2022年11月28日、日産はミドルサイズミニバン「セレナ」を6代目にフルモデルチェンジすると発表した。搭載するパワートレインは、2L NAガソリンエンジンとe-POWERの2種類が用意されている。発売日は、NAガソリンエンジン搭載車が今冬、e-POWER搭載車は2023年春の予定だ。
日産 新型「セレナ」は、これまでの室内空間の広さや利便性の高さは引き継ぎながら、走りを含めた移動時の快適性を向上させるとともに、最先端技術の搭載やさらなる利便性のアップが図られている。画像は、最上級グレードとして新たに設定された「LUXION(ルキシオン)」で、ミニバンとしては初となる「プロパイロット2.0」が標準搭載されている
当記事では、新型「セレナ」の特徴や魅力、ライバル車との違いや買い得グレードなどを解説するとともに、クローズドコースにおいて実際に試乗もできたので、運転フィールの印象などもレビューしたい。グレードラインアップと価格については、以下のとおりだ。ちなみに、新型「セレナ」には4WDモデルもラインアップされる予定なのだが、価格や発売時期については今回の発表時点では未公表となっている。
■日産 新型「セレナ」のグレードラインアップと価格
-e-POWER搭載車-
e-POWER X[8人乗り/2WD]:3,198,800円
e-POWER XV[8人乗り/2WD]:3,499,100円
e-POWER ハイウェイスターV[8人乗り/2WD]:3,686,100円
e-POWER LUXION[7人乗り/2WD]:4,798,200円
-NAガソリンエンジン搭載車-
X[8人乗り/2WD]:2,768,700円
XV[8人乗り/2WD]:3,088,800円
ハイウェイスターV[8人乗り/2WD]:3,269,200円
※価格はすべて税込
まず、新型「セレナ」がトヨタ「ノア」「ヴォクシー」やホンダ「ステップワゴン」などのライバル車と異なる特徴のひとつが、標準ボディを従来どおりの5ナンバー車としていることだ。「ノア」「ヴォクシー」や「ステップワゴン」は、従来は5ナンバー車が用意されていたが、新型モデルではすべて3ナンバー車となった。だが、新型「セレナ」は運転のしやすさに配慮するため、5ナンバー車を残している。
■日産 新型「セレナ」のボディサイズ
-X、XV、e-POWER X、e-POWER XV-
全長:4,690mm
全幅:1,695mm
全高:1,870mm
-ハイウェイスターV、e-POWER ハイウェイスターV-
全長:4,765mm
全幅:1,715mm
全高:1,870mm
-e-POWER LUXION-
全長:4,765mm
全幅:1,715mm
全高:1,885mm
新型「セレナ」の最上級グレード「LUXION」のフロントエクステリアとリアエクステリア
いっぽう、エアロパーツを装着するハイウェイスターや最上級グレードのLUXION(ルキシオン)は3ナンバー車なので、全長は4,765mm、全幅は1,715mmになる。それでも、新型「セレナ」ハイウェイスターの全幅は、先代型に比べると25mm狭くなっている。新型「セレナ」のボディサイズは、5ナンバー車、3ナンバー車ともに運転しやすさが考慮されている。
新型「セレナ」のフロントフェイス。日産のVモーショングリルがヘッドランプで表現されている
ヘッドランプ、リアコンビネーションランプともにLEDが全車に標準で採用されている
新型「セレナ」のプラットフォームは先代型と共通だが、外観はフロントマスクなどの刷新によって、個性が強められている。外観で特徴的なのがLEDヘッドランプで、ロービーム、ハイビーム、車幅灯が縦方向に並んでおり、日産のVモーショングリルがヘッドランプのデザインによって表現されている。
サイドウィンドウの下端は、先代型と同様に低めで視界は良好だ。ボディ前側に向かって、サイドウィンドウの下端が低くなっているので、一般的にミニバンでは不利なななめ前方の視界も新型「セレナ」では見やすい。視界のよさは、従来モデルから受け継がれている「セレナ」における大切なメリットのひとつだ。
新型「セレナ」のフロア高は、先代型と同様にやや高めだ
車内は、フロアが先代型と同様に高く、「ノア」「ヴォクシー」や「ステップワゴン」などを70〜80mmほど上まわっている。そのため、サイドステップを介して乗り降りする必要があるので、購入予定の方は乗降性に注意したい。
新型「セレナ」のインテリア
新型「セレナ」には、新たにボタン式のATセレクトスイッチが採用されている(画像右下)
インパネは、中央下側にタッチパネル式のオートエアコンとボタン式のATセレクトスイッチが備わる。先代型は、一般的なATレバーが採用されていたが、新型はボタン操作によってATを操作するタイプに変わった。操作しにくいということはないのだが、少し慣れが必要かもしれない。
新型「セレナ」の1列目シート(LUXION)
シートについて、1列目シートは腰の収まりがいいので、運転姿勢が乱れにくい。体重を支える背もたれの下側や座面の後ろ側がしっかりと作り込まれているので、長距離を移動する時なども快適だろう。
新型「セレナ」の2列目シート(e-POWER ハイウェイスターV/8人乗り)
新型「セレナ」の2列目シート(LUXION/7人乗り)
2列目シートは、先代型のe-POWER搭載車は長いスライドレールを装着できなかったため、シートアレンジがシンプルなセパレートタイプの7人乗りであった。だが、新型ではe-POWER搭載車もシートアレンジが多彩なベンチタイプの8人乗りになった。ちなみに、最上級グレードのe-POWER LUXIONとe-POWER オーテックについては、セパレートタイプの7人乗りとなっている。
2列目シートの座り心地も、腰のサポート性が向上している。さらに、座面の前側にもボリューム感を持たせているが、床から座面までの間隔が離れているので、小柄な乗員などが座ると大腿部を押された感覚になるかもしれないので、気になる方は座り心地を確認してほしい。
新型「セレナ」の3列目シート(LUXION)
3列目シートの広さは先代型とほぼ同じだが、それでもライバル車よりも広い。たとえば、身長170cmの大人6名が乗車して、2列目シートに座る乗員の膝先空間を握りコブシ2つ分に調節した場合、「セレナ」なら3列目シートに座る乗員の膝先空間は握りコブシ2つ半になる。「ステップワゴン」では2つ分、「ノア」「ヴォクシー」ではひとつ半だ。さらに、座面の奥行寸法もライバル車に比べて長いので、座り心地も快適だ。また、先代型の3列目シートは走行中に捩れが生じて揺すられるような剛性不足が見受けられたのだが、新型はある程度まで改善されているのもポイントのひとつだ。
それでは、運転感覚をチェックしよう。パワーユニットは、先代型と同じくNAエンジン搭載車とe-POWER搭載車の2種類が用意されている。
新型「セレナ」NAガソリンエンジン搭載車の走行イメージ
まず、2L直列4気筒のNAエンジンは、最高出力が110kW(150PS)/6,000rpm、最大トルクは200N・m(20.4kg-m)/4,400rpmになる。数値上は先代型と同じだが、実際に試乗すると実用域の駆動力が向上しているように感じられた。さらに、ノイズも小さく抑えられている。車重は、FFの2WDでも1,600kgを上まわり、エンジン排気量は2Lなので動力性能の値だけを見れば十分とまでは言えないが、昨今のミドルサイズミニバンの平均水準には達している。
新型「セレナ」e-POWERエンジン搭載車の走行イメージ
いっぽう、e-POWERはエンジンが発電を行い、その発電された電気を使ってモーターがホイールを駆動する仕組みだ。先代型の発電用エンジンは1.2Lだったが、新型は1.4Lへと排気量が拡大された。さらに、モーターの動力性能も異なる。先代型は、最高出力が136PSで最大トルクは32.6kg-mだったが、新型は163PS、32.1kg-mになる。最大トルクは少し減ったものの、最高出力は27PSに向上した。
e-POWERは、モーター駆動なのでアクセル操作に対して機敏に反応し、加速は滑らかでノイズも小さい。そのため、巡航中の加速は得意だ。そして、新型では駆動力の立ち上がりがさらに強まっている。たとえば、時速40〜60kmで走っている時にアクセルペダルを緩く踏み増すと、新型ではドライバーの操作に応じて素早く速度を高めてくれる。車重が1,600kgを超えていることも考えれば、加速感は3LのNAガソリンエンジンに相当する。
新型「セレナ」NAガソリンエンジン搭載車の走行イメージ
走行安定性は、床面が高いために重心の高さが感じられる。コーナーを曲がる時などは、「ノア」「ヴォクシー」や「ステップワゴン」などに比べてボディの傾き方が大きい。だが、新型「セレナ」は高重心でも車両を安定させるために、後輪の接地性を優先させて操舵に対する反応を鈍めに抑えている。そのため、ワインディングのようなコーナーが連続する道を走ると、車両を内側へと少し向けにくく、旋回軌跡を拡大させやすい。それでも、新型では操舵に対する反応は先代型よりも正確になった。曖昧なステアリングフィールが払拭されているので、走りの質が向上していることが感じられる。
乗り心地は、少々硬めだ。先代型に比べて突き上げ感は角が丸く抑えられているが、燃費を向上させるためにタイヤの指定空気圧は280kPaと高い。一般的には210〜240kPa程度なので、「セレナ」は乗り心地に硬さが感じられる。乗り心地は、販売店の試乗車などに乗って、路面の荒れた街中の道を時速40km程度で走るとわかるので、購入前に一度確認してみたほうがいいだろう。
WLTCモード燃費は、たとえばe-POWERハイウェイスターVであれば19.3km/Lになる。ハイブリッドシステムが進化したことによって、先代型に比べて燃費は1.3km/L向上した。つまり、新型のe-POWERシステムは、燃費と走りの両方が進化したと言っていいだろう。いっぽう、ハイウェイスターVの2WDは、2LのNAエンジンで13km/Lになる。新型は、マイルドハイブリッドが廃止されたこともあって、先代型に比べて0.2km/L悪化した。
そのため、推奨されるパワーユニットはe-POWER搭載車になる。価格は、NAエンジン搭載車に比べて約41万円高くなるが、e-POWER搭載車は購入時に納める税額が安く、実質価格差は30万円以下に縮まる。しかも、燃費に加えて動力性能や加速の滑らかさ、静粛性も上まわるので、e-POWER搭載車の推奨度は高い。
新型「セレナ」e-POWER ハイウェイスターVのフロントイメージ
ベストグレードは、e-POWER ハイウェイスターV(3,686,100円)だ。ハイウェイスターなので、エアロパーツやアルミホイールが標準装備され、衝突被害軽減ブレーキ、運転支援機能のプロパイロット、両側スライドドアの電動機能なども備わる。
最上級のe-POWER LUXION(4,798,200円)は、価格がe-POWER ハイウェイスターVに比べて1,112,100円高まるが、ステアリングホイールから手を離しても運転支援が続くプロパイロット2.0、SOSコール、12.3インチカラーディスプレイ、日産コネクトナビ、合成皮革のシート生地などが加わる。約480万円という価格は、「セレナ」としては高く感じられるが、そのぶん機能も充実している。たとえば、日産の上級ミニバンである「エルグランド」の、2.5L直列4気筒NAエンジンを搭載する250ハイウェイスタープレミアムアーバンクロムの価格も同程度だ。さらに、e-POWER LUXIONでは、最先端の運転支援機能であるプロパイロット2.0が標準装備されていることなども含めると割高とまでは言えない。
もし、価格を抑えたい時には、NAエンジン搭載車のX(2,768,700円)を検討しよう。Xは、新型「セレナ」のグレードラインアップの中では最安のグレードで、スライドドアの電動機能などはオプション設定になるが、衝突被害軽減ブレーキやサイド&カーテンエアバッグなどは標準装備される。Xは、実用的に十分な装備が搭載されており、価格は280万円以下に抑えることができるので、Xも予算に応じて購入の候補に含めるといいだろう。
新型「セレナ」は、約270〜480万円という、幅広い価格帯と特徴を持つグレードがラインアップされる。「ノア」「ヴォクシー」や「ステップワゴン」よりも車内は広く、シートアレンジも豊富で3列目シートも広いので、ファミリーカーにはピッタリだ。新型「セレナ」は、ミニバンの王道を行くクルマへと仕上げられている。
なお、販売店に納期を尋ねると、以下のような返答であった。「2022年11月下旬に予約受注を行った場合、納車は2023年1月頃だ。販売が好調なセレナの新型車だから大量生産を見込んでおり、現時点では納期が短い部類に入る。ただし、これから急速に受注が増えて納期も伸びる可能性がある」。そのため、購入するなら商談は早めに開始したほうがいいだろう。
「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト