レビュー
内外装から走りまで、プレミアムブランドらしさあふれるコンパクトカー

きらびやかなコンパクトEV「DS3クロスバックE-TENSE」へ試乗

近年、積極的にフルEVやハイブリッドモデルを導入しているグループPSAジャパンの高級車ブランド「DSオートモビル」から、「DS3 クロスバック E-TENSE(イーテンス)」と呼ばれるEV(電気自動車)が発売された。

DS「DS3クロスバック E-TENSE」のエクステリア

DS「DS3クロスバック E-TENSE」のエクステリア

DS 3 CROSSBACKの製品画像
シトロエン
4.51
(レビュー8人・クチコミ9件)
新車価格:392〜534万円 (中古車:199〜438万円

グループPSAジャパンのEVと言えば、プジョー「e-208」などがあるが、実はDS3 クロスバック E-TENSEのほうが先に発表されていた。だが、これまで試乗する機会がなく、今に至ってしまっていた。そこで今回、DS3 クロスバック E-TENSEの試乗レビューをお届けするとともに、そもそもDSオートモビルとはどういったブランドなのかということもあわせてご紹介したい。

フランスの芸術が「DS」ブランドを作った

「DSブランドの目標は、“フレンチラグジュアリー”のノウハウを、自動車産業に注入することです」と話すのは、グループPSAジャパン 広報室 PRマネージャーの森亨さんだ。

これを理解するためには、フランスがこれまで培ってきた文化に触れる必要がある。読者諸兄は、フランス車と言うと、どのようなイメージをお持ちだろうか。たとえば、「コンパクトで、おしゃれ」、あるいは「シンプルで、華美な装飾がない」などではないだろうか。だが、実はその真逆の世界が、第2次世界大戦前のフランス車のイメージだとしたら、驚かれるかもしれない。

西洋美術における第1次世界大戦後のベル・エポックから始まり、アール・ヌーボー、アール・デコとフランス文化が燦然と輝く時代。社交界においては、豪華絢爛なパーティーが毎夜開催されていたはずだ。そして、そこに集まる紳士淑女が乗っていたクルマたちは、カロッセ(イタリア語ではカロッツェリア)と呼ばれるコーチワーカーに逸品もののボディを作らせ、美を競っていたのだ。そのころの自動車メーカーは、「プジョー」や「シトロエン」、「ルノー」などはすでに存在していたのだが、カロッセたちが手がけたのは、「ヴォワザン」「イスパノ・スイザ」「ドラージュ」「ドライエ」といった、今はなき超高級車メーカーのクルマたちだった。ちなみに、そのころから始まったのが、「コンクール・デレガンス」と呼ばれるクルマの美しさを競うイベントだ。現在では、クラシックカーの祭典として有名なイベントだが、当時はクルマだけではなく、女性とドレス、そして犬とのコーディネーションによる美を愛でていたのである。

当然、フランスにはそういった文化を育む背景もあった。カロッセの職人たちは、今に至る有名なブランドからさまざまなノウハウを授かることもあったし、みずからその技術を磨いてもいた。そして、その技術に対してパトロンたち(フランスの社交界の住人たちで、その多くが芸術に対して理解が深く、多くの芸術家を育てていた)は、惜しみなく金を使っていた。それが、フランスの芸術を深く、広く育てていったのである。

そんな時代も、第2次世界大戦が終わるとともに終焉を迎える。疲弊しきったフランスにはすでにそのような余裕はなく、大型の高級車に課せられる税金はほとんど禁止税的に高くなった。その結果、前述の超高級車メーカーたちは残念ながら滅んでいったのである。いっぽう、プジョーやシトロエン、ルノーなどは、小型車メーカーとして生き残る道を見出していったのだ。

キーワードは「アヴァンギャルド」

発売当時、フェンダーと一体のボディが採用されるなど、先進的なエクステリアデザインで登場した、シトロエン「DS」

発売当時、フェンダーと一体のボディが採用されるなど、先進的なエクステリアデザインで登場した、シトロエン「DS」

「DS」とのエクステリアデザイン比較として、「タルボラーゴ T23」

「DS」とのエクステリアデザイン比較として、「タルボラーゴ T23」

1955年のパリモーターショーで、シトロエンから「DS」と呼ばれるモデルがデビューした。それまでの、シトロエンをはじめとしたクルマたちは、フェンダーがタイヤを覆うようなクラシカルなエクステリアのものばかりだったが、DSはいまのクルマのようにフェンダーがボディと一体となっていた。これだけでも、当時はセンセーショナルだったのだが、さらにサスペンションをはじめ、ステアリングやブレーキ、トランスミッションなどを油圧で制御することですばらしい乗り心地や、独特ながら慣れれば疲れ知らずのドライブフィールを実現していたのだ。DSは、同ショーの初日だけで1万台を超えるほどの受注があったというのだから、フランス人にとってDSは戦前の高級車ではないものの、それまで抑えられていた彼らの知的欲求や、クルマへの憧れに火をつけたといっても過言ではないだろう。

そのDSの名を冠したDSオートモビルは、2014年にシトロエンのサブブランドとして設立され、その後は独立した1ブランドとして現在に至っている。DSオートモビルの目指すところは、冒頭に森さんが述べていた通り、戦前のきらびやかなファッションや当時の建築様式、職人技をいかにクルマで表現するか。また、安全運転支援技術などの最先端テクノロジーを搭載することで、現代のアヴァンギャルドなブランドを目指しているのである。

「CHAdeMO」の急速充電にも対応

現在、DSオートモビルのラインアップのうち、「DS3クロスバック」と「DS7クロスバック」が日本に輸入されているのだが、その「DS3クロスバック」にEVの「DS3クロスバックE-TENSE」が追加された。

DS3クロスバックE-TENSEの基本的なスペックは、プジョー「e-208」と同じで、最高出力は100kw(136PS)、最大トルクは260Nmを発揮する。DS3クロスバックのガソリンエンジン搭載車と比べると、最高出力はガソリンエンジン搭載車が130PSと、E-TENSEとほぼ同じ値だが、最大トルクはガソリンエンジン車が230Nmなので、E-TENSEのほうが30Nmアップしている。

E-TENSEのエンジンルームには、エンジンに代わってインバーターモーターが搭載されている。そして車室の床面、センタートンネルと前後席の下に電池が配置されている。容量は50kwhで、JC08モードの届出値としては1充電での走行可能距離が398kmになる。e-208も、E-TENSEと同じ容量の電池を積んでいてプラットフォームも共通なのだが、e-208は背が低く空力的にも少し有利なこと、重量も若干軽いことなどから、e-208の走行可能距離は402kmとなっている。

E-TENSEのドライブモードは、「スポーツ」「ノーマル」「エコ」の3つのモードが備えられており、136PS、260Nmという最大パフォーマンスは「スポーツ」モードを選択することによって発揮されるものだ。なお、ノーマルモードはスポーツモードのおよそ80%の出力になり、エコモードではおよそ60%の出力になるという。ちなみに、エコモードにすることでバッテリーの消費が抑えられるため、長い航続距離を走行することができる。

また、E-TENSEでは回生ブレーキの強さを選ぶことができる。操作としては、シフトレバーを手前に1回引くと、DレンジからBレンジになる。Bレンジでは、アクセルオフで回生力の強いブレーキがかかる。Dレンジでは、ほぼガソリンエンジン搭載車のエンジンブレーキに近い感覚であったのに対し、Bレンジにするとそこから2〜3割ほど減速Gが増す感覚だ。

充電に関しては、50kWまでのCHAdeMO急速充電、および普通充電に対応している。普通充電については、3kWあるいは6kWのタイプに対応しており、50kmの走行に必要な充電時間としては、3kWで3時間、6kWの場合は1.5時間必要になるという。

プレミアムブランドらしい、しっとりと落ち着いた乗り心地

では、DS3クロスバックE-TENSEで、横浜の市街地を走ってみよう。グレーの塗装をベースに、少しブラウンが入ったボディカラー「クリスタルパール」は、E-TENSE専用のものだ。パールが入っていることから、光の加減によって微妙に色が変わる、すてきなボディカラーだ。

ガソリン車のDS3クロスバックと、E-TENSEとの外観上の違いをあげると、ボンネット先端のバッジがDSからEが象徴的にあしらわれているものへと変更されているほか、グリルの色が黒からグレーに。そして、「DSウイング」と呼ばれるグリルのフレーム部分が、サテンクロームと呼ばれるマット調仕上げへと変更されている。

DS「DS3クロスバックE-TENSE」の走行イメージ

DS「DS3クロスバックE-TENSE」の走行イメージ

走り始めると、特に乗り心地において、E-TENSEとガソリンエンジン搭載車との大きな違いを感じた。実は、E-TENSEへ試乗する2週間ほど前に、ガソリンエンジン搭載車のDS3クロスバックで、富山までの往復1,200kmほどの長距離テストを敢行していたのだが、E-TENSEのほうがよりしなやかさを感じたのだ。

その理由は、大きく2つある。ひとつは、重量差だ。ガソリンエンジン搭載車の1,280kgに対して、E-TENSEは1,580kgと300kg重いこと。そして、もうひとつは床にバッテリーを敷き詰め、かつ、その部分をしっかりと締結することでボディ剛性に大きく貢献していることがあげられる。その結果、より重厚かつしっかりとしたサスペンションストロークが味わえる、独特の味付けがなされているのだ。

DS「DS3クロスバックE-TENSE」の試乗イメージ

DS「DS3クロスバックE-TENSE」の試乗イメージ

特に、段差を超えたときのショックのいなしかたなどは優秀で、足元がバタつくこともなく、体に伝わるショックは角が取れたまろやかなものだった。その後、E-TENSEで走った道路を違うクルマで走行した際に、初めて「こんなに荒れた道だったのか!」と驚くほどであった。これには、シートも大きく貢献している。クッション性が高く、ショックを吸収してくれて、段差を越えたときに体が少々動いたとしても、体がシートに適度にホールドされているので、疲れはほとんど感じなかった。そして、この印象は速度が増すほどに強くなる。フラット感が増し、よりいなしている感じがして、走っていて気持ちがいいほどだ。

DS「DS3 クロスバック」ガソリンエンジン搭載車のエクステリアイメージ

DS「DS3 クロスバック」ガソリンエンジン搭載車のエクステリアイメージ

ちなみに、ガソリンエンジン搭載車のDS3クロスバックも、乗り心地は決して悪くはない。それどころか、同セグメントの中では秀逸な部類で、八王子から富山までたった1度のトイレ休憩のみで走り抜けられたと言えば、納得していただけるかもしれない。DS3クロスバックの2モデルは、どちらもBセグメントとは思えないほどの乗り心地のよさであり、その性質が異なるだけなのだ。これは、DS3クロスバックのもともとの素性のよさが、大きく貢献していると言えるだろう。

ハンドリングについても、乗り心地と同じ傾向が見られた。ガソリンエンジン搭載車は軽快で、ひらひらと走らせることができるのに対し、E-TENSEはしっとりと地面をとらえ、ロールを感じさせずに腰をスッと落としながら、安定して曲がっていくイメージだ。

EVに乗ると、普段気付かなかったロードノイズが気になってくることはよくある。しかし、DS3クロスバックE-TENSEは、静粛性が非常に高く、ロードノイズはまったくと言っていいほどに気にならない。このセグメントとしては、特筆すべき静粛性の高さと言っていいだろう。

回生ブレーキを強める、Bモードも試してみた。いわゆる、日産のe-POWER搭載車のような「ワンペダル」のフィーリングに近いもので、アクセルを離すとかなり強めにブレーキがかかる。実は、同じ機能がe-208にも採用されているのだが、あちらと比較すると若干DS3クロスバックE-TENSEのほうが穏やかな印象であった。また、回生時のブレーキペダルのフィーリングに違和感はなく、とてもスムーズであった。ガソリンモデルは少しサーボが強く、カックンとなりがちだったので、それと比較するとより違和感を覚えない、自然なブレーキフィールだった。

市街地や高速道路などのシーンを含め、非力さはまったく感じられず、必要にして十分以上のパワーとトルクが得られたので、バッテリーの容量が持つかぎりは、どこまでも走っていけそうなクルマだった。

白基調のインテリアも先鋭的

インテリアは白を基調としており、ステアリングまで白というこだわりようだ。さらに、シートも色の統一感を持たせるためにオフホワイトが採用されているが、シートの中央部分は実はファブリックになっており、サイドサポートの部分のみにナッパレザーが使われている。

内装にホワイトを使用するとガラス面に映り込むので、通常はここまで大きな範囲で白を使用することはあまりない。しかし、DS3クロスバックE-TENSEでは、黒をうまく使うことで映り込みを抑えているのがわかる。

インパネ周りは、とても広々としているように感じられる。その理由は、左右のエアアウトレットがドア側に設置されているなどといった演出がうまくなされているからだ。“広大な”広々感とは異なり、適度な開放感と包まれ感が同居している、居心地のいいインテリアと言える。

さらに、センターコンソール周りの装飾は、高級時計メーカー「BREGUET(ブレゲ)」の「クル・ド・パリ」と呼ばれる装飾をモチーフにしたものや、メーターやスイッチ類などに用いられているフォントは、DSオリジナルのものであるほどのこだわりようだ。

また、ドアがサイドシルまで覆うように作られているので、たとえば雨の日などでもサイドシルが汚れず、乗り降りの際にスカートなどの裾を汚すこともない。このあたりにも、クルマ作りのセンスのよさが表れている。きらびやかなドレスでパーティー会場に現れ、そこで降りるときに、ドレスを汚してしまうわけにはいかないだろう。

EVのイメージは、節約や節制といった我慢のイメージが付きまとうことが多い。それが悪いとは言わないが、クルマに乗るときにいつもそんな気持ちを味わうのは寂しくないだろうか。それを思うと、実はDS3クロスバックE-TENSEのような、瀟洒(しょうしゃ)なEVというのは、実はとても理にかなったクルマではないかと思えてくる。少しだけ陰のある、艶っぽいインテリアと走り。そこへ、地球環境にやさしいEVというギャップに、ときめきを感じてしまったのは私だけではないはずだ。

[写真:内田俊一/価格.comマガジン編集部/グループPSAジャパン]

内田俊一

内田俊一

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。

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新車価格:392〜534万円 (中古車:199〜438万円
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