いま、日本でもっとも多く販売されている自動車カテゴリーは「軽自動車」だ。2021年1〜7月の新車販売データを見ると、軽自動車が全体のおよそ38%を占めている。その中でも、後席にスライドドアが装備されている軽自動車の販売比率は約52%と、5割を超えるほどの人気を誇っている。
スズキ車で、スライドドアを備えている軽自動車といえば「スペーシア」があげられる。2021年1〜7月のスペーシアの販売登録台数は、1か月平均で12,812台と、ホンダ「N-BOX」に次ぐ2位にランクインしている。ちなみに、3位はダイハツ「タント」なので、1〜3位はすべてスライドドアを備えた軽スーパーハイトワゴンになる。
「スペーシア」よりも少し低い全高にスライドドアを備え、愛着が感じられる内外装が施されたスズキ「ワゴンRスマイル」
軽スーパーハイトワゴンは、スライドドアを備えているからこそ、高い人気を得ているという側面もある。そして、近年では自動車のユーザーニーズがさらに多様化してきており、「スライドドアは欲しいけれど、背の高いクルマは要らない」という声もあがってきているという。
「ワゴンRスマイル」のリアイメージ
そんな中、スズキから発売される新型軽自動車が、軽スーパーハイトワゴンよりも少し低めの全高にスライドドアが組み合わされた「ワゴンRスマイル」だ。発売日は、2021年9月10日が予定されている。
「ワゴンRスマイル」のサイドイメージ
ワゴンRスマイルの全高は、スペーシアの1,785mmよりも90mm低い、1,695mmに設定されている。また、現行のワゴンRの全高は1,650mmなので、ワゴンRスマイルはスペーシアよりも低く、ワゴンRよりも少し高い全高になる。ダイハツの「ムーヴキャンバス」の全高が1,655mmなので、これに近い値だ。
「ワゴンRスマイル」のフロントフェイス
「ワゴンRスマイル」のLEDヘッドランプ(上級グレードのHYBRID Xのみ)
「ワゴンRスマイル」のテールランプ
ワゴンRスマイルのフロントフェイスは、丸目のヘッドランプやフォグランプ、フロントフェンダーなどに丸みを持たせることによって、愛着が感じられるような雰囲気へと仕上げられている。ヘッドランプには、スズキの軽で初となる肉厚のインナーレンズを用いたLEDポジションランプが採用(上級グレードのHYBRID Xのみ)されている。また、テールランプもスクエアタイプながら角を落とすことによって、丸みを持たせたデザインとなっている。
2トーンデザインのホイールキャップが採用されている「スチールホイール」
ホイールは、2トーンのホイールキャップが採用されたスチールホイールで、立体的な造形が特徴的だ。アルミホイールは設定されていないが、スチールホイールでも見た目の質感はそれなりに高い。
「ワゴンRスマイル」のインテリア
インテリアは、エクステリアと同様にさまざまな部分の角を落とすことで丸みを帯びており、柔和な雰囲気に仕上げられている。助手席前のインパネなどには、ツヤのあるカラーパネルが装着されており、パネルやエアコンルーバー、ドアノブ周りなどがブロンズ加飾で縁取られることによって、質感の高さが演出されている。
「ワゴンRスマイル」は、ルーフにもひし形のデザインが施されているなど、インテリアは細かな部分までおしゃれだ
さらに、ルーフにはひし形のモチーフがデザインされているなど、細部に渡ってやわらかなイメージとなっているのが特徴的だ。
フロントピラーは、中央にウィンドウが備わっているので、右左折時の死角が少ない
また、運転席に座ると視界がとてもいい。フロントピラーは細めのものが採用されており、2本のフロントピラーの間に縦長のウィンドウが装備されることによって、斜め前方の死角が少なくなっている。また、ワイパーの停止位置が下げられるなどの工夫によって、開放感のあるすっきりとした前方視界が確保されている。
「ワゴンRスマイル」の後席スライドドアは、スペーシアの左右開口幅と同じ広さで、床も低く設定されていて乗り降りがしやすい
ワゴンRスマイルでは、後席スライドドアの乗降性のよさにも注目したい。スライドドアの左右の開口幅は600mmと、スペーシアと同じ幅になっている。スライドドアの上下の開口幅は、スペーシアよりも85mm狭いもの、それでも乗り降りはしやすい。さらに、スライドドアのステップ(床面)の高さもスペーシアと同じく345mmと低いので、足に負担をかけずに乗降することができる。たとえば、トヨタ「ヴォクシー」のようなミニバンに比べると40mmも低いので、乗降性はかなりいいと言えるだろう。
「ワゴンRスマイル」のフロントシート
フロントシートの着座位置は、スペーシアと同じで少し高めに設定されている。そのため、視界は良好だが床と座面の間隔が大きく開く。小柄なドライバーなどは、足がペダルに届きにくく感じるかもしれないので注意したい。シート生地はファブリックで、伸縮性があって柔軟に感じる。背もたれの下側は適度に硬く造り込まれているが、座り心地は快適だ。
「ワゴンRスマイル」のリアシート
リアシートは、足元空間が広い。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先には握りコブシ3つ半の余裕がある。ワゴンRと同程度で、十分な広さを持ち合わせていると言えるだろう。前席の下に足が収まりやすいので、後席のスライド位置をかなり前に寄せても窮屈に感じない。そのため、大人4名が乗車しても、ラゲッジルームにはそれなりの荷物を積むことができる。
「ワゴンRスマイル」のラゲッジルーム
また、後席の背もたれを前に倒すと、座面も連動して下がり、広くてフラットなラゲッジルームになる。路面から荷室床面までの高さは、ワゴンRと同じで855mm。自転車の積載まで考えられているスペーシアの510mmに比べれば高いものの、荷室容量には余裕を持たせている。
「ワゴンRスマイル」の助手席に備わっている「シートアンダーボックス」(※説明キャプションに一部誤りがございましたので修正いたしました[編])
「ワゴンRスマイル」最上級グレードのHYBRID Xに採用されている「シートバックアッパーポケット」と「パーソナルテーブル」
ワゴンRスマイルは、収納設備も豊富だ。ワゴンRやスペーシアなどと同じく、助手席の下には大型の「シートアンダーボックス」が備わっている。このシートアンダーボックスにはハンドルが付いているので、取り外して車外へと持ち出すこともできる便利なものだ。また、最上級グレードのHYBRID X(グレードラインアップは後述)には、「フロントアームレストボックス」や「シートバックアッパーポケット」、折りたたんで格納することができる「パーソナルテーブル」など、多くの収納スペースが備わっている。
また、フロントガラスやリアガラス、サイドガラスには「360°プレミアムUV&IRカットガラス」が採用されており、どの席に座っても紫外線や赤外線が肌に直接当たるのをやわらげてくれるのも、うれしい装備のひとつだ。
「ワゴンRスマイル」に採用されているエンジンは、ガソリンのNAエンジンとマイルドハイブリッドの2種類だ
搭載エンジンは、660cc直列3気筒のNAエンジンと、マイルドハイブリッドの2種類から選ぶことができる。ワゴンRスマイルは、穏やかな雰囲気を持つ軽自動車として開発されているので、ターボエンジン搭載車はラインアップされていない。
燃費(WLTCモード)は、NAエンジンが23.9km/L、マイルドハイブリッドが25.1km/L。ちなみに、スペーシアのマイルドハイブリッドXは21.2km/L、ワゴンRのマイルドハイブリッドFZは25.2km/Lなので、ワゴンRスマイルの燃費はワゴンRに近い値だ。
■スズキ「ワゴンRスマイル」のグレードラインアップと価格
※価格はすべて税込
-ガソリン車(NA)-
G:1,296,900円[2WD]/1,420,100円[4WD]
-マイルドハイブリッド車-
HYBRID S:1,472,900円[2WD]/1,596,100円[4WD]
HYBRID X:1,592,800円[2WD]/1,716,000円[4WD]
グレードラインアップは、NAエンジンを搭載するガソリン車の「G」、マイルドハイブリッド車の「HYBRID S」「HYBRID X」の3種類。Gはベーシックなグレードだが、衝突被害軽減ブレーキを作動できる「デュアルカメラブレーキサポート」などが標準装備されている。HYBRID Sは、Gにマイルドハイブリッド機構が加わり、左右のスライドドアに電動開閉機能も備わり、さらに、「運転席シートリフター」や「チルトステアリング」も装備される。HYBRID SとGの価格差は176,000円。スライドドアの電動開閉機能など、HYBRID Sに加わる装備の価格換算額は約13万円なので、マイルドハイブリッドは46,000円で装着されていることになる。HYBRID Sは、機能を充実させながら割安な価格に設定されている。
いっぽう、HYBRID XはHYBRID Sに「LEDヘッドランプ」「フォグランプ」「ポジションランプ」「360°プレミアムUV&IRカットガラス」「パーソナルテーブル」など、15万円相当の装備が加わっている。HYBRID XとHYBRID Sとの価格差は119,900円で、HYBRID Xも割安だ。前述した装備が欲しいユーザーであれば、HYBRID Xも推奨できる。
なお、HYBRID S(1,472,900円)に相当するグレードをスペーシアのラインアップから見てみると、HYBRID X(1,524,600円)になる。また、ワゴンRではHYBRID FX(1,280,400円)が該当する。ワゴンRスマイルの価格は、ワゴンRとスペーシアのちょうど中間に位置していると言える。
ただし、スペーシアは強敵のホンダ「N-BOX」やダイハツ「タント」を相手に競争しているので、「ロールサンシェード」やエアコンの冷気を車内の後部に送る「スリムサーキュレーター」など、多人数が乗ることを想定した快適な機能が標準装備されており、割安な価格に設定されている。もし、1〜2人で乗ることが多いのならワゴンRスマイルを、3〜4人で乗る機会が多いのならスペーシアを検討するといいだろう。
「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト