バイク野郎 増谷茂樹の二輪魂
新機構「スタンディングアシスト」で街乗り時の使いやすさも向上

長距離ライディングもスポーティーな走りも楽しい! ヤマハの3輪スクーター「TRICITY 300」

前輪が2つあるヤマハの3輪バイク「LMW(Leaning Multi Wheel)」に、中間排気量モデル「TRICITY(トリシティ) 300」が登場。これまでスクータータイプの「TRICITY 125」、スポーツモデルの「NIKEN(ナイケン)」(845cc)に試乗してきた筆者が、LMW初の中間排気量車の魅力を実走で確かめる!

「TRICITY」シリーズの使い勝手と「NIKEN」のスポーティーさを兼ね備えたモデル

ヤマハの3輪バイク「LMW」は、独立可動の2つのフロントタイヤが車体と一緒に傾く機構となっているため、トライクと呼ばれる一般的な3輪バイクでは味わえない2輪車に近いハンドリングを楽しめるのが特徴。そのLMW初の市販車「TRICITY 125」が登場したのは2014年のこと。筆者も試乗したことがあるが、3輪ならではの安心感を持ちながら、カーブでのハンドリングは2輪車そのもの。新感覚の乗り味に感動したことは、今も鮮明に覚えている。そして、2017年に排気量をアップした「TRICITY 155」がラインアップに追加され、2018年には845ccの3気筒エンジンを搭載したスポーツモデルの「NIKEN」がリリースされた。NIKENには、バンクした状態でもフロントタイヤがそれぞれ同心円を描き、スムーズに旋回できる「LMWアッカーマン・ジオメトリ」機構が採用され、最大バンク角がTRICITYシリーズよりも7°アップ。これにより、NIKENはスポーツバイクとしてのハンドリングを確立した。

2014年に発売された「TRICITY 125」(125cc)は原付二種クラスのスクーター。2017年にはTRICITY 125の車体に155ccエンジンを搭載し、高速道路の走行もできる「TRICITY 155」が追加された

2014年に発売された「TRICITY 125」(125cc)は原付二種クラスのスクーター。2017年にはTRICITY 125の車体に155ccエンジンを搭載し、高速道路の走行もできる「TRICITY 155」が追加された

TRICITYシリーズよりも7°深いバンク角45°に対応した「NIKEN」は、安定性とスポーツ性をさらに高次元で両立。シフトチェンジもできるスポーツタイプのLMWとして大きな話題となった

TRICITYシリーズよりも7°深いバンク角45°に対応した「NIKEN」は、安定性とスポーツ性をさらに高次元で両立。シフトチェンジもできるスポーツタイプのLMWとして大きな話題となった

【この記事も見ておきたい!】
・前輪が2つ!? 話題の“3輪バイク”ヤマハ「TRICITY」に乗ってきた!
・「LMWアッカーマン・ジオメトリ」機構について詳しく知りたい人は「NIKEN」試乗会レポートをチェック!
・「NIKEN」にがっつり試乗したレポートはこちら!

今回紹介するTRICITY 300は、TRICITY 125/155とNIKENの間を埋めるモデルといえる。155ccのエンジンを搭載したTRICITY 155は高速道路を走行することはできるものの、車体はTRICITY 125と同じ。あくまでもシティコミューターの延長であり、車体の作りは長距離ツーリングを視野に入れたモデルではなかった。そしてNIKENはというと、845ccの大型バイク。車重も263kgある重量級なため、気軽に乗れるマシンではない。その点、TRICITY 300は、排気量292ccで高速道路の走行は問題なし。車体構成はこれまでのTRICITYシリーズ同様にシフトチェンジの操作が不要なスクーターだが、トラクションコントロール機能を搭載するなど走りに関わる装備はかなり本格的だ。さらに、欧州でニーズの高い長距離ツーリングにも対応できるように設計されており、TRICITY 125/155よりも大柄なボディとされた。大型のフロントスクリーンや肉厚なシートをはじめ、長時間のライディングが快適にこなせる装備も充実している。

サイズは2,250(全長)×815(全幅)×1,470(全高)mmで、かなり堂々とした体躯。車重は237kgあり、このクラスとしては重い

サイズは2,250(全長)×815(全幅)×1,470(全高)mmで、かなり堂々とした体躯。車重は237kgあり、このクラスとしては重い

搭載されるエンジンは292ccの水冷単気筒で、29PSを発揮。エンジンのマウント方法をリンク式とすることで、不快な振動を軽減している

搭載されるエンジンは292ccの水冷単気筒で、29PSを発揮。エンジンのマウント方法をリンク式とすることで、不快な振動を軽減している

フロントライトはLED。左右のライトの間に、縦に2つ並んだポジションランプを配置した精悍な顔立ちだ

フロントライトはLED。左右のライトの間に、縦に2つ並んだポジションランプを配置した精悍な顔立ちだ

ライダーの身体に当たる走行風を防ぐフロントスクリーンは大型

ライダーの身体に当たる走行風を防ぐフロントスクリーンは大型

シート下には約45Lの収納スペースを確保。フルフェイスのヘルメットが2つ収納できるということなので、筆者所有のフルフェイスヘルメットとバックパックを入れてみたが、まだ余裕がある

シート下には約45Lの収納スペースを確保。フルフェイスのヘルメットが2つ収納できるということなので、筆者所有のフルフェイスヘルメットとバックパックを入れてみたが、まだ余裕がある

ハンドルの右下に装備されているシガーソケット式の12VのDCジャックは、スマートフォンの充電などに役立つ

ハンドルの右下に装備されているシガーソケット式の12VのDCジャックは、スマートフォンの充電などに役立つ

TRICITY 300の最大のポイントは、NIKENと同じLMWアッカーマン・ジオメトリを受け継いでいること。コーナリング時にフロント2輪と車体を同調させてリーンさせる(傾ける)「パラレログラムリンク」と、フロントホイール内側に片側2本ずつのフォークを持つ「片持ちテレスコピックサスペンション」により、バイクらしいハンドリングを実現している点は従来どおりだが、LMWアッカーマン・ジオメトリが採用されたことで、より深いバンク角に対応できるようになり、スポーティーな走りを楽しめるようになった。

外観のポイントともなっている2つのフロントホイール。タイヤは、ブリヂストンとLMW専用に共同開発した14インチの「BATTLAX SC」を採用している

外観のポイントともなっている2つのフロントホイール。タイヤは、ブリヂストンとLMW専用に共同開発した14インチの「BATTLAX SC」を採用している

通常、フロントタイヤを挟み込むように配置されるテレスコピック式のフロントフォークを2本内側に配置。片側からフロントタイヤを支持する構造だ

通常、フロントタイヤを挟み込むように配置されるテレスコピック式のフロントフォークを2本内側に配置。片側からフロントタイヤを支持する構造だ

両側のサスペンションを上で結ぶのが「パラレログラムリンク」機構。3輪バイクでも2輪車のように車体を傾けて走行することを可能にするための機構だ

両側のサスペンションを上で結ぶのが「パラレログラムリンク」機構。3輪バイクでも2輪車のように車体を傾けて走行することを可能にするための機構だ

TRICITY シリーズとしては初採用となるLMWアッカーマン・ジオメトリのポイントとなるのが、オフセットされたタイロッド。この構造により、深く車体をリーンさせても2つの前輪が同心円を描くように走れる

TRICITY シリーズとしては初採用となるLMWアッカーマン・ジオメトリのポイントとなるのが、オフセットされたタイロッド。この構造により、深く車体をリーンさせても2つの前輪が同心円を描くように走れる

車体を深く寝かせ、ハンドルを切った状態で2つのタイヤが少し違った角度になり、自動車と同じように同心円を描くLMWの動きは、下の動画を見ていただきたい

車体を深く寝かせ、ハンドルを切った状態で2つのタイヤが少し違った角度になり、自動車と同じように同心円を描くLMWの動きは、下の動画を見ていただきたい

そして、ヤマハのバイクとして初めての採用となる「スタンディングアシスト機構」も注目すべきポイントだ。これは停車時に車体の自立をサポートするもので、「転ばないバイク」に一歩近づくための機構。LMWは3輪とはいえ、車体が傾く機構のため、停車時に足をつかないと転倒してしまうが、スタンディングアシストをオンにするとパラレログラムリンク上部にあるアームが固定され、車体の傾きが制限されることにより車体が自立する(下の動画参照)。ただし、駐車時には必ずスタンドをかけることとされているので、短時間であってもスタンディングアシストだけで停めないようにしよう。


上の動画は自立することを伝えるためスタンドをかけずに離れたが、スタンディングアシストをオンにしても駐車時は必ずスタンドを使用する

上の動画は自立することを伝えるためスタンドをかけずに離れたが、スタンディングアシストをオンにしても駐車時は必ずスタンドを使用する

手を離しても自立するということは、乗車中に停車した時にも役立つ。たとえば、信号待ちで停車した時にスタンディングアシストをオンにすれば、足で支えなくても転倒しない。両足をステップに乗せたまま発進することも可能だ。とはいえ、スタンディングアシストを使っていても停車時には必ず足を路面に着くように推奨されているので、そうしたことはしてはいけない。停車時に足をつく行為自体はこれまでと変わらないが、それでも、スタンディングアシストが作動しているのとしていないのでは、足にかかる負担や精神的な緊張感は大きく異なる。

スタンディングアシストは、平坦な場所で、かつ、車体を路面に対し垂直な状態にして作動させる。左手側のスイッチを押してスタンディングアシストをオンにすると、写真のように片足のつま先だけでも安心して支えられるので、信号待ちなどでかなりラクだ

スタンディングアシストは、平坦な場所で、かつ、車体を路面に対し垂直な状態にして作動させる。左手側のスイッチを押してスタンディングアシストをオンにすると、写真のように片足のつま先だけでも安心して支えられるので、信号待ちなどでかなりラクだ

停車時だけでなく、スタンドを外す際や車庫入れなどで車体を押す際にもスタンディングアシストをオンにしておくと転倒防止になる

停車時だけでなく、スタンドを外す際や車庫入れなどで車体を押す際にもスタンディングアシストをオンにしておくと転倒防止になる

スタンディングアシストの解除は、同スイッチを2回押すか、アクセルを開けることで行える。ただ、解除すると一気に車体の重さが足にかかるため、注意が必要。基本的にスタンディングアシストは車体を垂直な状態にしてオンにしなければならないが、車体を少し傾けた状態でオンにしてしまうと、解除した際にバランスを大きく崩しやすい。アクセルを開けて解除と同時に走り出すこともできるが、慣れないうちはバランスが崩れて怖い思いをする可能性も。ヤマハが推奨している通り、きちんと両足をついた状態でオン/オフ操作し、解除してから走り出すようにしよう。

3輪ならではの安定感を多くのシーンで体感

TRICITY 300はTRICITY 125/155とNIKENの間を埋めるモデルと前述したが、NIKEN譲りのLMWアッカーマン・ジオメトリを採用し、長距離ツーリングしやすそうな車体設計と中間排気量であることから、両車両の中間的位置づけであるだけなく、いいとこ取りをしたモデルだと言えるだろう。それに加えて、新機構のスタンディングアシストも備えていることを考えると、さらに街乗りでの使いやすさが高まるはず。そして、NIKENで味わったようなスポーツライディングも楽しめそうだ。

身長175cmの筆者がまたがってみると、両足の拇指球までしっかりと接地した。シート高はTRICITY 125より30mm高い795mmだが、車体の幅が広く、足が横に広がってしまうため、数値よりも高い印象。片足で支えるのは少々緊張するが、スタンディングアシストをオンにすれば安心感はグッと高まる

身長175cmの筆者がまたがってみると、両足の拇指球までしっかりと接地した。シート高はTRICITY 125より30mm高い795mmだが、車体の幅が広く、足が横に広がってしまうため、数値よりも高い印象。片足で支えるのは少々緊張するが、スタンディングアシストをオンにすれば安心感はグッと高まる

シートはクッションが厚く座り心地がよい。シート高は高めだが、前方を絞った形状とすることで足つき性にも配慮

シートはクッションが厚く座り心地がよい。シート高は高めだが、前方を絞った形状とすることで足つき性にも配慮

コックピットはスクーターとしては一般的なデザインだが、ハンドル位置は思ったより高め

コックピットはスクーターとしては一般的なデザインだが、ハンドル位置は思ったより高め

スマートキーに対応しているので、キーを身につけていれば、中央のレバーをひねることで電源をオンにできる

スマートキーに対応しているので、キーを身につけていれば、中央のレバーをひねることで電源をオンにできる

エンジンをかけて走り出すと、重めの車体がスムーズに加速する。292ccという排気量のメリットを感じる部分だ。街中でもトルクに余裕があるので、落ち着いた気持ちで交通の流れに乗れる。少し大きめにアクセルを開ければ、流れの速い幹線道路でもリードすることも可能だ。トルク感のあるエンジンは、走行中に適度な鼓動感が伝わってきて気持ちがいい。

タイヤが3つあるため、そのジャイロ効果もあって直進安定性は非常に高い。トルクに余裕があるので、気持ち的にもゆとりを持てる

タイヤが3つあるため、そのジャイロ効果もあって直進安定性は非常に高い。トルクに余裕があるので、気持ち的にもゆとりを持てる

高速道路の合流でも、トルクフルなエンジン特性のおかげで余裕を持った加速ができる。スピードが出ると安定感はさらに増すため、高速道路の巡航は本当に快適だ。この車体とエンジンであれば、長距離のツーリングはかなりラクだろう。LMWのメリットとして、車体の安定感が高く、精神的な負担が小さいことから有効視野も広がり、ライディングの疲れが少ないことがあげられるが、高速道路を走っているとこの点を強く感じられる。安心感は4輪の自動車に近く、それでいてカーブを曲がる際の楽しさや車線変更の軽快感はバイクのもの。NIKENに試乗した時にも感じたことだが、TRICITY 300とならば、いつもより足を伸ばして遠出したくなるだろう。

コーナーでの軽快感について、もう少し語っておきたい。フロントが2輪あるため重そうに見えるが、LMWは普通の2輪車より、倒し込みとそれに合わせてハンドルに舵角がつく動きが軽く感じる。それでありながら、2つのタイヤが踏ん張っている感覚が伝わってくるので、安心感は普通の2輪車より高い。特に、砂が出ていてグリップが悪かったり、舗装の段差があるような路面での安心感は絶大だ。コーナー手前のブレーキングでも、制動力が高く、フロントがロックしにくいので速度調整が容易。万一、旋回中にブレーキをかけなければならない状況になっても、車体が起き上がろうとする挙動が少ないのでコントロールしやすい。

ハンドリングの軽快さと旋回中の安定感が高いレベルで両立されているため、初めて訪れるようなコーナーでも安心して車体を寝かせられる

ハンドリングの軽快さと旋回中の安定感が高いレベルで両立されているため、初めて訪れるようなコーナーでも安心して車体を寝かせられる

試乗を終えて

今回TRICITY 300に試乗して感じたのは、街中で軽快に裏道を走り抜けるというより、余裕のあるトルクを生かして幹線道路を流すほうが似合うマシンだということ。車体や車重が大きく、高速道路での安定性やコーナーでの安心感はNIKENに近いものを持っているので、普段は通勤に使い、週末にはツーリングに足を伸ばすというような使い方がぴったりだろう。新機構のスタンディングアシストも、解除の際に慣れが必要な部分はあるものの、停車中に足で支える重さを低減してくれるメリットは大きい。個人的には、NIKENにもスタンディングアシスト機構を追加してほしいと思うほどの使い勝手だった。

はっきり言うと、走行時の不満はない。2014年にTRICITY 125に試乗した際に、普通の2輪車とほとんど同じハンドリングで、旋回中の安心感は高いLMWの特性を保持したスポーツタイプのバイクができたらおもしろいだろうと当時想像していたことは、2018年に登場したNIKENでかなえられた。ただ、NIKENは車重もパワーも結構あるため、誰もが気軽に乗れるマシンではない。そうした点から、大型バイク並みの車体でありながらスクーター設計のTRICITY 300は、かなり幅広い人が気軽に乗って、たっぷり楽しむことができるモデルだと思う。普段遣いにもと考えている人からすると、少々重めの車体がネックになるかもしれないが、こうしたシーンでもスタンディングアシストを使えば疲れを低減できるので、機能を上手に使えばそこまで苦労せずに済むはずだ。

大柄な車体と3輪で大きくリーンして曲がって行く姿は迫力があり、街中でも目立つ。人と違った乗り物に乗りたいという人には狙い目のモデルだ

大柄な車体と3輪で大きくリーンして曲がって行く姿は迫力があり、街中でも目立つ。人と違った乗り物に乗りたいという人には狙い目のモデルだ

増谷茂樹

増谷茂樹

カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。

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