レビュー
北海道のマツダ試験場で開発車両のMAZDA3に試乗

マツダ 新型「MAZDA3」の実力の一端を北海道で垣間見た

北海道で新型「MAZDA3」を国内初試乗

新型「MAZDA3」を使用したマツダの技術体験会が、北海道の「マツダ剣淵試験場」で開催された

新型「MAZDA3」を使用したマツダの技術体験会が、北海道の「マツダ剣淵試験場」で開催された

僕達は通常、まぁそれが長いか短いかは置いておいて“2本の足”を使って、当たり前のように歩いている。歩くために片足を前へと送り出すと、途中は片足だけの状態のほうがおそらく長いのに、少しぐらいの外乱があってもバランスを崩して倒れたりすることはなく、前へ前へと進んでいく。それは、右、左、右、左、と左右の足を送り出すたびに体重移動をし、そのたびに「骨盤」が反対側に動いてバランスを取っているからだ。生まれて育ってくる過程で自然にできるようになったものだから、普段は意識なんてすることもないけど、人間にはそうした天然の「バランス保持能力」が備わっているのである。これって、改めて考えるとすごいことだと思わないか?

いったいなぜ、そんなことを言い出すのかといえば、マツダ 新型「MAZDA3」を語るときに、この点を避けることができないからだ。実は、北海道にあるマツダの剣淵試験場で「MAZDA3」のプロトタイプへと試乗して、もっとも印象深かったのが、この点だったのだ。

MAZDA3についてご存じのない方のために少しだけ触れておくと、日本では「アクセラ」と言うネーミングで販売されてきたミドルクラスの5ドアハッチバック、4ドアセダンのことで、国外では「MAZDA3」の名前で販売されている。

ロサンゼルスショー2018で発表された、新型「MAZDA3」。左がセダンで右がハッチバック。日本名はこれまでは「アクセラ」であったが、新型の日本における正式名称は、いまだ公表されていない(記事公開時点)

そんなMAZDA3は、2018年秋のロサンゼルスショーで4代目となる新型モデルが披露された。新型MAZDA3は、5ドアと4ドアで受ける印象は異なるものの、どちらも魅力的なスタイリングが与えられている。おそらく2019年中と言われている発売を、心待ちにしている人もいらっしゃることだろう。

今回は、カモフラージュが施された新型MAZDA3の開発車両を使った試乗テストとなった

今回は、カモフラージュが施された新型MAZDA3の開発車両を使った試乗テストとなった

でも、今は発売までにもう少し時間を要するタイミング。今回の試乗は、そんな魅力的なエクステリアにカモフラージュが施されたプロトタイプ──というか、開発車両そのもので行われた。

ほとんどの日本のメディアにとっては、今回が新型MAZDA3に触れる最初の機会。でも、その舞台が雪上なのはなぜ?と疑問に感じていたのだけれど、そのもっとも大きな理由が冒頭の文章に関係している。つまり“バランス保持能力”だ。マツダはその点をとことん追求しながら、新型MAZDA3の開発にあたってきたという。

雪上という路面μの低い状態のほうが、クルマのわずかな違いも実感しやすい。そんなことから、今回の試乗会が開催された

国内初となる新型MAZDA3の試乗が雪上である理由は、こうした滑りやすい路面のほうが、ドライの路面と比べてほんのわずかなクルマの動きの違いがハッキリと現れて感じ取りやすいから、であった。

人間が持っているバランス保持能力が、クルマにどう影響を及ぼすか。大げさでも何でもなく、この日の試乗ではっきりと思い知らされたのだ。

“骨盤を立てて座る”ように設計された新型「MAZDA3」のシート

座りながら前後左右、8の字といった動作をすることで下腹部などが引き締められるという骨盤運動マシン「ながらウォーク」。だが、今回は骨盤を立てて座るという実験のために導入された

さて、さっそくMAZDA3に試乗……というわけにはいかず、最初はちょっとした実験から始まった。「ながらウォーク」という、台座の上にフレキシブルな動きをする座面を取りつけた、骨盤運動マシンに座らされた。言うならば、イスのかたちをした「バランスボール」のようなものだ。

骨盤を立てているとしっかりと座っていられるが、ゆるく座ると途端に体がぐらついて倒れそうになる

骨盤を立てているとしっかりと座っていられるが、ゆるく座ると途端に体がぐらついて倒れそうになる

グラグラと動くそれに腰を下ろして、適切に両足を着地させ、グッと腰を入れて骨盤を立てた(脊柱がちゃんとS字カーブを保てている状態)正しい姿勢をとると、横から肩を軽く押されるぐらいではビクともせずに座っていられる。だが、足をいい加減に着地させて猫背の姿勢をとると、骨盤の角度が斜めにズレ、頭の位置もブレにブレて、押されるまでもなくバランスを崩して倒れそうになった。ようは、人間は骨盤を正しく立てた状態でいることで、バランスを保持することができるというわけだ。

「人間のバランス保持能力を最大限発揮させる」という考え方から、各所の構造を見直して再設計された、新型「MAZDA3」のシート

新型MAZDA3のシートはその“骨盤”に着目して、歩くときと同じように“骨盤を立てた状態で座れる”ように設計されている。そのために、シートを車体に取り付ける位置やシートレール、さらにはシート形状や骨格に至るまで、全面的な見直しが行われたという。

“骨盤を立てて座る”ことが、クルマの運転にどう作用するのだろうか。新型MAZDA3に乗り込んで、腰をシートバックにしっかりと密着させ骨盤を立てて座った状態と、腰を前方にずらしてルーズに座った状態とで乗り比べてみることになった。

正確なデータを計測するために、先導車の「デミオ」と一定の間隔を保って追走した

正確なデータを計測するために、先導車の「デミオ」と一定の間隔を保って追走した

しっかりと座った状態とルーズに座った状態、2つの走行データを比較してみると実に驚かされた。ルーズな姿勢で運転したときには、たしかにクルマの動きがつかみにくい、操作しにくくて怖い……と感じてはいたのだが、そうした感覚的なことがデータとしてもしっかりと現れていたことだ。

骨盤をしっかりと立てずにシートに座ったときには、あらゆる運転操作に遅れが生じていたことが、データを通じても明らかになった

腰をシートに密着させて運転したときのデータと比べて、ルーズな姿勢ではアクセルやブレーキのペダル操作に明らかな遅れが出ていたり、ステアリング操作が遅れたり、逆に早かったり、あるいは粗かったりしていたのだ。要は、腰の据わった状態=骨盤が立った状態=バランス保持の機能がちゃんと発揮できる状態じゃないと正確なドライビングはできない、ということである。

新型「MAZDA3」のシャシーの進化を“ながらウォーク”で体感

新型MAZDA3は、そうした人間のバランス保持能力を徹底的に研究し、クルマ全体、あるいは各部の開発に落とし込んでいる。そのためにしたことを列記すると莫大になってしまうので、要点だけかいつまんでお伝えするなら、ひとつは「シャシー」だ。タイヤを経由して伝わってくる入力の大きさを低減させる考え方から、タイヤからの入力を遅れることなく滑らかに車体へと伝える考え方を優先させた。そして「車体」。タイヤとサスペンションからの入力を遅れなく正確に乗員へと伝えるための骨格を作り上げた。そして前述の「シート」だ。自然と骨盤を立てた姿勢で座れるだけでなく、車体の動きに相違なく、ピタリと一体で動くものを作り上げた。

つまりMAZDA3では、路面とクルマの間で起きている現象を、瞬時に正確に乗員へと伝えることで、ドライバーは正確な運転操作をすることができ、助手席や後席の人は無意識の予測とのズレがなくて疲れない、という人間の感性を重視したクルマ作りが行われている、というわけだ。

助手席が取っ払われ、代わりに冒頭で登場した「ながらウォーク」が鎮座しているという、やや複雑な気持ちになる光景だ。今回は、「アクセラ」と新型「MAZDA3」の助手席に設置されたながらウォーク比較という、今後二度と体験することのないであろう乗り比べを実施した

まず「アクセラ」の助手席に取り付けられた「ながらウォーク」に座ったところ、時速5km/hという極低速でも体が倒れそうになり、しっかりと座っていられなかった

それが明確になる実験も体験した。1台は現行のアクセラ、もう1台は新型のMAZDA3。どちらも助手席のシートを外し、そこへ先ほどと同じ“ながらウォーク”を固定し、助手席体験をした。時速でいうなら5km/h程度の微速だというのに、しかも意識して骨盤を立てて座っていたのに、アクセラの助手席に座ってるときにはまったく身体をバランスさせて座っていられない。ものすごくジワーッとステアリングを切って曲がるか曲がらないかの段階で、横に倒れ込みそうになる。

次に、新型「MAZDA3」に取り付けられた「ながらウォーク」に座ってみた。前述のアクセラとは異なり、不安定な状態にもかかわらずアクセラのように体が倒れこむようなことはまったくなかった。MAZDA3の実力の一端を垣間見た瞬間だ

だが、MAZDA3では難なく座っていられたのだ。ちっともグラつくことはない。この違いは何なんだ?と、キツネにつままれたような気分だ。それほど、MAZDA3の安定性は大きく進化しているのだ。

雪上で抜群の安定感を見せる「Gベクタリング・コントロール・プラス」

その進化がMAZDA3の骨格や筋肉などであるとするなら、神経に相当する部分も大きな進化を遂げていた。たとえば、「Gベクタリング・コントロール・プラス」の搭載である。Gベクタリング・コントロールというのは、従来から採用されていたクルマの運動性能に関する制御技術のことだ。

簡単に言うなら、曲がるためにステアリングを操作し始めた瞬間にエンジンのトルクを微妙に絞り、前方へとわずかに重心を移すことで、前輪に荷重を与えて曲がりやすくするというもの。曲がっている最中には、逆にエンジンのトルクを元に戻して後輪の荷重を増やすことでクルマの動きを安定させる。

そして、Gベクタリング・コントロール・プラスでは、その細かな最適制御に加えて、コーナーからの脱出時に外側の前輪を微かにブレーキングさせることで、クルマの姿勢を直進状態に戻そうというチカラを生じさせて安定に導く、という制御が加わっている。このGベクタリング・コントロール・プラスは、最新のCX-5やCX-8にはすでに導入されているものだ。

「Gベクタリング・コントロール・プラス」がONの状態で走ると、クルマの動作が落ち着いていて、終始安定した動きを見せる

そのGベクタリング・コントロール・プラスのONとOFFを切り替えることのできる開発車両(前輪駆動車)で、まずはスラロームを試してみた。ONの状態では、曲がり始めにステアリングを操作する量が明らかに少なく、曲がり終えるときのクルマの動きの収まりがいい。ステアリングフィールは落ち着いていて、クルマ自体に無駄な動きがない。

「Gベクタリング・コントロール・プラス」をONとOFFで切り替えてみると、安定性に顕著な差が見られた

「Gベクタリング・コントロール・プラス」をONとOFFで切り替えてみると、安定性に顕著な差が見られた

次に、雪上としては速いといえる速度域でダブルレーンチェンジを試してみる。まずはOFFで走ってみると、これはスラロームのときにも感じたことなのだけれど、曲がり終わるころに後ろ側が振られそうな動きを見せて、少しばかりひやりとする。そして、速度を上げれば上げるほどスピンしそうになる。実際には横滑り防止装置が働いてスライドを止めてくれるし、何より予測して走っているから大事には至らないわけだが、これがONにすると嘘のように安定する。ギュッと曲がって、すぐ逆側にギュッと曲がって、の繰り返しを、ドライバーに無駄な操作を強いることなく、きれいに安定して走ってくれるのだ。

「Gベクタリング・コントロール・プラス」を試したMAZDA3は前輪駆動(FWD)だったが、オーバースピードで突っ込んでも何事もなくコーナーを抜けていき、その懐の深さを見せた

だから、林道のワインディングロードのような雪上路を走ったときは、なかなか興味深かった。OFFにした状態でも、常識的な速度域で走っている分には何ということもないけれど、次第に速度域が高くなるとコーナーの最後、脱出しようかというタイミングで後輪が「ズルッ」と滑る。けれど、ONにして同じくらいの速度域でコーナーを曲がっても、まったく何事もない。コーナーの入り口ではノーズがきれいに入っていき、後輪もしっかりとついてくるのだ。あっ、曲がる!という具合に、狙った方向へときれいにクルマを運んでいけて、とても扱いやすい。さらに、調子に乗ってわざとオーバースピード気味にコーナーへと飛び込んでみたりもしたのだが、ABSを効かせながらステアリングを切り込んでいくような状況になってもノーズはインを刺し、少しだけじわりとスライドはしたもののすぐさま安定性を取り戻してスルリと曲がっていく。

立ち上がりで、ステアリングを戻しながらアクセルペダルを踏んでいくと、前輪も後輪も暴れるようなそぶりすら見せずに次のコーナーへと向かっていく。「4WDじゃなくて、このFWDで十分なんじゃない?」と感じられたほどだ。自分の腕前がいくつも上がったようにすら感じられた。

「i_ACTIV AWD」も大きく進化

マツダはAWDシステムも進化している。今回は「CX-3」に搭載された新しい「i_ACTIV AWD」をテストした

マツダはAWDシステムも進化している。今回は「CX-3」に搭載された新しい「i_ACTIV AWD」をテストした

だが、4WDはさらに進化していた。今回は新型MAZDA3のi_ACTIV AWD仕様車は間に合わなかったとのことで、現行のCX-3に同じシステムをインストールした開発車両でテストしたのだが、これも新旧のi_ACTIV AWDシステムをスイッチで切り替えることのできるクルマだったので、違いがよく解った。

旧システムだけで走っている段階では雪上でもしっかり安定して走れるし、これでいいんじゃないの?と感じた。だが、新システムに切り替えると、まるで「旧システムはいわゆる“生活4駆”なんじゃないか?」と思えてくるほど、安定した走りを見せたのだ。

新しいi_ACTIV AWDは、前輪と後輪のそれぞれにかかる荷重に応じて前後の駆動力の配分を常にバランスさせるなど、制御の考え方が押し進められている。なので、安定感が高まっただけじゃなく、びっくりするくらい曲がりやすくなっていた。

しかも、だ。従来、AWDの制御は専用のコントローラーによって行われていたが、新しいシステムでは制御系とひとつのコントロール・ユニットにまとめられることになり、Gベクタリング・コントロール・プラスとも協調制御されることになった。複数の頭でモノを考えてそれぞれ伝えるより、ひとつの頭でモノを考えて全てに一気に指令を出す方が早いしミスもない、というわけ。先ほど“神経に相当する部分も大きな進化を遂げた”と記したのは、単に機能だけがバージョンアップしたわけじゃなく、機能とそれを司る伝達系のすべてがバージョンアップしているから、だったのである。

アクセラと乗り比べても、やはり新型「MAZDA3」に惹かれてしまう

骨格や筋肉がビシッと強靱になり、作業するための手足とそこに至るまでの神経までもが充実した。新型MAZDA3からは、そんな印象が感じられる。

現行の「アクセラ」と新型「MAZDA3」の比較試乗も行ったが、すべてにおいて新型MAZDA3のほうが高いレベルにあった

多くの場面で現行のアクセラと比較することもあったのだが、現行のアクセラはそれを走らせているときには決して悪くはない。十分に高評価に値するクルマだと感じられる。けれど、新型MAZDA3に乗ってしまうと、すべてにおいて1ランク、いやそれ以上に新型MAZDA3のほうが高いレベルにあるので、どうにもそちらに惹かれてしまった。

現段階では、まだクルマの詳細がアナウンスされていないし、最終仕様かどうかも明らかにされていないので、開発の基本的な考え方に関わる部分と明確な改良が加えられた核になる部分にだけ触れるに留めたが、それでもこんなにもたっぷりと語るべきものがあるし、これだけでも完成形への期待感がググッとふくらまされるだけものがあった。

日本での市販モデルの正式発表は2019年中、おそらく数か月のうちだと思われる。今回の試乗を通じて、その日が来るのがとても楽しみになってきた。

嶋田智之

嶋田智之

Tipoで約10年編集長を、ROSSOで総編集長を務める。現在はフリーランスとして自動車専門誌へ寄稿するほか、トークショーなどにも出演。クルマの楽しさを伝え、クルマとともに過ごす人生を提案することをポリシーとする。

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