ブリヂストンのスタッドレスタイヤ「ブリザック」の最新モデル「VRX3」が、2021年9月に発売された。今回、そのVRX3が装着された車両の雪上試乗会が北海道で開催されたのでレポートしよう。
ブリヂストンは、スタッドレスタイヤ「ブリザック」において最も高い氷上性能を実現した「VRX3」を、2021年9月に発売。今回、北海道においてそのVRX3が装着された車両による雪上試乗会が開催されたのでレポートしよう
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2021年12月下旬、羽田を飛び立ったJALは新千歳空港に到着。そこから見える景色は、一面の……雪のない世界だった。現地のタクシードライバーへ話を聞くと、雪はまだほとんど降っていないとのことで、路肩を見ても雪は積もっていなかった。試乗するのは翌日だったため、少々の不安を抱きつつホテルで一夜を過ごす。
そして当日、試乗会場となっているサーキットコース「新千歳モーターランド」へと移動する。試乗スケジュールは、同サーキット内での1周600mほどの雪上走行と、サーキット場周辺の約16kmにおける一般路を走行テストする予定となっていた。外気温は-2℃で、空気はキンと冷えてはいるものの、新千歳モーターランドへ移動するまで雪の気配はまったくなし。だが、ブリヂストンは会場に人工降雪機を持ち込み、コース上にスノーロードを作ってくれていたのだ。比較的、水分を多く含んだスノーコンディションで、きれいな圧雪環境とまでは言えなかったものの、「実際の公道でもありえるコンディションです」と、ブリヂストンから説明を受けた。
試乗の前に、VRX3の主な特徴について、ブリヂストン タイヤソリューションジャパン 消費財商品企画部の藤原幸昌氏は「先代の『VRX2』と比較して、氷上ブレーキ性能が20%向上し、摩耗ライフ性能も17%向上しています」とのこと。ブリザックが、他社のスタッドレスタイヤと大きく異なるのは、「発泡ゴム」が採用されている点だ。タイヤが雪道などで滑る理由について、ブリヂストン PSタイヤ製品企画第一課 渡部亮一氏は「路面凍結は、道路上の雪や氷などが凍結している状態のことですが、凍結路面の表面はタイヤの摩擦熱や自動車の廃熱、気温や日照などによってうっすらと溶けているのです。すると、路面に水の膜が発生し、そこへタイヤが乗ってしまうとハイドロプレーニング現象が起き、タイヤのゴムが氷に密着せずに滑ってしまう。これが、凍結路面で滑るメカニズムです」と説明する。
「VRX3」には、ブリヂストンのスタッドレスタイヤにおける独自技術「発泡ゴム」をさらに進化させた「フレキシブル発泡ゴム」が採用されている。さらに、新しいトレッドパターンを採用することで、先代と比べて氷上ブレーキ性能を20%、摩耗ライフ性能を17%向上させている
そこで、ブリヂストンは滑りの原因となる水膜を取り除き、タイヤを氷にしっかりと接地させるために、発泡ゴムという技術をブリザックに採用している。「発泡ゴムは、トレッドゴムの中の小さな気泡をつなげることで、長細いトンネル状の水路のようになっています。この気泡が、滑る原因となる水膜をスポンジのように気泡の中に取り込んで吸収することによって、タイヤを氷に接地させているのです」。ちなみに、この気泡はトレッドゴムの深い位置にも多く入っていることから、タイヤがすり減っても新しい気泡が出てきて除水してくれるのだという。
そしてVRX3では、この発泡ゴムがさらに進化している。具体的には、気泡の断面がこれまでの円形から楕円形へと変えられているのだ。「断面を楕円にすることによって、毛細管現象が起こり、水を積極的に吸い上げてくれるのです」と言う。
さらに、VRX3はゴムだけではなくタイヤパターンも進化している。「水を導くという新たなコンセプトに沿って、『L字ブロック』や『端止めサイプ』といった新たなタイヤパターンが採用されています。これによって、吸った水を効率よく排出しています」と渡部氏。スタッドレスタイヤは、サイプの中にいったん水を取り込むので、それが排出されないとまた吸えなくなってしまう。そこで、サイプに溜まった水を効率的に溝に流し、その溝から外側へ流すようにしているというわけだ。
その結果、「氷上ブレーキ性能は、先代と比較して20%進化しました。同時に、コーナーリング性能も上がり、先代よりもイン側を走ることができるなど、コントローラブルに走れるようなタイヤへと仕上がりました」と、VRX3の完成度の高さに自信を見せた。
さて、それでは雪上試乗へと移ろう。VRX3を履いた試乗車は全部で5台が用意されており、そのすべてが4輪駆動車であった。
「VRX3」(215/50R17)が装着されたスバル「レヴォーグ」
初めにステアリングを握ったのは、スバルのステーションワゴン「レヴォーグ」(215/50R17)だ。VRX3を装着したレヴォーグは、圧雪路においてもスムーズに走ることができた。特に、雪道にもかかわらず、ブレーキがとてもかけやすいことが印象的。ブレーキをかけた瞬間、減速Gの立ち上がりをしっかりと感じ取れる、安心できるブレーキフィールなのだ。また、雪上路であっても行きたい方向へときれいにライントレースできるので、安心してステアリングやアクセルを操作することができた。
「VRX3」(215/50R17)が装着されたスバル「レヴォーグ」
さらに、全体の印象としてはしっかりと雪をかいてくれているという感覚で、アクセルコントロールによってクルマを安定して走らせることができ、安心してステアリングを握ることができた。この高い安心感は、レヴォーグというクルマの走行安定性の高さと、VRX3の実力の高さの相乗効果のように思える。
「VRX3」(225/55R17)が装着されたメルセデス・ベンツ「C200」
続いてステアリングを握ったのは、メルセデス・ベンツ「C200」(225/55R17)だ。このC200は4MATIC車だが、ベースがリア駆動のためか雪上でも意外とスポーティーに走れてしまう。たとえば、アクセルでリアを流しながら走れてしまうほどだ。さらに、レヴォーグよりも車重があるために、さらにしっかりと雪をかいてくれているという印象もあった。C200も、クルマの挙動をつかみやすいので安心感が得られるとともに、レヴォーグよりも自分でコントロールしているという感覚を強く感じられた。
「VRX3」(155/65R14)が装着された日産「デイズ」
3台目は、今回の試乗車の中で最もタイヤサイズの小さな日産「デイズ」(155/65R14)だ。車重が軽いことから、バタバタとクルマが暴れてグリップしないのかと思いきや、しっかりと路面をグリップしている印象が非常に強く、これもまたコントローラブルであった。さらに、ブレーキングも非常にしやすく、ペダルで減速Gをコントロールしやすいのも印象的だった。また、安心してアクセルを踏むこともできたが、前の2台に比べるとホイールベースが短いために若干唐突に後ろが滑る印象もあった。もちろん、これはボディサイズが小さなクルマの性格によるもので、全体としては乗りやすくブレーキもかけやすいので、多くの人が安心感を覚えることだろう。
「VRX3」(185/60R15)が装着されたホンダ「フィット」
そして今回、印象がとてもよかったのが、ホンダ「フィット」(185/60R15)だ。しっかりと雪をかいてくれて、グリップしてくれる。さらに、直進安定性も高く、減速Gの立ち上がりもスムーズで、ABSを介入させずにコントロールできるので安心感がとても高かった。正直に言って、開発ベースのタイヤはこのフィットのサイズなのかと勘違いしたほどに、VRX3とフィットとの相性が抜群にいいのだ。まるで、雪上ではなく乾いた路面を走行しているかのような印象すら与えてくれた。
「VRX3」(195/65R15)が装着されたトヨタ「プリウス」
最後は、開発のベースとなったサイズを履いた、トヨタ「プリウス」(195/65R15)だ。こちらも、しっかりとタイヤが雪をグリップしている印象が強く、アクセルコントロールしやすかった。そして、フィットと同様にしっかりとタイヤが雪をとらえ、かつどのような状況なのかがステアリングを通して手に伝わってくる。さらに、ブレーキング時にABSの効き始めがつかみやすいことなども、やはりVRX3の性能の高さの賜物と感じた。そして、アクセルペダルを多少乱暴に踏んでみても、しっかりと発進してくれるので、雪道でのグリップ性能はかなり高いレベルにあると思われた。
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では、ここからはVRX3におけるドライ路面における印象を、2台の試乗車でテストしてみよう。まずは、プリウスへ試乗した。
「VRX3」(185/60R15)が装着されたトヨタ「プリウス」で、ドライ路面を試乗
走り始めての第一印象は、素直に「装着タイヤは、本当にスタッドレスタイヤなのか」と思ったほどだった。まるで、サマータイヤを履いているかのような印象で、スタッドレスタイヤにつきもののロードノイズや、タイヤが少したわむような印象などがほとんどないのだ。かといって、タイヤが硬いといった印象もない。普通に走らせている限りではサマータイヤとそん色なく、よくタイヤを新品に変えて走り始めた時に、「あっ、これはいいタイヤだな」と思うことがあるかもしれないが、まさにそんな印象なのだ。
そこから、少しスピードを上げていき、50km/hくらいになるとサマータイヤと比較して少しだけ高周波音などが出始めたが、せいぜい気になるのはその程度だった。たとえば、他社のオールシーズンタイヤなどと比べても、VRX3ははるかに静粛性が高いことがわかった。
また、交差点やコーナーなどでハンドルを切った時の追従性なども相当に高く、こういったシーンにおいてもスタッドレスタイヤを履いているといった印象を受けることはなかった。特に、少し高めの速度でコーナーに入ると、スタッドレスタイヤではやわらかさや腰砕け感などから不安を感じることもよくあるのだが、VRX3に関してはそういったことがまったくと言っていいほどになく、むしろスタッドレスタイヤにもかかわらず走りを十分に楽しめたほどであった。さらに、ルート上にベルジアンロード(いわゆる石畳)のような路面があったので、そこをあえて速度を落とさず40km/h程度で走り抜けてみたのだが、妙にタイヤが硬いとか、逆にやわらかすぎる突き上げ感のような違和感がなく、ここでも上質なサマータイヤのような印象が感じられた。
「VRX3」(225/60R17)が装着されたトヨタ「ヴェルファイア」で、ドライ路面を試乗
そして、最後はトヨタ「ヴェルファイア」(225/60R17)だ。今回の試乗車の中で最も重量級であり、大径タイヤが装着されている。走り始めの印象は、プリウスなどとまったく変わらず、まるでサマータイヤのような印象だった。ただし、少し気になったのは、タイヤのゴツゴツ感がステアリングからの振動によって伝わってくるというものだった。ただし、段差などを超えた時のショックの吸収はよくできていて、タイヤの硬さとショックの吸収という印象が一致しないため、少々とまどいを覚えた。結局のところ、これは車両の特性による問題のようで、ボディ剛性の低さからステアリングに路面のショックが直接伝わって来たものであり、タイヤが起因しているものではないようだった。というのも、ルート上で線路を横断する際にボディやステアリングの取り付け部がぶるぶると震えたことなどから、そう判断できたのだ。つまり、VRX3はむやみにやわらかいといったようなことはなく、サマータイヤと同様にきちんとタイヤ剛性を保っているため、クルマ側の弱点があった場合にはそれがそのまま露呈するという結果となったのだ。
さて、さまざまな路面を多くの車両で駆け巡った今回の雪上試乗会。ブリヂストンは、「そろそろ履き替えようかなと思う1か月前くらいから、もう雪は降らないと思う1か月後くらいまで履いていてほしい」と言っている。確かに、ブリヂストンのその意見には、基本的に賛成だ。これまで述べたように、多くのシーンにおいてサマータイヤと同等レベルの性能が確保されているので、履き替えたからといってそれほどの不具合などは感じないだろう。ただし、基本的に、と述べたのには理由がある。ここまで読まれた方の中には、「それなら、1年を通して履いていればいいじゃないか」と思う方もおられるだろう。だが、サマータイヤと比較して、明らかにスタッドレスタイヤが性能面で落ちるのがウェット性能なのだ。ブリザックは、発泡ゴムによって氷上の水を吸い取ることで密着性を上げているので、単純にウェット性能も高いのではないかと思ってしまう。これについてエンジニアに聞いてみると、「マクロとミクロの違い」というコメントがあった。つまり、雨の場合には逆にオーバーフローしてしまうと言うのだ。今回は、ウェット路の性能は確認できなかったが、サマータイヤと比較してウェットに関しては少し性能が落ちることは十分に想像できる。もちろん、これはほかのスタッドレスタイヤでも共通した弱点なのだが、その点を考慮すると、季節に関係なくスタッドレスタイヤを履くことはおすすめしないし、履いているときには降雨には十分に注意してほしいと思う。
ブリヂストンのVRX3は、雪道においてどのような車種に乗ってもかなり高い安心感が得られるスタッドレスタイヤだった。しっかりと路面に食いつき、安心感のあるフィーリングが得られることに加えて、滑り出しがとてもわかりやすいのでコントロールしやすい。凍結路面などでは、いかに滑りにくくするか、そして滑った時にはいかにドライバーへその情報を正確に伝えていくかが重要になってくるはずだ。そうすることで、ドライバーはパニックになることなく、対応できるからだ。そういった視点でVRX3を見ると、あるところまではグリップし、そこからいきなり滑るようなこともなく、「そろそろ滑りそうだ」「ABSが介入しそうだ」といったクルマや路面からのインフォメーションがとてもわかりやすく伝わってきた。そういった点を含めても、VRX3は、雪道における安心感がとても高いスタッドレスタイヤと言える。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。