付けられている。動画撮影のため足元がライトで照らされていた

車体や外部まで含めれば、衝突実験で使われるセンサーやカメラは合計250チャンネル以上。当然それらに対応する監視用機材も膨大なものになる

前方のオフセット衝突実験で大きくゆがんだCX-8のエンジンルーム。巧みに衝突エネルギーを吸収しつつ、キャビン部分の変形を抑えるさじ加減が重要になる

衝突時のボディのつぶれ加減を最適化する作業は、大部分がコンピューター上のシミュレーションで行われている

先代「CX-5」をきっかけに、マツダ車全般の衝突安全性能が向上している

マツダの自動車に、どのようなイメージを抱いているのかを聞けば、多くは「人馬一体」の“走り”や、ソウルレッドの特徴的な“デザイン”と答えるだろう。逆に“高い安全性能”と答える人は少数派に違いない。しかし、最近のマツダ車の実態は、少しずつ変化しているようだ。

自動車メーカーとは利害関係のない第三者がクルマの安全性能を公平に試験する制度が自動車アセスメント(J-NCAP)だ。独自の基準を定めて、販売されているクルマを平等に試験し、毎年、その結果を発表している。そこで過去10年ほどで最も成績がよかったクルマを、振り返ってみると以下のようになる。

2006年 トヨタ「エスティマ」
2007年 スバル「インプレッサ」
2008年 トヨタ「ヴェルファイア/アルファード」
2009年 スバル「レガシィ」
2010年 日産「エルグランド」
2011年 レクサス「CT200h」
2012年 三菱「アウトランダー」
2013年 トヨタ「クラウンアスリート/ロイヤル」
2014年 スバル「レガシィ」
2015年 マツダ「CX-3」
2016年 スバル「インプレッサ/XV」
2017年前期 マツダ「CX-5」

前半にはマツダの名前はなく、レクサスを含むトヨタとスバルの好成績が目立つ。実際にその頃のマツダのクルマは、安全性能が劣るわけではないが、トップになるほどではなかった。しかし、2012年に登場した「CX-5」以降の、いわゆる第6世代商品群から、様子が変わってきた。2012年の「CX-5」は得点トップこそ取れなかったが、スバル車を上回る2位を獲得。翌2013年の「アテンザ」は、トヨタ「クラウン」と三菱「アウトランダーPHEV」に続く3位。2014年の「デミオ」は2位。そして2015年は「CX-3」がトップを獲得。2016年は最終的にスバル「インプレッサ/XV」に逆転されるが、前期は「アクセラ」が最高得点。そして2017年の前期も「CX-5」が1位を獲得。つまり、2012年以降のマツダ車は、どれも好成績を収めている。「高い安全性能」といえばスバルのイメージが強いが、マツダの安全性能もスバルに匹敵するようになっていたのだ。

いわゆる「第6世代商品群」のトップバッターとして2012年に登場した先代「CX-5」から、マツダ車の安全性能が向上した

衝突安全性能で好成績が続く理由は、マツダならではの「一括企画」にあった

安全性能の向上は、どの自動車メーカーも熱心に取り組む課題だ。マツダは、トヨタや日産、ホンダと比べれば小さなメーカーである。当然、研究にかけられる人員も予算も、大メーカーと比べれば少ない。そうした条件でも、すぐれた成績を得てきたのには、その開発体制に理由があるのではないだろうか。

マツダは新車開発に「一括企画」という独特の方法を採用している。これは、車種ごとに新型車を開発するのではなく、5〜10年先を見越して、マツダの全車種をあわせて企画するという方法だ。開発部門だけでなく、生産や購買、サプライヤーまで一体になってプランを作る。そして、共有化できるところは、とことん共有化するという方針だ。これが安全性能の向上にも効果を及ぼしているという。

5〜10年先を見越し、クルマの企画を一括して行うマツダ。この方針が、安全性能全般の底上げにも効いている

5〜10年先を見越し、クルマの企画を一括して行うマツダ。この方針が、安全性能全般の底上げにも効いている

たとえば衝突安全性能。クルマが衝突したときに、いかに乗員へ伝わる衝撃を少なくするかが重要だ。車体を硬くすればいいわけではない。いい塩梅で潰れて衝撃を吸収し、それでいて乗員の生存空間を確保することが必要となる。相当にセンシティブなのだ。これを車種ごとに別々に開発すると手間がかかる。しかし、一括企画ならば、最初にひとついい潰れ方を作れば、それを全車種に応用できる。特に最近は、コンピューターシミュレーションを中心に開発が進められる。サイズや重量を変えながらも、同じスピードと変形率で潰れる構造の形を探るのはコンピューターシミュレーションの得意とするところ。その結果、マツダはコンパクトカーのデミオから、SUVのCX-5まで同様の高い安全性能を得ることができたという。最新のCX-8は自動車アセスメント(J-NCAP)の試験は、まだ受けていないが、マツダ社内では、同様の高い安全性能を備えているとか。車体後方からの追突でも3列目シートの乗員の生存空間確保や衝撃吸収も試験で確認しているそうだ。

車両後方からの追突への安全性を確認する時速80kmのオフセット後突テストを行ったCX-8。ドア部分が変形していないことがわかるだろう

オフセット後突実験後も3列目空間が変形していない。生存スペースは十分確保されている

オフセット後突実験後も3列目空間が変形していない。生存スペースは十分確保されている

ちなみにマツダの一括企画は、衝突を未然に防ぐ予防安全にも現れている。“人馬一体”を合言葉にした、正しいドライビングポジションもマツダ車共通の特徴だが、これによって、ペダルの踏み間違い事故は、旧型モデルよりも86%も減少したという。また、ドアにマウントしたサイドミラーは、ミラーの周りの視界が抜けていて、斜め前が見やすい。自動ブレーキをはじめとした先進運転支援機能は、トップモデルのCX-8は当然ながら、マツダ車のエントリーとなるデミオクラスから標準装備する。惜しいのは、スポーツモデルである「ロードスター」に自動ブレーキが用意されていないこと。一刻も早い採用を期待したい。
マツダ車=「走り」&「デザイン」というのはもう古い。これからは「走り」&「デザイン」&「安全」になるのだ。

シートやペダルのレイアウトもマツダの一括企画が現れている部分。右足を伸ばした先にアクセルペダルを配置する。意外とアクセルペダルが内側にズレているクルマは多い。正しい着座位置は安全な運転につながる基本だ

マツダのクルマは全車種が床からペダルが生えるオルガン式ペダルを採用。アクセルペダルの位置が内側にズレないことで操作ミスを防ぐ

ドアから生えるサイドミラーは、周囲に視界をさえぎるものがなく、斜め前の視界を確保しやすい。これもマツダ車に共通する特徴だ(写真はロードスターのもの)

マツダ車では先進運転支援システムについても、コンパクトカーのデミオからトップモデルのCX-8まで基本的に共通したものを利用する

※マツダ「CX-8」が、ユーザーにもっとも支持された製品を選出する「価格.comプロダクトアワード2018」の「自動車部門」で大賞に選ばれました!

鈴木ケンイチ

鈴木ケンイチ

新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

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