トヨタのフラッグシップモデル「クラウン」が、16代目にフルモデルチェンジされる。ボディタイプは、SUVとセダンを融合させた「クロスオーバー」、ハッチバックの「スポーツ」、従来モデルと同様の「セダン」、SUVの「エステート」の4種類だ。
トヨタ 新型「クラウン」の第一弾として発売される「クロスオーバー」。新たに搭載された「DRS(ダイナミックリアステアリング)」など、走りを中心に新型モデルの実力を確かめてみた
まずは、クロスオーバーが2022年秋に発売され、ほかのボディタイプも2023年夏までに順次発売予定となっている。今回は、クラウンクロスオーバーに試乗したのでレビューしたい。
■トヨタ 新型「クラウン クロスオーバー」のグレードラインアップと価格
※価格はすべて税込
※駆動方式はすべて「E-Four(4WD)」
-2.5Lハイブリッド-
CROSSOVER X:4,350,000円
CROSSOVER G:4,750,000円
CROSSOVER G“Leather Package”:5,400,000円
CROSSOVER G“Advanced”:5,100,000円
CROSSOVER G“Advanced・Leather Package”:5,700,000円
-2.4Lターボ デュアルブーストハイブリッド-
CROSSOVER RS:6,050,000円
CROSSOVER RS“Advanced”:6,400,000円
新型クラウンクロスオーバーのパワーユニットは、2.5Lハイブリッドと、2.4Lターボ デュアルブーストハイブリッドの2種類がラインアップされているのだが、すでに生産が開始されているのは2.5Lハイブリッドになる。そして、今回試乗したグレードも、2.5Lハイブリッドが搭載されているCROSSOVER Gアドバンスト(510万円)と、CROSSOVER Gアドバンスト・レザーパッケージ(570万円)の2グレードだ。
新型クラウンクロスオーバーは、全グレードにハイブリッドシステムが搭載されており、4WDの「E-Four」が採用されている。2WDモデルは、ラインアップされていない。また、前輪だけでなく、後輪を操舵する4WSの「DRS(Dynamic Rear Steering)」が全グレードに標準装備されているのも、大きな特徴のひとつとなっている。
新型「クラウンクロスオーバー」のフロントエクステリアとリアエクステリア
新型クラウンクロスオーバーの外観は個性的で、歴代のクラウンとはまったく異なるエクステリアが与えられている。新型クラウンの開発にあたり、トヨタではセダンを改めて研究。そして、クラウンを現代に再定義した結果が、リフトアップさせた新型クラウンクロスオーバーであったと言う。
新型「クラウンクロスオーバー」のフロントとリアには、直線的なLEDデイライトが採用されている
新型クラウンクロスオーバーのヘッドランプやテールランプは薄型で、左右一直線につながるLEDデイライトが印象的だ。サイドを見ると、キャラクターラインは多用されておらず、緩やかな曲面の構成によって流麗なイメージが表現されている。
また、エクステリアデザインの開発において特に重視されたのが、大径タイヤの採用とタイヤ位置に対するこだわりだ。ボディを大きく見せるため、タイヤは大きな21インチタイヤ(グレードによって19インチもラインアップ)が装着されており、四隅へツライチになるように配置された。
新型「クラウンクロスオーバー」に全車標準装備されている「DRS(Dynamic Rear Steering)」。低、中速域では後輪が前輪と逆相になることで、取り回し性の向上や軽快なハンドリングを生み出す。また、高速域では後輪が前輪と同相になることで、高い車両安定性を実現している
前述したとおり、新型クラウンクロスオーバーには、低速域で後輪を前輪とは逆方向に操舵するDRSが採用されている。ボディサイズは、全長4,930mm、全幅1,840mmと大柄なのだが、DRSによって最小回転半径は5.4mに抑えられている。開発者は、「DRSがなければ、最小回転半径は5.7〜5.8mに達する」と言う。また、全高は1,540mmに収まっているので、立体駐車場を使いやすい。
新型「クラウンクロスオーバー」のインテリア
車内の雰囲気は、造りはていねいだが、従来のクラウンで感じられたような柔らかな印象の室内とは異なっている。以前の「マークX」にも似たような、少し渋めでスポーティーな路線のデザインへと仕上げられている。視界は、前方視界がよく、運転席に座るとボンネットも見えるので、車幅やボディの先端位置がわかりやすい。いっぽう、ボディ後端のCピラーはやや太めで、リヤウィンドウの上下幅が狭いので、後方視界はあまりよくない。
新型「クラウンクロスオーバー」のフロントシート
新型「クラウンクロスオーバー」のリアシート
リアシートは、床と座面の間隔が少々不足しており、座ると腰が落ち込んで膝が持ち上がる姿勢になる。座面の前側が大きめに持ち上げられているので、大腿部がシートから離れることはないが、リアシートに小柄な同乗者が座ると大腿部を押された感覚になりやすいだろう。だが、リアシートは足元空間が広い。身長170cmの大人4名が乗車した時、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ3つぶんだ。先代クラウンは握りコブシ2つ半だったので、新型は足元空間がさらに広くなっている。さらに、頭上も握りコブシひとつぶんあるので、ゆったりと乗車できるだろう。
新型「クラウンクロスオーバー」のトランクルーム
そして、新型クラウンクロスオーバーで特徴的なのが、SUVのようにボディ後部へ大きなリヤゲートが装着されていないことだ。セダンのように、小さく開くトランクフードによって荷物を出し入れする。これは、後席とトランクスペースの間に骨格と隔壁を配置することで、ボディ剛性を高めて遮音性能も向上させられるためだ。ボディ剛性のアップによって、走行安定性や乗り心地を高めやすく、後輪が路上を転がる音が居住空間へ入りくいので、静粛性が高く快適に運転できる。トランクルームは、開口部が狭く、リアシートも固定されているので、中央のトランクスルー以外は前側に倒せない。だが、奥行は十分にあるので、セダンとしては積載容量に余裕を持たせている。
新型「クラウンクロスオーバー」の走行イメージ
試乗した、直列4気筒の2.5Lハイブリッドは、エンジン回転数が下がっている巡航時に緩くアクセルペダルを踏み増した時など、反応の素早いモーターの駆動力が即座に立ち上がり、速度は滑らかに上昇する。4気筒特有の、少し粗いノイズが時々聞こえるものの、エンジン音は小さいので耳障りには感じない。ハイブリッドのモーターの駆動力が、加速の滑らかさに加えて、静粛性にも生かされている。
新型「クラウンクロスオーバー」の走行イメージ
走行安定性や操舵感は、後輪をモーターで駆動するE-Fourと後輪を操舵するDRSの作動もあって、ワインディングなどではボディサイズが大きな割によく曲がる。特に、ステアリングホイールの操舵角が180度に達するような急カーブなどにおいては、E-FourとDRSが車両を行きたい方向へとうまく調節してくれる。カーブの状態によっては、進路が若干曖昧に感じられてステアリングホイールを微調整するような場面もあったが、安定性はすぐれていると感じた。適度に曲がって、その最中に危険を避ける場面でも、後輪がしっかりと接地してくれるので、挙動は悪化しにくい。
新型「クラウンクロスオーバー」の走行イメージ
乗り心地は、時速50km以下では路面の凸凹が伝わりやすいが、跳ねるような粗さは抑えられている。不快な印象はなく、おおむね快適だ。適度な引き締まり感が伴っているので、クルマ好きにはよろこばれる乗り心地だろう。
試乗した2台のタイヤサイズは、Gアドバンストが19インチ(225/55R19)で、Gアドバンスト・レザーパッケージは21インチ(225/45R21)だった。どちらかというと、バランスがいいのは19インチタイヤで、21インチタイヤは少々硬めだ。それでも、225/45R21というタイヤの大きさを考えれば、快適性は高いと感じた。また、21インチタイヤでは、操舵に対する車両の動きも少し機敏になる。ステアリングホイールを握る掌を通じて、路面やタイヤのグリップの状態がわかりやすい。
安全装備や運転支援機能は、上級車らしく充実している。ただし、後方の歩行者まで検知できる「パーキングサポートブレーキ」や、高速道路の渋滞でステアリングホイールから手を離しても運転支援が続く「アドバンストドライブ」などは、2.4Lターボ デュアルブーストハイブリッドを搭載するRSやRSアドバンストでないとオプション装着できない。
ちなみに、アドバンストドライブなどはノア、ヴォクシーでは大半のグレードにオプション設定されている。ノア、ヴォクシーには装着できる装備が、新型クラウンクロスオーバーの2.5Lハイブリッドで選べないというのは、少々残念だ。
グレードを選ぶ時は、まず2.5Lハイブリッドか、2.4Lターボ デュアルブーストハイブリッドかの選択になるだろう。装備の違いを補正して、ハイブリッドシステムの正味価格差を割り出すと、2.4Lターボ デュアルブーストハイブリッドのほうが65万円高い。2.4Lターボ デュアルブーストハイブリッドは、パワフルな代わりに価格も割高なので、2.5Lハイブリッドを推奨したい。
そして、グレードは最も安価なX(435万円)は避けたい。G(475万円)に比べると40万円安いのだが、ディスプレイオーディオがオプション(375,100円)になり、バックガイドモニターなども省かれる。Xは、総額で約50万円の装備が装着されないので、なるべくG以上のグレードを選ぼう。そして、実用的にはGでもいいのだが、上級車種ということもあるので、手離しで開閉操作が行える「ハンズフリーパワートランクリッド」などを備えた、Gアドバンスト(510万円)がベストグレードになるだろう。ちなみに、「アドバンスト」が付かないグレードの生産は2023年1月以降なので、納期を考慮してもGアドバンスドを推奨したい。Gアドバンスト・レザーパッケージ(570万円)は、必要に応じて選ぼう。
最後に、販売店に納期を尋ねると、「新型クラウンクロスオーバーの納期は、最も早い2.5Lハイブリッドのアドバンスト系でも、2023年5月ごろになる」と言う。だが、トヨタが展開する定額制カーリースの「KINTO」では、2.5LのGアドンバンストなどであれば、約2か月後から使用を開始できる。KINTOは、使用期間満了時には車両を返却せねばならず、買い取りはできない。そのため、ローンを含めた車両購入とは本質的に異なるものの、ここまで納期の差が開いていると短縮のためにKINTOを使うという手も、選択肢のひとつとして考えておいてもいいのかもしれない。
「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト