イベントレポート

EVでニュル最速を狙う「STI E-RA CONCEPT」!2022年夏以降にテスト開始か

スバルは、同社のモータースポーツ統括会社であるスバルテクニカインターナショナル (以下、STI)と共同で、「東京オートサロン2022」に「STI E-RA CONCEPT」を初公開した。

「STI E-RA CONCEPT」(東京オートサロン2022)

「STI E-RA CONCEPT」(東京オートサロン2022)

明らかに、レーシングカーの姿をしているSTI E-RA CONCEPT。同コンセプトモデルが、東京オートサロンへ出展された理由や特徴などついて、スバルテクニカインターナショナル 新規事業推進室部長 兼 設計情報管理室部長の森宏志さんと、SUBARU 商品企画本部 デザイン部次長の河内敦さんのお二人に話を伺った。すると、そこからはSTIが将来にかける思いが伝わってきたのだ。

EVでも世界一の速さを求めて

スバルテクニカインターナショナル 新規事業推進室部長 兼 設計情報管理室部長の森宏志さん

スバルテクニカインターナショナル 新規事業推進室部長 兼 設計情報管理室部長の森宏志さん

STI E-RA CONCEPTは、近い将来、ニュルブルクリンク北コースのラップタイムを400秒切りすることを目標に開発されているマシンだ。「いずれ、本格的なカーボンニュートラルの時代がやってきて、モータースポーツの世界もより電動化が進んでいきます。その時に、将来を見据えてスバルのモータースポーツ活動の電動領域における技術開発を進めておかないと、乗り遅れてしまうでしょう。現在、STIにはEVの知見はなく、すべて初めてのことなのです。ですが、やっていかないといけない。そして、やるからにはやはり、レコードアテンプトでずっと培ってきた世界に挑戦したい。世界一を目指さなければいけないのです」と森さんは熱く語る。

そして、「やはり極めておかないと、将来生き残っていくのは難しいのではないでしょうか。EVのモータースポーツを考えると、フォーミュラEが頂点にありますが、STIとしてはフォーミュラカーは異なるものです。量産車をベースにした、ダートのTCRなどでもエレクトリック化されたものはありますが、やるのであればGTレースの将来の姿に最も近いと思っている、FIAのエレクトリックGTなどのカテゴリーで、世界一を狙えるクルマを研究してみようと考えています」とコメントする。

つまり、このSTI E-RA CONCEPTは、STIにおける今後の電動化戦略のベース技術を担うマシンなのだ。「そのために、せっかくエレクトリックGTも2モーター、もしく4モーターというレギュレーションを設定しているので、我々としてはAWDでやろうと。最初から、4輪独立のAWDでこのクルマを仕上げ、4輪トルクベクタリングで走らせることを目標にしています」と説明する。

ニュルのアタックを想定したスペックに

「STI E-RA CONCEPT」(東京オートサロン2022)

「STI E-RA CONCEPT」(東京オートサロン2022)

では、STI E-RA CONCEPTのスペックを教えていただこう。森さんは、「モーターは、ヤマハ発動機製です。1基あたり200kWで、4基ありますから800kW。馬力にすると、1,088psというスペックです。ただし、最高出力はその値なのですが、実際にニュルにしても富士にしても、サーキットごと、目標性能ごとに必要な最高出力は変えていかないといけません。あくまでも、出せる出力は800kW、1,100Nmを使って、4輪独立のトルクベクタリング制御でコントロールしていこうと考えています」とのこと。ちなみに、インホイールモーターは「技術もまったく新しくしなければいけないですし、足回りはGT300のクルマから基本的なコンポーネントを流用することを予定していましたので、インホイールモーターは当初から考えていませんでした」と述べる。これは、市販車にフィードバックできることも視野に入れているということでもある。

森さんは、「バッテリー容量は、いまは60kWhを考えていますが、目標性能、たとえば加速性能や航続距離を上げていこうとすると、そのぶんバッテリー容量も上げていかなければならず、いたちごっこになってしまいます。実際にレースへ参戦するには、どのカテゴリーでどのような性能を目指すかをまず決めないと、EVではスペックを決定しにくいところがあるのです。そこで、今回に関してはニュルを1周アタックできるぎりぎりで成立する大きさにして、それで目標タイムが出るかどうかをシミュレーションして決めています」と、性能決定に至る経緯を語る。

そして、「2022年の夏以降には、実際にテストを開始したいですね」というスケジュール感とともに、「しっかりと1発で目標達成できるように、開発段階、計画段階でシミュレーションしながら詰めてるところになります」と、現在の状況を話してくれた。

デザインで苦労したのは「空力」

SUBARU 商品企画本部 デザイン部次長の河内敦さん

SUBARU 商品企画本部 デザイン部次長の河内敦さん

次に、デザインについて話していただこう。河内さんは、実は「BRZ」をはじめ、GT300のレース用の車両デザインも担当していたという。STI E-RA CONCEPTのベースは、GT300のレイアウトなどを使うという話から、「ある程度、わかっている部分はありました」と、知見が生かされた部分もあったとのこと。そのいっぽうで、「スーパーGTのようにレギュレーションがないものの、タイムアタックですのでとにかくタイムを出さないと意味がありません。レギュレーションとは違って、とにかく空力を色々と考えていかなければいけないと思いました」と、空力がポイントだったことを話す。

「STI E-RA CONCEPT」(東京オートサロン2022)

「STI E-RA CONCEPT」(東京オートサロン2022)

たとえば、「GT300のキャビンのドアは量産車と同じものですが、少し凹みがあるので空気の流れが悪いのです。そこで、まずは側面を全部、タイヤとタイヤの間をつないでフラットにして、空気の流れを改善しました。これは、GTのレギュレーションがないことによってできた、最初に手を付けた部分です」。また、フロントフードもエンジンがないEVなので、可能なかぎり低くしたのだという。

さらに、空力では「胴内の空気を、どのように抜くかに苦労しました」と河内さん。インバータを増やすために水冷ラジエターを装備し、モーターを冷やすため前後にオイルクーラーを搭載している。「そのあたりに入った空気を、どう抜くかです。また、速度は300km/hを超えるので浮き上がってしまう。そういったところも考慮しながら空気を流すために、たとえばホイールの上に穴を開けるなどで対応しています」と説明する。ちなみに、ルーフのインダクションポットも、リアのオイルクーラーの冷却が目的だ。河内さんによると、「最初は、NASAインテークみたいなもので空気を入れようとしていたんですが、それだと全然空気量が足りなくて、結局このようにしました。位置もちょっと後ろだったんですが、まだ空気の取り入れ量が足りないので前に出したり、穴の大きさを調整したりと。そこまで解析を行っています」と、空力の研究はかなり徹底的に行われているようだ。

さらに、空力に関してニュルはさらにシビアな状況なのだという。直線だけではなく、多くのコーナーが控えている。つまり、「そういったところで、空気のあたる角度が変わった瞬間に空力性能が急激に変わらないように、バランスがとたんに崩れてしまわないようにしています」。もし、これがうまくいかないと、急にスピンしたり、最悪はクルマが浮き上がって空を舞ってしまいかねないのだ。

着座位置も、GT300とは異なっている。STI E-RA CONCEPTは、バッテリーが床下に配置されているので、着座位置が少し上がっている。そうすると、ルーフ高も高くなってしまい、結果として空気抵抗が増してしまう。そこで、「ガラスのラウンドを大きくすることで、空気抵抗をさらによくしたり、安全のためにロールバーを入れていますが、そこをぎりぎり逃げながらルーフ高をなんとか低くしています」と河内さん。さらに、空気を後ろへきれいに流すために、「リアはなるべく下げ、かつ、少し後ろに伸ばしています。その結果、BRZのGT300よりも低くなっています。つまり、ロールバーなどを逃がしながら、どのようにしてきれいに下げていくかがポイントでした」と説明する。ちなみに、リアホイールの後ろにあるキャラクターラインのようなものも、空力に関係がある。これは、あえてここで空気の渦巻きを作ることで、空気を剥離しやすくしているのだ。以前、あるデザイナーに聞いたところ「空気は、水あめのようにまとわりついてくるもの」とのことで、きれいに剥離させるにはさまざまな技術が必要とのことだった。

「STI E-RA CONCEPT」(東京オートサロン2022)

「STI E-RA CONCEPT」(東京オートサロン2022)

かなり空力の話に特化したが、いっぽうでデザイナーとしてのこだわりもあるだろう。河内さんへそんな話を向けると、「低重心感です。エンジンはありませんが、スバルとして低重心感をどう表現するかにはこだわりました。タイヤ以外のところをぎゅっと下げることによって、地面に押さえつけてるような感じや、低く構えるみたいなところを狙っています」とのこと。また、「自分たちの癖で、ついエンブレムにスバルマークをつけてしまいます。でも、STI E-RA CONCEPTはSTIになっています。STIをつけたのは初めてです。我々は、普段からSTIと仕事を一緒にやってるので同じ会社のように仲がよく、今回も一緒に協力して頑張っています」と教えてくれた。

四輪の接地感がSTIのキモ

「STI E-RA CONCEPT」(東京オートサロン2022)

「STI E-RA CONCEPT」(東京オートサロン2022)

さて、走りに関しても、STIならではというところが必要だろう。森さんは、「ドライバーが、安心してニュルを1周全開アタックして帰って来られるようにするためには、四輪の接地がいかに確保できているかが最も重要です。これは、ガソリン車でもEVでも変わらないのですが、四輪それぞれに強大なトルクを発生させるモーターを搭載しているクルマで、ドライバーが狙ったラインをぴたっと走れるようなところまでしっかりと制御できていないと、ニュルを走るのは無理でしょう。そこがSTI、スバルがずっと培ってきた、ドライバーの意のままの走りの部分なのです」と森さん。そして、「四輪の接地をいかに確保するかという、すべての技術や知見を生かして、投入していきます。また、制御の部分と、ベースの諸元の部分も大きいと思っていますので、いまはその両方をしっかりと作り込んでいこうとしているところになります」とSTIの強みがニュルアタックへの強みにもなることを明かした。

最後に、森さんは「いまの時代のEVは、未来を見ているという感じもあるでしょうが、今年生まれた子供からすると、物心がついて大人になるまでには、EVが当たり前の世界になっていくと思うんですね。そんな中で、『スバルのEVっていいじゃん』と言われるようなものを引き継いでいかなければいけません。ですから、EVになったとしても、STIらしい走りやクルマで、ずっと挑戦し続けているという姿を見せて行けるようなクルマにしていきたいと思っています」と語った。

これからの電動化社会において、STIがどう個性を発揮していくのか、危機感を持って取り組み始めたことがよくわかる。それゆえに、最も困難なチャレンジに向けて取り組んでいることが伝わってきた。

(Photo:内田俊一)

内田俊一

内田俊一

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。

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