バイク野郎 増谷茂樹の二輪魂
“クチバシ”ルックスが目をひくが評価すべきはエンジン特性

どこまでも走り続けたい! スズキ「Vストローム1050XT」のV型2気筒エンジンが楽しすぎる


V型2気筒エンジンを積んだスズキのアドベンチャーバイク「Vストローム」シリーズの最大排気量車がモデルチェンジ。ラインアップされた標準モデルの「Vストローム1050」と充実の電子装備を搭載した「Vストローム1050XT」はフロントフェンダーがかなり目をひくルックスとされたが、そこにはスズキのある想いが込められていた。

あえて「DR-BIG」っぽさを誇張した新型「Vストローム1050/XT」

Vストロームシリーズはもともとくちばしのようなフロントフェンダーを備えているが、新型「Vストローム1050」と「Vストローム1050XT」(以下、Vストローム1050/XT)のそれは、これまで以上に大きく、目立つ。実は、1988年に発売された「DR-BIG」(正式名称は「DR750S」)にデザインを寄せているのだ。DR750Sは、当時盛り上がりを見せていた砂漠を走破するラリーに参戦していたワークスマシンからフィードバックを受け、727ccという大排気量の単気筒エンジンを搭載したモデルで、“クチバシ”と呼ばれた個性的なデザインが大きなインパクトを与えた。そのルックスもさることながら、2気筒エンジンが主力の大排気量ラリーマシンの中にあって単気筒で登場するなど、かなり“変わったヤツ”であったのは事実だ。だが、DR750Sがデビューした1988年に、スズキのワークスマシン「DR-Zeta」がファラオラリーで優勝したことをきっかけに風向きが変わる。同じく“クチバシデザイン”だったこともあり、DR750Sに注目が集まったのだ。しかし、海外のみでの販売だったため、どうしても日本国内で乗りたい人は逆輸入でしか入手できず、高嶺の花的な存在であった。その後、排気量を779ccに拡大し「DR800S」へとモデルチェンジしていくが、結局、DR-BIGは日本国内に導入されることはないまま1997年に生産終了となる。このような背景と特徴的なデザインにより、DR-BIGは今でも熱狂的なファンが多い。

右が1988年に発売された「DR-BIG(DR750S)」で、左が新型「Vストローム1050XT」。各部のラインに共通したものが感じられる

写真は、2017年に発売された先代の「Vストローム1000XT ABS」。先代モデルもDR-BIGをオマージュした大きなフロントフェンダーを装備しているが、新型のほうがよりDR-BIGのイメージに近づいたことがわかる

近年、他メーカーのアドベンチャーバイクでもライトカウルとフェンダーが一体化された同じような顔が増えていることから、“スズキらしいデザインを取り戻そう”と、新型「Vストローム1050/XT」は歴史的モデルともいえるDR-BIGの特徴を取り入れ、さらにイメージを強調したのだそう。ヘッドライトの形状はDR-BIGに似たデザインとなり、フロントフェンダーはよりシャープになっている。

写真は「Vストローム1050XT」だが、標準モデル「Vストローム1050」も基本的なデザインは変わらない。同じエンジンを搭載しているが装備が異なるため、車体サイズや重量には若干の違いがある

DR-BIGよりも尖り具合が増したフロントフェンダーは、やはりインパクトがある。さらに、Vストローム1050XTのみに用意されたイエローの車体カラーもかなり目をひく

アドベンチャーバイクらしいコックピット。メーターの上部にはアクセサリーなどを装備しやすい丸形のバーが装備されている

排出ガス規制に対応しながらパワーアップ

デザインが注目されがちなVストローム1050/XTだが、2014年に初代モデルから変わらず採用されている1,036ccのV型2気筒エンジンについても触れておきたい。このクラスのアドベンチャーバイクに2気筒エンジンが装備されているのはめずらしくないが、縦置きのV型エンジンを搭載しているのはVストロームくらい。もとは1997年に発売されたロードモデル「TL1000S」に積まれていたエンジンで、コンパクトながらハイパワーだったことから、のちにレースを視野にいれた「TL1000R」や「SL1000」といったモデルにも採用されている。もちろん、排ガス規制など時代に合わせて改良されているが、基本構造は20年以上変わっていない。つまり、それだけ初期設計の完成度が高かったといえるだろう。そして、新型は令和2年排出ガス規制(欧州の「ユーロ5」規制と同等)に対応しながら、最高出力を7PS向上させた106PSとなった。通常、排出ガスをクリーンにすればパワーダウンするものだが、規制に対応しつつ出力を高められたのは電子制御スロットルを採用したことが寄与している。

誕生から20年以上が経過し、すでに熟成されているVツインエンジンが、電子制御技術の導入でさらなる進化を遂げたことに感動すら覚える

Vストローム1050/XTに搭載されているVツインエンジンは、パワーを上げるためにスロット径が従来モデルより5mm大きくなっているが、それだけでは低回転域でのコントロールはしづらくなる。スロットルの開度を電子制御化することにより。乗り手が大きくアクセルをひねっても電子制御によってスロットルの開度が常に適正に保たれ、回転のグズつきが防げるようになるのだ。

標準モデルと「XT」で装備の差を明確化

先代までは標準モデルと「XT」の相違点はスポークホイールくらいだったが、今回のモデルチェンジで装備の違いがより明確になった。新型にはさまざまな走行シーンに対応できるように「モーショントラックブレーキシステム」「ヒルホールドコントロールシステム」「スロープディペンデントコントロールシステム」「ロードディペンデントコントロールシステム」「クルーズコントロールシステム」「スズキドライブモードセレクター(SDMS)」「トラクションコントロールシステム」という電子制御システムS.I.R.S(スズキインテリジェントライドシステム)が新たに搭載されたのだが、すべてを備えているのは「XT」のみ。標準モデルは「スズキドライブモードセレクター(SDMS)」と「トラクションコントロールシステム」しか備えられていない。

▶モーショントラックブレーキシステム ※「XT」のみ搭載
6軸のIMUとABSコントロールユニットを組み合わせ、車体姿勢によってABSの介入を最適化する

▶ヒルホールドコントロールシステム ※「XT」のみ搭載
登り坂で停止した際に30秒間ブレーキを作動させる。登り坂で足を付かなければならない状況で、リアブレーキを踏めない時などに役立つ

▶スロープディペンデントコントロールシステム ※「XT」のみ搭載
ブレーキング時、前のめりになりやすい下り坂で、車体の姿勢に応じてABSの作動を最適化。後輪のリフトを抑え安定した制動を可能にする

▶ロードディペンデントコントロールシステム ※「XT」のみ搭載
タンデム走行時や荷物を積載している際に制動距離の伸びを検知し、通常のひとり乗り時の制動距離に近づけるようにブレーキの効きをコントロールする

▶クルーズコントロールシステム ※「XT」のみ搭載
高速道路などでアクセルを操作しなくても設定した一定の速度で走り続けられる。設定速度は50km/h以上で、走行中にボタンで調整可能

▶スズキドライブモードセレクター(SDMS)
昨今の大排気量車では一般的になっている走行モードの切り替え機能。3つの走行モードが用意されており、いずれも最高出力は変わらないものの、アクセルを開けたパワーの盛り上がり方が異なる

▶トラクションコントロールシステム
リアタイヤのスリップを検知し、エンジン出力を調整して最適なトラクション(駆動力)を得られるようにするシステム。介入の度合いを3段階とオフで選択できる

電子制御システムの差を見ると、「XT」のほうが長距離ツーリング時に得られるマシンのサポートも多いので長時間乗っていても体への負担は軽くなりそうだ。これだけ装備が充実していながら、標準モデル(Vストローム1050)の価格143万円に対して、Vストローム1050XTは151万8,000円と差額は10万円未満。この価格差なら「XT」のほうが断然お得感がある。

標準モデルと「XT」のエンジンは同じだが、「XT」にのみアンダーガードとパイプ状のアクセサリーバーが備えられている

ホイールサイズは前19インチ、後17インチ。「XT」にはスポークホイールが装備される

ホイールサイズは前19インチ、後17インチ。「XT」にはスポークホイールが装備される

手の込んだリム形状とすることで、スポークホイールながらチューブレスタイヤが装着可能に。パンクした際に空気が抜けにくく、修理もしやすいのでツーリングユーザーにはありがたい

右手側にあるクルーズコントロールのボタンは「XT」のみの装備

右手側にあるクルーズコントロールのボタンは「XT」のみの装備

タンデム部分が分かれた2分割式シートを採用。「XT」はシート高を標準位置より20mm高く調整できる機能を有する

メーターパネルの背景色は、標準モデルが白で「XT」が黒となっている

メーターパネルの背景色は、標準モデルが白で「XT」が黒となっている

ウインドスクリーンの高さ調整は標準モデルが3段階、「XT」は11段階

ウインドスクリーンの高さ調整は標準モデルが3段階、「XT」は11段階

「XT」にのみ、クリアレンズのLEDウインカーを装備

「XT」にのみ、クリアレンズのLEDウインカーを装備

ナックルガードも「XT」にしか備えられていない。転倒時などに手を保護するだけでなく、高速走行時に手に風が当たらないので寒い季節にも役立つ

どちらのモデルにもメーターパネルの左側にUSB電源が備えられている。スマートフォンなどを充電可能

どちらのモデルにもメーターパネルの左側にUSB電源が備えられている。スマートフォンなどを充電可能

左手側のハンドルにヘルメットホルダーが装備されているのも両モデル共通。カギで施錠できるので、ヘルメットの盗難防止に役立つ

テストライダーの評価をリアルに実感

スズキらしさを取り戻すべくDR-BIGを意識してデザインされた新型「Vストローム1050/XT」だが、メディア向けオンライン発表会でテストライダーが語ったことによると、決してデザイン優先で作られたわけではないという。絞り込まれたタンクの形状や、並列よりも幅を取らない縦置きのV型エンジンのおかげで、普通に座っている時もオフロードなどでスタンディングする際もニーグリップが非常にしやすいとのこと。また、シートをあえて硬めにすることで長時間乗っていても疲れにくくしているのだそう。このような話を事前に聞いていたので、試乗に期待がつのる。街中だけでなく高速道路、ワインディングロードも走り、たっぷりと性能を確かめてみようじゃないか! なお、今回は電子制御システムや装備が充実している「Vストローム1050XT」に試乗する。

サイズは2,265(全長)×940(全幅)×1465(全高)mmで、身長175cmの筆者がまたがると両足のつま先がしっかり接地した。サスペンションが沈み込み、シート形状が絞ってあるおかげで、シート高850mmでも足つき性は良好だ

車重が247kgあり、重心位置も高いので、手押しで移動するのは結構重い。しかし、エンジンをかけて走り出すと、その重さはまったく感じなくなる。以前、ホンダのアドベンチャーバイク「CRF1100L Africa Twin Adventure Sports ES」に試乗した際にも同様のことを感じたが、走り出してからの軽快感はVストローム1050XTのほうが上だ。

大柄に見えるが割とスリムなので、街乗りでも気負わず乗ることができる

大柄に見えるが割とスリムなので、街乗りでも気負わず乗ることができる

そして、エンジンをかける際にセルボタンを押し続けなくていい「スズキイージースタートシステム」や、クラッチをつなぐ際に自動で回転を上げてエンストしにくくしてくれる「ローRPMアシスト」のおかげで発進が非常にラク。街乗りはもちろん、ツーリングで渋滞に巻き込まれた時などの疲労軽減にも役立つはずだ。さらに、クラッチは油圧式で、「スズキクラッチアシストシステム」(いわゆるアシストスリッパークラッチ)も装備されているため、左手の操作も少なくて済む。

アドベンチャーバイクは車体が大きいわりに細めのタイヤが装備されていることが多く、Vストローム1050/XTもフロントが110、リアが150となっており、コーナーリングなどでの倒し込みの操作は軽快。それでいてタイヤ径が大きいため、安定感も高い。装備されているタイヤは温度依存性が低いので、寒い時期の走り出しにも気を使わずに済みそうだ。このあたりも、近年アドベンチャーバイクの人気が高まっている要因なのかもしれない。

車体を倒す操作が軽快なわりに、寝かせたところでの安定性もバツグン。この特性は高速域でも変わらない

車体を倒す操作が軽快なわりに、寝かせたところでの安定性もバツグン。この特性は高速域でも変わらない

少しスピードを上げると、大型ウインドスクリーンのありがたさを感じる。特に高速道路では、スクリーンを一番高い位置にセットし、少しだけ背中を丸めるとヘルメットに当たる風の音がまったく聞こえなくなった。また、エンジンは先代モデルより高回転でパワーを稼ぐ特性になっているというが、低回転から十分にパワフル。そのまま回転を上げていってもスムーズなので、高速道路では6速まであるミッションなのに4速や5速で走り続けてしまったほどだ。

高速での車体安定性はさすがアドベンチャーバイクといえる完成度。風がライダーに当たらない配慮もありがたい

ただ、スクリーンの高さ調節は電動ではなく手動なうえ、バイクにまたがったままだとむずかしい。前に回り込まなければならないのは少々手間かも

ワインディングで感じたのは、とにかくVツインエンジンが気持ちいいということ。低回転域から2気筒らしいパルス感があり、ゆっくり走っていても楽しいが、アクセルを少し大きめに開けると鼓動感を残したままスムーズにエンジンが吹け上がる。この時、路面にしっかりとトラクション(駆動力)が伝わっている感覚が楽しいのだ。どのような速度域、回転域で走っても楽しいエンジンは数少ないので、とても魅力的だ。なお、3種類(A/B/C)ある走行モードは「A」モードは過激すぎるため高速道路以外ではほとんど使うことがなく、一般道はもっともパワーの盛り上がりが控えめな「C」モードでも十分。車体を押し出すような加速感が味わいたい時だけ、「B」モードに入れるという感じでまったく問題なかった。

走行モードだけでなく、ラクションコントロールの切り替えや、ABSの介入度合いの調整も、左手側の「MODE」ボタンと上下キーで操作可能

メーターの回転計の左下に、選択している走行モードやトラクションコントロールなどが表示されるのでわかりやすい

少しだけ未舗装路も走ってみたのだが、車体サイズから想像するよりコントロールがしやすいことに感動した。発表会でテストライダーが話していたとおり、ニーグリップがしやすくスタンディングでもしっかり車体をホールドできる。さらに、厚手のラバーでカバーされた大きめのステップは荷重操作しやすいうえ、振動が伝わりづらいので長距離走行でも疲労が少なくて済む。

タンクは大きめだが、シートの横幅はスリム。この絞り込まれたシートと横幅の小さいなV型エンジンが足つき性やスタンディングのしやすさに効いている

車体への荷重のしやすさや振動吸収性などが高いレベルでバランスよくとれるように工夫されたステップは、乗れば乗るほど快適性を実感できる

試乗を終えて

1日程度のショートツーリングに出かけ、もっとも印象的だったのはエンジンだ。街乗りでは扱いやすいが、高速道路などで大きめにアクセルを開けてみると、そのポテンシャルの高さを実感。V型2気筒という個性的を感じられる楽しさと、低回転から高回転までスムーズでパワフルな特性は、海外でも高く評価され続けている理由がわかる。そして、電子制御を用いたツーリングは圧倒的に快適。長距離走っても疲労感は少なく、最後まで楽しいまま。それでいて、電子制御に助けられている感覚はあまりなく、自身がバイクを操っている感がしっかり味わえる。このようなアナログ感覚の残り具合は、Vストローム1050 XT同様に電子制御を多用していたホンダ「CRF1100L Africa Twin Adventure Sports ES」よりも多い印象。どちらも電子制御が充実したアドベンチャーバイクだが、もっとも高価なモデルで200万円を超える「アフリカツイン」よりVストローム1050 XTのほうが購入のハードルはずいぶん低いはずだ。

ガソリンタンクの容量は20L。定地燃費が29.2km/L、WMTCモードで20.3km/Lなので400km近くは無給油で走れそう

ガソリンタンクの容量は20L。定地燃費が29.2km/L、WMTCモードで20.3km/Lなので400km近くは無給油で走れそう

増谷茂樹

増谷茂樹

カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。

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