MT(マニュアルトランスミッション)が大好きな自動車ライター、マリオ高野です。
今回は、久しぶりにホンダ「S660」のMT車に乗って、MRレイアウトのスポーツカーならでは気持ちよさを再認識しました。
老若男女から幅広く支持されやすいデザイン。往年の名車「ビート」の面影もあります
より高い走りの質を求める人向けに「Modulo X」も用意。乗り心地や快適性も高いスポーツモデルも設定されます
軽自動車ながら音色にもこだわった排気サウンド。絶対的な速さはありませんが、性能を使い尽くす快感は得られます
S660はデビューから5年になる軽自動車のスポーツカーです。デビュー直後はあまりの人気ぶりに納期が非常に長くなったなど、多くのクルマ好きから注目されたことを思い出しますね。5年たってもさほど変更を受けておりませんが、それだけ完成度が高く、コンパクトなスポーツカーを求める層からの不満が少ないクルマと言えます。
今もなお注目すべきは、エンジンが車体の中央近くに搭載されるMRレイアウトがもたらす運動性能の高さ! とにかく、山道でのコーナリングが抜群に気持ちいいのです!
ホンダらしく、まるでバイクのエンジンのように軽快に回るユニット。背中から聞こえるメカニカルサウンドも心地いいです
ホンダのスポーツカーらしく、短いストロークで操作フィールのよいシフト。手首の返しだけで操作できますが、手応えはやや遠隔操作っぽいところが少し惜しまれました
ペダル配置は適切。アクセルペダルの反応は穏やかで、万民が扱いやすい設定
シンプルで視認性の高いメーター。一部の色を変えるスイッチも備わります(MT車のみ)
「Modulo 」ブランドをはじめ、カスタムパーツは豊富に用意されます。軽自動車なのでカスタム費用が比較的安く抑えられるのも魅力です
MRレイアウトを採用すると、荷物と人を乗せる空間がほとんどなくなるので、実用性は著しく悪化してしまう難点をともなうものの、走りの気持ちよさを味わうことを何よりも優先したルマならではのぜいたくさがあります。軽自動車ながら、S660は物理的、精神的にぜいたくなクルマであると言えるでしょう。
現代では、エンジンをフロント部分に搭載する一般的なクルマに乗って、フロントの重さが気になったり、イヤになったりするようなことはほとんどなくなりました。しかし、S660のようなMRレイアウトのスポーツカーに乗ると、重いエンジンを車体の中央付近に積むことのメリットの大きさに感心せざるを得ません。
F1マシンをはじめ運動性能を極限まで突き詰めた自動車はMRレイアウトを採用することも、MRレイアウトの物理的な優位性を証明しています。S660は、そんな究極的な自動車の雰囲気や性能を、比較的低価格で誰もが簡単に味わえるところがすばらしいと思います。
高速巡航時の直進性は高く、走行性能面でMRレイアウトのネガを感じることは皆無に近いと言えます
実用性は低く、ドリンクひとつ置くのにも困りますが、そんなことはまったくどうでもよくなるほど、走りが自然で心地いい。この物理的な優位性を、MTを駆使して味わい尽くせば、クルマという乗り物の根源的な楽しさを満喫できます。
そのうち、クルマの動力のフル電動化が進むとMTを楽しめなくなるので、今のうちに味わっておきたいものですね。
軽自動車なので絶対的には狭く、手荷物の置き場にも困るので、2名乗車は仲のいい間柄に限定したほうが無難でしょう
ボンネットの下には外した幌を格納するためのスペースが設けられています。荷物入れとしてはあまり期待できません
幌を外して高速を走ると風の巻き込みはそれなりに大きくなりますが、上級グレードのαにはシートヒーターが備わるので冬場でも意外と快適です
この試乗のもようは動画でもご覧いただけます。
1973年大阪生まれの自動車ライター。免許取得後に偶然買ったスバル車によりクルマの楽しさに目覚め、新車セールスマンや輸入車ディーラーでの車両回送員、自動車工場での期間工、自動車雑誌の編集部員などを経てフリーライターに。2台の愛車はいずれもスバル・インプレッサのMT車。