本格派オフローダーでも、やはりワインディングでの楽しさを探ってしまう自動車ライター、マリオ高野です。
今回紹介するのは、トヨタの新型「ランドクルーザー」(300系)。
世界最高峰の悪路走破性能と、長い歴史を誇る本格SUVです。あまりの人気と増産の難しさにより、納期は4年以上とされ(記事掲載時点で)、中古車相場が大高騰していることでも話題となっていますが、その走りはほかのどのクルマからも得られない独自の世界を有していました。
全長4,985mm、全幅1,980mm、全高1,925mm(ZXグレード)と、国内では最大級のSUV。外観は、押し出し感の強さと格調の高さを両立させています。最低地上高は、悪路走破性の高さを感じさせる225mmに設定されています
旧型の200系と同等の対地障害角(アプローチアングル32°、デパーチャーアングル26°、ランプブレークオーバーアングル25°)を実現。最大渡河性能は700mmもあります
ボンネットやルーフ、各ドアパネルをアルミ化するなど大幅な軽量化を実現。なおも車重は約2.5トンもありますが、ボディの慣性マスは小さくなりました
ランドクルーザーは、令和の時代にフルモデルチェンジを実施しても、ラダーフレームとリジッド式のリヤサスペンションを採用し続け、パワートレーンは内燃機関のみとするなど、伝統をかたくなに守り続けています。
電子制御式のスタビライザーや、軽量化と耐久性の高さを両立するハブベアリングなど、新しい技術をふんだんに盛り込みながら、パワーステアリングは油圧式、AWDのセンターデフはトルセンLSD式とするなど、耐久性や信頼性を重視した、比較的シンプルな機構に磨きをかけたところにも注目です。
外からチラ見できるラダーフレームは、新しい溶接技術を駆使して軽量化に成功。パワートレーンの搭載位置はより車体中央に近く、より低くなりました。
新しいハブ採用に伴い、ホイールは6穴のPCD139.7となりました。ZXグレードに装着されるタイヤはダンロップの「グラントレックPT5A」
内装には高級サルーン並みのコンフォート性が。ブレーキはペダルの操作量をセンサーで検出し、最適な制動力を油圧ブレーキで創出する電子制御システムを採用しています
ATは10速。四駆システムのモード切り替えは6種類もあり、泥濘(でいねい)路や深雪路、岩場など、あらゆる路面状況に対応できます
普通のSUVなら、時代に鑑みて燃費やコンフォート性を気にしてラダーフレームを廃したり、パワートレーンの電動化を図ったりするもの。現代の技術なら、そうしても十分な本格派SUVが作れますが、ランドクルーザーは「屈強であること」を重視して、伝統的なレイアウトを変えることなく、環境性能を高める道を選びました。頑強なハシゴ状のラダーフレームを継承しながらも、対先代モデル比で約200kgもの軽量化を実現するなど、開発エンジニアのすさまじい執念を感じずにはいられません。
パワートレーンにはハイブリッドシステムなどを使わない、純粋なガソリンエンジンとディーゼルエンジンを搭載。これも、内陸部の砂漠など、世界の極限的な状況下での耐久性と信頼性を重視した結果です。
写真の3.5リッターのガソリンツインターボのほか、3.3リッターV6ディーゼル・ターボも設定。こちらは国内向けとしては久しぶりのディーゼルエンジンです
より困難な道を選びながら、伝統の悪路走破性能と環境性能を向上させた新型ランドクルーザーは、ワインディングを走らせると、独自のファン・トゥ・ドライブが味わえて感動しました。重心の高いSUVもコーナリング性能に不満を抱かずに走れるようになって久しい今なお、さすがにラダーフレームを持つタイプになると鈍重な動きや無駄な揺れ戻しが気になるものですが、新型ランドクルーザーにはそれがありません。
快適で悠然とした高速クルージングが楽しめます。着座位置は高めながら車体の重心は少し低くなったことは、高速巡航時にもメリットに
さすがに、コーナーをヒラヒラと軽快に駆け抜ける……とまではいきませんが、大きく重い車体を持て余す感覚は最小限に、イメージした通りの旋回姿勢を保ちながらスムーズに曲がってくれるという、存外なハンドリングのよさを感じさせてくれるのです。
車体の傾き加減をコントロールしやすいので、スポーツカーで山道を走るのが好きなドライバーでも、大きな不満を抱くことはないでしょう。持ち前の極限的な悪路走破性能をさらに高めながら、旧型モデルでは得られなかったワインディングでのファン・トゥ・ドライブを獲得したことは、大称賛に値します。
レンジローバーやメルセデス・ベンツGクラスなどの競合車に比べると、圧倒的に安いのも大変に魅力的です。4年といわれる納期が少しでも短くなるのを願うばかりです
今回の試乗車(ZXグレード・7人乗り)はガソリンエンジンで、3.5リッターのV6ツインターボ。先代モデルは4.6リッターのV8 NA(自然吸気)だったので、エンジンについてはダウンサイジング化を図ったわけですが、ツインターボにより低回転域でもターボ過給が高まることで、大排気量NA時代よりも低速トルクを大幅に増強。予備知識がなければ、ターボではなく大排気量NAだと勘違いしそうなレベルで、巨体を悠然と押し出してくれます。
これまでのランドクルーザーのワインディング走行は、クルマ好きが楽しめるものではありませんでした。しかし、新型ランドクルーザーでは独特ながらも積極的に楽しめてしまう。これは、エキサイティングな出来事なのでありました。
この試乗の模様は動画でもご覧いただけます。
トヨタ
ランドクルーザー[ZX・ガソリン・7人乗り]
全長:4,985mm
全幅:1,980mm
全高:1,925mm
車重:2,500kg
ホイールベース:2,850mm
車重:2,500kg
駆動方式:四輪駆動
搭載エンジン:3.5L V型6気筒ツインターボ
トランスミッション:10速AT
最高出力:415PS/5,200rpm
最大トルク:650Nm/2,000rpm
車両価格:730万円
1973年大阪生まれの自動車ライター。免許取得後に偶然買ったスバル車によりクルマの楽しさに目覚め、新車セールスマンや輸入車ディーラーでの車両回送員、自動車工場での期間工、自動車雑誌の編集部員などを経てフリーライターに。3台の愛車はいずれもスバルのMT車。