バイク野郎 増谷茂樹の二輪魂
企業向け販売の車種だけれど伝えずにはいられない完成度の高さ

宮古島に行くなら乗ってみてほしい! ピカイチな完成度の電動バイク「PCX ELECTRIC」


電動化がなかなか進まない2輪車。今回は、日本国内における電動バイクの実情を見ていくとともに、今、もっとも期待が持てるホンダ「PCX ELECTRIC(エレクトリック)」についても紹介する。

電動バイク普及のカギとなるのは?

自動車の世界では電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド(PHV)などパワーユニットの電動化が進んでいるが、2輪車に目を向けると世界的に見ても4輪に比べて電動化は遅れている。中国の一部地域では、都市部へのエンジン搭載バイクの乗り入れが禁止されている関係で電動バイクがメジャーになっているものの、そうした規制のない地域ではまだまだガソリンエンジンのバイクが主流だ。普及が進まない大きな理由は、バッテリーにある。航続距離を確保するためにバッテリー容量を増やすと、車重が重くなりコストも跳ね上がってしまう。また、ガソリンの給油に比べて充電に時間がかかることもハードルとなっているようだ。

そんな課題を解決すべく、台湾をはじめとするアジア圏内でスタートしたのが、電動バイクのバッテリーを交換式としたうえで、バッテリーの充電や交換を行うステーションを設置し、そこでバッテリーを交換するシステム。本来であれば、走行途中にバッテリーが切れたら、充電できる場所で充電をしなければならないが、このシステムを使えば、ステーションで充電が完了しているバッテリーに交換すれば、すぐに出発でき、航続距離もそれほど大きな問題ではなくなる。

台湾のGogoro社の交換式バッテリーを搭載した電動バイクと充電ステーション。これらを導入し、シェアリングサービス「GoStation」を展開している

台湾ではコンビニエンスストアにも充電ステーションが設置されており、スマートフォンのアプリで充電ステーションの場所も確認できる。残量がなくなったバッテリーと充電できているものを交換するだけなので、充電が完了するまで待つ必要はない

このような取り組みが、日本国内でもわずかではあるが始動している。Gogoroの電動バイクと充電ステーションが2018年2月に石垣島に導入されたほか、2019年3月からは宮古島にて今回紹介する「PCX ELECTRIC」のレンタルサービスもスタート。そう、PCX ELECTRICも交換式のバッテリーを搭載した電動バイクなのだ。現時点ではGogoroのような充電ステーションは設置されていないため、宮古島でのレンタルサービスは「バッテリー交換スポット」とされた飲食店や土産物店など16か所でバッテリー交換を行うスタイルとなっている。まだ発展途上の段階ではあるが、2019年4月にはホンダをはじめ、カワサキ、スズキ、ヤマハが電動バイクの普及を目的とした「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」を創設。交換式バッテリーとそのバッテリー交換システムの標準化の検討が進められており、今後の進展が期待される。

<関連記事>台湾で電動スクーターのシェアNo.1のGogoroと住友商事がシェアリングサービスを始動!

「PCX ELECTRIC」って、どんな電動バイク?

PCX ELECTRICは、原付二種(排気量125cc未満)クラスに分類されるガソリン車のスクーター「PCX」をベースとした電動バイク。維持費が安く、街乗りにちょうどいいサイズ感であることが支持されている原付二種クラスのスクーターの中では、PCXの車体は少々大きめだが、取り回しはしやすく、走りも軽快で人気は高い。そんなPCXにハイブリッドシステムを搭載した「PCX HYBRID」も、2018年9月に発売されている。世界で初めての2輪車のハイブリッドモデルだ。筆者はPCX HYBRIDにも試乗したことがあるのだが、電子モーターによる加速感はクセになるほどで、電動バイクとガソリン車のおいしいところを堪能できる乗り味に感心した。もちろん、ハンドリングのよさやすぐれた安定性を備えるベース車の存在も大きい。こうしたことから、完全EVのPCX ELECTRICの完成度には期待が持てる。

PCX ELECTRICのサイズは1,960(全長)×740(全幅)×1,095(全高)mmで、ベース車のPCXより全長と全高が1〜3.5cmほど大きい

車体デザインは従来のPCXシリーズとほぼ共通だが、ヘッドライトに入っているブルーのラインはPCX ELECTRICのみの特徴

パイプハンドルを装備したコックピットまわりのデザインもPCXシリーズと共通

パイプハンドルを装備したコックピットまわりのデザインもPCXシリーズと共通

メーターは電動バイクらしい専用デザインとなっている

メーターは電動バイクらしい専用デザインとなっている

モーターはリアホイールを支えるアーム部に搭載。最大4.2kWのモーター出力を実現する

モーターはリアホイールを支えるアーム部に搭載。最大4.2kWのモーター出力を実現する

フェンダーをアーム側に装備したリアまわりはなかなかかっこいい

フェンダーをアーム側に装備したリアまわりはなかなかかっこいい

バッテリーは、シート下に配置。「Honda Mobile Power Pack」と呼ばれる着脱式のバッテリー2個を搭載し、2個のバッテリーを直列接続するEVシステムとなっている。これは、バッテリーを取り外して持ち運ぶ際に重すぎない重量に抑えるためだと思われるが、このように複数のバッテリーを使用するシステムを採用するのは、ホンダの2輪車としては初めてのことだという。

1個あたり電圧48Vのリチウムイオン電池を採用。満充電の状態で、最大41km走行できるとのこと

1個あたり電圧48Vのリチウムイオン電池を採用。満充電の状態で、最大41km走行できるとのこと

充電は、車体に内蔵されたプラグをコンセントに差して行う。AC100Vの家庭用コンセントに対応しているので、自宅で充電可能。バッテリー残量ゼロの状態から満充電まで約6時間かかる

バッテリーを取り出して充電することもできるが、その際にはオプションの専用充電器が必要。バッテリー残量ゼロの状態から満充電まで約4時間だが、1個ずつの充電となるので、2個同時に充電したい場合は、充電器も2つ用意しなければならない。ちなみに、バッテリーの重量は1個あたり約10kg

シート下にバッテリーが搭載されているため、収納スペースはガソリン車のPCXより狭い。グローブが入れられるくらいのスペースしかない

ヘルメットをシート下に収納することはできない代わりに、シート横にホルダーを装備。ホルダーにヘルメットを引っかけてシートを閉めるとロックされるので、盗難は防げる

収納スペースは、ハンドル左下にもある。500mlのペットボトルが収まるくらいの容量なので、それほど大きくない。また、ボックス内にはシガーソケットが装備されており、プラグを接続すればスマートフォンの充電も行える

走行性能を試乗で確認

車体を見たあとは、いよいよ走行性能のチェックへと移る。以前試乗したハイブリッドモデル「PCX HYBRID」での加速感を気に入っているだけに、フル電動となったPCX ELECTRICに乗れるのが楽しみで仕方ない! さっそく、街中を走行してみた。

キーは電動バイクらしく、スマートキー

キーは電動バイクらしく、スマートキー

キーをオンにし、アクセルをひねるとわずかに電子音を響かせながら車体が動き出す。スタート時の加速感は、出足の鋭さが魅力の電動バイクらしいもの。それでいて、出力の調整が適切にされているようで、唐突に加速してしまうこともない。筆者は過去に何台も電動バイクに試乗しているが、なかには加速は鋭いもののやや唐突感があり、速度コントロールがしにくいモデルもあった。その点の完成度がPCX ELECTRICは非常に高いようで、右手の動きで適切に速度を調整することができた。最高速度は約60km/hと、ガソリン車やハイブリッド車と比較するとやや見劣りするが、アクセルの動きに対する反応の速さはPCX ELECTRICがもっともよい。

アクセルをひねると素早く速度調整できるので、ストレスがない

アクセルをひねると素早く速度調整できるので、ストレスがない

PCXシリーズは、スクーターとしては径の大きい14インチのタイヤを装備し、軽快なハンドリングが望めるのが魅力のひとつでもある。そんな、PCXならではのよさは電動化されても変わっていない。大きめの車体にもかかわらず街中の狭い路地なども得意で、かなり小回りが効くうえに曲がっている際の安定感も高く、ある程度スピードが乗るようなコーナーリングでも不安感なく車体を寝かせられる。

スクーターではあるが挙動は普通のバイクに近いので、コーナーリングもかなり楽しい

スクーターではあるが挙動は普通のバイクに近いので、コーナーリングもかなり楽しい

また、コンパクトなUターンもしやすい(下の動画参照)。エンジンで駆動するバイクの場合、エンジンの回転数が高まるにしたがって出力が大きくなり、ターンの後半で不安定になってしまうこともあるのだが、PCX ELECTRICはアクセルを開けた分だけパワーが取り出せるため、加速し過ぎないので、ふらつくことなくターンできる。

販売はリースのみ

かなり完成度が高いPCX ELECTRICだが、残念ながら現状では基本的に企業向け(個人事業主含む)のリース販売とされている。市販ではなく、リース販売とされた大きな理由は2つ。ひとつは、価格だ。リース販売の費用はリース会社によって異なるため公表されていないが、総額は約70万円。これは、ガソリン車のPCXの販売価格の約2倍にあたる。原付二種のスクーターに、そこまでの費用をかけてまで購入したい人は確かに多くないだろう。そして、もうひとつの理由が、着脱式のバッテリーを採用したことにある。この交換できるバッテリーは前述のとおり、電動バイクがメーカーの垣根を超えて普及していくインフラを整えるうえではポイントとなるもの。しかし、電動バイクを市販した場合、たとえば、バッテリーの寿命がきて交換する際、適切に廃棄されるのかなどの懸念点がある。また、使用状況によってバッテリーの劣化の具合も大きく異なることが想定されるため、まず回収や管理を徹底し、そこから得たデータを分析して今後に生かしたいということから、今回は市販を見送ったという。

試乗を終えて

2017年に開催された東京モーターショーでPCX ELECTRICを初めて目にした際、電動バイクが普及するきっかけとなるマシンかもしれないと発売を心待ちにしていたため、販売形式がリース式となったと聞いた時は、少々がっかりしたものだ。実際に乗ってみると、その思いはますます強くなる。完成度の高さは、筆者がこれまで試乗した電動バイクの中でも1番と言えるほどであった。ただ、ホンダが市販を見送ったことも理解できる。バッテリー管理の問題や価格のことを考えると、現時点ではリース販売からスタートしていくのが賢明なようにも思う。そうした取り組みから使用状況などのデータを集め、今後、市販されるかもしれないことに期待したい。

PCX ELECTRICのリース販売は、2019年1月から始まっている。そんな車種をなぜ今さら取り上げるのか? と思われる人もいるかもしれないが、夏休みなどで宮古島に旅行に行った際、機会があればPCX ELECTRICのレンタルサービスを試して、電動バイクの魅力、交換式バッテリーの便利さを実感してもらいたいという気持ちで紹介させてもらった。“旅の足”として役立つだけでなく、電動バイクに抱いているイメージが変わるほど伸びやかで快適なので、旅をより楽しいものとしてくれるはずだ。

増谷茂樹

増谷茂樹

カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。

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