昨今、ハイブリッド車や電気自動車など、モーター駆動を併用する電動車の販売比率が高い。マイルドハイブリッド車も含めると、2022年1〜6月には乗用車全体の44%が電動車であった。たとえば、日産は「e-POWER」に力を入れているので電動車の比率は77%と高く、トヨタも50%に達している。
5代目となるトヨタ 新型「プリウス」が2022年11月16日に世界初公開された。新型は、第2世代TNGAプラットフォームの採用や低重心化、19インチの大径タイヤの採用によって、スタイリッシュなフォルムへと変更されている
そして、電動車の実質的な出発点と言えば、1997年に発売されたトヨタ「プリウス」だろう。初代プリウスは、世界初の量産ハイブリッドとして注目された。それから25年が経過した今、「プリウス」が5代目へとフルモデルチェンジされる。
新型「プリウス」は、2022年11月16日に世界初公開された。価格などの詳細は未定だが、販売店では「2022年12月中旬になると、価格を明らかにして受注を開始する。ただし、PHEV(プラグインハイブリッド)は、2023年になる可能性が高い」と言う。今回、新型「プリウス」の外観が大きく変わった理由や、ボディサイズ、出力やトルクなど判明しているスペック、予想価格や燃費、推奨グレードなどについてお伝えしたい。
新型「プリウス」のフロントエクステリアとリアエクステリア。フロントフェイスは、ハンマーヘッドをモチーフとしたトヨタ最新のデザインが採用されており、リアは薄型一文字のコンビネーションランプが採用されている
まず、新型「プリウス」の外観は、従来型に比べてフロントピラーが寝かされて天井が低くなるなど、スポーティーな外観となった。パワーユニットは、従来から設定されている1.8Lエンジンに加えて、新たに2.0Lがラインアップされる。そして、PHEVにはこの2.0Lエンジンが搭載される。
新型「プリウス」が、外観をスタイリッシュに仕上げてパワーユニットも増やした理由は、「プリウス」を廃止せずに今後も存続させるためだ。これまでの「プリウス」の売れ行きを振り返ると、2009年に登場した3代目は、2010年に1か月平均で26,000台を登録した。しかし、2015年に投入された4代目の従来型は、2016年の登録台数が1か月平均で2万台に留まっている。2019年は、コロナ禍の前だったが1万台に減り、2021年は4,000台にまで低下した。もちろん、コロナ禍による国内販売全体の減少もあるものの、2021年は2019年の86%となっている。したがって、従来型「プリウス」における販売台数の減少幅は特に大きいと言える。
「プリウス」が売れなくなったいちばんの理由は、トヨタを筆頭にハイブリッド車が増えたことだろう。3代目「プリウス」が大ヒットしたころは、トヨタのハイブリッド車は、「エスティマ」「ハリアー」「クラウンハイブリッド」「SAI」程度しかなかった。
それが、2011年以降は、コンパクトな5ナンバー車の「アクア」の販売が好調で、さらに「ヴィッツ」(後の「ヤリス」)や「カローラ」、「ノア」「ヴォクシー」「シエンタ」など、価格が求めやすく実用性にすぐれたハイブリッド車が増えた。そのため、「プリウス」はこれらの車種に顧客を奪われ、売れ行きを下げたと言えそうだ。
「プリウス」は、ハイブリッドが珍しかった時代に、ハイブリッド専用車として売れ行きを伸ばした。今は、大半のトヨタ車にハイブリッド車が採用されるので、専用車である「プリウス」の使命は終わったとも判断できる。「プリウス」を廃止する考え方もあっただろう。しかし、プリウスは前述のとおり、25年の歴史に支えられたハイブリッド車のパイオニアだ。トヨタとしては、「プリウス」を廃止すべきではないと判断した。
それなら、どうするか。今では「カローラクロス」や「カローラツーリング」、「ノア」「ヴォクシー」「RAV4」など、車内が広く実用的なハイブリッド車が豊富に用意されている。「プリウス」を従来路線でフルモデルチェンジしても、機能が「カローラ」シリーズなどと重複する。「プリウス」は、5ドアハッチバックではあるが、従来路線の継続では伝統あるハイブリッド専用車の存在感を発揮できない。
そこで、新型「プリウス」はトヨタの電動車の象徴として「最先端のハイブリッド車」として開発されることになった。外観は、従来の空力特性にすぐれたデザインをさらに進化させている。フロントピラーは大きく寝かされ、全高も40mm下がったので、外観は5ドアクーペ風だ。
新型「プリウス」のサイドイメージ。19インチタイヤが採用され、流線形のフォルムとなったことで、スタイリッシュな外観となった
ボディサイズは、全長が4,600mm、全幅は1,780mm、全高は1,430mm。従来型に比べると、25mm長く、20mm幅広く、40mm低くなった。ホイールベースは、従来型に比べて50mm伸びて2,750mmになったので、4輪がボディの四隅に踏ん張るような、視覚的にも安定したデザインとなった。タイヤサイズは、報道発表会では大径の19インチ(195/50R19)装着車が展示されていることもあって、外観はよりスポーティーな印象を受けた。
新型「プリウス」には、従来の1.8Lエンジンに加えて、新たに2.0Lエンジンを搭載したハイブリッド車も用意される
また、従来型の「プリウスPHEV」がエンジンを停止させて1回の充電で走行できる距離は、WLTCモードで60km(2WD)であったが、新型では90〜100kmへと拡大される。
従来のハイブリッド車の価値は、すぐれた環境や燃費性能が訴求されていたが、モーター駆動を併用すれば電気自動車と同じように瞬発力が高まる。新型「プリウス」は「最先端のハイブリッド車」を目指すために、システム全体を進化させて動力性能や加速性能がさらにすぐれたハイパワーの2.0Lエンジン搭載車やPHEVなどを用意した。
プラットフォームは、基本的には従来型と同じ「GA-C」と呼ばれるタイプだが、世代が新しくなっている。さらに、ボディ剛性を向上させ、サスペンションの設定も進化させているなど、動力性能の向上に見合ったボディ強化が図られている。
新型「プリウス」のインテリア
新型「プリウス」のフロントシートとリアシート
また、ハイブリッド車のメリットのひとつとして、静かで滑らかな加速が得られるというのもある。新型「プリウス」は静粛性を向上させ、音質にすぐれたオーディオシステムが用意される。さらに、サスペンションの進化で乗り心地も向上しているので、ハイブリッド車の価値のひとつに含まれる快適性も増している。
WLTCモード燃費は未公表だが、開発者によると40km/Lに達するのはさすがに難しいとのことであった。従来型のWLTCモード燃費は、2WDのノーマルグレードが30.8km/L、17インチタイヤを履いたスポーティーなツーリングセレクションは27.2km/L、燃費スペシャル的なEグレードは32.1km/Lだった。そのため、新型は31.5〜34km/Lあたりになる模様で、「アクア」の2WDモデルの33.6〜35.8km/Lに近い値になりそうだ。「ヤリスハイブリッド」の35.4〜36km/Lまでには達しないかもしれない。だが、従来型の「プリウス」から新型へと乗り替えれば、燃料代を5〜10%は節約できそうだ。
そのほか、100V・1500Wの電源コンセントを装着して、電力を供給する機能も備えられている。トヨタは、以前から電源コンセントを積極的にハイブリッド車などへ装備していた。そして、新型ではドアやウィンドウを閉めた状態でも電源コードを車外に出せるように、サイドウィンドウに装着するアタッチメントも設定されている。電源コンセントは、新型「プリウス」ではさらに使いやすくなった。
新型「プリウス」の特徴的なヘッドライトとテールランプ
価格は未発表だが、従来型に比べると値上げされるだろう。従来型の価格は、ベーシックで割安なSが2,731,000円、中級のAは3,004,000円、17インチタイヤを履いたスポーティーなAツーリングセレクションは3,171,000円であった。新型は、現行型のSに相当する1.8Lハイブリッドのベーシックグレードが、安全、快適装備を充実させて299万円くらいになるものと予想される。そうなると、新型の1.8Lハイブリッド ベーシックグレードの価格は、従来型のAに近づく。そして、1.8Lハイブリッドの売れ筋グレードは320万円前後で、新たに設定される2.0Lハイブリッドは340万円くらいになるものと予想される。
新型「プリウス PHEV」の外観は、ハイブリッド車と大きくは変わらない
いっぽう、充電機能を備えるPHEVは、従来型で売れ筋の上級に位置するAプレミアムは401万円であった。新型のPHEVは、ベーシックな仕様が400万円くらいで、上級は440万円あたりの価格になりそうだ。ちなみに、PHEVは申請を行うと経済産業省の補助金が交付され、その交付額は2022年度は55万円だ。したがって、補助金を差し引くと新型「プリウス PHEV」の実質価格は345万円から385万円程度に下がる。
推奨グレードは、買い得度が高く売れ筋になるであろう1.8Lハイブリッドで、上級指向のユーザーは、最高出力が223PSに達する充電の可能なPHEVを選ぶだろう。2.0Lハイブリッドは、少々中途半端で選びにくい。
新型「プリウス」はスタイリッシュな外観に加えて、運転の楽しさも追求されているはずだ。実用面では、視界などいくつか注意すべき部分もあるものの、4代目で少々薄れつつあった個性は、今回の5代目でブラッシュアップされることによって、再び強まったと言えるだろう。
「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト