2022年11月2日、マツダは3列シートを有するクロスオーバーSUV「CX-8」に商品改良を施すとともに、予約受注を開始したと発表した。発売は、2022年12月下旬が予定されている。今回、商品改良によって「CX-8」がどのように進化したのか、その内容についてお伝えしたい。
左は新グレードの「Sports Appearance」で、中央は同じく新グレードの「Grand Journey」。右は、継続販売される「Exclusive Mode」。新しい「CX-8」は、この3グレードがメインになる
「CX-8」は、日本未発売の「CX-9」をベースに開発された、日本におけるマツダのフラッグシップSUVだ。今回、およそ2年ぶりとなる商品改良の背景には、コロナ禍による市場環境の変化が大きいと言う。
「CX-8 Grand Journey」グレードのイメージ
「人々のライフスタイルや価値観が、変わりつつあります。在宅勤務などが続く中で、心身をリフレッシュしたい。お子さんに、外でしか得られないような体験型学習などを通して、色々なことを学ばせたい。そのような、意識の変化がありました。その結果、郊外や地方へのロングトリップへのニーズが高まっているのです」とコメントするのは、マツダ 商品本部で「CX-8」の開発責任者を務める齊藤圭介さん。そこで、新しい「CX-8」は「ドライバーはもちろん、同乗者を含めたすべてのお客様にとって、人生の楽しみ方を無限に広げる存在でありたいと考えました」と言う。
それらを踏まえ、今回の商品改良では「マツダの最新技術やデザイン表現を用いて、CX-8の完成形に到達したいという考えの元、レベルアップを図りました」とのことだ。ポイントは、大きく3つある。ひとつめは、プレミアム感の向上。2つめは、多様なライフスタイルへの対応。そして3つめは、多人数乗車における快適性の向上だ。
まず、プレミアム感の向上については、細部におけるデザインの見直しが図られた。たとえば、ホイールアーチを黒く縁取りしていたクラッディングはカラード(グレードや仕様による)になり、Exclusive Modeなどではボディとクラッディングが同色化することで、一体感が増している。
画像は「CX-8 Exclusive Mode」。クラッディングが、ボディカラーと同色になっている
クラッディングのカラード化によって、「CX-8が元々持っていたダイナミックな造形に、ソリッドな力強さが加わりました」と話すのは、マツダ デザイン本部 チーフデザイナーの松田陽一さん。また、クラッディングをボディカラーと同色にしたことによる、単色化の間延び感を排除するため、全体のプロポーションも見直された。具体的には、サイドから見てリアバンパーの下部をピックアップさせることで、リアのオーバーハングを間延びさせないといった、細かなデザイン表現が施されている。
「CX-8」のサイドイメージ(グレードは「Sports Appearance」)
フロントは、「CX-5」のバンパーやヘッドランプのデザインを基本としながら、商品改良前の「CX-8」の一部グレードに採用されていた「ブロックメッシュグリル」が好評であったため、今回は多くのグレードに適用されている。
改良後の「CX-8」のフロントグリルには、「ブロックメッシュグリル」が採用されている
「ブロックメッシュグリル」は、一つひとつのブロックの角度に変化が与えられており、立体としての力強さが表現されている。また、ブロックが光を受けると、ハイライトとシャドーが浮かび上がってキラキラと輝く。そうすることによって、「CX-8の上質感を際立たせるグリルへと仕上げています」と松田さんは言う。
リアについては、コンビランプやバンパーなどに変更が施されている。ベースがワイドな「CX-9」であったことから、「CX-8」ではボディサイズを小さくしたことで、「若干、ナローな印象となってしまい、またデザイン要素も1世代前のテーマによる構成のものでした」と松田さん。そこで、今回は「CX-8のプロポーションやボディサイズを使い切るような、独自の完成系を目指してリアを再構築しています」と言う。具体的には、コーナーピーク(リアからサイドへ回り込む部分)をより外側に設けることで、水平を感じさせるキャラクターと合わせて全体のバランスが取り直されている。これによって、「ワイドで、スタビリティーのあるイメージのリアデザインへと生まれ変わっています」と説明する。
「CX-8」改良モデルでは、リアコンビランプやコーナーバンパーなどのデザインに変更が施されている
また、リアコンビランプは最新のシグネチャー発光が採り入れられ、より精悍なイメージを持たせるためにデザインし直された。さらに、ランプ間のシグネチャーガーニッシュも今回はソリッドな断面のものへと変更され、コンビランプの造形と連動させるような処理が施されている。これらによって、「CX-8は、さらにモダンな印象へと進化させています」。
「CX-8」のリアコンビランプは、「CX-5」にも採用されている最新のデザインのものが採り入れられている
また、新しいCX-8はグレード体系の見直しが図られることによって、多様なライフスタイルに対応している。大きくは、それぞれテイストの異なる世界観を持つ3つのグレードが中心になる。
まず、最上級グレードとしては、プレミアム感や上級志向のユーザーに応える「Exclusive Mode」。同グレードは改良前から存在しており、今回も継続販売される。そして、新グレードとしてスポーティーな「Sports Appearance」と、アウトドア指向の「Grand Journey」(特別仕様車)が新たにラインアップされた。そのほか、こちらも改良前に存在していた「BLACK TONE EDITION」や、エントリーグレードの「SMART EDITION」「25S/XD」がラインアップされる。
「Exclusive Mode」は、「CX-8」のイメージをリードするトップグレードで、カラードクラッディングの採用とともに、メタルパーツが多く用いられているのが特徴的だ。
「CX-8 Exclusive Mode」のフロントイメージとリアイメージ
インテリアは、オーバーンからブラックナッパレザーへと変更されている。松田さんによると、「ハイエンドモデルは黒でやりきるというコンセプトで、ブラックナッパレザーの漆黒感を生かしながら、コントラストのあるライトグレーのキルティングとパイピングで仕上げています」と述べる。そうすることで、「より洗練された、大人のラグジュアリーというインテリアを実現しています」。
「CX-8 Exclusive Mode」のインテリア
「CX-8 Exclusive Mode」のフロントシート
「CX-5」で好評を博している「Sports Appearance」が、「CX-8」にも採用された。フェンダーアーチにあるクラッティングなどの主要パーツには艶のある黒が用いられ、シャープでスポーティーなSUVとなっている。
「CX-8 Sports Appearance」のフロントイメージとリアイメージ
インテリアは、改良前の「Lパッケージ」を引き継ぐ形で、バーガンディの赤内装を採用。また、スポーツを名乗るにふさわしい仕立てとするために、シート中央部に黒のアクセント、ステッチにライトグレーを差し込むことでスポーティーさをアップさせている。松田さんによると、このバーガンディにライトグレーの差し色は、「NDロードスターでも以前使用していたコーディネートなので、見覚えがある人も多いかもしれません」と笑う。
「CX-8 Sports Appearance」のインテリア
「CX-8 Sports Appearance」のフロントシート
そして「Grand Journey」だが、同グレードは今回の改良において最も力が入れられた仕様と言えるだろう。これまで、「CX-8」はアウトドアやオフロードといったイメージはあまり強く描かれていなかった。しかし、AWDの性能やクリーンディーゼルエンジン、ユーティリティーの高さなどは十分にその世界観に応えることができるポテンシャルを持っているとマツダは判断。そこで、アウトドアやオフロードといった世界感を「CX-8」へストレートに表現したのが「Grand Journey」である。
「CX-8 Grand Journey」のフロントイメージとリアイメージ
松田さんによると、「まず、タフ感のあるブラックエリアを生かしながら、“クオリティギア”のイメージのメタルアクセントを効果的に配しました。また、アウトドアイメージを高めるルーフレールが標準装備されています。ブラックとメタルのコントラストが、力強さを増した造形と相まって、アウトドアへと誘うようなデザイン表現がなされています」と言う。
インテリアは、グレージュ合成皮革とざっくりとしたファブリックのコンビネーションで、アウトドアや日常シーンで気分を上げてくれるような明るい内装となっている。この組み合わせは、さまざまなシーンで気兼ねなく使える素材として選択されたもので、その中にブラウンのパイピングやインパネのトリム類にグレージュのステッチを差し込むなどにこだわっている。「ほかにはない、クオリティーの高いアウトドアイメージが表現されています」と松田さん。
「CX-8 Grand Journey」のインテリア
「CX-8 Grand Journey」のフロントシート
「Grand Journey」の駆動方式は4WDのみで、「Mi-Drive」には「オフロードモード」が設定されている。冒頭で、今回の商品改良における背景は「地方や郊外へのロングトリップのニーズが高まっているため」と記したが、Grand Journeyはまさに「家族全員が郊外へ出かけて、地域の文化に触れ、新たな体験や発見を得るといった新しいライフスタイルに応えるものです」と、齋藤さんは話す。
「CX-8 Grand Journey」の「Mi-Drive」スイッチ(上)と「オフロードモード」時のメーター(下)
オフロードでの安定感から、市街地での扱いやすさなども含めて、「お客様が安心して、自信を持ってどんなところにも行けますので、行動の幅を広げる役に立てるかと思っています」と齋藤さんは述べた。
多人数乗車を踏まえた快適性の向上については、思い通りに不安なく走れるよう、直近の新世代商品群の技術を使いながらサスペンションやシートの機能を進化させている。
サスペンション特性やフロントダンパー、コイルスプリングなどが見直されることによって、1〜3列目シートのどこに座っても疲れにくく、酔いにくい乗り心地が追求された。また、狙ったラインを思い通りに走れるようなコントロール性の向上なども図られており、マツダ流の人馬一体感がさらに高められている。
「CX-8」(グレードはExclusive Mode)の1〜3列目シート
シートに関しても、前席の本革シート仕様では骨盤をしっかりと立たせて支えるための最新技術が採用されている。骨盤を立たせることで、クルマとの一体感が増して運転しやすくなることから、近年マツダではこの思想を多くのクルマに採用している。だが、今回は座面側の凹み位置を前方へ移動させ、加えてクッション構造もSバネ構造から一体成形バネへと変更した。これによって、運転姿勢をさらに安定させることができたとのことだ。さらに、コーナーリング時の上半身の揺れを抑制することができ、余裕を持ってコーナーを曲がれるといった効果が確認できているという。
そのほか、高速道路などで直進中や旋回中のドライバーの負担を軽減し、運転の疲れを減らす「クルージングトラフィックサポート」や、モバイル機器との連携をより手軽にするワイヤレス無線でのCarPlay接続など、長距離ドライブがより便利で快適な空間になるように手が加えられている。
最後に、マツダの安全における取り組みについてご紹介したい。マツダは、法規に加えてマツダ独自の基準を追加して安全性を確保している。特に3列シート車である「CX-8」のようなクルマの場合、後方からの追突時に3列目シートに座る乗員が危険な状況に置かれることは想像に難くない。
日本の法規では、まず50km/hで真後ろから追突された際、燃料漏れが起きないこと。そして、アメリカでの法規は80km/hで70%オフセット、つまり真後ろではなく少し左右にずれた状態で追突された際に燃料漏れがないことで、日本の法規より厳しいものとなっている。そして、マツダではアメリカの法規に加えて、最後席の生存空間を確保すること、非衝突側の後席ドアが人力で開くことを基準として定め、「CX-8」をはじめとしてコンパクトカーの「MAZDA2」までをも含む全車に適応させているのだ。
「CX-8」の3列目シート(グレードは「Sports Appearance」)
このことは、マツダが安全性、言い換えると命に値段を付けていないとも解釈できる。高いクルマだから安全、安ければ必要最低限ということではなく、一律にどのマツダ車を買ってもマツダとして定めた基準をクリアしており、命を守るという尊い考え方が浸透しているということだ。
今回のCX-8改良モデルは、ユーザーニーズの多様化に即してグレード体系の見直しや、それに合わせたデザインの変更が主なポイントだ。それに加えて、前述した高い安全性がもともと備わっている。つまり、安全性において差別されていないので、ユーザーは気兼ねなく使用用途や趣味嗜好に合わせて、好みの仕様を選択することができることはマツダ車を選ぶ大きな魅力のひとつと言ってよさそうだ。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。