レビュー
扱いやすく、そして恐ろしいほどに速い

ホンダ「NSX」2019年モデルへ試乗/異次元の旋回性能とオン・ザ・レール感覚が味わえる

ホンダ「NSX」2019年モデル

ホンダ「NSX」2019年モデル

「確かにホンダはフェラーリを作ることはできないだろうけど、でもフェラーリだってホンダを作ることはできないよな」

そんなふうな言葉をクチにしたのは、確か1990年に初代ホンダ「NSX」に初めて試乗した直後のこと。ふとそれを思い出したのは、最新型のNSXを走らせてみて、同じくらいの感銘を受けたからなのだろう。

実は2代目の現行NSXには、なぜかこれまで縁がなかった。イタリア、イギリス、ドイツ、アメリカ……あまたある世界中のスーパー・スポーツカーのステアリングを握る機会は同業の仲間たちの中でもかなり多いほうだったのに、2017年に国内発売されてから改良の手が入れられた今回の2019年モデルが登場するまで、NSXのドアを開けたことすらなかったくらいなのだ。

いや、関心がなかったわけじゃない。ホンダが満を持してデビューさせたスーパー・スポーツカーであり、すばらしかった初代NSXの名を継ぐモデルであるというだけで気持ちはたっぷり惹かれたし、絶賛する声が多かったのに並んで「速いよ。かなり速い。でもね……」とか「よく曲がるよ。曲がるんだけどさぁ……」みたいに、肯定しながらどこか打ち消すような声も聞こえてきて、その「……」の部分がどれくらいどういうことなのか、体感しておきたいと思っていたりもしたのだ。

けれど結論から言うなら、僕はその「……」の部分を体感することはできなかった。

ホンダ「NSX」2019年モデル

ホンダ「NSX」2019年モデル

ホンダ「NSX」2019年モデル

ホンダ「NSX」2019年モデル

ご存じのとおり、2代目NSXは3.5リッターV6ツインターボエンジンをシートの背後にマウントし、さらには後輪用にひとつ、前輪用に2つの計3基のモーターを持たせて4輪を駆動する、ハイブリッド・ミッドシップ・スポーツカーである。“スポーツ・ハイブリッドSH-AWD”と呼ばれる、そのハイブリッドシステムのフロントに配置される2つのモーターはそれぞれ独立しており、左右が個別に制御されることでトルク・ベクタリングの役割をも果たす。

さらには、前後サスペンションの磁性流体を用いた減衰力可変式ダンパー、可変ギアレシオを用いたデュアルピニオン式ステアリング、ブレンボ製の機械式ブレーキと回生ブレーキの制動バランス制御といったさまざまな技術が投入され、それらパワーユニット、ドライブトレーン系は総合的なシステムとして統合制御される。

こうした先進的な技術を満載したハイブリッドのミドシップ・スポーツカーは、フェラーリやポルシェ、マクラーレンなどからもデビューを果たしているが、それらの価格は安くても約1億円から。税込み2,370万円という値段で売られているのは、このモデルをおいてほかにない。そうした要素もクルマの構造・構成も含めて、とにかく語りだしたら止まらないほど中身が濃いのが2代目NSXなのである。

スーパー・スポーツカーとして無視することのできないパワーユニットの数値は、システム全体で581psに645Nm。最高速度は307km/h、0-100km/h加速は3.0秒と言われていて、その速さはデビューの段階からして欧米のライバル達に引けをとっていない。

ホンダ「NSX」2019年モデル

ホンダ「NSX」2019年モデル

そして、この2019年モデルはどこが変わったのか。見た感じではノーズのエンブレムの先にあったクロームのトリムがボディと同色になり、前後バンパーのメッシュの部分が艶っぽい処理とされたことぐらい。個人的にはその大人っぽさを増した雰囲気に好感を持てたのだが、ほかに変化は見つけられない。スペックシートを見ても、特別なものを探し当てることができない。実は今回の変更、わざわざそれを意図したわけではないのだろうけど、ハイライトは目に見えないところに集中しているのだ。

ホンダ「NSX」2019年モデル

ホンダ「NSX」2019年モデル

まず、エンジン+フロント・ツインモーター+リアモーター+9速デュアルクラッチ・トランスミッションというシステムによる駆動力の特性を変更。前後スタビライザー、リアのコントロールアーム・ブッシュとハブの剛性アップ、アダプティブダンパーの減衰力特性の見直し、といったサスペンション周りのリチューニング。電動パワーステアリングの制御変更。それらを統合制御するシステムの最適化。さらには、それらとマッチした専用開発タイヤへの変更……と、こう並べたら簡単なことしかしていないように思われるか、あるいは何のことやらよくわからないと感じる人もおられるかもしれない。要は、クルマの乗り味をほぼ全面的に見つめ直したようなものであり、そのために構造を変えずにできる有効なことは全部やって、トータルバランスまで取り直したようなもの、と思っていただいていいだろう。こうしたケースではよく“熟成”なんて言葉が使われがちだけど、そういうレベルの作業量でも作業内容でもないと思う。

それが相当に手間暇のかかる大変な作業だということは、この仕事も長いので簡単に想像はつくのだが、けれど残念ながら僕にはどこがどんなふうに進化したのか、比較すべき対象を体験していないからわからない。ただただ「よくできてるなぁ」と感心する以外は、走らせるのを楽しむことしかできなかった。そう、2019年モデルのNSXの走りっぷり、掛け値なしにすばらしいのである。

ホンダ「NSX」2019年モデル

ホンダ「NSX」2019年モデル

まず驚いたのは、速さの“質”だ。そりゃ581psに645Nmも馬力があるのだから、速さの“量”だって生やさしいものじゃなくて、それが発進加速だろうとコーナーからの立ち上がり加速だろうと、ドライバーの首筋に容赦なく強力なストレスをかけてくる。もちろん速さで言うなら、ほかにもっと速いクルマはいくつもあるけれど、ターボのブーストが高まってメキメキとチカラを発散させていく前の谷間のような部分をすでにモーターのトルクがきれいに埋めていて、そこにターボの炸裂がグググッと乗っかってくる感じで、いかなる領域においても物足りなさや疑問じみたものを感じる余地がないのがすばらしい。それらのまったく違和感のないリレーションシップのよさは、見事! のひと言。

ホンダ「NSX」2019年モデル

ホンダ「NSX」2019年モデル

ワインディングロードでは、次から次へと現れるさまざまな曲率のあらゆるコーナーを、ドライバーの期待にみじんも後れをとることなく、あぜんとしそうなほどの勢いで鋭く加速しながら次の獲物へと向かっていく。それが楽しくないはずなんてないだろう。しかも、だ。3.5リッターV6ターボのサウンドがまた気持ちいいのだ。「でもね……」なんてものは、どこにもないのである。

ホンダ「NSX」2019年モデル

ホンダ「NSX」2019年モデル

それを下支えしている足と腰が、またすばらしかった。長いコーナーでジワーッと横Gが強くなって踏ん張りが増していくような場面でも、スパッとタイトなターンですばやいリアクションが必要な局面でも、サスペンションは常にきれいに伸び縮みする。身のこなしはまるでライトウェイトスポーツカーのように軽く、狙った方向へと素直にキッチリと曲がってくれる素直さを見せ、コーナリングスピードはタイヤが鳴きだすより早くドライバーが音を上げそうになるほどの異次元といえる速さで、恐るべき領域で旋回しているときに路面の荒れているエリアへ踏み入っても、タイヤはガッチリと路面をつかみ続ける。どこまでいっても気持ちいいぐらいのオン・ザ・レール感覚。もちろんそれは前輪のツインモーターが巧みに働いてくれることによるトルクベクタリングの成せる技なのだろうけど、変な癖だとか違和感のようなものはまったくといえるくらい感じられず、きわめて自然と言えるフィールなのだ。

何ひとつ気がかりになるようなこともなく、ちょっとありえないような領域に突入しつつ、それでもペタリと路面に吸い付くような体で、ドライバーの気持ちにピタリと沿った方向へときれいに曲がっていくのである。これが楽しくないはずなんてないだろう。快感以外のナニモノでもないじゃないか。「曲がるんだけどさぁ……」どころの騒ぎじゃない。

ホンダ「NSX」2019年モデルとモータージャーナリストの嶋田智之

ホンダ「NSX」2019年モデルとモータージャーナリストの嶋田智之

そう申し上げると、新しいNSXはまるでスピード至上主義のスパルタンなスーパーカーかと思われるかもしれないけれど、まったく違う。それらはやればできる──それもウデの立つドライバーが操ればもっと高いレベルで──というだけの話であって、峠道を軽く流すような走り方をしても十分な気持ちよさを提供してくれるし、普通に走らせているときのNSXは、着座位置こそ低いものの、よくできたサルーンのように乗り心地がよく、快適だ。扱いづらさなんてものとも無縁である。電気モーターの恩恵は確かに気持ちのいい走りの側面に集中している気もするけれど、走行モードを“クワイエット”にしておけば、バッテリーに余力があるかぎり、前輪駆動の電気自動車としても機能してくれる。街中をモーターのみで静かに走っているときの感覚は、狐にデコピンでも喰らわされたような何とも奇妙なものだったけど、そこに不思議な逆説的な楽しさがあったことも否定できない。それもNSXの貌(かたち)のひとつなのだ。

さまざまなドライバーの、さまざまなレベルに合った、さまざまな楽しさを提供してくれる、マルチな性格を持ったヒューマンオリエンテッドなミッドシップのスーパーカー。そういうクルマを、僕はほかに知らない。

[Photo:和田清志]

嶋田智之

嶋田智之

Tipoで約10年編集長を、ROSSOで総編集長を務める。現在はフリーランスとして自動車専門誌へ寄稿するほか、トークショーなどにも出演。クルマの楽しさを伝え、クルマとともに過ごす人生を提案することをポリシーとする。

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