バイク野郎 増谷茂樹の二輪魂

コーナリングの感覚は唯一無二。重量級ハイパワーマシンながら扱いやすくて楽しい新型「ハヤブサ」

市販車で初めて時速300kmを超えたマシンとして、バイク好き以外にもその名を知られているスズキ「Hayabusa(ハヤブサ)」が、14年ぶりにフルモデルチェンジ。最速のモンスターマシンというイメージが強いマシンだが、3代目モデルはどのような進化を遂げたのか、試乗してチェックしてみた。

世界最速を体現していた「ハヤブサ」

最高時速312kmという市販車としては初の時速300kmオーバーを実現した初代「ハヤブサ」が登場したのは、1999年のこと。175PSを発揮する1,299ccのエンジンはレースのレギュレーションに収まらない排気量のためフルカウルをまとってはいるものの、レーシングマシンとは異なる有機的なデザインとされ、ボディサイドに大きく「隼」の漢字がデザインされているのも話題となった。ロー&ロングなスタイルで、レーシングマシンをルーツとするスーパースポーツ(SS)とは異なる設計思想を感じさせるが、コーナリング性能も非常に高く、決して“直線番長”ではない。こうした走行性能も相まり、初代「ハヤブサ」は多くのライダーたちの憧れとなった。

「GSX1300R HAYABUSA」の車名で登場した初代モデル。最初期モデルは、メーターの目盛りが時速350kmまで刻まれていた

「GSX1300R HAYABUSA」の車名で登場した初代モデル。最初期モデルは、メーターの目盛りが時速350kmまで刻まれていた

しかし、2001年にEUで最高速度を時速300km以下にする自主規制ができたことにより、ハヤブサも300km/hのスピードリミッターを装備し、メーターも280km/hまでの記載に変更された。その後、2007年に2代目にフルモデルチェンジしたハヤブサは排気量が1,340ccに拡大され、最高出力も197psにパワーアップ。フレームや足回りを強化し、ブレーキをラジアルマウントにするなどして走行性能を高めると同時に、スクリーンの高さをアップしたりと、ツーリングでの快適性も向上させた。ただ、この時点でハヤブサは日本国内で正規販売はされていない。2014年の正規販売開始までは逆輸入するしか乗る術はなかったのだが、それでも日本国内でかなりの台数が流通していたことからもハヤブサの人気の高さがうかがえる。

日本国内の認証基準とEUの基準が基本的に共通となったため、日本での正規販売が実現。2代目モデルは「HAYABUSA1300」という車名となった

日本国内の認証基準とEUの基準が基本的に共通となったため、日本での正規販売が実現。2代目モデルは「HAYABUSA1300」という車名となった

コンセプトを継承しつつ、新たな「アルティメットスポーツ」に進化

3代目となる新型「ハヤブサ」は、エンジンやフレーム、足回りなどが全面的に刷新された。初代から続く「アルティメットスポーツ」という開発コンセプトを継承しており、排気量は先代モデルの1,339ccと変わらない。しかし、エンジンの最高出力は197PSから188PSへとダウン。これは、厳しくなった排出ガス規制に対応したことと、高回転の出力を低中回転に振り分けて実用域を扱いやすくすることを狙ってのことだという。大排気量マシンであることに変わりはないが、近年、1,000ccクラスのスーパースポーツマシン(SS)の進化が著しく、200PSオーバーのマシンもめずらしくなくなっている中、新型「ハヤブサ」は、馬力競争ではない、新しい“スポーツ”の方向性に軸足を移したと言える。

サイズは2,180(全長)×735(全幅)×1,165(全高)mmで、重量は先代モデルより2kg軽量化された264kg

サイズは2,180(全長)×735(全幅)×1,165(全高)mmで、重量は先代モデルより2kg軽量化された264kg

低く長いハヤブサらしいシルエットはそのまま。ボディサイドに漢字のロゴが大きく入るデザインも受け継がれている

低く長いハヤブサらしいシルエットはそのまま。ボディサイドに漢字のロゴが大きく入るデザインも受け継がれている

フロントフェイスのデザインも従来のイメージを継承しており、昔から知る人ならひと目でハヤブサとわかる。エアインテークの部分にアクセントカラーを施されたのが新しい部分

フロントフェイスのデザインも従来のイメージを継承しており、昔から知る人ならひと目でハヤブサとわかる。エアインテークの部分にアクセントカラーを施されたのが新しい部分

空力を重視してカウルに覆われているため、1,339ccの4気筒エンジンは外からは見えない。高回転のパワーよりも実用域を重視したセッティングとされている点が、SSとの差別化ポイントなのだろうか

空力を重視してカウルに覆われているため、1,339ccの4気筒エンジンは外からは見えない。高回転のパワーよりも実用域を重視したセッティングとされている点が、SSとの差別化ポイントなのだろうか

フロントフォークのインナーチューブにはダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングが施され、路面追従性を向上。ブレーキキャリパーは冷却性が高くレスポンスにすぐれる「Brembo Stylema」を採用し、ブレーキディスクは320mmに大径化した

フロントフォークのインナーチューブにはダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングが施され、路面追従性を向上。ブレーキキャリパーは冷却性が高くレスポンスにすぐれる「Brembo Stylema」を採用し、ブレーキディスクは320mmに大径化した

左右に2本出しされたマフラーもSSと異なる部分。大きなサイレンサーは迫力がある

左右に2本出しされたマフラーもSSと異なる部分。大きなサイレンサーは迫力がある

ハヤブサ専用に開発されたブリヂストン製のタイヤ「BATTLAX HYPERSPORT S22」に、7本スポークタイプで軽量化を果たした新開発のホイールを採用。リアサスペンションはフルアジャスタブルが装備されている

ハヤブサ専用に開発されたブリヂストン製のタイヤ「BATTLAX HYPERSPORT S22」に、7本スポークタイプで軽量化を果たした新開発のホイールを採用。リアサスペンションはフルアジャスタブルが装備されている

フロントフォークもフルアジャスタブルで、好みに合わせてセッティングを変更できる

フロントフォークもフルアジャスタブルで、好みに合わせてセッティングを変更できる

そして、現代のマシンらしく電子制御システムも充実している。電子制御スロットルと6軸IMUを中核に後輪のすべりを制御する「トラクションコントロール」、前輪の浮き上がりを防ぐ「アンチリフトコントロール」、「エンジンブレーキコントロールシステム」、3段階に切り替えられる「パワーモードセレクター」、スロットルを操作しなくても設定速度を維持できる「クルーズコントロールシステム」、車体姿勢を感知して前後輪のブレーキを最適に制御する「モーショントラックブレーキシステム」といった電子制御システム「スズキインテリジェントライドシステム (S.I.R.S.)」を搭載し、ハイパワーなエンジンながら安心してアクセルを開けられるように配慮。シフトアップとシフトダウン両方に対応するクイックシフターも装備されている。

5連のメーターレイアウトもハヤブサの伝統的な装備。デジタルとアナログを組み合わせたレイアウトが見やすい。速度計は280km/hまで数字がふられている

5連のメーターレイアウトもハヤブサの伝統的な装備。デジタルとアナログを組み合わせたレイアウトが見やすい。速度計は280km/hまで数字がふられている

走行モードの切り替えなどは左手側のボタンで行う。走行しながらのモードの切り替えには対応していない

走行モードの切り替えなどは左手側のボタンで行う。走行しながらのモードの切り替えには対応していない

メーターの中央にはギアインジケーターや走行モードが表示されるほか、車体姿勢や前後のブレーキ圧、アクセル開度なども視認できる

メーターの中央にはギアインジケーターや走行モードが表示されるほか、車体姿勢や前後のブレーキ圧、アクセル開度なども視認できる

近年のスポーツモデルには一般的な装備になりつつあるクイックシフターももちろん装備されている

近年のスポーツモデルには一般的な装備になりつつあるクイックシフターももちろん装備されている

スーパースポーツマシンと乗り味はどう違う?

最高出力をあえて抑え、実用域での扱いやすさを重視しているように見える新型「ハヤブサ」だが、ハイパワーかつ、フルカウルで前傾姿勢のライディングポジションということもあって、軽量でハイパワー、そしてレースシーンでも活躍するスーパースポーツマシン(SS)とどのように差別化されているかが気になるところ。また、ハイパワーで重量もあるマシンなので、街中や渋滞の中での扱いやすさもチェックしておきたい。そこで、高速やワインディングだけでなく、あえて街乗りにも使用し、乗り味をじっくり確かめてみた。

身長175cmの筆者がまたがると、ギリギリだが両足のかかとが接地した

身長175cmの筆者がまたがると、ギリギリだが両足のかかとが接地した

264kgという車重は、サイドスタンドをかけた状態から車体を引き起こすだけでもズッシリとした重さを感じる。大型バイクに乗り慣れていない人だと、これだけで少し不安感を覚えるかもしれない。しかし、またがってみると足つき性はよく、重心位置も低いので安心感もある。着座位置が高い近年のSSとは異なる設計であることが感じられる部分だ。

シート前方が絞り込まれた形状になっており、足つき性に貢献。クッションが厚く、座り心地もいい。タンデムシートも大きめで2人乗りもしやすそうだ

シート前方が絞り込まれた形状になっており、足つき性に貢献。クッションが厚く、座り心地もいい。タンデムシートも大きめで2人乗りもしやすそうだ

走り出すと、実用域の扱いやすさを重視したエンジン特性が感じられる。最高出力の数値にびびって、一番おだやかな「C」モードで走り出したのだが、かつて世界最速の名をほしいままにしたモンスターマシンとは思えないほどレスポンスがおだやかで走りやすい。街中ではともかく、幹線道路に出るとやや物足りなさを感じるくらいだ。もっともレスポンスが激しい「A」モードでもアクセル操作が過敏に感じることもなく、俊敏に反応するSS系のエンジンとの違いが感じられた。おそらく、ホイールベースの長い、安定志向の車体設計も影響しているのだろう。

トルクは太く、少し大きめにアクセルを開ければすさまじい加速も味わえるが、ゆっくり走ってもストレスを感じないエンジン特性だ

トルクは太く、少し大きめにアクセルを開ければすさまじい加速も味わえるが、ゆっくり走ってもストレスを感じないエンジン特性だ

SSに比べると着座位置は低いものの、前傾姿勢は思ったより強め。先代モデルよりハンドルの位置が12mmライダーに近くなってはいるが、タンクが長めなのが要因だ。近年のタンク長が短いSSより前傾はキツくないが、長時間乗っていると腰に懸念がある人はつらくなるかもしれない。ただ、ハンドルは握りやすい角度で、視界もいいので、乗っていてストレスを感じることはない。

そして、ワインディングでは、大柄な車体と重量からは想像できないほどコーナリングが楽しい。高い着座位置から荷重移動でスパッと寝かせるSS系のハンドリングとは異なり、ハヤブサは低い重心位置からバンクさせていく感覚だが、その動きが驚くほど軽快で、引き起こしで感じた重さがウソのよう。ホイールベースは長いものの、予想以上に曲がってくれるので、楽しくて何度もワインディングを往復してしまった。

SS系のハンドリングとは異なるが、寝かせるとグイッと前輪がインに向く。そして、曲がっている最中の安定感も高い。重く大柄な車体を思い通りに操れる感覚はクセになるほどおもしろい

SS系のハンドリングとは異なるが、寝かせるとグイッと前輪がインに向く。そして、曲がっている最中の安定感も高い。重く大柄な車体を思い通りに操れる感覚はクセになるほどおもしろい

その後、高速道路に移動。普通に走っていても絶大な安心感とともに巡航が行えるが、「クルーズコントロール」をオンにすると、両手は自分の体を支える以外にやることがないくらい、安定してクルージングできる。エンジンパワーは十分すぎるくらいあるので、追い越しの加速にシフトダウンは必要なく、アクセルを軽く開けるだけでいい。あっという間に追い越しが完了するほどの加速力だが、そのレスポンスが過敏すぎないので安心してアクセルを開けることができた(とはいえ、開度は半分程度だが)。

少し遠くまで足を伸ばし、比較的長時間試乗したが、降車後、それほど体に疲れを感じていないことに気付いた。前傾姿勢なわりに腰の張りなどもない。SS系のマシンに乗ったあと、明日は筋肉痛になりそう……と思うような疲労感もなかった。こうした部分が、ハヤブサが長距離を走る欧州のライダーに支持されているのかもしれない。

ちなみに、キーをオンにすると、メーター中央に「隼」の漢字が現れる。オーナーになったら気分が盛り上がりそうなギミックだ

ちなみに、キーをオンにすると、メーター中央に「隼」の漢字が現れる。オーナーになったら気分が盛り上がりそうなギミックだ

試乗を終えて

かつての世界最速マシンということで、試乗する前は正直なところ少し緊張していた。引き起こしの際に感じた重さも、それに拍車をかけていたが、実際に走り出してみると走行前に感じた重さはまったく感じることなく、むしろ軽快に動いてくれる。特に、コーナリングが楽しい。俊敏なSSのコーナリングも楽しいが、高い位置から倒れ込んでいくような動きは、筆者の腕ではやや勇気を必要とする。その点、ハヤブサは低い着座位置からマシンを一緒に下に沈ませるような感覚で寝かすことが可能。重心が低いこともあって、安定感も高い。タイムを削るような走り方に向いているかと言われれば疑問だが、たとえ速くなくても、マシンとの一体感を感じながら曲がっていくのは文句なしに楽しい。低い位置で張り付くように曲がるハンドリングは、ほかに似たものが思いつかない個性と言えそうだ。

そして、これだけの運動性能を持っていながら、ツーリング後の疲れの少なさには大排気量車ならではの余裕を感じる。俊敏に動くSSも楽しいが、スポーツ走行もできてゆっくりも走れる懐の深さは、新型「ハヤブサ」ならではの魅力だろう。

増谷茂樹

増谷茂樹

カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。

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