ルノーから発売されている、5ドアハッチバック「メガーヌ」のハイパフォーマンスモデルである「メガーヌ R.S.(ルノー・スポール)」。
2021年3月4日、ルノー「メガーヌR.S.」(右)と「メガーヌR.S.トロフィー」(左)の改良モデルが発売された。今回、300PSへパワーアップが図られたメガーヌR.S.に試乗した
2021年3月4日、メガーヌ R.S.に改良が施され、ベースグレードに上級グレードの「トロフィー」と同じ300PSのハイパワーなエンジンが搭載されたほか、装備や安全性能の向上などが図られた。今回、わずかな時間ではあるが、メガーヌ R.S.に試乗することができたのでレポートしたい。
■ルノー「メガーヌR.S.」のグレードラインアップと価格
※価格はすべて税込み
メガーヌ ルノー・スポール:4,640,000円 ※今回の試乗グレード
メガーヌ ルノー・スポール トロフィー(MT):4,940,000円
メガーヌ ルノー・スポール トロフィー(EDC):5,040,000円
■ルノー「メガーヌR.S.」(試乗グレード)の主な諸元
ハンドル位置:右
全長×全幅×全高:4,410×1,875×1,465mm
ホイールベース:2,670mm
車重:1,480kg
最小回転半径:5.2m
乗車定員:5名
エンジン:1.8L直列4気筒16バルブ直噴ターボエンジン
トランスミッション:電子制御6速AT(6EDC)
最高出力:221kW(300PS)/6,000rpm
最大トルク:420N・m(42.8kgm)/3,200rpm
タイヤサイズ:245/35R19 93Y(F・R)
「ルノー・スポール」とは、フランスの自動車会社ルノーのモータースポーツ部門で、「ルノー・スポール・レーシング」と呼ばれるF1を頂点としたレース活動を主に行っている部門と、そのレース活動から得られた知見をもとに、車両を開発して市販車へとフィードバックする「ルノー・スポール・カーズ」の2部門によって構成される。
2008年、ニュルブルクリンクの北コースで8分17秒90の量産FF車最速タイムを記録した「メガーヌR26.R」
そのルノー・スポールの手が加わったメガーヌの歴史を簡単に振り返ると、2004年にデビューした2代目メガーヌの高性能グレードとして、「RS」が初めて登場する。その後、2008年に発表された「R26.R」は、ニュルブルクリンクでFF車最速を目指して開発された。カーボンボンネットの採用や後部座席が取り払われることなどによって、徹底的な軽量化が施された同モデルは、ドイツのニュルブルクリンクで当時の市販FF車最速となる、8分17秒90のタイムを記録する。
2014年、ニュルブルクリンクの北コースで7分54秒36を記録した「メガーヌR.S. 275トロフィーR」
2代目のメガーヌには、3ドアハッチバックと5ドアハッチバックが用意されていたが、2010年に投入された3代目のメガーヌR.S.では、3ドアハッチバックのみのラインアップとなった。3代目では、ニュルブルクリンクで8分を切ることを目標とした「アンダー8」と呼ばれるプロジェクトが発足され、最高出力が275PSへと引き上げられた「275トロフィーR」が、2014年に7分54秒36という市販FF車最速記録を達成する。
2019年4月5日、ニュルブルクリンクの北コースで7分40秒100を記録した「メガーヌR.S. トロフィーR」
そして、2018年に現行となる4代目のメガーヌR.S.が登場。ニュルブルクリンクのタイムアタックのために「トロフィーR」というモデルが開発され、2019年のタイムアタックで量産FF車最速の7分40秒100を記録している。
「メガーヌR.S.」のフロントエクステリアとリアエクステリア
4代目メガーヌR.S.における最大のポイントは、「4コントロール」と呼ばれる4WS(四輪操舵システム)が採用されていることだ。低速域においては、リアタイヤは最大2.7°の逆相違(前輪とは逆の方向を向く)になることで、小回り性や回頭性、俊敏性が向上する。そして、高速域では最大1°の同相違(前輪と同じ方向を向く)になることによって、コーナーリング時の安定性が高められる。なお、走行モードによって逆相違と同相違が切り替わるタイミングは異なり、ノーマルモードでは60km/h、スポーツモードやレースモードでは100km/hで切り替わる。
また、4代目メガーヌR.S.には、ラリーで培われた技術「4輪HCC(ハイドロリック・コンプレッション・コントロール)」機構も装備されている。構造としては、メインダンパーの底部にセカンダリーダンパーが組み込まれており、路面の凹凸を乗り越える際に、メインダンパーのストロークが終盤に近づくとセカンダリーダンパーが働くことで、路面からの衝撃やリバウンドが抑制されるというものだ。
そのほか、サスペンションに専用のアクスルが追加されることによって、サスのストロークに影響されることなくフロント荷重がタイヤ接地面の中心付近を維持することができ、正確なステアリング操作が可能となる「DASS(ダブルアクシス ストラットサスペンション)」も採用されている。
エンジンには、最高出力300PS、最大トルク420N・m(EDC)/400N・m(MT)を発生させる、1.8リッター直噴ターボエンジンが搭載されている。今回の商品改良によって、これまでのメガーヌR.S.では279PSだった最高出力は、メガーヌR.S.トロフィーと同じエンジンに統一されたことによって、300PSを達成している。
今回の改良によって新たに追加された安全装備や運転支援機能としては、「アクティブエマージェンシーブレーキ」や「アダプティブクルーズコントロール」(EDCモデル)などがあげられる。これらの追加装備によって、ロングツーリングも楽にこなせるようになった。
「メガーヌR.S.」のインテリア
メガーヌR.S.には、初代モデルからさまざまなシーンで試乗した経験があるので、今回も楽しみにドアを開けて、室内へと乗り込む。今回の改良では、見た目において大きな変更点はなく(一部後述)、相変わらずカーナビが搭載されないのも同様だ。
「メガーヌR.S.」専用のフロントスポーツシート(アルカンターラ)
アルカンターラが張られたフロントスポーツシートはクッション性がよく、しっかりとホールドしてくれるうえに滑りにくいので、ハードなドライビングはもとより高速クルージングも快適に過ごせそうな印象だ。
スタート・ストップボタンを押してエンジンをかけると、少し低音の効いたエグゾーストノートが聞こえてきた。今回のテスト車は6速AT(EDC)なので、ブレーキを踏んだままDレンジをセレクトする。そのままアクセルを踏み込むと、軽いショックとともに電動ブレーキが解除され、メガーヌR.S.は箱根の山へと駆け出していく。
「メガーヌR.S.」の試乗イメージ
走り始めての第一印象は、乗り心地がよりしなやかになったということだった。今回の改良ではその変更はないはずなのだが、欧州車によくある年次改良で、よりセッティングが熟成されたのかもしれない。もちろん、そうなったことで走行性能に悪影響はなく、より粘り腰になったイメージだ。
「メガーヌR.S.」の試乗イメージ
少しアクセルを踏み込みながらコーナーをいくつか抜けると、その回頭性のすばらしさとともに、舵角が一発で決まることを実感する。これは、前述の4コントロールなどの足回りのセッティングがきれいに決まっていることと、ボディ剛性が高いことによる。つまり、これらが一体となって路面をしっかりと追従し、段差などでも跳ねないサスペンションセッティングが完成しているのだ。その結果、初見にもかかわらず、自信を持ってイン側のラインを狙い、思った通りの軌跡をたどることができるのは快感だ。
エンジンレスポンスは非常に鋭く、かつターボラグは感じられない。パドルシフトや、今回から可能になったATのシフトレバーを助手席側に倒すことによるマニュアルシフトで積極的にシフトチェンジしても、常にトルクフルな加速を楽しめる。
「メガーヌR.S.」に搭載されている「R.S.DRIVE」スイッチを押すと、「ルノー・マルチセンス」の設定画面が起動する。メーターや、センターコンソールのディスプレイを見ながらドライブモードを選択することができる
このあたりで、「スポーツモード」を試してみる。シフトレバー左側にある「R.S. DRIVE」スイッチを押すとセンターメーターの表示が変わり、走行モードを変更できるようになる。スイッチを何度か押してスポーツモードを選んでもいいし、センターディスプレイ上でも変更することができる。
「メガーヌR.S.」の試乗イメージ
スポーツモードになると、少しだけアイドリングが上がり、エンジンレスポンスがより鋭くなる。また、ステアリングも若干重くなり、シフトチェンジのスピードも速くなるようだ。箱根の山を駆け巡りながら、デフォルトをスポーツモードにして、「ノーマルモード」はいわゆるエコモードのような扱いでいいのではないかと感じた。切り替えながら、だんだんスポーツモードに慣れてくると、ノーマルモードが“かったるく”感じられ、まさにシティモード(市街地モード)と呼んでもいいほど、その差が明確に感じられたためだ。
ワインディングから市街地へ戻ってくると、やはりサスペンションの硬さは如実に感じられる。ただし、それは不快なものではなく、この走りを考えればむしろ快適性は高いと感じられるものだ。十分に角が落とされ、しなやかさが感じられる引き締まった乗り心地と言えるだろう。この乗り心地は、これまで乗った歴代R.S.と比較しても秀でており、サーキットでしっかり走り込んだ後でも、それほど苦もなく自宅まで帰れそうだ。実際に、筆者の友人は、ゴルフに行く際の足としてメガーヌR.S.を使っているほどだ。
さて、市街地ではやはりスポーツモードではなく、ノーマルモードでの走行がふさわしいようだ。少し強めにアクセルペダルを踏んだとしても、スポーツモードのように元気にエンジン回転数が跳ね上がることもなく、早めのシフトアップで意外にも落ち着いた走りができた。また、ステアリングも軽いので、縦列駐車なども楽々こなせるだろう。もちろん、より一層アクセルペダルを踏み込めば、牙をむいてくることは間違いないのだが。
アルカンターラ巻きのステアリングと、物理スイッチになったエアコンスイッチ
このあたりで、少し落ち着いて室内を眺めてみよう。アルカンターラが巻かれたステアリングは握り心地がよく、サイズも適度で市街地からワインディングまで不満なく操れるものだ。また、今回の改良で空調関係が物理スイッチへと改められたのは評価したいところだ。明らかに、使い勝手の高さはこちらに分がある。
シフトゲージの表示が左上にあるため、右ハンドルの運転席からは見えにくい
いっぽう、シフトゲージの表示が左ハンドルのままなのはいかがなものか。イギリスで多くの台数を販売しているルノー・スポールの車両であれば、この程度の変更は十分に可能なはずなので、しっかりと取り組んでもらいたい。
メガーヌR.S.は、至る箇所にモータースポーツのノウハウが込められながらも、スパルタンに仕上げないあたりがルノー・スポールらしいと思えた。その理由は、いかにドライバーに負担をかけずに速く走らせるかに重きが置かれており、そうすることで疲れによるタイムロスやミスが減らせると、経験的に知っているからだろう。短時間ではあったが、できるだけさまざまなシーンでテストした結果、とても乗り心地がよく、誰にでも操れるスポーツカーということが感じられた。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。