バイク野郎 増谷茂樹の二輪魂
スクーターだけれど、街乗りで満足できるようなヤツじゃない!

もはやスポーツバイク! ヤマハ「TMAX560 TECH MAX ABS」の加速力とハンドリングが気持ちいい


大型スポーツスクーターの元祖ともいえるヤマハ「TMAX」シリーズがフルモデルチェンジ。排気量が拡大され、デザインもよりスポーティーな印象になった「TMAX560」は、スクーターの枠を超えた気持ちよさを味わわせてくれた。そんなTMAX560の魅力をお伝えしよう。

スポーツスクーターというジャンルを確立した「TMAX」シリーズ

スクーターのエンジンといえば単気筒が当たり前だった時代に、499ccの2気筒エンジンを搭載して登場した初代「TMAX」(2001年発売)。前後重量配分は前47%、後53%とされ、スポーツバイクと同構造のテレスコピック式フロントフォークを装備するなど、スペック的にはスクーターよりスポーツモデルと呼ぶにふさわしい完成度で、「スクーター=街乗り」というイメージを一変させるものだった。それまでもスポーツ性を打ち出した小排気量のスクーターもあったが、大型モデルとしてスポーツスクーターというジャンルを開拓したのは間違いなくTMAXだ。

最高出力は38PS(輸出仕様は40PS)で、スクーターの枠を超えたスポーティーな走りが話題となった初代「TMAX」(2001年発売)。筆者とサーキットでよく一緒に走っていた友人が所有しており、公道を走るならこれで十分と話してたのが印象に残っている

その後も、スポーツモデルのようなモデルチェンジが続いていく。2004年にフロントブレーキがダブルディスク化され、前後ともラジアルタイヤを履くようになり、2007年には軽量なアルミ合金製フレームになるとともに、フロントのブレーキキャリパーが剛性の高いモノブロックとなった。そして、2011年にはエンジンの排気量を530ccに拡大した「TMAX530」を発表。しかし、日本国内にはなかなか導入されず、発表から2年経った2013年にようやく欧州仕様とほぼ同スペックのTMAXが正式発売された。

日本国内でなかなか発売されずファンをヤキモキさせた「TMAX530」は、48PSという最高出力を実現し、一気にパフォーマンスアップを果たした。写真は2018年モデル

TMAXシリーズがそれまでのスクーターと一線を画するスポーツ性能を実現できた理由は2つある。ひとつは、2気筒のエンジンを搭載し、中高回転での伸びのある特性とされていること。そして、もうひとつがエンジンの搭載方法だ。一般的なスクーターはエンジンと変速ユニットがスイングアームと一体化しており、リアサスペンションが動く際にエンジンまで一緒に動く構造となっていることが多いのだが、この構造では車体の後側に重量物が集中しやすく、バネ下と呼ばれる可動部分も重くなるため、サスペンションの働きにもネガティブな影響がある。それに対し、TMAXシリーズはエンジンをライダーの前方に搭載することで理想的な重量配分とするとともに、可動部分であるスイングアームを独立させることにより、バネ下の重量を軽くし、走行時の路面追求性を高めているのだ。

さらにスポーツ性を高めた設計となった「TMAX560」

そして、2020年5月にTMAX530の後継モデルとして発売されたのが、排気量を561ccに高めた「TMAX560」だ。今年から始まる新たな排出ガス規制に対応しながら、最高出力は48PSを維持。基本構造は変わっていないものの、フロントサスペンションが倒立式となったことで剛性が高まったほか、フロントのバネ下重量も軽減されている。さらに、吸排気系や動弁系も見直されており、中高速域からの加速特性も向上。車体のデザインもシャープな印象となり、走行性能とともによりスポーティーなマシンへと進化した。

ラインアップは、標準グレードの「TMAX560 ABS」と、電動式スクリーンやグリップヒーターなど装備の充実した「TMAX560 TECH MAX ABS」の2車種。なお、TMAX530では「TMAX530 SX」(標準グレード)と「TMAX530 DX」(装備が充実したグレード)としていたが、TMAX560は豪華仕様を「TECH MAX」の付いた名称とすることで、よりグレードをわかりやすくしたという。

今回貸し出してもらったのは、装備が充実したグレードの「TMAX560 TECH MAX ABS」。サイズは2,200(全長)×765(全幅)×1,420(全高)mm。先代モデルのデザインはややスポーティーさが足りないという声も聞かれたが、TMAX560は全体的にシャープになり、精悍な見た目となった

LED4灯式となったヘッドランプは迫力がアップ。ウインカーにはコンパクトなLED3灯タイプを装備している

LED4灯式となったヘッドランプは迫力がアップ。ウインカーにはコンパクトなLED3灯タイプを装備している

テールランプもLED。頭文字の「T」をあしらっており、後方から見てもすぐにTMAXだとわかる

テールランプもLED。頭文字の「T」をあしらっており、後方から見てもすぐにTMAXだとわかる

タコメーターを備えた2眼式のメーターもスポーティーな仕上がり。中央の液晶部の表示内容はTMAX560 ABSと TMAX560 TECH MAX ABSで異なる

カチ上げられたデザインのマフラーは、一般的なスクーターとは異なる2気筒エンジンらしい迫力ある排気音を響かせる

直列2気筒エンジンは外からは見えないものの、車体の前側から2本の排気管が伸びているのがわかる。水平に近い角度に前傾させて搭載しているのは、重心位置を下げるための工夫だ

給油口がライダーの股の間に配置されているのも、ガソリンタンクの位置を中央に寄せ、重量バランスを最適化するための配慮

TMAX560からフロントフォークが倒立式に。タイヤサイズは120/70R15M/Cだ

TMAX560からフロントフォークが倒立式に。タイヤサイズは120/70R15M/Cだ

フロントブレーキはモノブロックキャリパーのダブルディスクで、レーシングマシンにも採用されるラジアルマウント方式となっている

リアホイールもフロントと同じく15インチ。タイヤサイズは160/60R15M/Cとなっている。大径のブレーキディスクにはサイドブレーキ用のキャリパーも装備

軽量なアルミ製のスイングアームは独立した構造となっており、リアサスペンションは車体下部に搭載されている。2次駆動ベルトには、25mm幅の軽量で強度にすぐれたカーボン系繊維を採用

以上は、TMAX560共通の構造だが、ここからはTMAX560 TECH MAX ABSにのみ搭載されている装備を見ていこう。アクセルをひねらなくても一定速度で走行できるクルーズコントロールのほか、グリップヒーターやシートウォーマー、電動式のフロントスクリーンなど、ツーリングでの快適性を向上させる装備が備えられている。

シートにはウォーマーが装備されているが、タンデムシートは温かくならない。厚みはあるもののソファのようなフカフカ感はなく、スポーティーなライディングに対応できるように丸みを帯びた形状とされているのはTMAX560 ABSも同じ

TMAX560 ABSのフロントスクリーンは手動式で2段階調整(高さ55mm差)なのに対し、TMAX560 TECH MAX ABSは電動式で無段階(高さ135mm幅)となっている。作動も非常にスムーズだ(下の動画参照)

街中を走るだけじゃ物足りない!

もともとTMAXシリーズは、ワインディングロードや長距離ツーリングを楽しむライダー向けに開発されたもの。特に、コーナーが続くワインディングでの評価は高い。そんな特性を存分に味わえるよう、街中だけでなく、高速道路やワインディングも走ってみた。

一般的なスクーターと比べると足つき性はあまりよくない。スポーツモデルらしく着座位置が高く、車体の幅もあるため、身長175cmの筆者は両足のつま先がやっと接地する程度だった。なお、重量は220kg(TMAX560 ABSは218kg)

エンジンをかけると2気筒らしい排気音が響く。一般的なスクーターとはあきらかに異なる音質なので、わかる人なら音だけでTMAXだと気付くだろう。そして、アクセルを軽くひねると、うしろから押されるようなダッシュ力が味わえる。スクーターの加速というと、エンジンの回転が上がってから車速がついてくるまでの間にややタイムラグがあるものが多いが、TMAX560 TECH MAX ABSはタコメーターとスピードメーターの針が連動するように同時に跳ね上がっていく。このタイムラグのない加速感が、実に気持ちいい。街乗りでは、2種類ある走行モードの「T」(ツーリング)モードで十分だが、加速が気持ちいいのでついつい「S」(スポーツ)モードに入れたくなる。ただ、一般道で「S」モードにしていると、あっという間に制限速度に達してしまうので注意が必要だ。

右手のアクセル操作で後輪のトラクションをダイレクトにコントロールできる感覚は、まさしくスポーツバイク。走行モードの切り替えボタンやキルスイッチ、セルボタンなども右手側に装備されている

加速したいと思ったら瞬時にダッシュできるレスポンスのよさも、体感できる加速も気持ちいい

加速したいと思ったら瞬時にダッシュできるレスポンスのよさも、体感できる加速も気持ちいい

クルーズコントロールのスイッチや速度コントロールのボタンなどは左手側に配置されている

クルーズコントロールのスイッチや速度コントロールのボタンなどは左手側に配置されている

停車時に使用するサイドブレーキのレバーは、左手側のグリップ近くに装備。軽い操作感で、かけやすい

停車時に使用するサイドブレーキのレバーは、左手側のグリップ近くに装備。軽い操作感で、かけやすい

車体の剛性感は高く、ピシッと芯が通ったように安定している。高荷重に耐える設計のサスペンションだが、低速で走っても動きがよく、街乗りでも硬すぎると感じることはない。寝かし込む操作もスムーズ。バンク角も十分あるので、思い切って寝かしても一般的なスクーターのようにどこかを擦ってしまう不安感はなかった。ただ、街中を走っていると、エンジンもサスペンションもあきらかに“おいしいところ”を使えていないことが感覚で伝わってくる。早くワインディングを走りたい!

少し深く寝かしても不安感はない。このマシンのバンク角の限界を探るには、サーキットに持ち込む必要があるのではないかと思えるくらいだ。そして、ただ車体が寝るだけでなく向きが変わるのも早い!

高まる気持ちを抑えつつ、高速道路へ。ようやく、エンジンの本来の性能を発揮できた印象を受ける。合流車線の上り坂で少し大きめにアクセルを開けると一気に車速が乗るのだが、ここでもタコメーターの針の動きと車速が一致しているので、実に気持ちがいい。スクーターというより、スポーツバイクに乗っている感覚だ。電動スクリーンを上げるとヘルメットに風が当たらなくなるので、高速巡航中も非常に快適。

電動式のフロントスクリーンは、左側にあるレバーで走行中にも調整できる

電動式のフロントスクリーンは、左側にあるレバーで走行中にも調整できる

そして、いよいよ高速コーナーが続くようなワインディングに突入。すると、水を得た魚のような挙動を見せる。わざわざ倒し込みの操作をしなくてもスッと車体が寝ていき、バンクしたところでも車体はピシッと安定。ニーグリップはできないものの、車体との一体感も高い。それでいて、素早く向きが変わる。今回試乗したワインディングでは予想以上に曲がってしまい、イン側に切れ込みそうになってしまったくらいだ。高速道路での走行時にも感じたが、完全にスポーツバイクの感覚。ワインディングで、TMAX560の排気音が聞こえたらうしろに気をつけたほうがいいかもしれない。

試乗を終えて

自分の意思に直結したようなダイレクトな加速に、車体と一体となってバンクしていくような感覚。そして、スポーツバイクのようなクイックなハンドリングは、どれもスクーターの枠を超越するもの。その加速力とハンドリングは街中でも他を圧倒するが、正直なところ、TMAX560を市街地の通勤や通学で使うのは少々ためらわれる。理由のひとつは、足つき性。身長175cmの筆者でつま先が接地するくらいだったことからも、あまり足つき性については考慮されていないと思われる。信号待ちや渋滞で足を出すのがややめんどうに感じてしまうことがあったので、ライダーの身長によってはストレスに感じるかもしれない。さらに困るのが、スポーツバイクのような走行感だ。走り出すと郊外のワインディングなどに足を伸ばしたくなり、仕事に行く気がそがれてしまいかねない。これは本人の意志の強さによるが、1度味わうと次回以降、誘惑に負けてしまいそうなくらいTMAX560の“おいしいところ”は絶品なのだ。

スポーツ性を前面に押し出したモデルではあるものの、スクーターらしいユーティリティの高さもあわせ持っている。シート下の収納スペースにはフルフェイスのヘルメットが収納できるのはもちろん、大きめの荷物を入れることも可能。泊まりの旅にも出かけられる

TMAX560にはあまりライバル車といえるものはないが、強いてあげるなら、同じく2気筒エンジンを搭載し、強力なダッシュ力を持つホンダ「X-ADV」となるだろう。排気量が745ccあり、ダイレクトな変速感のDCTを搭載しているので、信号などで停車したあとに走り出す際の挙動はX-ADVが一段上という印象だ。しかし、コーナーでの軽快感や向きが変わる早さについてはTMAX560に軍配が上がる。ちょっとした未舗装路も走りたいならX-ADVのほうが向いているが、ワインディングを楽しみたいならTMAX560に一日の長があるだろう。

乗車時に気持ちが高ぶるマシンではあるが、少々ブレーキが気になった。効きはいいのだが、もう少しタッチがよいとさらにワインディングが楽しめそう。筆者がTMAX560 TECH MAX ABSを購入したなら、マスターシリンダーをラジアルポンプに変えたい。スクーターでラジアルポンプが欲しくなるなんて、このモデルくらいだろう

増谷茂樹

増谷茂樹

カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。

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