トヨタは、コンパクトミニバンの「シエンタ」をフルモデルチェンジし、2022年8月23日に発売を開始した。
2022年8月23日に、3代目へとフルモデルチェンジされたトヨタ 新型「シエンタ」
3代目の新型シエンタは、5ナンバーの扱いやすいボディサイズは先代モデルと同様に、2列目シートの居住性をさらに向上させている。また、内外装にも変更が施されており、特にエクステリアデザインは、ボディを大きく見せないような工夫なども施されている。当記事では、そんな新型シエンタの魅力や特徴について解説したい。まず、新型シエンタのグレードラインアップと価格については以下の通りだ。
■トヨタ 新型「シエンタ」のグレードラインアップと価格
※価格はすべて税込
-1.5L ガソリンエンジン搭載車(2WD)-
X:1,950,000円 [5人乗り]/1,990,000円 [7人乗り]
G:2,300,000円 [5人乗り]/2,340,000円 [7人乗り]
Z:2,520,000円 [5人乗り]/2,560,000円 [7人乗り]
-ハイブリッド車(2WD)-
X:2,380,000円 [5人乗り]/2,420,000円 [7人乗り]
G:2,650,000円 [5人乗り]/2,690,000円 [7人乗り]
Z:2,870,000円 [5人乗り]/2,910,000円 [7人乗り]
-ハイブリッド車(E-Four)-
X:2,578,000円 [5人乗り]/2,618,000円 [7人乗り]
G:2,848,000円 [5人乗り]/2,888,000円 [7人乗り]
Z:3,068,000円 [5人乗り]/3,108,000円 [7人乗り]
2003年9月に発売された、初代「シエンタ」
シエンタの初代モデルは、コンパクトなボディサイズに広々とした室内や7人乗車のミニバンの利便性をプラスしたクルマとして、2003年9月に誕生した。
2代目の「シエンタ」は2015年に登場した
歴代シエンタは、初代から一貫して日本の家族に寄り添い、ユーザーの価値観の変化を深掘りすることで家族の生活をサポートしてきたという。そこで、新型シエンタの開発チームは、数多くのユーザーの声に改めて耳を傾け、本当にシエンタに求められるものを探っていった。そして、たどり着いたのは扱いやすい5ナンバーサイズや低燃費、求めやすい価格帯などの魅力はそのままに、初代からの使い勝手のいい室内空間をいっそう磨き上げることだった。新型シエンタは、先代モデル以上にユーザーの生活に寄り添うクルマとして、全長や全幅を変えることなく、大人7人がしっかりと乗れる広い室内空間を確保。座ることの多い2列目シートは見直され、広々とした後席空間を実現している。さらに、TNGAによって一新され、低燃費や走りを両立するパワートレインや、家族でのドライブをサポートする最新の安全装備なども採用されている。
新型「シエンタ」のフロントエクステリアとリアエクステリア
新型シエンタのデザインコンセプトは、 「シカクマル」。ボディの四隅を落とすことにより、丸みを帯びた印象を与えることで、全体のサイズ感を小さく見せているという。また、サイドのエクステリアは、水平基調のショルダーラインによって室内の広さを演出。そして、最後部のウィンドウ下をキックアップさせることで、ボディサイズを大きく感じさせないような工夫が施されている。たとえば、水平のまま前後に通してしまうようなデザインを採用すると、クルマが大きく見えてしまうからだ。クルマが大きく、運転しにくそうと感じさせないような工夫となっている。
新型「シエンタ」のフェンダーやサイドには、プロテクションモールが配されている
もうひとつ、デザイナーが新型シエンタのエクステリアデザインに込めた思いは、気兼ねなく使える“ツール感”だ。具体的には、フェンダーやサイドにプロテクションモールを配することで道具感が表現されるとともに、しっかりとしたボディにキャビンが載っているように見せる効果も生んでいる。ちなみに、プロテクションモールには若干明るめのブラックが採用されているのだが、これは長く使っても退色が気にならないように考慮して開発されているという。また、今後はユーザーの意見を踏まえながら、プロテクションモールを他のカラーにも変更できるなど、遊び心も採り入れていきたいとのことだ。
「カーキ」の内装色を選択すると、Bピラーがボディと同色になる
比較として、トヨタ「ファンカーゴ」のエクステリア
実は、新型シエンタのエクステリアデザインは、かつてのトヨタ「ファンカーゴ」が意識されたような部分がある。それが、Bピラーのカラーリングだ。内装色でカーキを選択すると、Bピラーがボディと同色になる。これによって、人が乗るスペースと荷室の区分けを感じさせる、ファンカーゴのイメージが踏襲されているのだ。
インテリアは、水平基調で視界がよく、広い室内空間を実現している。エクステリアと同様に、インテリアもドアポケットやメーターなどがシカクマルでデザインされている。
新型「シエンタ」のインテリアイメージ
新型「シエンタ」のドアポケットなどには、ピクトグラム(絵文字、記号)が施されている
さらに、ドアポケットやカップホルダーには、ピクトグラムによってどのようなものを収納できるかなどが表現されるなど、遊び心を感じさせるデザインが採用されている。ちなみに、カップホルダーなどは機能部分が色分けされているので、何かを入れている時にすぐに気付きやすいように工夫されている。そのほか、先代モデルでは足りないと言われていた収納も新型には数多く採用されているなど、利便性が高められている。
デザインを担当した、トヨタ クルマ開発センタービジョンデザイン部 ZEVデザイン 3グループ主幹の加藤孝明さんは、「新型シエンタは一過性のクルマではなく、たとえば購入した時は独身で、その後結婚して子供ができても乗っていただけるようなクルマにしたかったのです。そして、新型シエンタにはその魅力があると思っています」とコメントする。長く使うことによって新たな発見や愛着がわく、そんな思いを感じさせるデザインへと仕上げられている。
カラーに関しては、内外装ともに「華やかではなく、ちょっとセンスのいいものを目指しました。室内でも、包み込まれているような温もりが感じられて、機能性を兼ね備えたカラーデザインにこだわりました」と、トヨタ自動車 東日本デザイン部 第1デザイン室の荒田海優さんはコメントする。
内装色「カーキ」のインテリア(5人乗り2列シート車)
特に、「カーキ」のインテリアカラーは、「アウトドア道具は、土汚れとかも目立ちにくいような素材と色味ですから、そのような道具を積んだ時にもマッチする色使いを目指しています。また、汚れが目立ちにくいメランジ調のものを採用しています。たとえば、愛犬がぽんと飛び乗って土とか着いても、あまり目立たないでしょうね」。
内装色「フロマージュ」のインテリア(7人乗り3列シート車)
いっぽう、「フロマージュ」のインテリアカラーはドアトリムに明るい色が採用されており、より居心地のいい室内空間となっている。グレーのオールファブリックのシートは、ソファーのようなイメージで、パイピングが入ることでリビングライクなイメージが与えられている。なお、Zグレードにはファブリックに撥水加工が施された仕様となっている。
新型シエンタの機能面における注目は、330mmと低いフロア地上高や段差のないフラットなフロアは踏襲しつつ、パワースライドドア開口部の高さを1,200mm(従来型比+60mm)に広げることで、後席の乗降性をアップさせていることだ。また、「ハンズフリーデュアルパワースライドドア」が設定されており、キーを携帯している状態であればフロントドア下側に足を出し入れすることでパワースライドドアが自動で開閉できるようになった。
さらに、バックドアは開口部の高さが従来型比で15mm拡大され、荷室高も20mm高くなったことで、よりスムーズに荷物の出し入れができるようになっている。
5人乗りの2列シートタイプは、荷室床面に加えて2列目シートのチルトダウン構造が見直され、格納時のシート背面高さを下げることで荷室高を従来型比で50mm拡大している。
搭載されるパワートレインは2種類あり、ガソリンエンジン車には1.5Lダイナミックフォースエンジンを搭載。Direct Shift-CVTを組み合わせることで、力強くダイレクトな走りとすぐれた燃費性能を両立している。燃費は、ガソリン車としてクラストップレベルの18.3km/L(WLTCモード)を達成。Direct Shift-CVTには、マニュアル感覚のシフトチェンジが楽しめる10速シーケンシャルシフトマチックが設定されている。
また、1.5Lダイナミックフォースエンジンが組み合わせられたハイブリッドシステムは、システムの高効率化によって心地よい走りとすぐれた燃費性能を両立している。燃費は、こちらもクラストップレベルの28.8km/L(WLTCモード)を達成している。また、ハイブリッド車にはE-Fourも採用されることで、降雪時や雨天時における登坂発進時の安心感を向上させている。
新型シエンタは、欧州の商用車のようなおしゃれな道具感が演出されているエクステリアによって威圧感などがなく、すっきりとした印象でとても好感触だった。インテリアも、悪目立ちしない色使いや、さらに向上した使い勝手などは高く評価できる。また、ボディサイズも先代を踏襲するなどこだわっており、取り回しのよさが美点として引き継がれている。ミニバンでは少し大きすぎるし、背が高すぎる。また、3列目シートはいざという時のためのエマージェンシーシートと割り切れるならば、新型シエンタは5ナンバーサイズのミニバンとして積極的におすすめできる、魅力的な1台と言えそうだ。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。