イベントレポート
こだわったのは“スバルらしさ”

スバル初のPHEVの中身が「プリウスPHV」だったという件について、開発者に聞いてみた

スバルは、2018年11月30日に開幕されたアメリカのロサンゼルス・オートショー(LAショー)において、同社初のプラグインハイブリッドモデルである新型「クロストレック ハイブリッド」を発表しました。

スバル初のPHEV「クロストレックハイブリッド」。クロストレックは、日本名「XV」だ。

スバル初のPHEV「クロストレックハイブリッド」。クロストレックは、日本名「XV」だ。

ところが、このクロストレック ハイブリッドの中身はトヨタ「プリウスPHV」だというのです。これは、いったいどういうことなのでしょうか? 現地でスバルの開発担当者に話を聞いてみました。

「クロストレック(日本名「XV」)」をプラグインハイブリッドに

ロサンゼルスオートショー2018で初披露された、スバル「クロストレックハイブリッド」

ロサンゼルスオートショー2018で初披露された、スバル「クロストレックハイブリッド」

「クロストレック」は北米での呼び名であり、日本では「XV」という車名で販売されているコンパクトSUVのことです。

スバル「クロストレックハイブリッド」では、右後ろにある給電口から充電することができます

スバル「クロストレックハイブリッド」では、右後ろにある給電口から充電することができます

「クロストレック ハイブリッド」は、スバルとしては初のプラグインハイブリッドです。さらに、ただのハイブリッドではなく、充電可能な二次電池をたっぷりと搭載し、EV走行も可能としています。発表されたスペックを見ると、搭載するリチウムイオン電池の容量は8.8kWh。モーター出力は、最大で118馬力。これで最大17マイル(約27.4km)のEV走行が可能です。ちなみに、組み合わせられるエンジンは「FB20型」と呼ばれる2リッター水平対向4気筒直噴エンジンです。

スバル「クロストレックハイブリッド」に搭載されているエンジンは、FB20型2リッター水平対向4気筒エンジンです

驚くのは、「クロストレック ハイブリッド」に使われているハイブリッドシステムは、なんとトヨタの「プリウスPHV」と同じものであるということです。「クロストレック ハイブリッド」は、水平対向エンジンのうしろの、これまでトランスミッションのあったところに、トヨタ方式の2モーターが組み込まれています。

画像はスバル「XVアドバンス」(e-BOXER搭載モデル)

画像はスバル「XVアドバンス」(e-BOXER搭載モデル)

そこで大きな問題となるのは、スバルのXVにはすでに「e-BOXER」というハイブリッドがすでに存在しているということです。「なぜ、自前の技術があるのにトヨタのシステムを搭載するのか?」「トヨタのシステムを搭載するのであれば、スバルらしさはどこにあるのか?」「アメリカ市場で売るなら、XVじゃなくてフォレスターじゃないの?」「日本では売るのだろうか?」など、幾多の疑問が浮かんできます。

スバル「クロストレックハイブリッド」のプラグインハイブリッドは、なぜトヨタ「プリウスPHV」のものを流用しているのでしょう。ロサンゼルスオートショーの現場で、開発者に尋ねてみました

そこで、LAショーの会場にて、「クロストレック ハイブリッド」の開発担当者に疑問をぶつけてみました。話をお聞きしたのは、スバル 商品企画本部 主査の金田幸二さんです。

独力で開発したら時間がかかりすぎる

まず、最初にぶつけた疑問は「スバルには自前のe-BOXERというハイブリッド技術があるのに、なぜ、わざわざトヨタのハイブリッドを使ったのか?」ということです。

スバル「クロストレックハイブリッド」の走行イメージ

スバル「クロストレックハイブリッド」の走行イメージ

「このプラグインハイブリッドの開発は、アメリカのZEV規制に対応するためです。本当はEV(電気自動車)をやりたいけれど、さすがにそこまでの技術はありません。そこで、プラグインハイブリッドとなるのですが、それも1からやると時間がかかりすぎてしまいます。そこで、トヨタとのアライアンス効果を生かして、ハイブリッドシステムをいただくことになりました」と、金田氏は説明します。

アメリカのZEV規制とは、カリフォルニア州など一部の州に導入されている規制です。ZEVとは「ゼロ・エミッション・ビークル」の略で、EVや燃料電池車など排気ガスを一切出さないクルマのことです。カリフォルニアなどで、ある台数以上のクルマを販売しているメーカーは一定の割合をZEVにしなくてはいけないという内容で、EVと燃料電池だけでは達成が難しいため、プラグインハイブリッドもZEVの数に入れてもOKとなっています。ところが、スバルの独自技術であるe-BOXERは、排気ガスゼロのEV走行がほとんどできないという弱点があります。スバルとしては、EV走行できるハイブリッド技術が早急に必要だったのです。

スバル「クロストレックハイブリッド」の走行イメージ

スバル「クロストレックハイブリッド」の走行イメージ

「1からやったら、さらに2年以上遅れていたと思います。また、トヨタさんはパテントを数多く抑えていますから、それを避けながら、オリジナルの技術を生み出すのは、非常に難しかったと思いますね。それに、そもそも発注する数が少ないので、サプライヤーさんに協力してもらえなかったでしょう」と金田氏。

“数が少ない”? いったい、スバルはクロストレック ハイブリッドをどれくらい販売する気でいるのでしょうか?

「せいぜい、月に300台くらいです。それくらいしか生産できないでしょう」

わずか、300台。ということは、多くの台数を売って儲けようというわけではありません。また、ZEV規制をクリアするにも少なすぎます。「もしかして、“主眼”は電動化技術の習得ですか?」と尋ねると……。

「そうです。私たちはこれまで、e-BOXERなどいわゆるマイルドハイブリッドを開発してきましたが、今回のプラグインハイブリッドによって数多くの知見をいただけました。大容量の電池を採用したことも初めてですし、本格的なEV走行も初めて。ヒートポンプのエアコンもそうです。それに、クルマを市場に出して、バッテリーがどう使われるのか。劣化はどうなるのか。そうした電池のデータは、自前で集めるしかないのです」

電動化技術習得のためとはいえ、スバルらしさにはこだわった

「クロストレック ハイブリッド」は、トヨタの「プリウスPHV」のハイブリッドシステムを使っていますが、クルマの内容には、随所にスバルらしさが見られます。

「燃費に特化したクルマを作っても、我々ではプリウスと勝負になりません。得意分野で勝負したいですね。そのために、4WD性能を殺さない、SUVとしての走破性を確保しています」と金田氏。

金田氏の言うように「クロストレック ハイブリッド」は、後輪を駆動するためのトランスファーとプロペラシャフトを備えています。最低地上高やアプローチアングルなど、SUVに求められる基本性能は、ベースモデルのクロストレックと遜色ないのです。

「全体として静粛性は高めています。また、モーターはレスポンスがいいので、低速トルクを補ってキビキビとした走りを実現しています」と金田氏。走りのよさは、スバルとしては、絶対に譲れないようです。

バッテリーは荷室の床下に収納しましたが、床面をガソリン車と同じに納めることができず、ほんの少し床が高くなっています。また、アルミホイールを軽量な専用デザインにして、乗り心地を確保するための専用18インチのタイヤも装備しました。とはいえ、車重は220kgほど増加しているとか。ちなみに「フォレスター」ではなく「クロストレック」をベース車に選んだのは「プリウスPHVとサイズが近いから」というのが理由なのだそうです。

「クロストレック ハイブリッド」の日本導入は「検討中」と金田氏は言いますが、月の生産台数がわずか数百台単位では、実際のところ相当に難しいと見ていいでしょう。ただし、今回の開発を通じて、スバルは数多くの電動化技術の知見を手に入れました。今後登場する新型モデルでは、きっと今回の経験が生かされた電動化車両が生まれるはずです。日本のユーザーとしては、新しい電動化モデルの登場を期待して待つしかないようですね。

鈴木ケンイチ

鈴木ケンイチ

新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

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