近年、50cc以下の原付一種の売上が減少し、125cc以下の原付二種の販売台数が伸長を続けていることもあり、「スーパーカブ」シリーズ躍進のきっかけを作ったスーパーカブ110は、現在、シリーズを牽引する存在となっている。そんなスーパーカブ110が、新たなエンジンを搭載して2022年4月にモデルチェンジ。どのような乗り味に進化したのか、初代モデルや先代モデルにも試乗したことのある筆者が確かめてみた。
「グリントウェーブブルーメタリック」(上段左)、「パールフラッシュイエロー」(上段中央)、「バージンベージュ」(上段右)、「タスマニアグリーンメタリック」(下段左)、「クラシカルホワイト」(下段右)のカラーバリエーションを用意
「スーパーカブ」の名を冠したモデルには、「スーパーカブ50」「スーパーカブ50プロ」「スーパーカブ110」「スーパーカブ110プロ」「スーパーカブ C125」の5車種がラインアップされている。近年人気の「ハンターカブ・CT125」や「クロスカブ50/110」も同シリーズがベースだ。その中で、筆者が同シリーズの中核だと考えているのが「スーパーカブ110」。2009年に登場した初代「スーパーカブ110」は、それまでの「スーパーカブ90」から排気量を拡大しただけでなく、通常のバイクと同じテレスコピック式のフロントフォークを採用したことで乗り味が一気にバイクらしくなり、一般のバイク好きにも受け入れられるようになった。
2002年に発売した「スーパーカブ90デラックス/カスタム」を最後に90ccモデルが姿を消し、それに代わるように2009年にスーパーカブ110(写真)が登場した
今回紹介する新型「スーパーカブ110」は、スタイリングは2017年に発売された先代モデルと変わらないが、走りに関わるエンジンと足回りは大きく変更された。排気量が109ccで、シリンダーが水平近くまで傾いた「横型」と呼ばれる形式である点は同じだが、ボア(内径)×ストローク(行程)が改められ、先代モデルの50.0×55.6から47.0×63.1のロングストロークタイプに変更。最高出力は8PS×7,500rpmと変化はないものの、トルクは先代モデルと比べ0.3Nmアップした8.8Nm/5,500rpmとなった。トルク特性にすぐれるロングストローク型の特徴を裏付ける数字だ。さらに、燃費も「WMTC」モードで67.9km/Lと、先代モデルから0.9km/L向上している。
サイズは1,860(全長)×705(全幅)×1,040(全高)mmで、重量は先代モデルと比べ2kgアップの101kgとなった。メーカー希望小売価格は302,500円(税込)
スーパーカブシリーズの特徴でもあるレッグシールドに隠れたエンジンは、見た目で新しくなったとはわかりづらいが、設計が大きく異なっている
もうひとつの大きな進化点である足回りは、ホイールが従来のスポークタイプからキャストホイールになり、フロントブレーキは油圧ディスクに変更され、ABSも装備された。というよりも、規制によってこのクラスにもABSの装備が義務付けられたため、ブレーキをディスク化し(従来のドラムブレーキではABS化できない)、ホイールもディスク化したというのが正しいところだろう。ハンターカブ・CT125がスポークホイールでディスクブレーキであることから、スポークホイールでもディスクブレーキ化は可能だが、製造コストなどの問題からキャストホイールとなったと思われる。
フロントには片押し1ポッド式のディスクブレーキを装備。ABSにも対応する
スーパーカブにキャストホイールは似合うのか!? という疑問もあったが、実際に見ると違和感はほとんどない
リアはドラムブレーキのままだが、フロントに合わせてキャストホイール化。マフラーはメッキに見えるが、本体はブラックでガードがメッキ処理されている
ルックスについては、角型ヘッドライトから丸目になり、やや角張ったシルエットも丸みを帯びたものに戻された先代モデルとほぼ同じ。全幅が10mm大きくなった以外、外観に大きな変更点はないが、細かい部分がブラッシュアップされている。
丸目のライトと丸形のウィンカーが並ぶフェイスデザインは、スーパーカブのアイコン的なもの
カバーで覆われたハンドルの中央に、視認性の高いアナログメーターを装備するスタイルも踏襲
従来モデルにはなかった液晶ディスプレイがメーター内に追加された。ギアポジションと燃料計、時計表示ができるようになっているのはありがたい
右手側のカバーから油圧ディスクブレーキのマスターシリンダーがのぞいているのも、小さな変化だ
シーソー型のシフトペダルは初期型から変わらない点。変速段数は4速のままだが、ギア比などは改められている
肉厚で座りやすいシートも大きな変更はないが、シート高は先代モデルと比べ3mmアップの738mmとなっている
シートの下にタンクを装備しているのもシリーズの伝統。容量は先代モデルから0.2L減って4.1Lとなった
特徴的なレッグシールドの内側には、ビニール袋などを引っかけられるフックを装備
2人乗りに対応しているので、タンデムステップがスイングアームに装着されている
タンデムは可能だが、タンデムシートはなく、キャリアにクッションなどを置く必要がある
サイドスタンドだけでなく、センタースタンドも装備
車体左側にはヘルメットホルダーを装備。メッキの筒型サスペンションも健在だ
スペック的には先代モデルと大きな違いはないが、走行性能に関わる部分の設計が変わったということは、フィーリングが変化したと思われる。街中を走行したあと郊外のワインディングにも足を伸ばし、新型「スーパーカブ110」の乗り味をチェックしてみた。
身長175cmの筆者がまたがると、両足のかかとがべったり接地するだけでなく、ヒザも少し曲がる程度の余裕があり、足付き性はとてもいい。小柄な人でも安心して乗れるだろう
エンジンをかけ、シーソー式のペダルを踏み込んでシフトを1速に入れる。シフトのフィーリングもかっちりしている印象だ。シフトアップしていく操作がしやすいのはスーパーカブシリーズに受け継がれている美点で、筆者は過去に何台も試乗しているが、シフトの抜けなどが気になったことはないが、逆にシフトフィーリングがいいと思ったこともない。それが、新型「スーパーカブ110」ではカチッとシフトが入るようになった。フィーリングが気持ちいいと感じるようになったのは小さな変化だが、バイクに乗るうえでの影響は大きい。
また、ロングストロークとなり、少しだがトルクアップしたエンジンは、街中だけでなく郊外の坂道などでもありがたみを感じた。これまでならシフトダウンがしたくなるような場面でも、少しアクセルを開け足すだけでグイグイ坂を登っていく。シーソー式でクラッチ操作のないスーパーカブのシフトは、シフトダウンで回転を合わせるブリッピングがしやすいとは言えないため(シフトペダルを踏みながらアクセルをあおれば可能)、この点は思ったより大きな違いになりそうだ。
スペック上の差はわずかだが、トルクフルになったエンジン特性は平坦な道でも扱いやすい
ワインディングでは、もっとも大きな変化を感じることができた。ブレーキングしてから車体をバンクさせて曲がるときのフィーリングが、アップしていたのだ。ブレーキの効きがいいだけでなく、コントロールもしやすいので、テレスコピック式フォークの沈み込みを操ることも可能。そして、車体を寝かしていくときの剛性感と安心感が飛躍的に向上している。従来の同シリーズはサスペンションがよく動き、街中は走りやすかったが、コーナリングを楽しむマシンではなかった。ただ、新型「スーパーカブ110」と同様に、キャストホイールとディスクブレーキを装備したスーパーカブ C125は異なる。試乗した際、「これならコーナリングも楽しめる」と感じられたのだ。その感覚が、スーパーカブ110でも味わえるようになった。
シートに荷重し、きっかけを作って車体をバンクさせる操作にも車体が機敏に反応してくれるようになり、コーナリングが気持ちいい
街中の交差点を曲がるようなシーンでも、剛性の向上が感じられ、曲がるのが楽しくなった
2009年に登場したスーパーカブ110に試乗した際、「普通のバイクに近い感覚になったな」と感じたが、今回のモデルチェンジでその印象はさらに強まった。スーパーカブ110は2012年に直線基調のデザインとなり、2017年に丸目に戻るなど、2022年型が発売される間にもいくつかモデルが登場しているが、走行性能に関わる部分の設計は今回ほど大きく変わっていない。制動力で沈み込みをコントロールできるテレスコピック式フォークのメリットは、ブレーキがディスク化されたことでさらに明確となり、操作に対する反応もキャストホイールによって機敏となった新型「スーパーカブ110」は完成形に近づいたと言えるのではないだろうか。
こうした進化は、バイク好きにとってはさらに魅力を増したと言えるし、そこまで考えずに乗りたいという人にも制動力が向上し、コントロール性がアップしたことは間違いなく安心感につながる。トルクアップしたエンジンも、街乗りだけでなく少し郊外に足を伸ばしたときにありがたさを感じるので、ツーリングなどに出かけたいユーザーにとっては大きなメリットだろう。また、これだけ性能向上を実現しながら、メーカー希望小売価格を先代モデルと比べ27,100円アップに抑えたのは、立派としか言いようがない。
●メインカット、走行シーン撮影:松川忍
カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。