レビュー
内燃機関車のような、自然な運転フィールが好印象

絶妙なハンドリングと乗り心地! マツダ初の量産EV「MX-30 EV MODEL」に試乗

マツダから、量産モデルとして初の電気自動車「MX-30 EV MODEL」(以下、MX-30 EV)が登場した。

右が、マツダ「MX-30 EV MODEL」。左は、MX-30 EVとの比較として試乗した、「MX-30」のマイルドハイブリッド車

右が、マツダ「MX-30 EV MODEL」。左は、MX-30 EVとの比較として試乗した、「MX-30」のマイルドハイブリッド車

今回、わずかな時間ながらMX-30 EVのステアリングを握る機会があったのでレポートしよう。

MX-30の製品画像
マツダ
3.78
(レビュー38人・クチコミ600件)
新車価格:242〜495万円 (中古車:189〜467万円

あえて小さなバッテリーを搭載したワケ

これまで、マツダは新たな価値に挑戦する車種に対して、「MX」と命名してきた。MX-30も同様に、マツダの実験的なポジションとして位置付けられている車種になる。だからこそ、マイルドハイブリッド車に加えてEVモデルも新たにラインアップされたのだ。

「MX-30 EV」のボンネット内は、エンジンが搭載されていないためスペースにはかなりの余裕が見られる

「MX-30 EV」のボンネット内は、エンジンが搭載されていないためスペースにはかなりの余裕が見られる

MX-30 EVに搭載されているモーターの出力とトルクの値は、107kW(145ps)/4,500〜11,000rpm、270Nm(27.5kgf・m)/0〜3,243rpmで、バッテリーの総電力量は35.5kWh。WLTCモードでの一充電走行距離は、256kmだ。だが、たとえばレクサスのコンパクトEV「UX300e」のバッテリーの総電力量は54.4kWhで、一充電走行距離は367kmと、MX-30 EVを大きく上回っている。

なぜ、MX-30には他車と比べて小さな容量のバッテリーが搭載されているのだろうか。その理由は、大きく2つある。ひとつは、2022年にロータリーエンジンを発電機にした「レンジエクステンダー」の発売が控えているので、あえてここで大きなバッテリーを搭載して航続距離を稼ぐ必要がないという判断だ。そして、もうひとつは環境問題への配慮だ。マツダでは、「WELL to WHEEL」、井戸(原油採掘)からタイヤまでという視点でCO2を削減することが重要だと説明してきた。しかし、近年ではさらに大きくとらえ、製造から部品調達、物流、リサイクルや廃棄に至るまで考えを広げた、「ライフサイクルアセスメント(LCA)」によってCO2排出量を削減していくことが重要であるとしている。確かに、EVは走行時のCO2排出量こそゼロだが、搭載しているバッテリーを製造する際のCO2はどうなのか。また、廃棄の問題もある。そういったことを踏まえて、マツダとしては航続距離を犠牲にしても環境負荷の少ない小型バッテリーを搭載し、より航続距離を求める場合にはレンジエクステンダーをチョイスできるように、ラインアップを順次拡大させているのである。余談だが、現在の日本においてEVがはたして地球温暖化に有利なのかは、少々疑問がないこともない。その電気を作るために、日本では火力発電に大きく頼らなければならないからだ。

閑話休題。MX-30EVには、マイルドハイブリッド車にはない多くの魅力が備わっているので、試乗を通してその魅力を解説していこう。

外観はほとんど同じだが、乗り味はまったく異なる

「MX-30 EV」のフロントイメージとリアイメージ。マイルドハイブリッド車と、外観上はほとんど変わらない

「MX-30 EV」のフロントイメージとリアイメージ。マイルドハイブリッド車と、外観上はほとんど変わらない

まず、MX-30の外観からEVかハイブリッドかを見分けるのは、なかなか難しい。違いはエンブレム程度で、そのほかにはほとんど変わりがないからだ。実際に乗り込んでみると、インテリアもメーター表示が異なるくらいで、MX-30独特のシフトレバーも同じものだった。

だが、走り始めるとその印象はまったく異なってくる。アクセルペダル(マツダでは、EVの場合は「モーターペダル」と呼ぶが、当記事では便宜上アクセルペダルと記載)を踏み込み、加速を始めた時の力強さは、さすがはEVと思わせるものだ。そして、何よりもボディ剛性が一気に上がった印象が、路面の段差などからもしっかりと伝わってくる。

「MX-30 EV」の試乗イメージ。電気自動車でありがちな、アクセルのぎくしゃく感やクルマの不自然な動きなどはMX-30 EVでは見られず、ガソリン車と同じように快適に運転することができる

「MX-30 EV」の試乗イメージ。電気自動車でありがちな、アクセルのぎくしゃく感やクルマの不自然な動きなどはMX-30 EVでは見られず、ガソリン車と同じように快適に運転することができる

最初の驚きから、落ち着きを取り戻してゆっくりと動きを観察すると、クルマ全体がとてもスムーズに動いていることがわかった。一般的なEVの場合には、たとえばアクセルペダルを離してブレーキペダルを踏むようなシーンにおける連続性や、ふっとステアリングを切った時のクルマの動きにおいて、乗りなれている内燃機関車などと比較すると、わずかな遅れが生じたり、逆に早かったり、あるいは動きがスムーズでなかったりといったことを感じることがたびたびあるからだ。しかし、MX-30 EVではそういったことはなく、きわめてスムーズかつ自然にドライブが楽しめる。

「e-GVC Plus」を搭載し、さらに滑らかな走りを実現

実は、MX-30における開発キーワードのひとつに“調和”が掲げられているのだが、それがMX-30 EVではあらゆる面において実現されているのだ。特に大きく影響していると思えるのが、車両統合制御技術「エレクトリックGベクタリングコントロールプラス(e-GVC Plus)」の採用である。マツダは、これまで内燃機関車向けの「GVC」「GVC Plus」をさまざまなマツダ車に搭載し、それぞれ見事な制御によってスムーズなコーナーリング性能を実現してきた。そこへ、EV独自の制御を加えたのがe-GVC Plusだ。

2012年に、日本国内の地方自治体や企業向けにリース販売された、マツダ「デミオEV」

2012年に、日本国内の地方自治体や企業向けにリース販売された、マツダ「デミオEV」

元々、GVCの開発は「デミオEV」で行われていた。デミオEVは、一般ユーザー向けには販売されなかったのだが、法人向けにリース車として市場投入された車両だ。そのデミオEVをベースに開発されていた車両制御技術を、内燃機関車にも応用しようと市場投入されたのがGVCやGVC Plusなのである。つまり、GVCはその成り立ちから、EVにマッチングしやすい技術なのだとも言えるだろう。

GVCについて少しおさらいすると、コーナーリング時(つまり、ハンドルを切った時)に、ドライバーにもわからないくらいの微小なエンジンブレーキをかけることで、フロントに荷重が移動する。それによって、よりスムーズなコーナーリングが実現できるというものだ。さらに、GVC Plusでは、ABSなどのトラクションコントロールを使うことで、ほんのわずかに、四輪のうちのどれかのブレーキパッドを“つまむ”ことで、コーナーリング時の安定性を確保している。

「MX-30 EV」の試乗イメージ

「MX-30 EV」の試乗イメージ

今回のe- GVC Plusでは、それがどのように進化したのだろうか。ポイントは、大きく3つある。まず、コーナーリング時の反応時間が、エンジンに比べてはるかに早くなったことがあげられる。そのため、より滑らかな動きが実現できたという。2つ目は、内燃機関車ではハンドルの戻し側の制御が入っていなかったのだが、e- GVC Plusではハンドルを戻す時は直進したいととらえ、わずかに加速させる制御が加えられている。最後の3つ目は、アクセルオフ時の制御だ。内燃機関車では、アクセルオフの状態でハンドルを切ってもGVCは介入しない。これは、アクセルを戻している際には制御しようとしてトルクを絞ろうとしても、アクセルを踏んでいないため、それ以上絞りようがないからだ。だが、モーターではアクセルオフの状態でも、さらに減速をかけることができる。

こういった制御が取り入れられ、ボディ剛性もさらに上がり、低重心化も実現できているからこそ、MX-30 EVではスムーズなドライビングが実現できているのだ。

メリットとなった重量増

車重に関しては、以下のとおりだ。

MX-30 EV:1,650kg/前920kg/後730kg
MX-30ハイブリッド:1,460kg/前900kg/後560kg

車検証上のデータを見ると、特にリア側に重量が多く載っていることがわかる。これは、高電圧バッテリーが後輪付近に搭載されていることが大きな要因だ。しかし、この重量増によって、乗り心地も劇的に変化した。以前、MX-3のマイルドハイブリッド車に試乗した際には、乗り心地がやや突っ張る方向で、もう少ししなやかさが欲しいと感じていた。それが、このMX-30 EVでは、そのしなやかさが見事に実現できている。

また、EVの場合は0回転から最大トルクを発生できることから、アクセルペダルを踏み込んだ時に、思った以上にトルクが出てしまう傾向がある。しかし、MX-30 EVはそのあたりの制御も絶妙で、違和感を覚えることがない。アクセルペダルを踏み込んだ時に内燃機関車と同様に“音”を変化させながら発生させることで、聴覚からもトルクの出方が感じられるようにしていることなどが、違和感を取り除く一助となっているようだ。

「MX-30 EV」の試乗イメージ

「MX-30 EV」の試乗イメージ

これらの印象は、市街地から高速道路まで、いくつかのシチュエーションで試乗しても、変わることはなかった。いずれの速度域でもスムーズで、乗り心地もよく快適だ。たしかに、速度域が上がれば鋭い突き上げが体に伝わってくることもあるが、内燃機関車と比較すれば角の取れたものであり、それ以上にうねった道や荒れた路面に関しては、うまくいなしている印象だった。また、非常に低重心であり、ロール感もなく、オン・ザ・レール感覚で曲がれるのは、楽しさすら覚えるほどだった。

気になるブレーキフィール

いっぽう、気になった点が2つある。ひとつは、ブレーキが若干オーバーサーボ気味であることだ。

「MX-30 EV」で少し気になったのが、ブレーキペダルの踏み始めに急激にGがかかる感覚だ

「MX-30 EV」で少し気になったのが、ブレーキペダルの踏み始めに急激にGがかかる感覚だ

もちろん、慣れの問題もあるが、ブレーキペダルの踏み始めで一気にGが高まる印象なので、このあたりのコントロールがしやすくなるとよりよいだろう。回生ブレーキそのものは、パドルシフトによって強さが選べる点を評価したい。ワンペダルフィーリングから、内燃機関車のエンジンブレーキに近いようなフィーリングまで、幅広く設定できるので、好みのフィーリングに設定することによって、楽しく快適に走らせることができるだろう。

もうひとつ気になった点は、航続距離だ。充電量の残りが79%もあるにもかかわらず、139kmしか走れないのはいかがなものだろうか。もっとも、長距離が必要であれば、今後発売されるであろうレンジエクステンダーを待てばよいのではあるが……。

わずかな時間ではあったが、MX-30 EVのステアリングを握ってみて、マツダがMX-30で実現したかった世界観は、このMX-30 EVではなかったのかと感じた。それは、“調和”というキーワードが、内燃機関車と比較しても明らかに高い次元で実現されていたからだ。特に、乗り心地やハンドリング面において、その快適性やスムーズさは顕著だった。乗り心地は、すべてのマツダ車と比べても、もっともいいのではと思える。これらは、MX-30の開発が、先にEVモデルからスタートしたことも一因と言えるのかもしれない。

自宅に充電器が設置できて、主に走らせるのが市街地という使い方であれば、MX-30 EVはおすすめできる1台だ。ただし、もし長距離やレジャーにも出かけたいというのであれば、もう少し待ってMX-30のレンジエクステンダーの登場を待ちたい。この完成度のまま、より航続距離が延びるのであれば、間違いなくレンジエクステンダーはベストな1台になりそうだからだ。

内田俊一

内田俊一

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。

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新車価格:242〜495万円 (中古車:189〜467万円
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