「同じクルマでも、同一のコンディションの物件はない」。中古車の世界では当たり前のことですが、だからこそ中古車の購入は、新車以上に慎重に、時間をかけるべきだと思います。今回は、筆者がみずから中古車を購入したときの、実用的なノウハウをお伝えしたいと思います。
筆者が中古車で購入した、トヨタ「プリウスPHV」。購入したときの車両本体価格は、1,273,000円です
筆者は、中古車情報誌である「カーセンサー」の創刊直後から、編集者として20年以上携わってきました。昔のことですが、中古車は「ちゅうぶるくるま」と呼ばれていたこともあり、消費者が持つ印象自体はよくない部分もありました。
特に、販売店の、ある意味不当に高額な諸経費などは法律で規制することもできず、実際筆者は何度も“勉強”する羽目になったことがあります。これまで新車、中古車を40台以上所有した経験から、次のクルマをどうするかを考えていました。今回、プリウスPHV(旧型:ZVW35型)を購入したいきさつも含め、このクルマを中心に中古車購入のアレコレを解説します。なお、あらかじめお伝えしておきますが、本文に出てくる車両関係の価格は、消費増税前の8%のものになります。
当たり前のことですが、新車・中古車を問わず自分(ユーザー)の生活(利用)スタイルを把握する必要があります。家族構成、平日と休日の過ごし方、外せない装備、燃費、車庫を含めた環境なども含め、ボディサイズやカテゴリーを事前に決めておきましょう。
筆者がこれまで乗っていた、2007年式のダイハツ「ムーヴカスタムRS」。なんとフルタイム4WD、インタークーラ付きターボ、MOMOステアリング、タイヤは16インチのポテンザを標準装備するなど、いい意味で「昭和感満載」の1台でした
筆者はこれまで、軽自動車を所有していました。ですが、どうしても5名乗車以上が必要な環境が発生したので、新たなクルマの購入を決意したのですが、仕事でクルマを使うことや長距離を走ることも多く、燃費性能は乗車定員と同等の重要な項目でした。
これまで乗っていた軽自動車の平均燃費は14km/L前後、高速走行時は17km/Lまでは伸びましたが、いっぽうで夏場の市街地ではエアコンフル稼働で10km/Lを切ることもありました。そこで、次期愛車は燃費が2倍のクルマにすることを目指すことにしました。いきなり燃費が2倍というのは大胆ですが、とにかく燃費は今よりも絶対に向上させたい。そうなると、選択肢としてはハイブリッド車などが候補として浮上することもある程度予想は付いていました。
とはいえ、(一応)自動車ライターであり「カーナビ伝道師」という肩書きで最新のカーエレクトロニクス関連の仕事もしていますから、たとえ中古車でも未来のモビリティにおけるキーワードである「CASE」(Connected(コネクテッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化))になるべく近いクルマを選びたいというのも正直な気持ちでした。
特に“C”のConnected(つながる)や“E”のElectric(電動化)はなんとか満たしたい。そうなると、前述したようにHEV(ハイブリッド)かPHEV(プラグインハイブリッド)、BEV(電気自動車)などにくわえて、通信機能を搭載したクルマが欲しくなります。
もちろん、そこには「予算」というものが壁として立ちはだかりますので、そこから数台の候補をセレクトしました。
候補の1台は、日産「リーフ」(旧型)でした。特に、30kWのバッテリーを搭載するモデルが当初の狙い目で、筆者はマンション住まいですが周辺に急速充電器を設置したディーラーが3か所もあったことで、俄然候補としてあがってきたのです。
しかし、実際の運用となるとどうでしょうか。1回のクルマでの移動は、往復で300kmを超えることも珍しくありません。リーフの“電費”情報を見ると、必ず1回は充電しなければなりません。最近、高速道路などの施設に設置されている急速充電器で“充電待ち”の状況を見かける機会が増えました。
つまり距離を走る、充電設備のインフラが自宅にない、などの条件から、筆者にとってBEVはちょっと厳しいことを再認識したわけです。残念……。
そこで、次に候補としてあがってきたのがPHEVです。
PHEVは、EVで走行できる距離が長いので、マンションの駐車場に入れる際などに騒音をできるだけ抑えたい筆者にはぴったりです
HEVの場合は搭載するバッテリーの容量が少ないので、早朝や深夜に入出庫する際にエンジンがかかってしまうケースがあります。駐車場の四方がすべてマンションで囲まれている環境下にある筆者としては、エンジンをかけずに入出庫できるPHEVという選択は、ご近所に迷惑をかけないという点でもありかなと考えるようになりました。
そんなことから、
1)支払総額は150万円以下
2)ナビに通信機能などが搭載されている
3)保証がしっかりしている(後述)
4)PHEV
上記の条件で中古車を探したところ、これを満たしているのはトヨタ「プリウスPHV」一択ということになったのです。そして、ここからが実際の購入のノウハウになります。
まず重要なのは、プリウスPHVという「相手を知る」ことです。ネットなどで試乗記を読むのももちろんいいのですが、まず手に入れたい情報は、当時の「プレスリリース(報道資料)」と「カタログ」です。
必要なのは、当時のクルマとして、
1)どのような装備が付いていたのか
2)その装備は自分のカーライフに役立つのか
3)グレードごとに異なる仕様
上記を把握することです。プレスリリースは自動車メーカーサイトのアーカイブで確認できますが、カタログに関してはネット通販やオークションなどで探して入手しました。そして正直、これは大正解でした。プリウスPHVに限ったことではありませんが、装備類はグレードによって標準装備なのか、またはメーカーオプションなのかなど、実にさまざまだからです。カタログは、それらの全容を把握するのに大いに役立ちます。
ここで注意しておかなければいけないのが、中古車の場合「メーカーオプションの選択はできない」ことです。そのため、物件価格と装着されているメーカーオプションのバランスを見ながら、チェックすることが大切です。
どこで買えばいいのかは、クルマによって異なるので一概には言えないところもありますが、ハイブリッド車やPHEV車、BEV車を購入するときに、筆者は「メーカー系販売店」を選ぶことにしています。
その理由は、圧倒的とも言える手厚い「保証」があるからです。ハイブリッド車などは、その構造の複雑さから、専用の診断機や工具が存在しており、さらにサービスの専門技能向上のためのプログラムなども行われています。もちろん、メーカー系販売店のすべてがすぐれているわけではなく、専業店でも大きな整備工場がある場合は同様の設備や技術力を持っていることもあります。
筆者がトヨタの販売店で購入したプリウスPHVは、室内はシートまで外してすべてクリーニング済みでした
パワートレーン系の整備はもちろんですが、エンジンルームまでクリーニングされています
また、販売店に行く際には「保証やメンテナンスを、どこまでやってくれるのか?」「保証は有料なのか、無料なのか」などを、しっかりと確認しておきましょう。ちなみに筆者は、トヨタの販売店で実施している「T-Value(ハイブリッド)」や、エンジンルームやシートを外した状態でクリーニングしてくれるサービスなどを含んだ「認定中古車」を、相場より少し価格が高くても選びました。
車両検査証明書」は、いわば「人間ドック」の診断結果のようなもの。購入前には、整備記録簿の確認も行いました
なお、写真の「車両検査証明書」について、ほかの中古車でもJAAI(日本自動車査定協会)が発行する「車両状態証明書」はついてくることがあるのですが、トヨタでは同協会による定期的な監査を行っているという点で、さらなる安心感があります。
中古車を購入する際には、車両の履歴を確認するために「定期点検整備記録簿(整備手帳)」は必ず見ておきましょう。前オーナーがどういった乗り方をしていたのか、そして今後、自分が購入した後にどのようなメンテナンスが必要になるのかと言ったことなどが予測できるからです。
「レッドマイカメタリック」のボディカラーのプリウスPHVが納車になりました
筆者が購入したプリウスPHVは、前オーナーは都内在住の方でワンオーナーでした。メーカーオプションを含めてほぼフル装備という状態で、購入から6年以上経過しているのに、走行距離は12,000kmとかなり少なめ。おそらくですが、当時PHEVという新たな技術を持ったクルマに魅力を感じて購入し、予算も含めてフル装備にしたものの、実際にはそれほど乗らなかったのでしょう。ですが、整備はきちんとやっておられましたので、次のオーナーにとっては感謝しかありません。
走行距離が少ないのはうれしいのですが、だからと言っていいことばかりではありません
ただ、「走行距離が少ない」個体であればいいのかと言うと、実は必ずしもそうではありません。クルマは、定期的に乗ることで機械が動作する部分などを動かしてあげないと、さまざまな部分に影響が出てきます。特に、PHEVは大型のリチウムイオンバッテリーを搭載していますが、あまり乗らないとバッテリーの能力が低下する可能性があるのです。筆者が、この物件を見つけた際、実は一番気になったのがこのバッテリーについてでした。結果としては、検査でバッテリーの状態は合格ではありましたが、こういった部分も覚えておいて損はないでしょう。
実は、プリウスPHVを購入後、昨年2019年9月9日の台風15号の影響で、筆者の住む千葉県も停電など甚大な被害を受けました。筆者の親戚や知人宅は、特に停電による社会生活が遮断された状態になり、復旧までには実に4日を要しました。
2019年、千葉県内の台風被害の際に大活躍した「ヴィークルパワーコネクター」は、アクセサリーコンセントとセットで94,500円のメーカーオプションになります
そこで、筆者はいくばくかの水と食料をプリウスPHVに積み込み、被災地へと向かいました。プリウスPHVは、2012年11月の一部改良で100V・1500Wの「AC電源」と、外部に電気を供給できる「ヴィークルパワーコネクター」がオプション設定されており、フル装備だった筆者の愛車にも搭載されていたのです(これ以前のモデルには設定がありません)。
これが、被災地で非常に役立ちました。何よりも感謝されたのが、「携帯電話の充電」でした。(テーブルタップの使用は推奨しませんが)複数家庭への携帯電話の充電や、電子レンジを庭先まで持ってきて調理を行うなど、電源を供給できるありがたさを筆者は肌で感じたのです。
最上位グレードであるG“レザーパッケージ”、新車時の価格はなんと420万円でした
筆者が購入したプリウスPHVのグレードは「G“レザーパッケージ”」です。同グレードには、HDDのカーナビやHUDなど、最上級グレードならではの装備が数多く装着されています。
プリウスPHVに装備されていたHDDナビ。Gグレードはオプションで、その価格はなんと542,850円!
ひとつ問題なのが、このカーナビはトヨタのテレマティクスサービスである「G-BOOK」に対応していて、新たな契約が必要になるという点です。当然ながら前ユーザーとの契約は終了しており、
1)通信の再契約
2)地図データの一括更新
などを行わないと、このカーナビの魅力である「オペレーターサービス」や今後の通信による「地図更新機能」を使うことができません。そして、このようなサービス系の契約に関しても、トヨタディーラーで購入したメリットがあります。もちろん、専業店で購入してもディーラーに行けば対応してくれるはずですが、書類の準備から申請までが圧倒的にスムーズに行えるのです。ただ、通信に関しては現在の「T-Connect」より古いサービスなので、最終的には自分でトヨタに電話をして対応してもらう必要は発生しました。
このほかにも、充電を行うための「PHV充電サポート」に加入しました。月額1,100円(現在)で、普通充電器が使い放題になるサービスです。
充電のために「PHV充電サポート」へ加入しました。PHV充電サポートは、トヨタ販売店や全国の商業施設、宿泊施設などで充電ができるようになるサービスです
充電中に買い物すれば、時間のロスも防ぐことができます
実は、自宅周辺には前述した急速充電器とは別に、トヨタディーラーが3か所、家具店など2か所、計5か所の普通充電スポットがありました。この充実したインフラも、プリウスPHVの購入を後押しした理由のひとつで、充電中は買い物をしたりディーラーであればクルマを見たりなど、工夫次第で楽しむことができます。
充電が完了すると、メールで知らせてくれます。Apple Watchにも、このとおり連絡が入ります
さらに、スマホで充電状況がわかりますので、次の充電待ちの人に迷惑をかけるリスクも減らせます。少し前ですが、複数台の普通充電器を設置したホームセンターなどで、現行型のプリウスPHVやBMWのPHEVのオーナーさんと出会う機会があり、PHEVの共通の話題で盛り上がったこともあります。人それぞれの使い方がありますし、筆者としても勉強になりました。
最後に、気になる燃費ですが、プリウスPHVはEVで走れる領域がプリウスより広いこともあり、トータルの燃費は28km/L、高速走行時は30km/Lを超えることも珍しくはありません。その点で、所有する軽自動車の2倍という目的を達成しました。
筆者は、長く付き合いたい1台に巡り会うことができました。みなさんも、クルマ選びを楽しんでいただければ幸いです
旧型プリウスPHVの中古車はオススメですが、筆者が購入した頃に比べて物件数は着実に減ってきていますので、気になる方はこれまで述べたことを参考に、早めに検討いただくことをおすすめします。まさに「機を見るに敏」。ひらめいたら即行動が、中古車選びの重要なポイントとも言えますね。
ITS Evangelist(カーナビ伝道師)/カーコメンテーター/AJAJ会員/20-21日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。1959年生まれ。リクルートで中古車情報誌「カーセンサー」の新車&カーAV記事を担当しフリーランスへ。ITSや先進技術、そしてカーナビ伝道師として純正/市販/スマホアプリなどを日々テストし布教(普及)活動を続ける。