レビュー
先代の弱点を潰し、商品力を大きくアップさせた新型タント

販売絶好調のダイハツ 新型「タント」!それでも N-BOXを抜けない理由とは

2019年8月の普通車と軽自動車の登録台数ランキングを見ると、同月に1万台以上を販売した車種は、すべて軽自動車で占められている。1位のホンダ「N-BOX」は1万8,282台、2位のダイハツ「タント」は1万6,838台、3位の日産「デイズ」「デイズルークス」は1万3,432台であった。普通車の1位はトヨタ「シエンタ」だが、登録台数は8,745台とN-BOXの半分以下になってしまう。

2019年7月9日に発売された、ダイハツ 新型「タント」。右がノーマルのタントで、左がタントカスタム。どちらも外装パーツに手が加えられた「用品パッケージ装着車」

そんな時代を象徴するのが、2019年7月に発売された新型タントだろう。当記事では、試乗記とともになぜタントが2位にランクインされるほどの人気を得ているのかについても考えてみたい。

先代から人気のBピラーのない「ミラクルオープンドア」は、新型タントでも健在だ。1,490mmという開口幅によって、抜群の乗降性を誇る

まず、新型タントが販売ランキングの2位に入った理由は、軽自動車に求められる高い商品力を備えているからだ。先代型と同様、全高が1,700mmを超える水平基調のボディによって、前後席とも車内が広い。後席をたためば、自転車も積める広い荷室になる。左側のピラー(柱)はドアに埋め込まれ、前後のドアを開けば開口幅が1,490mmに広がるから、ベビーカーを持ったまま車内に入ることもできる。

さらに、新型タントでは先代型の欠点を徹底的に改善してきている。先代型の後席は座面の柔軟性に乏しく、床と座面の間隔も不足気味で、座面の角度は水平に近いために足を前方へ投げ出す座り方になっていた。だが、新型タントではシートの造りと着座位置を改良することで、座り心地にボリューム感が与えられて着座姿勢も快適になった。

先代タントであった動力不足などのネガティブな部分は、新型では見事に解消されている

先代タントであった動力不足などのネガティブな部分は、新型では見事に解消されている

走りに関しては、先代型では動力性能が不足していて、操舵に対する反応が鈍いといった欠点があった。そこで、新型タントではノーマルエンジンの実用回転域における駆動力を向上させている。通常走行の加速力を左右する最大トルクは先代、新型ともに6.1kg-mだが、発生回転数は先代型は5,200rpmであったのに対し、新型は3,600rpmとなっている。最大トルクの数値こそ同じだが、発生回転数が実用域に下がって運転しやすくなったのだ。

新型タントでは、CVTにも変更が加えられており、ギヤ比がワイド化されている。売れ筋グレードの車両重量は900kgに達するため、動力性能は十分とまではいえないが、登坂路でパワー不足を感じる機会は明らかに減った。

新型タントのターボモデルは、当然ながら動力性能が高い。最大トルクは10.2kg-m(3,600rpm)と、1Lノーマルエンジンを搭載しているような感覚で運転できる

実際に試乗してみると、プラットフォームやサスペンションが変更されていることで、先代型で気になった操舵感覚の鈍さと、走行安定性の不満が解消されている。操舵に対する反応の仕方が自然になり、峠道などを走っても先代型に比べて旋回軌跡を拡大させにくく、カーブが曲がりやすくなっている。

操舵感の鈍さは無くなり、走行安定性も先代と比べて大きく高められている

操舵感の鈍さは無くなり、走行安定性も先代と比べて大きく高められている

また、以前は車線を変更したときなど、ボディがフラッと唐突に傾いて不安を感じたが、新型ではこの挙動についても改善されている。乗り心地は、今でも低速域で硬さを感じるが、先代型に比べると粗さが抑えられている。さまざまな部分に、プラットフォームとサスペンションの刷新が効いていると感じる。

「運転席ロングスライドシート」を使って運転席を後端に寄せれば、たとえばチャイルドシートに座っている子供にすぐにアクセスすることができる

新型タントでは、先代型の欠点を解消しつつ、さらに新しい機能も追加されている。車内では、運転席を前後に540mm調節できる「運転席ロングスライドシート」を新たに装備。助手席を前に寄せて、かつ運転席を後ろまでスライドさせれば運転席から後席へすぐに移動ができるようになっている。

新型タントでは、新たな運転支援機能も採用されている。緊急自動ブレーキを作動させる2つのカメラセンサーを活用して、車間距離を自動で制御する「アダプティブクルーズコントロール」を搭載。先行車に追従走行してくれることで、ドライバーはアクセルやブレーキペダルの操作から解放される。アダプティブクルーズコントロールの作動中は、車線の中央を走るように操舵も支援される。この機能が搭載されたことによって、高速道路を使った長距離移動などは快適になるだろう。

なお、このアダプティブクルーズコントロールは、ターボエンジン搭載車のみにメーカーオプションで設定されている。N-BOXの「HondaSENSING」や、デイズの「プロパイロット」と違って、ノーマルエンジン車には装着できないのが残念な点だ。

新型タントは、後席の居住性、動力性能、走行安定性の欠点を改善させて、車内の居住性や使い勝手も高められた。安全装備も充実させている。先代型に比べると、商品力は相当に高くなっていると言える。

ダイハツ 新型「タント」は、標準ボディの「X」が割安でおすすめだ

ダイハツ 新型「タント」は、標準ボディの「X」が割安でおすすめだ

新型タントのグレード選びにも触れておこう。機能と価格のバランスを考えると、最も買い得なのは標準ボディの「X」だ(146万3,400円/消費税率8%時。以下同)。

ベーシックな「L」との価格差は15万6,600円だが、左側スライドドアの電動機能、キーフリーシステム、TFTカラーマルチインフォメーションディスプレイ、運転席と後席のロングスライド機能など、20万円相当の装備を加えた。全高が1,700mmを超える軽自動車は、140〜150万円の価格帯で激しい販売競争を展開しているため、タントもXの価格を割安にした。

ダイハツ 新型「タントカスタム」では、ターボモデルの「カスタムRS」が買い得だ

ダイハツ 新型「タントカスタム」では、ターボモデルの「カスタムRS」が買い得だ

いっぽう、エアロパーツなどを備えた上級シリーズのカスタムが欲しいときには、ターボエンジン搭載車のカスタムRS(174万9,600円)を検討したい。カスタムRSの価格は、ノーマルエンジンのカスタムXに比べて8万1,000円高いが、アルミホイールのサイズが14インチから15インチに拡大され、本革巻きのステアリングホイールなども装着される。そうなると、ターボは実質6万円の上乗せで搭載されることになり、カスタムRSが買い得と判断される。グレードは自分のニーズだけでなく、機能と価格のバランスもチェックして決めるといいだろう。

新型タントが人気を得た理由のひとつとして、先代からの好調な売れ行きがあげられる。フルモデルチェンジを受ける直前の末期モデルであっても、2019年1〜6月の販売ランキングを見るとN-BOXとスズキ「スペーシア」に続いて3位にランクインされている。タントは安定的に売れる人気車だから、先代型から新型への乗り替えも活発に行われている。

半面、少なくとも2019年8月までの販売データを見る限り、N-BOXには勝てていない。この理由についても考えたい。まず、N-BOXの強みとして車内の質感の見せ方が上手なことがあげられる。タントも新型では内装はていねいに造り込まれているが、インパネのデザイン、シートの座り心地といった即座に分かるところは、N-BOXが依然として上質に感じる。

N-BOXのシートは座り心地にボリューム感を持たせたので、ボディに伝わる振動を吸収する効果も高い。そのために乗り心地にも良い影響を与えている。装備も、N-BOXはHondaSENSINGを全車に標準装備しており、緊急自動ブレーキと併せて車間距離を自動制御できるクルーズコントロールも含まれる。新型タントはターボのみにオプションで用意されるが、N-BOXは全車に標準装備されている。機能が全般的に充実して、商品開発も周到だ。車内の広さだけでなく、内装の質、乗り心地、装備もすぐれ、なによりホンダの価値観は“セダン的”だから、幅広いユーザーに適する。ここに、N-BOXが好調に売れる理由がある。

右がダイハツ 新型「タント」、左が新型「タントカスタム」

右がダイハツ 新型「タント」、左が新型「タントカスタム」

いっぽう、タントは前後のドアを開いたときに得られる左側面のワイドな開口幅、チャイルドシートを装着したときの使い勝手など、子育て世代に焦点を合わせて開発されている。タントとN-BOXは一見似通った軽自動車に見えるが、ターゲットにしている顧客が明確に異なる。もし読者のみなさんが軽自動車を選ぶときは、ライバル車のスペーシアも含めてご自身のニーズとクルマの持つ性格をじっくりと見極めてほしい。

渡辺陽一郎

渡辺陽一郎

「読者の皆様に怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト

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