これまでにない、まったく新しい車載デバイスとして登場したパイオニア「NP1」。2022年3月2日に発売された「NP1」は、同年5月と9月には早くも2度のアップデートが施され、進化を遂げています。今回、「NP1」を自腹購入した筆者が、これまでの進化に加えて今後の将来性も含めて検証してみました。
画像は運転席側ですが、「NP1」は助手席側にも設置できます。その際には、アプリを使って場所を設定します
「NP1」は、比較的コンパクトなボディに、
(1)音声だけで行き先を検索&ルート案内してくれる「スマート音声ナビ」
(2)本体前方と車内/後方にカメラを搭載した「クラウドドライブレコーダー」
(3)昨今人気の「クルマWi-Fi」(要契約)
(4)OTAを活用し機能追加による最新の「もっとカーライフ++」
(5)機能をサポートするスマホアプリ「My NP1」
上記5つの機能が搭載されている、通信型オールインワン車載器です。多少わかりやすく言うと、ファックスやプリンターなどを一体化した「複合機」に近い感覚と言えるかもしれません。また、「NP1」は今後のパイオニアの未来にも関わってくるであろう、モビリティAIプラットフォーム「Piomatix(パイオマティクス)」を搭載した1号機です。
小さなボディに多くの機能を組み込んでいる製品と言えば、昨今は「スマートフォン」が思い浮かびます。そして、「スマートフォンでも、これらのことはできるんじゃないだろうか」といった疑問は当然起こるでしょう。
ですが、「NP1」は車内で使う“車載専用品”として作られているメリットが圧倒的に際立つのです。たとえば、直射日光による熱や車両や路面からの振動の影響が、スマートフォンでは耐えられないレベル(最悪故障する)であるのに対し、カーナビやドラレコを開発してきたパイオニアの車載機器としての耐久性の高さは抜群と言えるからです。
「NP1」には、従来のカーナビのようなディスプレイ画面がありません。「NP1」は“音声”によって操作やルート案内を行ってくれるという、斬新なコンセプトで作られています。
さらに、ただ音声のみであれば海外でもそれに近い製品はありますし、カーナビだって画面を見なければ音声案内のみで走れないわけではありません。ですが、ここでポイントとなるのが、前述の「Piomatix」です。「NP1」は、AIを活用することで、「助手席に座っている人が、案内してくれる」かのように、親切かつ簡潔にルート案内してくれるのです。
たとえば、「そもそも、このルートは合っているのか?」「どの道路を走っているのか?」「次の曲がるタイミングはいつ?」などの状況に対して、音声発話で要求するだけで答えてくれます。具体的には、「次の曲がるタイミングは?」と聞くと、「3つ先の信号を右です」や「左側の道路を走るといいでしょう」と答えてくれたり、今走っている「この道路は何(名称)?」と聞くと「○○通りです」と言ってくれたりと、状況に対して音声発話で要求するだけで簡潔に答えてくれるのです。
「NP1」のルート案内には、これまで日本のカーナビ市場を牽引してきたパイオニア、つまりカロッツェリアのカーナビ技術が生きています。カロッツェリアの「サイバーナビ」や「楽ナビ」に搭載される「スーパールート探索」と同様のナビ機能が搭載されることで、「NP1」では通信を使ったリアルタイムな交通情報の取得や渋滞回避能力を体感できるのです。それだけ、「NP1」のナビ性能に関しては信頼してよいでしょう。
前述したとおり、基本的には音声だけで十分な機能を持つ「NP1」のカーナビ機能ですが、それでも「地図がないと不安」という声も導入当初から聞かれました。確かに、人間の動作としてついディスプレイを見てしまうことは習性と言ってもいいほどです。
ですが、「NP1」はその点でもぬかりはありません。それが、Android、iOSの両方に対応した「My NP1」と呼ばれる無料アプリです。「NP1」の各種設定は、My NP1アプリから行うのでインストールは必須ですが、この中に「地図表示機能」が搭載されているため、これまでのナビ同様の使い方もできるわけです。
専用アプリ「My NP1」による地図画面。ナビ画面は3D表示することも可能です
さらに、クラウドに接続する「NP1」ゆえ地図画面も常に最新のものへとアップデートされるのはもちろん、シンプルでさらにわかりやすい「ターンバイターン」誘導表示も使うことができるのです。
「My NP1」は、矢印による「ターンバイターン」表示もできます
そして、地図の見やすさもカロッツェリアのカーナビ譲り。ナビゲーションに必要な道路の幅や施設、そして渋滞情報などが適切に表示されているのは見事です。音声だけでも十分なのですが、筆者が「NP1を購入しよう」と思った理由のひとつにこの地図表示機能があったことは、今回お伝えしたい重要なポイントのひとつになります。
音声はもちろん、有料道路での分岐案内もしっかり表示してくれます
ドラレコに関しては、「NP1」は前後200万画素のカメラを搭載していますが、夜間時でも十分な画質で録画されており、実力的に満足できるレベルです。
ドラレコは夜間でも鮮明、右下にはリアカメラの画像が表示可能。前後の映像を入れ替えることもできます
そして、何よりも「NP1」はクラウドと常時接続される機器なので、万が一の場合に録画映像がクラウドに保存される点が大きなポイントになります。たとえば、microSDカードの故障などで肝心なときに記録されなくても撮り漏れがなく、録画映像は「My NP1」アプリでクラウド上から確認、さらにダウンロードすることもできますので、トラブル時に証拠を速やかに確認することもできます。
クラウドに録画されたデータをスマホで確認。ダウンロードすることもできます
「NP1」は、カロッツェリアのカーナビなどへすでに採用されている「docomo in Car Connect」に対応しています。「docomo in Car Connect」は、ドコモの4G LTE回線を使うことで、車内で動画や音楽コンテンツを好きなだけ楽しめる便利なサービスです。
「docomo in Car Connect」は有償になりますが
1日:550円
30日:1,650円
365日:13,200円
の中から選ぶことができ、「My NP1」アプリから即座に申し込むことで事務手数料や解約金も0円で簡単にチャージできます。
ちなみに、筆者はクルマの利用頻度が高いので365日プランを選択していますが、更新の手間も減るし、トータルで考えればこれがいちばんお得かと思います。ただ、普段はあまりクルマに乗らないが、お盆と正月の帰省月だけは頻度が上がる、といった方などの場合は、30日や1日プランを組み合わせて活用すれば、年間の支出を抑えることができるでしょう。
さらに、筆者は「NP1専用」としてすでに通信用SIMカードを抜いた、使わなくなったAndroid携帯を使い、Wi-Fi接続することで前述した「ナビの地図表示」を無料で使っています。使い方はその人次第ではありますが、動画を見る、サブスクリプションの音楽を聴く、など用途に応じて活用できます。
そして、最も高いポイントが、実走行時の通信安定性です。ドコモのLTE回線の安定性の高さは今さら説明の必要もありませんが、長いトンネルの中でも動画視聴のコマ落ちもほぼ無く、快適に使うことができます。このような、インフラや車載で使うことを想定した設計は見事と言えます。
高速道路走行時のWi-Fi速度。そのときの環境にもよりますが、速度が安定している点は大きな魅力です
携帯電話では当たり前の機能となっている「OTA(Over The Air)」ですが、「NP1」もこれを使うことで驚くべき進化を体感することができます。
「NP1」の1回目の大型アップデートは2022年5月で、Amazonの音声アシスタントである「Alexa(アレクサ)」に対応しました。
Alexaが使えるようになったことで、「NP1」の利用シーンは大きく拡大しました。正直、これはかなり便利です
Alexaは、スマホを始め家庭用デバイスなどでも活用できる利便性の高い音声AIサービスですが、これを「NP1」に対応させることによって、音楽や天気予報、ニュースなどを聴くことができます。
そして、筆者はこの大型アップデートのタイミングで「Amazon music UNLIMITED」に契約をアップグレードしました。HD音質で9000万曲、さらにその上のUltra HD(いわゆるハイレゾ系)音質でも700万曲以上を楽しめるわけですが、これを「アレクサ、○○の音楽をかけて」と発話するだけで簡単に楽しめる点は本当に魅力的です。
何よりも、運転中ですから操作は極力シンプルでなければいけません。その点、「NP1」はナビもドラレコも、そして音楽もすべて音声で行える、これが圧倒的な利便性と安全性の高さに寄与します。
2回目の大型アップデートは、2022年9月29日に行われました。元々、ユーザーからの要望が高かった音声案内のバリエーションを強化。これを「コエ替え」と呼びますが、SNSを中心に事前に盛り上がったのは、有名な声優である悠木碧さんをキャスティングした点です。
コエ替えは、今後も期待できそうな機能。2023年1月1日までは悠木碧さんの生声を録音したメッセージを、週1回配信するサービスも行われます
悠木さんの音声は、「やさしいVer」と「かわいらしいVer」の2種類用意されていますが、実際聴いてみても単なる声優による機能ではなく、あくまでも「NP1」が持つ音声案内機能のために、聞き取りやすさなども考慮してチューニングされていることです。
2回目のアップデートによって、使える音声は6種類へとアップデートしましたが、筆者的には悠木さんだけでなく、「より自然な音声、明るい声(女性)」が気に入りました。パイオニアによれば、「26歳 OL」的な設定にしているそうで(笑)、聞き取りやすいので筆者は現在、こちらをデフォルトにしています。
「NP1」、そしてそれをサポートするアプリの魅力は、やはりアップデートにあると言っても過言ではありません。
大型アップデートこそ2回ですが、実は「NP1」本体はひんぱんに細かなアップデートが行われています。実際、ドライブレコーダーの画質や自車位置精度も、どなたでもわかるほど向上しています。
そして、筆者的にはアプリの「My NP1」のアップデートを高く評価しています。もちろん、細かなバグ修正やスマホのOSへの対応などもありますが、導入当初から見ると日々、使いやすさが向上しています。いわゆる、これまでのカーナビのようなプロダクトというよりは、IT機器的側面を持つ「NP1」ゆえ、今後の進化も期待できそうです。
個人的には、駐車監視機能を含めた安全系の機能が将来は加わるのではないか、と感じています。そうなれば、まさしく「オール・イン・ワン」としての評価もより向上するのではないでしょうか。
「NP1」の価格は、通信+サービス利用料に応じて価格が異なります。
ベーシックプランは、65,780円(1年)。24回払いであれば、月々2,800円で運用できます。また、公式オンラインショップ限定で3年間の通信+サービス利用料が付いた
バリュープランであれば、93,500円と毎年更新するより3,960円お得になります。
筆者は、惚れ込んでしまった弱み?もあってバリュープランを選択しましたが、前述したようにまだまだ進化の可能性を秘めているので、これはこれでよいと思っています。
それでも、いきなりこの金額を支払うのは負担になる、という人もいるでしょう。そこで、公式オンラインショップでは2022年10月17日から「お試しプラン」が始まっています。10日間で4,400円、30日間で6,600円。これで気に入れば、そのまま購入も可能ですし、販売価格からこれらの金額を差し引いて手に入れることができます。また、往復の送料も無料なので、まずは「NP1」の世界を体験してみたい人にはよいアプローチと感じました。
ただ、「NP1」のひとつの魅力であった「出張取り付けサービス」や「クルマWi-Fi」「駐車中衝撃通知」などは、同プランでは使うことができません。取り付けはご自分、または近隣のカー用品店などに頼む必要があることも、しっかりと理解して申し込む必要があります。
最後に、「NP1」の総合評価を5段階で評価すると
●デザイン:★★★★☆
●ナビ機能:★★★★★
●ドラレコ機能:★★★★☆
●Wi-Fi機能:★★★★★
●カーライフサポート機能:★★★★☆
●アプリ性能:★★★★☆
となります。デザインに関しては、このボディでよくこれだけの機能を詰め込んだな、という部分もありますし、デザイン的にも頑張っている感じはあります。ただ、将来、後継機が発売されたときは、もう少し小型化が進んでいるのではないか、と予想します。
アプリ性能に関してですが、ナビの「地図表示」が原稿執筆時では「縦画面」に固定されています。縦画面自体は、横画面に比べて「その先の道路状況」が把握できる点では理にかなっていますが、それでも従来から慣れ親しんだ「横画面」もほしいという声が聞こえてきます。その部分がアップデートされれば、★は5つにしたいと思っています。
ITS Evangelist(カーナビ伝道師)/カーコメンテーター/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。1959年生まれ。リクルートで中古車情報誌「カーセンサー」の新車&カーAV記事を担当しフリーランスへ。ITSや先進技術、そしてカーナビ伝道師として純正/市販/スマホアプリなどを日々テストし布教(普及)活動を続ける。