近年、自動車メーカーの開発者は「販売が好調な軽自動車の条件は、スライドドアを装着していること」と、口をそろえる。実際に、今は軽乗用車の半数以上が、スライドドアを装着する背の高い車種で占められている。
ダイハツ「ムーヴキャンバス」が、2022年7月13日に2代目へとフルモデルチェンジされた。新型では、ターボエンジン搭載車が新たにラインアップされたほか、エクステリアは先代の外観イメージを踏襲した2トーンカラーの「ストライプス」グレードに加えて、新たにシックな印象を漂わせるモノトーンカラーの「セオリー」グレードが新設定されている。画像のグレードは「ストライプスG」
メーカーの開発者は、「スライドドアは、開閉時にドアパネルが外側へと張り出さず、狭い場所でも乗り降りしやすい。さらに、電動スライド機能も装着できるので、子育て世代のお客様にも使いやすい」と言う。スライドドアを装着したクルマが高い人気を得ている背景には、ミニバンの普及もあるだろう。今の35歳以下の若いユーザーは、子供の頃からスライドドアを装備するクルマに慣れ親しんでいる。そのため、軽自動車にも利便性の高いスライドドアが求められるのだ。
2016年に登場したダイハツ「ムーヴキャンバス」にもスライドドアが装備されており、ヒット車となった。ダイハツの車種ラインアップの中で、スライドドアが装着されているクルマと言えば、軽スーパーハイトワゴンの「タント」が売れ筋だ。ムーヴキャンバスとタントで最も異なっているのは、ムーヴキャンバスはスライドドアを備えているのに全高は1,700mmを下まわることだ(タントの全高は1,755〜1,775mm)。開発者は、「『スライドドアはほしいが、背の高いボディは要らない』というお客様もおられた。そこで、タントよりも背の低いムーヴキャンバスを開発した」と述べている。
ムーヴキャンバスは、全体的に柔和なデザインへと仕上げられており、リヤゲートには緩やかな傾斜も付けられている。また、従来の背の高い軽自動車は、実用的な標準仕様とエアロパーツが装着されたスポーティーな仕様の2種類が設定されていることが多いのだが、ムーヴキャンバスにはスポーティーなエアロパーツ仕様は用意されず、リラックスできる雰囲気を感じさせる標準仕様のみとすることで、一躍人気車種になった。
そのムーヴキャンバスが、2022年7月にフルモデルチェンジされて2代目になった。今回、新型ムーヴキャンバスに試乗したので、使い勝手や乗り心地、先代との違いの詳細などについてお伝えしたい。
■ダイハツ 新型「ムーヴキャンバス」のグレードラインアップと価格
-NAエンジン搭載車-
ストライプスX:1,496,000円(2WD)/1,622,500円(4WD)
ストライプスG:1,672,000円(2WD)/1,798,500円(4WD)
セオリーX:1,496,000円(2WD)/1,622,500円(4WD)
セオリーG:1,672,000円(2WD)/1,798,500円(4WD)
-ターボエンジン搭載車-
ストライプスGターボ:1,793,000円(2WD)/1,919,500円(4WD)
セオリーGターボ:1,793,000円(2WD)/1,919,500円(4WD)
新型「ムーヴキャンバス」ターボエンジン搭載車(グレード:セオリーGターボ)の走行イメージ
まず、新型ムーヴキャンバスで注目したいのが、先代(初代)はNAエンジン搭載車のみであったのに対して、新型ではターボエンジン搭載車も選べるようになったことだ。その背景には、ユーザー層の広がりがある。先代は、「母親と娘が一緒に使える軽自動車」をテーマに開発されたが、実際には男性が乗る機会も多く、「もう少し、エンジンパワーがほしい」というニーズが高かったためだ。
また、男性を含めて「落ち着いた雰囲気のグレードを選びたい」という意見もあったため、新型ではグレード構成が見直されている。新型では、先代から引き継がれた2トーンカラーの「ストライプス(STRIPES)」に加えて、新たにモノトーンでシックな印象の「セオリー(theory)」が追加された。
新型「ムーヴキャンバス」(グレード:ストライプスG)のフロントエクステリアとリアエクステリア
新型「ムーヴキャンバス」(グレード:セオリーGターボ)のフロントエクステリアとリアエクステリア
セオリーは、内外装ともに落ち着いた大人の雰囲気を感じさせる仕上がりとなっている。ちなみに、動力性能や居住性などの基本スペックについては、ストライプス、セオリーともに共通のものが採用されている。
新型ムーヴキャンバスの外観デザインは、一見すると先代とほぼ同じに見えるが、実はボディパネルは新たに作り替えられている。2代目には、新開発のプラットフォーム「DNGA」が採用されているからだ。
新型「ムーヴキャンバス」(グレード:ストライプスG)のフロントフェイス
また、フロントマスクのエンブレムは、先代は丸型だったのだが新型では「CANBUS」の車名が入れられているなどといった細かな違いも見られる。ボディ側面は、ボリューム感のあるデザインとなっている。
新型「ムーヴキャンバス」(グレード:セオリーGターボ)のサイドイメージ
新型「ムーヴキャンバス」(グレード:セオリーGターボ)のリアイメージ
セオリーは、ボディカラーはモノトーンだが、代わりにボディ側面にはメッキ調のピンストライプが装着され、リヤバンパーにもメッキの装飾が加わっている。
新型「ムーヴキャンバス」(グレード:ストライプスG)のインテリア
新型「ムーヴキャンバス」(グレード:ストライプスG)のフロントシート
インパネは直線基調のデザインで、視界は良好だ。シートは、前後席ともにベンチタイプになる。フロントシートは、背もたれの下側が腰を包む形状で、サポート性もすぐれている。座り心地には、ボリューム感が伴う。新型ムーヴキャンバスの全高は、タントに比べて100mm低いが、頭上空間は十分に確保されている。
新型「ムーヴキャンバス」ストライプスのリアシート
リアシートのスライド位置を最後端にまで移動させれば、足元空間が広々としてゆったりと座ることができる
リアシートは、足元空間が広い。スライド位置を後端まで寄せれば、身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間が握りコブシ3つ少々にまで拡大する。床と座面の間隔は少々不足気味で、足を前方に伸ばす座り方にはなるものの、足元空間が広いので窮屈には感じない。座り心地は、軽自動車の平均水準だ。
新型「ムーヴキャンバス」のリアシート下にある「置きラクボックス」を引き出した状態(ケースモード)
「置きラクボックス」のついたてを立てれば「バスケットモード」になり、買い物袋などを上に安定して置くことができる
新型ムーヴキャンバスには、収納が豊富に備わっているが、そのなかでも「置きラクボックス」に注目したい。置きラクボックスは、リアシートの下に設置された引き出しタイプのボックスで、ひんぱんに使わないものなどを収納するのに便利だ。さらに、引き出した状態で“ついたて”を立ち上げれば「バスケットモード」になり、上に買い物袋などを置くことができる。シート上にそのまま置くと、袋が倒れて中身が散乱することもあるだろうが、置きラクボックスのバスケットモードを利用すれば、その心配がない。
新型「ムーヴキャンバス」のリアシートを前方へ倒した状態。完全にフラットにはならずに、中央にやや段差ができる
ただし、置きラクボックスが装備されている代わりに、リアシートの背もたれを前側に倒すと、広げた荷室の床が完全に平らにはならず、少し段差ができる。タントなどは、リアシートを倒すと座面も連動して一緒に下がるので、荷室がフラットになるのだ。そのため、荷室を平らに使いたいといった用途であれば、タントのほうが適しているかもしれない。
インパネの両サイドに備えられている「ホッとカップホルダー」。丸いボタンを押すことで、飲み物を保温してくれる
そのほか、ユニークな装備としてはインパネに備えられている保温機能付きカップホルダーが挙げられる。このカップホルダーにはヒーターが内蔵されており、備えられているボタンを押すことで、飲み物を42度で2時間程度保温できるというものだ。冬場はもちろん、夏にクーラーをかけながらも温かい飲み物は冷やしたくないといった用途にも便利だ。
新型「ムーヴキャンバス」NAエンジン搭載車(グレード:ストライプスG)の走行イメージ
新型ムーヴキャンバスの動力性能は、NAエンジン搭載車は少々パワー不足に感じる。市街地では、さほど不満を感じないのだが、登坂路などではエンジン回転数が高まり、エンジンノイズも増える。
新型「ムーヴキャンバス」ターボエンジン搭載車(グレード:セオリーGターボ)の走行イメージ
だが、前述したとおり、新型にはターボエンジン搭載車も用意されている。もし購入を検討されているユーザーであれば、まず販売店ではNAエンジン搭載車に試乗してみて、もし不満を感じた際にはターボエンジン搭載車も積極的に乗ってみてほしい。ターボエンジンの動力性能は、最大トルクがNAエンジンの1.7倍と高く、1Lエンジンを搭載する普通車のような感覚で運転できる。さらに、ターボエンジン搭載車には「D-CVT」が採用されている。D-CVTは、CVTにギヤが組み合わせられた機構で、ギヤ比を拡大させている。そのため、WLTCモード燃費は、2WDで25.2km/Lと良好な値だ。NAエンジンの25.7km/Lと比べて、燃費がほとんど悪化しないのも大きなメリットとなっている。D-CVTは、ギヤ比をワイド化させているため、NAエンジンで感じたパワー不足も解消されるはずだ。ただ、なぜD-CVTを採用してるのがターボエンジン搭載車のみなのかを開発者に尋ねると、「NAエンジンでは、コスト(つまり価格)アップが課題となった」との返答であった。価格などを考慮したグレード選びについては、後述したい。
新型「ムーヴキャンバス」NAエンジン搭載車(グレード:ストライプスG)の試乗イメージ
新型ムーヴキャンバスは、タントよりも背が低いとはいえハイトワゴンなので、走行安定性を考慮してステアリング操作に対する反応はやや鈍めだが、違和感は生じない。ボディが重くて高重心なタントに比べれば、足まわりの設定はやわらかめだ。乗り心地は、快適と言えるほどではないが、タントのような硬さはない。新型ムーヴキャンバスの走行フィールは、快適性と安定性がバランスよく仕上げられている。
■ダイハツ 新型「ムーヴキャンバス」のグレードラインアップと価格
-NAエンジン搭載車-
ストライプスX:1,496,000円(2WD)/1,622,500円(4WD)
ストライプスG:1,672,000円(2WD)/1,798,500円(4WD)
セオリーX:1,496,000円(2WD)/1,622,500円(4WD)
セオリーG:1,672,000円(2WD)/1,798,500円(4WD)
-ターボエンジン搭載車-
ストライプスGターボ:1,793,000円(2WD)/1,919,500円(4WD)
セオリーGターボ:1,793,000円(2WD)/1,919,500円(4WD)
では、新型ムーヴキャンバスのグレード選びについて考えてみよう。まず、ストライプスとセオリーの価格は同額で、前述の通りストライプスは2トーンカラーになり、セオリーはモノトーンだが装飾を充実させている。価格はどちらも同じなので、ストライプスとセオリーは好みに合わせて選びやすい。そして、どちらにもX、G、Gターボのグレードがそれぞれ設定されている。推奨グレードは、LEDヘッドランプや前席シートヒーターなどを標準装備するG(1,672,000円)か、Gターボ(1,793,000円)だ。
Gターボの価格は、Gに比べて121,000円高いが、Gに44,000円でオプション設定できる「スマートクルーズパック」が標準装備されており、車間距離を自動制御できるクルーズコントロールなどが備わっている。そうなると、ターボ+D-CVTの正味価格は77,000円になる。さらに、D-CVTの価格換算額を差し引いてターボに限定すれば、実質約60,000円なので、ターボエンジン搭載車は割安と判断できるだろう。しかも、ターボエンジンは動力性能が高いのに、燃費は前述の通りNAエンジンと同等だ。予算が許せば、積極的にGターボグレードを選びたい。
新型ムーヴキャンバスのライバル車は、スズキ「ワゴンRスマイル」だ。ワゴンRスマイルには、置きラクボックスのようなユニークな機能は採用されていないが、リアシートの着座姿勢や座り心地などは自然な印象だ。また、後席の背もたれを前側に倒すと座面も一緒に下がり、比較的平らな荷室として使うことができる。ワゴンRスマイルのエンジンには、ターボが用意されておらず、マイルドハイブリッドのWLTCモード燃費は25.1km/Lになる。この燃費値は、新型ムーヴキャンバスよりも若干悪い。
ワゴンRスマイルの価格は、最上級のハイブリッドXで1,592,800円になる。ムーヴキャンバスGは1,672,000円なので少し価格が高くなるが、ハイビーム状態を保ちながら対向車などの眩惑を抑えるアダプティブドライビングビームなどが標準装備されている。装備の違いを考慮すれば買い得度は同等なので、内外装の好みなどで選んでいいだろう。
「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト