普通免許のAT限定を解除し、これまで以上にクルマの運転と向き合う喜びを知った深山幸代さん(みやまさちよ・モデル兼ライター)。
MT(マニュアルトランスミッション)車を運転できるようになったことにより、クルマの速度とエンジン回転数、各ギアとの関係性やタコメーターの必要性を強く実感し、新境地が開けた様子です。今回はスポーツカーのマツダ・ロードスターのMT車を体験し、さらなる“人馬一体感”に浸る楽しさを味わってもらいました。
クルマの運転そのものを味わい尽くすのに最適な1台として、今回はマツダ「ロードスター」を選択。世界中で愛されるリアルスポーツカーを、MTで味わってもらいました
軽量コンパクトなクルマはMTの初心者にも扱いやすいと言えます。深山さんの印象では、軽自動車よりもさらにドライバーフレンドリーだった模様
MT車の醍醐味のひとつに、各ギアを任意で選択できる楽しさがあります。ただ単にギアを任意で選ぶだけならAT車でも可能ですが、MTの場合は「クラッチを切ってエンジン回転を調節する作業」をともなうので、クルマの速度とエンジン回転数、各ギアとの関係性を常に頭に入れる必要があり、そこにATにはない難しさと面白さが得られるのです。
また、MTではエンジンの動力がよりダイレクトに感じられるのも醍醐味のひとつ。変速操作時、速度と各ギアの関連性を誤るとシフトショックが発生し、クルマの動きがギクシャクしてしまう難しさがありますが、うまく操作できるとショックのないスムーズな変速となり、快感になります。うまくできたときもそうでないときも、エンジンの存在を濃密に感じることができるのです。
これはどんなMT車でも言えることながら、やはりスポーツカーだと変速操作で得られる快感の度合いはとても大きくなります。スポーツカーのエンジンはドライバーに快感を与えることを狙ってセッティングされているので、エンジンの感覚がダイレクトに感じられるMTのメリットがより高まると言えるのです。
1.5リッターのNAエンジンなので、絶対的なパワーは控え目。でも、だからこそ限られたパワーを発揮させるためにMT変速操作の重要性が高まります
ステアリングやシフトなど、操作する部分の位置関係も入念に煮詰められたマツダ・ロードスター。スポーツカーが意外と乗りやすいと感じる要因のひとつです
シフト操作時のストローク量、節度感、重さ、各ギアへの入れやすさなど、MTのシフトにはさまざまなチェック項目がありますが、マツダ・ロードスターのMTシフトは全項目で最高レベルを誇ります
「スポーツカーはタコメーターが真ん中に配置されるワケ」が実感できたという深山さん。エンジンの回転を常に意識すると、エンジンの鼓動やちょっとした変化も感じやすくなり、クルマとの一体感が高まります
MT操作がしやすい適切な運転姿勢がとれるマツダ・ロードスターの運転席まわり。空間的にはタイトな環境も、深山さんは違和感がなかったとのことでした
今回、マツダ・ロードスターのMTを運転した深山さんは、「エンジンだけでなく、クルマ全体との一体感がより強く感じられて驚きました」と感激していましたが、エンジンのフィーリングや動力がダイレクトになって意識が高まる分、エンジン以外の部分への意識も高まるので、結果としてクルマ全体の印象が変わるのです。
ロードスターの持ち味、大きな魅力である“人馬一体感”は、ATで乗った時よりも明らかに濃密で刺激的だったと語ってくれました。また、マツダ・ロードスターはスポーツカーの中でも突出してシフト操作フィールがよいクルマなので、AT車の運転しか経験のない一般的な女性には、どう説明してもなかなかご理解いただけない「シフトフィールのよさ」もしっかり味わえたご様子。
本格的な電気自動車時代には完全になくなると予想されるMT車。まだ普通に新車でも買えるうちに味わっておきたいと考えるクルマ好きは増えており、AT限定解除も増加傾向にあります
最近のATはギアの段数が増えてダイレクト感も高まり、スポーツ性が存分に味わえるようになりました。サーキットでのラップタイムや燃費など、かつてはMT車に優位性があった項目も、今ではATのほうが有利とされる場合が多いです。しかし、それでもなお、MTにはATでは得られない楽しさや難しさがあり、「運転行為に向き合う深み」が増す効果が得られるのは揺るぎない事実。
AT限定免許だった深山幸代さんは、AT限定を解除してMT車の運転を知ったことにより、それが実感できたのでありました。
1973年大阪生まれの自動車ライター。免許取得後に偶然買ったスバル車によりクルマの楽しさに目覚め、新車セールスマンや輸入車ディーラーでの車両回送員、自動車工場での期間工、自動車雑誌の編集部員などを経てフリーライターに。2台の愛車はいずれもスバル・インプレッサのMT車。